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2020・21年考察

小野盛司氏の経済復活狙いのみのベーシックインカム案?

日本経済復活の会とは

日本経済復活の会」は、その名の通り、日本経済の復活を目標に活動する非営利団体で、小野盛司氏は同会の会長、創設者でもあります。
元々は素粒子理論の学者ですが、以下で取り上げた井上智洋氏との共著で『毎年120万円を配れば日本が幸せになる』(2021/1/21刊)を書き表した方です。
井上智洋氏提案ベーシックインカムは、所得再分配による固定BIとMMTによる変動BIの2階建て(2021/2/24)

小野氏は、この先月発売されたばかりの『毎年120万円を配れば日本が幸せになる』において、毎年120万円のベーシックインカムを全国民に支給することを提案しているのです。
今回は、同書を元に、小野氏の提案を見てみます。

日経NEEDSシミュレーションは絶対神か?


小野氏の強み、というか、氏の提案の妥当性・正当性を示す根拠は、日経NEEDSによる種々のシミュレーションを行って検証したから、というものです。

冒頭小野氏は、こう言います。


 日本経済は長らくデフレ状態にあり、その解消が必要です。
 そこで、国民全員に政府が直接お金を配ったら・・・
 配る金の額によって、その後の経済が回復するスピードが変わります。

要は、異なる金額を設定して、経済回復度の違いを試算してみるのが日経NEEDSを用いてのシミュレーションというわけです。
まあ、確かに、設定した金額ごとにどうなるかは、予め設定された計算式に、変数を入力して計算するので分かりませんが、多額を配れば速く回復するくらいのことは、学者・専門家じゃなくて十分分かります、と言いたいところです。
が、まあちょっと我慢して続けましょう。

(参考):日経NEEDSとは

日経NEEDSとは、日本経済新聞社が提供する総合経済データベース。
経済、産業、地域、海外など、マクロ経済データからミクロ経済データまで幅広い領域をカバーしており、CSV形式でダウンロードでき、メニュー形式による系列の選択や、系列名、出典資料名からの検索が可能です。
日経NEEDSの使い方

小野氏主張のポイントを目次から


同書の中で、小野氏が執筆した各章の目次部分だけを、以下に転載しました。
それ以外の、井上智洋氏執筆章と同氏との対談部分は省略しました。

<第2章 配らなければビンボーが続く>

 官僚の忖度で毎回「3%」と決まるGDP成長予測
 誰が見てもおかしい経済政策を、御用学者やメディアが隠してきた
 ノーベル賞経済学者たちから賞賛された経済予測モデル
 先進国で年収が上がっていないのは日本とイタリアだけ
 リーマンショックから日本だけが立ち直れなかった
 できもしないのに、どんどん先延ばしされる「プライマリーバランス黒字化」
 お金を使ってコロナ対策を本気でやれば、プラス成長になる
 毎月10万円を、全国民に配り続ければ日本経済は必ず良くなる
 お金を配ってもハイパーインフレににならないのはなぜか
「10万円給付しても悪影響なし」ということが、コロナ対策で明らかに
 消費者物価指数を2%の目標に近づけるには、年間120万円の給付が必要
 政府は失われた分のお金を発行するべき
 誰もが「好き」を仕事にできる時代へ

<第3章 コロナ不況とデフレマインド>

 コロナ禍で日本はGDP40兆円を失った
 日本のコロナ対策は完全に失敗だった
 お金をケチらなかった中国と、ケチった日本の差は大きい
 コロナ収束にお金をかけるかかけないかで、日本経済の先行きは変わる
 コロナ対策として500万人を活用せよ
 最悪のケースは、コロナ収束に失敗して直接給付を行わない場合

<第5章 日本経済復活シミュレーション>

 年120万円給付しても、インフレ率は平均1%
 直接給付の額が多ければ多いほど、住宅設備投資は増える
 消費力不足で日の目を見なかった商品がきちんと生かされる
 現金給付しても長期金利の暴騰は起こらない
 企業の利益を拡大させ、賃金も数%ながらアップする
 株価は上がり、失業率は激減する
 消費税減税すると、いったんGDPは下がるがその後回復
 消費税減税は、デフレマインドに悪影響も
 公共投資は、一部の人しか恩恵を受けられない
 最も多くの国民が「冨の分配」を受けるのは現金給付

いかがでしょうか。
要するに、財政規律を重んじる政策と、それにより長期にわたって停滞する日本経済を嘆き、毎年120万円をすべての国民に配って、経済回復を実現しよう。
そういう本です。
分かりやすいと言えば、分かりやすい。

復活の会創設20年、復活は未だし。コロナ禍が千載一遇のチャンス?


この非営利法人の<日本経済復活の会>の創設は、2002年のようですから、もう20年近い歴史があります。
コロナの遥か以前から活動しているわけで、現在、超党派での国会議員100人以上が会員とか。
それでも、この間、この会の提言にそって現金給付が行われた実績はなく、国会議員会員も、本気で名を連ねているわけではないのでしょう。
コロナ禍にある今、タイミング的にも昨年の10万円特別定額給付金支給という実績ができたこともあり、これをベーシックインカムと結びつけて発展的に、声を大にして導入を、というわけです。
もちろん本書の発行もその一連のものです。

しかし、経済対策にしても、コロナ禍にしても、私は、ベーシックインカム、そして私が提案するベーシック・ペンションでは、本質的にはそれらが制度の中核として位置付けられるもの、目的とされるものではないと考えます。


お金を配ればすべては解決されるのか

毎月10万円年120万円配れば日本は幸福に、という「幸福」とはなにか?
本当にだれもが「好き」を仕事にできる時代になるか
それでも賃金上昇率は数%ということに、本質的な問題が隠されていないか?
失業率は激減する、本当に断言できるか?

井上氏強調のAI時代の雇用・職業喪失社会にもそれは可能か?
貧困・格差をもたらす社会経済システムに改革は不要か?

仮に、MMT宜しく、そして日経NEEDSシミュレーション宜しく、財政赤字まったく心配なし、インフレ不安も杞憂としても、果たして、生活保護制度、年金制度、医療保険等社会保障制度・社会福祉制度などに関する社会問題は、毎年120万円支給で、一気に解決・解消されるものなのか?
非正規雇用や解雇などの労働経済問題、行き過ぎた資本主義経済による格差拡大・加速化リスク。
こうした問題も、120万円で雲散霧消するのか?

そうしたリスクは、果たして日経NEEDSでシミュレートできるのか?
さらっと流し読む限りでは、日経NEEDSには、そうした人的社会システム関連情報のデータベースは組み入れられていないのでは?

不安とともに、不信感も覗かせてくるのです。

最後に、小野氏の分かりやすい、ベーシックインカム提案を再確認しておきます。

毎年120万円すべての国民に配る


但し、小野氏も<日本ベーシックインカム学会>の理事でいらっしゃるのですが、本書では、ご自分の主張を、ベーシックインカムとは、ほとんど仰っていないことを申し添えておきたいと思います。

<ベーシック・ペンションをご理解頂くために最低限お読み頂きたい3つの記事>

⇒ 日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンションとは(2021/1/17)
⇒ 生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案(2021/3/2)
⇒ ベーシック・ペンションの年間給付額203兆1200億円:インフレリスク対策検討へ(2021/4/11)

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