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BI THEORY

脱成長vs反緊縮と経済第一主義とベーシックインカム:井上智洋氏著『現金給付の経済学 反緊縮で日本はよみがえる』から考える-6

井上智洋氏提案のベーシックインカム再確認ー6

 井上智洋氏のBI論を、近著 『「現金給付」の経済学 反緊縮で日本はよみがえる 』 (2021/5/10刊・NHK出版新書)を紹介し考察することで再確認するシリーズを進めてきました。

井上智洋氏ベーシックインカム論総括とベーシック・ペンション2022提案に向けて:『「現金給付」の経済学 反緊縮で日本はよみがえる』から考えるー1(2021/10/17)
コロナ禍ゆえ、長引く不況ゆえだけのためのベーシックインカムではない:井上智洋氏著『現金給付の経済学 反緊縮で日本はよみがえる』から考える-2 (2021/10/25)
「自助・共助・公助」理念と相反するベーシックインカム:井上智洋氏著『現金給付の経済学 反緊縮で日本はよみがえる』から考える-3 (2021/11/4)
3段階に分けて導入する二階建てベーシックインカム:井上智洋氏著『現金給付の経済学 反緊縮で日本はよみがえる』から考える-4(2021/11/6)
デフレ脱却やBI実現には、政府の「借金」「財政不健全化」が望ましい:井上智洋氏著『現金給付の経済学 反緊縮で日本はよみがえる』から考える-5 (2021/11/9)

以上の5回に続き、今回第6回は、最終回最終章の<第4章 脱成長の不都合な真実 >になります。

第4章の構成は以下のとおりです。

第4章 脱成長の不都合な真実
1.完全雇用が達成されればよいのか

 ・雇用保障プログラムとは何か?
 ・雇用保障プログラムの問題点
 ・本当に完全雇用を実現できるのか?
2.デフレマインドが日本を滅ぼす
 ・完全雇用で満足してはならない理由
 ・労働者と企業経営者のデフレマインド
 ・デフレマインドで科学技術も衰える
 ・出版不況の原因は何か?
 ・新国立競技場のザハ案が却下されたのはなぜか?
3.脱成長論とグリーン・マルクス主義
 ・脱成長論とは何か?
 ・グリーン・マルクス主義
 ・地球温暖化は本当に害悪か?
 ・グリーン・ケインズ主義
 ・経済成長と二酸化炭素排出のデカップリング
 ・すでに物欲は減退し始めている
 ・反緊縮主義とは何か?
4.なぜ経済成長が必要なのか
 ・経済成長と幸福の関係
 ・近代世界システムから考える
 ・日本の衰退と中国の勃興
 ・「日本人」と「香港人」の意外な共通点
 ・私たちはもっと豊かになっていい
おわりに

第4章 脱成長の不都合な真実 > から


 上記の構成に従って、以下、各節ごとにポイントとして受け止めた内容の概要を紹介しながら、少し考えを添えていきたいと思います。

1.完全雇用が達成されればよいのか


 ・雇用保障プログラムとは何か?
 ・雇用保障プログラムの問題点
 ・本当に完全雇用を実現できるのか?

 以上項目で構成されるこの節では、政府の国債発行による「借金」によるベーシックインカムの給付の財源化、財政赤字についての合理性、何の問題もないという根拠の一つとして用いられるMMT現代貨幣理論について存在する問題について井上氏は述べています。

MMTによる雇用保障プログラム(JGP)とそのビルトイン・スタビライザー機能の疑問・問題点


 まず、MMT借金の政策提言の主軸にある、完全雇用を実現する手段であり、希望する失業者をすべて政府が雇用して仕事をさせる制度「雇用保障プログラム(JGP)」に対する疑問。
 そこでMMTに、裁量的なコントロールに拠らない、次のような景気の自動安定装置「ビルトイン・スタビライザー」の役割を与えたことに対してである。
・JGB導入時には、景気が悪いときには多くの失業者がJBPに参加し、政府支出が拡大し景気は活性化する。
・好況期には、JBP参加者が民間に移り、政府支出が減少し景気が抑制される。

 この考え方について井上氏は、次のように問題・疑問を提起します。

・失業に応じて政府や自治体が仕事をつくり出すとなると、無駄な仕事も作る可能性が高い。
・なすべき仕事があるから雇用がつくり出されるべきで、この順序が逆になると「ブルシット・ジョブ、クソみたいな仕事)までつくり出される。
・介護士や保育士のような本来公共部門が担うべき仕事は、JBPには適切ではなく、景気が良くなったからといって雇用を減らすわけにいかず、可能なかぎり正規に雇用されるべき。
・言い換えれば、JGPに向いているのは「必要不可欠ではない仕事」になってしまう。
 また
・租税によるビルトイン・スタビライザーは十分の機能せず、結局的な財政・金融政策が必要と考えられているのと同様に、JGPによるそれも、例えば、失業者に一定程度の賃金を与えたことで十分な消費支出を促す額に達するとは限らないよう、効果をもたらす保証はない。
・従い、JGPでは解決できない深刻な不況にどう対処すべきかといって問題に対する回答は、MMTからは明確には得られない。

完全雇用の実現は本当に可能か?

 その前提で、JGPを導入すれば、果たして本当に完全雇用は実現できるか、と疑問を提示。
 JGPに参加して退屈な仕事や辛い仕事をするよりは、自分に合った充実した仕事を得るために就職活動に専念しようという人が現れてくると言います。
 そうして自分により適した職を求めて民間企業への就職を望むことは贅沢なことだろうか?とも。

 私もこの意見に賛成です。
 そもそも、保守層や政権政党の多くが、社会保障・社会福祉の条件として、初めに雇用ありきの「ワークフェア」を持ち出すことに私は反対です。
 井上氏の意見に加えて、雇用、雇われることではなく、自ら職・仕事を創出し、その望む職業に就くことも選択肢とされるべきと考えるのです。
 そういう意味では、完全雇用、完全就労は決して究極の目標、強制されて実現すべきあり方ではないと思うのです。
 そしてベーシックインカムはそれを支えるものであると。
 


2.デフレマインドが日本を滅ぼす


 ・完全雇用で満足してはならない理由
 ・労働者と企業経営者のデフレマインド
 ・デフレマインドで科学技術も衰える
 ・出版不況の原因は何か?
 ・新国立競技場のザハ案が却下されたのはなぜか?

 以上の項で構成される本節は、デフレマインドの浸透・深刻化・継続化がもたらす大きな負の影響について、いくつか分野の事例紹介を行うことで説明されています。
 その取っ掛かりは、MMT同様完全雇用を重視するケインズ主義においても、仮にそれが実現されてもそれ以上の景気刺激悪が不要ということではないこと。
 井上氏が経済学の本格的な研究と経済学者になることを志した原因であるこうした経済学の定説への疑問は、デフレ不況によってもたらされる「心の保守性」すなわち「デフレマインド」の重大性から導き出されたとしているのです。
 そこで、科学技術や出版不況、新国立競技場デザイン案等については省略し、本項の最後にある以下の井上氏の言葉を引用して締め括ります。

私たちの日本政府は平成のデフレ不況を解消するために、積極的に財政支出を増やし、国民の間に広がったデフレマインドの払拭を図るべきだった。だが、政府自らがデフレマインドに侵されて支出を惜しむようになった結果、経済や科学技術どころか、教養や文化すら衰退しつつある。
果たして、そのような国に未来はあるのだろうか?


3.脱成長論とグリーン・マルクス主義

 ・脱成長論とは何か?
 ・グリーン・マルクス主義
 ・地球温暖化は本当に害悪か?
 ・グリーン・ケインズ主義
 ・経済成長と二酸化炭素排出のデカップリング
 ・すでに物欲は減退し始めている
 ・反緊縮主義とは何か?

 この節と次節が、井上BIの具体的な実現方法についてまとめた第2章と併せて、本書において最も重要な内容が集約していると受け止めています。

 特に本章では、親サイト https://2050society.com で過去以下のように取り上げた、斎藤幸平氏によるベストセラー書人新世の「資本論」 (2020/9/22刊) を取り上げて、同氏の説に反論しているのです。

<参考>:斎藤幸平氏著『人新世の「資本論」 考察記事シリーズ

帝国的生活様式、グリーン・ニューディール、気候ケインズとは:『人新世の「資本論」 』が描く気候変動・環境危機と政治と経済-1(2021/4/25)
なぜ今マルクスか、「人新世のマルクス」:『人新世の「資本論」 』が描く気候変動・環境危機と政治と経済-2(2021/4/27)
資本主義と同根の左派加速主義大批判:『人新世の「資本論」 』が描く気候変動・環境危機と政治と経済-3(2021/4/29)
脱成長コミュニズムというユートピアは実現可能か:『人新世の「資本論」 』が描く気候変動・環境危機と政治と経済-4 (2021/5/2)

 先述したように、積極財政(反緊縮的財政)によりデフレ不況からの完全脱却を図り、インフレ好況状態を可能な限り持続させるべきとする井上氏。
 これに対して、「日本の左派・リベラル派は経済軽視の姿勢が根強く、「脱成長論」を振りかざす傾向にある」とします。

 左派・リベラル派を批判する同視座を持つ左派経済学者松尾匡氏とその主張「反緊縮政策論」をこの項で紹介していますが、二人の共著『資本主義から脱却せよ』を取り上げた記事を当サイトでは以下で投稿しています。

<参考>:「『資本主義から脱却せよ』から考える社会経済システム」シリーズ

資本主義リアリズム、加速主義、閉塞状態にある資本主義の正し方:『資本主義から脱却せよ』から考える社会経済システム-1(2021/5/7)
知らなかった、民間銀行の濡れ手で粟の信用創造:『資本主義から脱却せよ』から考える社会経済システム-2(2021/5/9)
信用創造廃止と貨幣発行公有化で、資本主義と社会はどうなるのか:『資本主義から脱却せよ』から考える社会経済システム-3(2021/5/11)
資本主義脱却でも描けぬ理想社会:『資本主義から脱却せよ』から考える社会経済システム-4(2021/5/13)

 

腰が引けた左派・リベラル派「緊縮型脱成長論」から、筋金入り左派思想に基づく脱成長論「グリーン・マルクス主義」の出現

 その左派・リベラル派内における経済に関する論点の違い・変遷を井上流に整理すると以下になります。

・フランスの思想家セルジュ・ラトゥーシュ等による「人と地球に優しい資本主義」をめざす緩い「脱成長論」から
・最近の日本の左派・リベラル派による「緊縮型脱成長論」へ
環境運動のシンボルカラー「グリーン」とマルクス主義のシンボルカラー「レッド」の融合といえる「グリーン・マルクス主義」的な緩やな議論
筋金入り「グリーン・マルクス主義」とそのバイブルともされるかの斎藤幸平氏に拠る『人新世の「資本論」』のベストセラー化とその潮流

 こうした流れが昨年一気に加速したことをこの項で着目する井上氏。
 しかし彼は、グリーン・マルクス主義者が環境を守りたいのか資本主義を打倒したいのか、どちらが目的でどちらが手段かわからない、と言います。
 そして、恐らく、資本主義打倒が究極の目的で、環境を守るというのは、そのための口実であろうと。

 それは当然のことでしょう。
 現状の環境に関する多くの問題課題は、マルクス存命中に既に発生していたわけではなく、同書は、マルクスが書き残した膨大な資料を読み問いて、斎藤氏が組み立てたグリーン・マルクス論であるわけです。
 真に環境問題の重大さを論じるならば、特段マルクスを持ち出す必要はなかったはずというのが私の考え。
 存命中に明らかにされなかった、あるいは書として世に送り出されなかった彼が残した資料に、環境に関する将来の見通しや警鐘、それと膨張する資本主義の将来の限界・崩壊リスクを、斉藤氏自身の想像力と創造性を駆使して統合した『人新世の「資本論」』は、マルクス復権すなわち資本主義の終焉とその後の社会の創造をめざすものでしかありません。
 ちなみに「人新世」とは、「地質学的視点からの定義で、人類が地球を破壊し尽くす時代」を意味。

 井上氏は、次に、地球温暖化が果たして害悪か?と疑問を呈します。
「3世紀の危機」「14世紀の危機」「17世紀の危機」という地球の歴史において発生した大きな危機は、地球の寒冷化によってもたらされたもので、温暖化が人類にとって本当に害悪かどうかの再検討も必要なのではと寄り道をします。

 そして「グリーン・マルクス主義」に対して「グリーン・ケインズ主義」を引き合いに出します。
 資本主義が環境破壊をもたらしたことが事実としても、やがて破壊を軽減する技術が進み、経済成長とCO2排出のデカップリング(分離)が可能になると。
 それに対して斎藤氏が、政府が資金提供して再生可能エネルギー等の研究開発や普及を促進する「グリーン・ニューディル」でも間に合わず、カタストロフは不可避と。
 これを1930年代の大恐慌時の財政政策「ニュー・ディール」にちなんで、「グリーン・ケインズ主義」として対抗としたものと。

反緊縮加速主義の提唱

 そして斎藤氏が、そのベストセラー書において井上氏が提起した「純粋機械化経済」を取り上げたことを紹介しつつ、その論の中で批判した「加速主義」の妥当性を、斎藤論批判として提示します。
 すなわち、国民にお金をバラ撒くような政策によって、需要の喚起とイノベーションを促進し、資本主義のダイナミズムを加速させて、資本主義を乗り越えようとする立場としての「反緊縮加速主義」を主張し、こう断言します。

乗り越えた先にあるのは、直接的な生産活動のほとんどがオートメーション化された「純粋機械化経済」と、人々が遊んで暮らせるような「脱労働社会」である。

 そして

日本では、AIやロボットが本格的に人々の雇用を奪うようになるのは、2030年ごろからだと予想され、それまでにはかなり人々の労働観も変わっているのではないだろうか。
それに短中期的に見れば、反緊縮政策は景気を活性化するので雇用を増大させるはずだ。

と。

 このご託宣には、同意も反対もしません。
 ただし、疑問は大いに持っています。
 労働や仕事、職業について、広い視野から論じているようで、実は極めて狭い、偏った見方での予想だから。


4.なぜ経済成長が必要なのか


 ・経済成長と幸福の関係
 ・近代世界システムから考える
 ・日本の衰退と中国の勃興
 ・「日本人」と「香港人」の意外な共通点
 ・私たちはもっと豊かになっていい

 以上のテーマで締めくくりを試みる本書の最終項です。

 重要なのは、反緊縮によって好況をつくり出すことや貧困層の暮らしぶりを豊かにすること。
 加速主義によってAIやロボット等の自動化技術を進歩させ、賃金労働にそれほど骨を折らずに余裕をもって暮らしていけるようになること。

 という経済学視点での再確認から本書の最終章・最終項を始めたのですが、途中から「近代世界システム」論に展開し、歴史的な「覇権国家」形成の要因と経緯に話が変わります。
 それは、結局、経済的な豊かさ、成長の必要性を主張することと繋がりはするのですが。

 過去英国により分割の憂き目を経験した中国の現在の動向は、過去の日本の姿と重なっており、それらは、国家が近代世界システムへ包摂される過程で生じた必然的な「狂気」とし、その「狂気」を前提に国際社会を考えなければならないと。


 こういう展開になると、こちらもちょっと腰が引けてきます。
 それが言いたいがための<脱成長論><反緊縮論>だったのかい?
 ベーシックインカム、現金給付論なのかい?
と。

 日本と中国が平和共存することも、もちろん不可能ではない。しかし、それが日本にとって「奴隷の平和」になたないようにするためには、経済力と科学技術力を高めておくことが必要不可欠なのである。


 こういう基本的な意識・認識でベーシックインカムが仮に導入されれば、これまでの井上氏の論述は、すべてフェイクであり、本質的には、右派・右寄りの思想を基盤としたベーシックインカム導入論に、土壇場で覆されることになるのではと不安を感じざるを得ません。
 この帰結は、この数行を書く少し前までは思ってもいなかったことで、自分ながら少しばかり驚いています。

 軍事力の増強のための経済力の向上、そのための需要の創出。
 はたまた、財政規律の不安・懸念を否定することでベーシックインカム給付の合理性を主張することは、その論理を適用して軍備費用に充てることを合理化・合法化することをも想起させることに。
 そんなつもりはまったくないと井上氏は否定するでしょうが、本書の最後をこういう落とし所にした意図は、どこにあったのか。

 一応、真の最終章・最終項は「私たちはもっと豊かになっていい」というもの。
 

私は日本が強国になることを政府の第一の目標にすべきだと考えているわけではない。
むしろ貧困問題の解決などという比較的簡単なことは、政府はもう当たり前にように済ませてしまうべきだ、と言いたいのである。
(略)
脱成長論者は、(略)私たちの生活はもっと貧しく慎ましくあるべきだと主張するのであろうか。
日本で流行の脱成長論はそういう「清貧の思想」のような意味合いを持ってるため、私には賛成できない。
日本で脱成長論を唱えている知識人は、たいがいがお金持ちだ。(略)
そういう人たちの(略)主張は警戒すべきであり、(略)豊かさを望むことに罪悪感を覚えるようになる人もいるかもしれない。
しかし、そんな罪悪感を抱く必要などない。私たちはもっと豊かになっていいのである。
(略)経済成長が幸福をもたらすとは限らないが、結局は中身次第だ。
(略)
資本主義は確かに問題含みかもしれないが、経済成長そのものは肯定的にとらえられてしかるべきではないだろうか。


 これが、結びの提言になっています。
 最後の主張としてはなぜか尻窄みで、物足りないものに。


おわりに>のこの一言に尽きる本書の提案・提言


 蛇足ですが、<おわりに>の部分からも以下引用します。
 この部分に最も共感・同意する故であり、ある意味では、本書の最重要提案と評価・同意できるからです。

現金給付の実験は学問的には興味深いが、その結果はBIを導入するか否かの判断にはさほど影響しない。
(略)
どの程度の額の現金給付がどの程度のインフレをもたらすかを知るには、給付対象を限定した実験ではなく、一国全体で実際に給付を行うしかない。
だから、とにかくBIを導入しよう、というのが私の主張だ。

経済第一主義に依拠するベーシックインカム論の危うさ

 私も経済成長に対しては肯定的に考える者ですが、前提条件としての「成長」の定義や領域、成長の主体については、種々思うところがあります。
 ここではそれについてテーマとしませんが、日本においては人口減少社会における「成長」とは何か考えることも課題にすべきと思います。
 それは、日本の経済における生産性をめぐる議論と同質のものでもあります。

 かねてから申し上げているように、経済対策・経済政策としてのベーシックインカム論には、疑問を持っています。
 基本的には、ベーシックインカムは、人が生きる上での生存権や基本的人権を守るための社会的共通資本としてあることが望ましいと考えています。
 その実現と実行・利用が、結果的に経済活動に直結し、多様な豊かさや成長や問題課題解決に繋がるというものです。

 井上氏の本書では、後述する他の著書同様、社会保障制度、社会政策を軸としたBI論は、生活保護制度とからめて論じる以外は見ることができません。
 その経済第一主義は、結局国力の向上・増強、それを可能にする経済力向上・経済成長、そして多義的な豊かさの実現を目標とすることになります。
 豊かさの尺度や基準は、本書でも取り上げている幸福度などと同様、同一・単一の基準で規定できるものではなく、解釈の仕方、利用方法によって相当の恣意性を孕んでいます。

 それは、左派・左翼・リベラル内における意見・見解の対極化をもたらしていることは、本書でも明らかにされていました。
 このことは、日本維新の会が衆議院選に当たって政策として掲げた維新BIに対してと同様、今後も十分心して掛かる必要があると考えています。

井上BI論から学ぶことができる考え方

 後述する井上BI論に関する過去の考察記事でも触れましたが、井上BI論には、参考になる考え方・方法論がいくつかあります。
・段階的導入
・段階的導入に伴う異なる財源活用方法
・インフレ時の弾力的な給付運用方式

などです。

 当サイトで提案している日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金は、いくつかの実現のためのハードルを想定しており、長期的に実現をめざす理想論として描いています。
 これをいかに現実的に、できるだけ早期に実現するか考えると、やはり段階的に導入するしかありません。
 また、財源問題に関する合意形成はやはり相当の困難が予想されますし、専用のデジタル通貨化のための情報システム・管理システム上の課題も同様です。

 しかし、日本維新の会がそれなりに真面目にBIを政策として掲げたことで、具体的な方法・内容に関する議論が、政治しシューとしてそろそろ活発に行われる可能性が出てきたわけで、これに対処する、場合によっては対抗する必要が高まる可能性があります。
 特に、真のベーシックインカムの実現を考える左派・リベラル政党がないだけに、間違った方向に進められるリスクが高まっていると認識すべきと思います。
 井上BI論の内実についてもフォローが必要なように。

 とは言うものの、当サイトが何かしらの影響力を有するわけではなく、独り言の域を出ることはないかもしれません。
 しかし、いずれ何かしらの形でベーシックインカムが実現される時を想定し、それがより望ましい、本質的・根源的な社会的共通資本としての制度・システムそして文化となることを願って、ベーシック・ペンション2022年版の提起に向けて作業を進めていきます。


参考ー1:『「現金給付」の経済学 反緊縮で日本はよみがえる 』の構成

第1章 コロナ不況と経済政策
1.大切なのは経済か、命か

 ・「経済か命か?」
 ・長期不況の始まりかもしれない
 ・問題は生産性ではない
 ・一次的不況と二次的不況
 ・長期デフレ不況と就職氷河期の再来
2.コロナ危機下の経済政策 ー コールドスリープせよ
 ・ターゲットを絞った支援の難しさ
 ・事業体をコールドスリープさせる
 ・現状の支援制度の問題点
 ・支援制度をいかに整えるべきか
3.Gotoキャンペーンの是非を問う
 ・GoToキャンペーンには安全宣言が必要だった
 ・GoToキャンペーンの問題点①
 ・GoToキャンペーンの問題点②
 ・GoToキャンペーンのほうが効果が高いか?
4.反緊縮で日本はよみがえる

 ・政府の「借金」を増やすなという批判
 ・反緊縮とはどのような思想か
 ・アベノミクスの最大の失敗
 ・必要なのはヘリコプター・マネー
第2章 なぜ、ベーシックインカムが必要か
1.現状と歴史はどうなっているか

 ・コロナ危機とベーシックインカム
 ・ベーシックインカムはネオリベ的か?
 ・社会保障制度とベーシックインカムの起源
 ・20世紀のベーシックインカム論
 ・実現に向けた取り組み
2.ベーシックインカムの「自助・共助・公助」

 ・ITによる格差の拡大
 ・物流の完全無人化は可能か
 ・クリエイティブ系の仕事は増えるけれど
 ・コロナ危機が時代を10年早送りした
 「自助・共助・公助」は何を意味するか?
 ・ベーシックインカムは「 自助・共助・公助」 に反する
3.生活保護は廃止してもよいのか

 ・生活保護には欠点がある
 ・ベーシックインカムと負の所得税
 ・生活保護は廃止すべきか
 ・制度はもっとシンプルであるべきだ
 ・「理由なき困窮者」を見捨てない
4.二階建てベーシックインカムへの道

 ・当面は追加型BIしかない
 ・貨幣制度の大きな欠陥
 ・ヘリコプター・マネーの具体案
 ・二階建てべーシックインカムとは何か?
 ・インフレ率目標が達成できない理由
 ・変動ベーシックインカムで景気をどう調整するか?
 ・実現に向けた三つのフェーズ
 ・財源はどうするべきなのか?
第3章 政府の「借金」はどこまで可能か
1.財政赤字をめぐる三つの立場

 ・コロナ増税を警戒せよ
 ・税制健全化は必要か?
 ・政府が「借金」して何が悪い?
 ・ケインズ主義とは何が違うのか?
 ・財政ハト派のケインズ主義の問題点
2.現代の貨幣制度とMMT

 ・モズラーの名刺の逸話
 ・お金を使うとお金が増える
 ・マネーストックとマネタリーベースの違い
3.お金はいつ生まれ、いつ消えるのか

 ・財政支出と徴税の際のお金の動き
 ・日本を衰退に導いた大いなる勘違い
 ・お金を増やすには「借金」しかない
 ・なぜ税金は財源ではないのか?
4.政府の「借金」はなぜ問題ないのか

 ・「借金」を増やしても良い理由
 ・国債を貨幣化するとどうなるか?
補論 ドーマー条件と横断性条件

 ・ドーマー条件とは何か?
 ・横断性条件とはなにか?
 ・ノン・ポンジ・ゲーム条件
 ・マネタイゼーションした場合はどうなるか?
第4章 脱成長の不都合な真実
1.完全雇用が達成されればよいのか

 ・雇用保障プログラムとは何か?
 ・雇用保障プログラムの問題点
 ・本当に完全雇用を実現できるのか?
2.デフレマインドが日本を滅ぼす
 ・完全雇用で満足してはならない理由
 ・労働者と企業経営者のデフレマインド
 ・デフレマインドで科学技術も衰える
 ・出版不況の原因は何か?
 ・新国立競技場のザハ案が却下されたのはなぜか?
3.脱成長論とグリーン・マルクス主義
 ・脱成長論とは何か?
 ・グリーン・マルクス主義
 ・地球温暖化は本当に害悪か?
 ・グリーン・ケインズ主義
 ・経済成長と二酸化炭素排出のデカップリング
 ・すでに物欲は減退し始めている
 ・反緊縮主義とは何か?
4.なぜ経済成長が必要なのか
 ・経済成長と幸福の関係
 ・近代世界システムから考える
 ・日本の衰退と中国の勃興
 ・「日本人」と「香港人」の意外な共通点
 ・私たちはもっと豊かになっていい
おわりに

参考-2:井上智洋氏著の所持書

・『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』(2016/7/20刊・文藝新書)
AI時代の新・ベーシックインカム論 (2018/4/30・光文社新書)
・『毎年120万円を配れば日本が幸せになる』(2021/1/21刊・扶桑社、小野盛司氏共著)
・『資本主義から脱却せよ 貨幣を人びとの手に取り戻す』(2021/3/30刊・ 光文社新書、松尾匡・高橋真矢氏共著)
・『「現金給付」の経済学 反緊縮で日本はよみがえる』(2021/5/10刊・NHK出版新書)

参考-3:井上智洋氏著等に関する投稿記事

ベーシック・インカムとは-3:AIによる脱労働社会論から学ぶベーシック・インカム (2020/6/16)
朴勝俊・山森亮・井上智洋氏提案の「99%のためのベーシックインカム構想」ー1(紹介編)(2021/4/8)
朴勝俊・山森亮・井上智洋氏提案の「99%のためのベーシックインカム構想」ー2(評価編)その意義と課題 (2021/4/9)
小野盛司氏の経済復活狙いのみのベーシックインカム案? (2021/2/25)
資本主義リアリズム、加速主義、閉塞状態にある資本主義の正し方:『資本主義から脱却せよ』から考える社会経済システム-1(2021/5/7)
知らなかった、民間銀行の濡れ手で粟の信用創造:『資本主義から脱却せよ』から考える社会経済システム-2(2021/5/9)
信用創造廃止と貨幣発行公有化で、資本主義と社会はどうなるのか:『資本主義から脱却せよ』から考える社会経済システム-3(2021/5/11)
資本主義脱却でも描けぬ理想社会:『資本主義から脱却せよ』から考える社会経済システム-4(2021/5/13)

参考-4:日本のBI論者に関する記事リスト

<小沢修司氏提案BIに関する記事:『福祉社会と社会保障改革―ベーシック・インカム構想の新地平』(2002/10/30刊・小沢修司氏著・高菅出版)から>
1) 2000年前後までのベーシックインカム論確認:小沢修司氏2002年著『ベーシック・インカム構想の新地平』から-1(2021/10/1)
2)負の所得税、参加所得、社会配当。BIに類似した最低限所得保障構想:小沢修司氏2002年著『ベーシック・インカム構想の新地平』から-2 (2021/10/2)
3)ゴルツの時短・時間解放社会と社会的排除の本質とBI論との結びつき:小沢修司氏2002年著『ベーシック・インカム構想の新地平』から-3 (2021/10/6)
4)ワークフェアとBIの一体化のための「労働と消費を含めた生活全般の人間化」の意味不明:小沢修司氏2002年著『ベーシック・インカム構想の新地平』から-4 (2021/10/7)
5)月額8万円所得税率50%で問題多き小沢BI構想に落胆:小沢修司氏2002年著『ベーシック・インカム構想の新地平』から-5 (2021/10/11)
6)20年前よりも所得税率引き上げ56%で月額8万円の変わらぬ小沢BI論の残念:小沢修司氏2002年著『ベーシック・インカム構想の新地平』から-6 (2021/10/12)

<山森亮氏提案BIに関する記事: 『ベーシック・インカム入門』(2009/2/20刊)『お金のために働く必要がなくなったら、何をしますか?』(2018/11/20刊・共著)等から >
1)ベーシック・インカムとは-1:歴史から学ぶベーシック・インカム (2020/6/2)
2)山森亮氏のベーシックインカム財源論(2021/4/3)

<原田泰氏提案BIに関する記事:ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか(2015//から >
1)ベーシック・インカムとは-2:リフレ派原田泰・前日銀政策委員会審議員から学ぶベーシック・インカム (2020/6/6)
2)3種類の所得再分配論によるベーシックインカム思想の原型:原田泰氏著『ベーシック・インカム』より(2021/1/28)
3)リフレ派原田泰氏2015年提案ベーシックインカム給付額と財源試算:月額7万円、年間総額96兆3千億円 (2021/2/3)

<竹中平蔵氏主張BIに関する記事>
1)竹中平蔵の暴論はシカトすべき!:週刊ポストの小学館マネーポストWEB、ベーシックインカム記事を追う-1
(2021/1/14)
2)宮内義彦氏の話を耳をかっぽじって聞け、竹中平蔵:週刊ポストの小学館マネーポストWEB、ベーシックインカム記事を追う-2 (2021/1/15)
3)ベーシックインカムを突き詰めて考えたことはない竹中平蔵氏 (2021/8/17)

参考-5:ベーシックインカムの歴史と実験導入例に関する記事リスト

1)イギリス救貧法の歴史・背景、概要とベーシックインカム:貧困対策としてのベーシックインカムを考えるヒントとして(2021/1/26)
2)18世紀末、2人のトマス、トマス・ペイン、トマス・スペンスの思想:ベーシックインカム構想の起源(2021/1/31)
3)ミルトン・フリードマンの「負の所得税」論とベーシックインカム(2021/2/19)
4)カナダオンタリオ州ミンカム等ベーシックインカム、実験導入事例紹介-1(2021/3/6)
5) BI実験と効果誘導に必要な認識:ベーシックインカム、実験導入事例紹介-2 (2021/3/7)
6)メディア美学者武邑光裕氏による無条件ベーシックインカム論とドイツBI事情-1(2021/3/8)
7)ドイツでUBI実証実験、2021年6月開始:武邑光裕氏によるドイツUBI事情-2 (2021/3/9)
8)米カリフォルニア州ストックトン市のベーシックインカム社会実験、中間報告(2021/3/15)
9) 1968年凶弾に倒れたキング牧師を動かしたアメリカ福祉権運動とベーシックインカム (2021/3/17)
10) ベーシック・インカム世界ネットワーク(BIEN)の位置付け (2021/3/22)

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