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2020・21年考察

リフレ派原田泰氏2015年提案ベーシックインカム給付額と財源試算:月額7万円、年間総額96兆3千億円


当サイトのうちの<BI THEORY>というカテゴリーの中で、日本におけるBI導入提案のなかから抽出して具体的な内容や課題などを確認・検討します。

今回は、6年前2015年2月に発行された、原田泰(ゆたか)氏による
ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるかから同氏の提案を引用・転載し、検討・考察するものです。
同書の構成は、
第1章 所得分配と貧困の現実 ー 生活の安心は企業ではなく国家が守るべし
第2章 ベーシック・インカムの思想と対立軸
第3章 ベーシック・インカムは実現できるか

となっており、第3章に絞って見ていきます。

なお、同氏の書とその内容については、過去、当サイトの原点となるサイトhttps://2050society.com において以下の記事で取り上げており、当記事も一部そこから引用しています。
ベーシック・インカムとは-2:リフレ派原田泰・前日銀政策委員会審議員から学ぶベーシック・インカム(2020/6/6)

原田氏案の基本方針


第3章の冒頭に、こうあります。

 
  本書で考えているBIは、すべての社会保障制度に代替するものである。
  したがって、基礎年金のために用いている予算、失業保険のために用い
 ている予算もBIに代替できる。
  医療保険制度に多くの問題はあるが、これについて論じると別の書物を
 必要とすることになるので、省略し、ここでは、現行制度を前提として考
 慮している。
  なお、厚生年金の報酬比例部分は人々の基本的な生活を保障するもので
 はないので、年金数理的に正しい私的年金制度に置き換えるのが望ましい。
 年金数理的に正しいとは、高齢者は、自分の払い込んだ年金保険料に正当
 な金利を付けた額を、退職後に受け取るという制度である。

このように明確に断定・定義付けしていることは、内容に問題があるとは思いますが、他の論者と違って、誠実性・責任性を感じ、好感を持つことができます。

ただし、ただし、です。
この記述の中に、生活保護制度をも代替するもの、という表現が入っていないことが問題です。
社会保障制度を代替する、とはありますが、分類・区分に曖昧さを感じるからです。
ここを読む限りでは、現在の生活保護制度に、原田氏案を上乗せするかのように思わせるのですが、果たしてどうなのか、少なからず不安を抱かせます。

原田氏は、安倍内閣の経済政策=アベノミクスの基軸となるデフレ脱却、緩やかなインフレを目標とする「リフレーション」を掲げる一派「リフレ派」に属する経済学者で、本書発刊時には、アベノミクス推進の歯車とも言える日銀政策委員会の審議員を務めていた人物。
黒田日銀総裁下、ゼロ金利等金融緩和策を進めて設定した、2%という「インフレターゲット」は、結局実現する気配さえ見せることなく、話自体終息してしまった感があります。
そのことで、BI論者のうちのMMT主張論者や、国はお金を刷りたいだけ刷って配れる的放任主義論者が、コロナ下、声を大きくしている状況があります。

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ベーシック・インカムの財政懸念を否定する(が?)


ベーシック・インカムを巡って、最も反対者から危惧される財政問題への反論に力を入れているのが、原田氏論の最大の特徴と言えます。

「バラマキは正しい経済政策である。」
と明言し、バラマキのための必要財源は、財政赤字にそう影響はしないと、数字を上げて証明しているのです。
他の無責任や財政の罠からの部分的BI論とは異なり、BIを可能にする財源の一部として、有効ではない公共事業、ムダな補助金投入などを廃止すべきとして、保護行政を批判しているのが特徴です。
そうした裏付けのもとに、BIで想定される財源への不安・懸念を否定し、必要財源に道筋を付けている、のですが・・・。

以下、その内容・主張を見てみます。

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原田泰氏ベーシックインカム案

20歳未満月3万円、20歳以上月7万円、年間必要財源96兆3千億円


原田氏は、一つの試算として、
・20歳未満(2,260万人)  月額3万円
・20歳以上(1億490万人) 月額7万

支給するとし、そのために必要なBI原資の額を、年間96兆3千億円としました。
では、その財源をどうするか、です。

年間必要財源96兆3千億円の裏付け

原田氏は、そのための財源を、以下の3区分で捻出・計上しています。
1.所得税:77兆3千億円
2.政府支出からの移行:19兆9千億円 
3.社会福祉費・補助金等からの移行
15兆9千億円



所得税:77兆3千億円の根拠

所得税収が77兆3千億円は、以下から算出されます。
(1)BI導入で、各種所得税控除が不要になり、税収額が増える。
(2)雇用者報酬と自営業者の混合所得257.5兆円が課税対象となる。
(3)所得税率を30%とする


政府支出からの移行19兆9千億円の根拠

BI導入に伴い現状の政府支出分から、次の3項目分が、移行・移管されます
(1)老齢基礎年金への政府支出額16兆6千億円
(2)子ども手当(現在の児童手当)への支出額1兆8千億円
(3)雇用保険への支出額1兆5千億円

社会福祉費・補助金等から移転可能15兆9千億円の根拠

同じく、生活保護費・民生費および各種補助金・事業等の見直し等により、以下の項目で移行・捻出します
(1)生活保護費:1.9兆円(生活保護費の5割を占める医療費分を控除した額)
(2)民生費(地方自治体負担分)のうち福祉費:6兆円
(3)公共事業予算のムダから:5兆円
(4)中小企業対策費:1兆円
(5)農林水産業費:1兆円
(6)地方交付税交付金:1兆円

以上3区分の合計額は、113兆1千億円
この額から(当時における)現行所得税収13兆9千億円を差し引くと、99兆2千億円となり、必要試算額年間96兆3千億円が確保でき、多少のお釣りがでることになります。
但し、この試算のもととなるデータは、2012年のものであり、現時点で試算すると当然異なる数字になります。

生活保護制度廃止で、ネオリベ竹中平蔵氏提案と変わらぬ設計に


ここで出てきました、生活保護費も全て含まれていることが。
やはり月額7万円のBI支給で、生活保護制度も廃止することになります。

ということは、ネオリベ竹中平蔵氏の月額7万円ですべての社会保障制度全廃暴論とほとんど変わらない内容と結論づけられても致し方ないようです。
折角ここまで細かく調査し、他の領域の行政改革、ムダ遣いの削減策も組み入れられたにも拘らず、です。
そして、「バラマキ」とは言えないレベルの内容になってしまっていることも、ある意味、カンバン倒れです。

原田氏案の問題点


これで、原田氏案の問題点が明確になりました。
以下、列記します。

1.月額7万円では、現状の生活保護受給額を下回る人が大半を占める。
2.当然、生活保護受給要件を満たすが、実際に支給を受けていない人にも月額7万円が行き渡ることになるが、不十分な支給である問題は残る。
3.何より、月額7万円で最低限の生活を維持することは困難であろう。
4.所得税を一律30%としており、富裕層の一部には税率が現状より下がり、その所得が増える。
5.所得税率のアップで、現状の所得と実質ほとんど変わらない場合もあり得る。
6.年金保険制度、雇用保険制度の廃止により企業の法定福利費負担が削減され、企業にとってメリットがあるBI導入になるが、それに伴いあるべき何らかの制度改定や制度新設の有無などは示されていない。
7.社会保障制度全廃により、それ以外にも多くの課題が残るが、それらについての検討・提案が(断り書きはあるが)省略されている。

まあ現状の社会保障制度の国の方針をベースにしての提案なので、やむを得ないと言えばそうなのかも知れません。
しかし、生活保護制度の運用実態・管理実態への問題意識の低さや、他の諸制度への言及が足りないことへの不満は大きいものがあります。

また、現行の社会保障制度や医療保険制度・介護保険制度が続けば続くほど、貧困や格差問題の拡大を招き、少子化社会・高齢化社会問題への処方も後手後手に回り、改善・解決が一層困難になっている状況を考えると、本論の危うさは指摘すべきものです。

ベーシック・ペンションの多角的・多面的な提案を通じて、こうした現状の日本におけるBI論への問題提起と対案を行っていきます。


ただ一点、以下の提起があったことを確認しておくことに意義があると感じています。

東北大震災、コロナ禍。共通するBIの意義

同書は、東北大震災後の2015年2月に発刊されており、文中に
「震災復興も一律給付で可能となる」と書いています。
「復興」とするのはどうかと思いますが、もしBIが導入されていれば、被災した人々の生活の一部をカバーすることはできたBIではありました。
現在のコロナ禍における特別定額給付金支給要請や、これを機にしてのベーシックインカム導入主張が重なります。
被災地域が限定されるか、日本全国かという違いがありますが、本質的には同様です。

より包括的な意義・目的を持つBI論へ


しかし、ベーシックインカム、私が提案するベーシック・ペンションは、そうした有事に限って有効ということではありません。
金額の不十分さの議論や財源論と併せて、その意義・意味自体の包摂性・全体性の議論・検討も不可欠と考えています。

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こちらも参考に
3種類の所得再分配論によるベーシックインカム思想の原型:原田泰氏著『ベーシック・インカム』より(2021/1/28)

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