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2000年前後までのベーシックインカム論確認:小沢修司氏2002年著『ベーシック・インカム構想の新地平』から-1

 日本のベーシックインカム論の古典、と私が勝手に位置付けているのが、小沢修司氏により2002年に出版された『福祉社会と社会保障改革―ベーシック・インカム構想の新地平』(2002/10/30刊)。

 同書の前半の[Ⅰ 企業中心社会と社会保障制度改革]を関連サイト https://2050society.com で以下の記事で取り上げました。
社会保障制度審議会1995年勧告に関係なく悪化を続けてきた社会保障制度(2021/9/25)
25年前に描かれた、国民負担増という社会保障制度改悪へ進む日本(2021/9/26)
2002年小沢修司氏著から2021年宮本太郎氏著までの間、社会保障・福祉制度はどう変わったか (2021/9/29)

 そして今回から、同書後半の第Ⅱ編[ベーシック・インカム構想と福祉社会の展望]を、当サイトでシリーズ化して取り上げることなります。

第Ⅱ編[ベーシック・インカム構想と福祉社会の展望] の構成

Ⅱ ベーシック・インカム構想と福祉社会の展望
第1章  ベーシック・インカム構想の新展開

1. ベーシック・インカム構想の系譜
 1) ベーシック・インカム構想の系譜
 2) 日本におけるベーシック・インカムへの言及
 3) ベーシック・インカムとシチズン・インカム
2. 戦後「福祉国家」の見直しとベーシック・インカム構想
 1)福祉制度改革の課題
 2)1980年代以降の社会経済変化
3.最低限所得保障の類型とベーシック・インカム構想
 1) 負の所得税とベーシック・インカム
 2) 参加所得とベーシック・インカム
 3) 社会配当ベーシック・インカム
4.小括
第2章 労働の変容と所得保障
1.ゴルツの「ベーシック・インカム保障+大幅時短セット論」
 1)労働の変容と所得保障構想の変化
 2)所得と労働の一体性を実現する「ベーシック・インカム+時短セット」論
2.社会的排除と貧困
 1)社会的排除とは
 2)貧困の現れとしての社会的排除
3.ワークフェアと所得保障
 1)社会的排除と所得保障
 2)ワークフェアとベーシック・インカム
4.ベーシック・インカム保障と労働時間の短縮が切り開く道
 1)オランダモデルへの注目
 2)消費から見たもう一つの「所得と労働の関係」
5.小括
終章 日本におけるベーシック・インカムの可能性

Ⅱ ベーシック・インカム構想と福祉社会の展望

 第Ⅰ編[企業中心社会と社会保障制度改革] を受けて、第Ⅱ編に入るに当たって、小沢氏はこう説明しています。

 わが国における戦後社会保障制度に焦点を当てて、その拠って立つ基盤としての特定の家族のあり方と働き方が大きく変化してきていることによって、社会保障制度の再構築が避けられなくなってきていることを見てきた。

 わが国における社会保障制度の揺らぎと共通する、戦後「福祉国家」の世界的な揺らぎに目を向けながら、戦後「福祉国家」の枠組みを大転換を志向する新たな福祉社会構想の一つとして、最低限所得保障構想を検討することにしたい。


 その構想の一つとされる「ベーシックインカム構想」を、この第1章で確認していくことにしましょう。

第1章 ベーシック・インカム構想の新展開」から-1


今回は、第1章の前半部分について、以下のように簡潔に整理してみます。

ベーシック・インカム構想の系譜

<18世紀末> 
・T.スペンスやT.ペインの所論にその構想の端緒
・1795年のスピーナムランド制は、BI構想を実行に移した最初の制度とされる
<両大戦間期>
・D.ミルナーの国家ボーナス構想
・C.H.ダグラスの社会クレジット提案
<1930年代~1990年代>
・Meade,J ミードによる社会配当論提起
<戦後>
・ジュリエット・リーズ・ウィリアムズの、ベヴァリッジ報告への対案としてBI構想に直接つながる新社会契約New Social Contract 構想提案
・その息子で英国下院議員ブランドン・リーズ・ウィリアムズがイギリス政界でその提案を取り上げ
・フリードマン Friedman,M が、負の所得税構想にデザインし直されて提案
・英国1970-74年ヒース保守党政権下でのタックス・クレジット制度の提案
・同1978-79年労働党政権下、BIの子どもバージョンといえる児童給付 Child Benefit 制度導入

この内のいくつかについては、当サイトの以下の記事でも触れていますので、確認頂ければと思います。

イギリス救貧法の歴史・背景、概要とベーシックインカム:貧困対策としてのベーシックインカムを考えるヒントとして(2021/1/26)
18世紀末、2人のトマス、トマス・ペイン、トマス・スペンスの思想:ベーシックインカム構想の起源(2021/1/31)
ミルトン・フリードマンの「負の所得税」論とベーシックインカム (2021/2/19)

ベーシック・インカム用語が用いられた経緯

・最初にベーシック・インカム(以下BI)という言葉を用いたのは、オランダ労働党活動家で最初のノーベル経済学賞受賞のJ.ティンバーゲンが、1953年の著『経済政策』の中で
次いで
・左寄りの負の所得税の提案を行ったトービンもベーシック・インカム手当に言及
・ベーシック・インカム構想が本格的に議論されるようになるのは、ブランドン・リーズ・ウィリアムズに従っていたパーカーが1981年にBIという言葉を用いたのがきっかけ
・その後、パーカーらが中心となってベーシック・インカム・リサーチ・グループ(BIRG)が組織化されて以降
 その機関紙も発行され、1998年秋からは現在Citizens Income Newsletterに。
・1986年BIに関する初めての国際会議が開催され、ベーシック・インカム・ヨーロピアン・ネットワーク(BIEN)が結成。その後2年ごとに同会議が開催。
 その機関紙は、1988年以降は Newsletter of the Basic Income Europian Network で、BASIC INCOMEと題して。

日本におけるベーシック・インカムへの言及

 本書発刊の2002年以前における日本でのベーシック・インカム構想に関する紹介や議論はごくわずかとし、説明していますが、ここでも研究者の氏名とそのポイントのみ引用するにとどめます。

・下平好博[1989]:BIとの直接の言及はないが、1970年代に脚光を浴びた「タックス・クレジット制度」や「社会配当金制度」を再び見直す動きを指摘。(その背景・理由は省略します。)
・地主重美[1995]:アトキンスンの所論として「基礎保障所得」を紹介。(詳細は省略)
・都留民子[2000]:フランスにおける社会的排除と貧困に抗する参入所得保障政策(RMI)に迫った著作で、RMI導入に至る過程で行われた無条件所得保障と条件付所得保障を巡る(=BI構想を巡る)論争を紹介。

続いて、武川正吾[2001]を紹介し、並んで、かの
宮本太郎 [2001] を、スゥェーデン型福祉国家に関する優れた労作を基礎に福祉政策の新たな展開について意欲的な発言を行ってきており、ベーシック・インカムへの関心を深めてきている、と紹介。
そして、今後わが国でベーシック・インカム論の探求が本格的に行われていく様相を見せている、としています。
 それから20年後の同氏の著作が、先行して投稿した記事で紹介した『貧困・介護・育児の政治 ベーシックアセットの福祉国家へ』 です。
 そして、ベーシック・インカムへの強い関心を寄せた後の帰結として、今日、ベーシックアセットの提案に至ったていることになります。

 なおその他
・伊藤周平[1994, 1996]・松井暁[1999]等も上記の研究者同様、BIとの関連性と共に丁寧に紹介していますが、ここでは省略します。
 ただ総じて、多くの研究者が、直接的にベーシック・インカムという表現を用いるケースは、その認識を含めて多くはないと感じさせられます。
 従い、小沢氏の本書が、やはりベーシック・インカム導入を具体的に提案した最初の書ではないかと私は考えており、私が、同書が日本におけるBI論の古典という所以でもあります。
 そして、原田泰氏の『ベーシック・インカム』(2015年刊)以降のBI書発刊ラッシュ状態に、今日入っているわけです。

 本書に戻って、その後BIに関する翻訳の紹介も続きますが、申し訳ありません、これも省略させて頂きます。
 万一、ご希望をお寄せ頂きましたら、先述の省略分も含めて、紹介のための記事を別途アップしたいと思います。
 ご了承ください。


ベーシック・インカムか、シチズン・インカムか

 その他、ベーシック・インカムではなく、イギリスを中心に「シチズン・インカム」という呼称を用いることに触れています。
 これは先述したBIRGが、「社会保障改革は、市民制(シチズンシップ)についての広範な議論と重要な関わりを有している」ことから、シチズン・インカムに変更し、組織名もCIRGに変更したことから。
 しかし、当然ですが、本書ではBIですし、一般的にもほとんどがBIを用いています。

福祉国家の見直し・変革の必要性とベーシック・インカム構想

 次に、ベーシック・インカム構想が拡がりを見せることになる要因として、従来の「福祉国家」における社会保障・生活保障上の問題について、論じられます。
 そうです。
 例の日本の生活保護制度でも問題視されている、貧困・低所得層に固定された「選別主義的」な福祉政策における課題です。
 「スティグマ」や「ミーンズテスト」などの心理的・精神的な負担の問題や、「失業の罠」「貧困の罠」に関わる問題への反省・考察から、普遍主義的な福祉政策・サービスの在り方が模索されてきた状況を、ここで提示することになります。
 小沢氏は、その例を1990年代初頭のイギリスの家族をモデルとして示し、「失業と貧困の罠」問題の解決が、福祉制度の変革の積年の課題であったことを示すのです。

1980年代以降の社会経済変化とベーシック・インカム構想

 もう一つこれに加えて、1980年代以降の社会経済の変化に伴ってのベーシック・インカム構想の意義の高まりについて論じられます。
 それは、第Ⅰ編で取り上げられ、関係サイトで既に紹介した以下の記事と繋がるものです。
社会保障制度審議会1995年勧告に関係なく悪化を続けてきた社会保障制度(2021/9/25)
25年前に描かれた、国民負担増という社会保障制度改悪へ進む日本 (2021/9/26)

 すなわち、労働の変容に伴う所得・就労の機会損失と貧困・低所得格差化、それに伴っての家族の変容、すなわち女性の就業率の向上、性別役割分業制維持の困難化、世帯対象の生活保障から個人対象の生活保障の必要性への変化などが、やはり従来の「福祉国家」下における社会保障制度の機能不全をもたらすことになったのです。
 これがいわゆるベヴァリッジ・モデルに基づく戦後「福祉国家」体制の見直しを要求するもので、古くから主張されていた最低限生活保障構想が、アンチ「福祉国家」のベーシック・インカム構想として新たな展開を見せ始めたとしています。


「福祉国家」下での所得保障とベーシックインカムとの違い及びその意義

 では、両者の違いを示すと以下の3点。
1)家族を単位としてではなく、個々人に対して行われる
2)他の所得の有無を問わずに行われる
3)現在及び過去の労働履行が要求されない

 そして、ベーシック・インカム構想は
1)人々を性別分業に基づく核家族モデルへの束縛から解き放つ
2)資力調査(ミーンズテスト)に伴うスティグマ(恥辱)や「失業と貧困の罠」から解き放ち、資力調査=受給審査のための行政費用や時間を節約する
3)不安程度が強まる労働賃金への依存から人々の生活を解き放つ
4)労働の人間化やさまざまな自主的市民活動の広範な発展に寄与する
ことができる最低限所得保障の租税=社会保障政策構想として、多くの関心を集めるに至ったとします。

2002年現在の認識が、現在の認識と大きく変わらず、大きな進展を見ていない現実

 ここまでの議論は、現在広がっている多くのベーシックインカム書のほとんどで展開・説明されている内容と言えるでしょう。
 しかし、残念なことに、当然と思われる内容がほとんどなのですが、これに異を唱える人があいも変わらず存在することが、未だにベーシック・インカムが現実的な政策として政治イシュー化されない理由の一つなのです。

 では、何が不足しているのか。
 もう少し、本質的な議論・提案の範疇に入る、ベーシック・インカム構想についての本書の第1章の記述の残りをを次回見てみることにします。

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