少子化対策に必須のベーシック・ペンションと地方自治体の取り組み拡充:BP法の意義・背景を法前文から読む-3
当サイトで提案の日本独自のベーシックインカム、「ベーシック・ペンション生活基礎年金」法律案の前文に掲げた、同法制定の背景・目的(当記事最後に掲載)の各項目ごとに補足・解説を行うシリーズを始めています。
(参考)
◆ 生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)前文(案)(2021/5/20)
◆ 生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案(2021/3/2)
ここまで投稿したのが以下。
<プロローグ>:「生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)前文」解説、始めます(2021/6/2)
第1回:憲法の基本的人権に基づくベーシック・ペンション:BP法の意義・背景を法前文から読む-1(2021/6/12)
第2回:保護制度を超克するベーシック・ペンション:BP法の意義・背景を法前文から読む-2(2021/6/15)
今回第3回目は、次のテーマです。
少子化社会の要因としての結婚・出産・育児等における経済的不安
前文に記した内容は、以下のとおりです。
<少子化社会の要因としての結婚・出産・育児等における経済的不安>
2019年の合計特殊出生率が1.36を記録し、年間の出生数は87万人割れ、人口減少数も50万人超と、11年連続で減少を続けています。
特に、非婚化・未婚化及び晩婚化による出産数の減少、持ちたい子どもの数と実際に持つ子どもの数との差など、少子化に繋がる直接・間接的な要因の背景には、結婚・出産・育児・教育などの一連の営みに必要な収入・所得などの経済的な不安とこれと繋がる心理的な不安があることが指摘・認識されています。
そこでは、エッセンシャルワーカーや非正規雇用者数の増加による所得の減少や不安定化など労働問題も指摘されています。
そして、2019年に端を発する新型コロナウィルス感染症のグローバル社会全体におけるパンデミックが、わが国にも例外なく大きな影響を与え、経済的な不安や健康上の不安の増大から、婚姻数、妊娠件数、出産数の減少を招くことはほぼ間違いなく、長期化している少子化に一層深刻度が増すと予想されます。
この少子化と人口減少が加速する日本社会において、早期に有効な手立てを打つことが不可欠な状況にあることは言うまでもないとこでしょう。
コロナ感染症拡大は長期化し、緊急事態宣言発出も4回を数えました。
これにより、今年2021年の年間出生数は、80万人を割ることがほぼ間違いないと予想されています。
(参考)◆ コロナ禍1月出生数世界で急減、2021年日本の出生数80万人割れ(2021/4/10)
ところで、本稿は、昨日投稿した、以下の総括的な記事を受けて、整理する形となっています。
◆ 望ましい2050年社会に向けての少子化対策への助走:自然な生き方として結婚し子どもを持つということ(2021/6/19)
本論に入る前に、一つ、最新の情報を利用したいと思います。
出生率改善成功地方自治体の取り組みは、種々の経済的支援が柱
2021/6/19付け日経で「出生率1.8」1割の144自治体が達成 と題した記事で、地方自治体の少子化対策の成功事例を紹介していました。
1人の女性が産む子どもの数を示す合計特殊出生率において、政府が目標とする「希望出生率1.8」を2013~2017年時点で達成した自治体が全1741市区町村のうち144。
そのうち136市町村が03~07年に比べ改善させたというもの。
個々の成功自治体名を挙げずに、実施施策例を列記してみます。
1)<沖縄県金武町>(2.47)
・子ども1人につき激励金10万円を支給
・5歳から中学卒業までの給食費、高校卒業までの医療費を無料化
2)<愛知県大府市>(0.46ポイント上昇1.93):
・小3以上の2人に1台タブレット端末を配布
・電子黒板を整備
3)<奈良県奈義町>(0.32ポイント上昇1.84):子育て応援宣言
・出産祝い金(1人10万円)
・進学困難学生への奨学金(最大年60万円)無利子貸与
・育児合間の仕事を紹介する「しごとコンビニ」整備
・子育て期の孤立を防ぐ狙いで親同士が子どもをケアし合う仕組みを整備
4)<東京都日の出町>(0.57ポイント上昇1.59)
・給食費などに充当できるクーポンを中学卒業時まで1人月1万円分支給
・高校生に支援金月1万円を給付
5)<埼玉県志木市>(0.39ポイント上昇)
・子どもを保護者宅の最寄り駅で預かりバスで郊外の保育施設に送迎する「保育ステーション」事業化
6)<千葉県流山市>(0.32ポイント上昇)
・「母になるなら、流山市。」広告展開
・保育所整備も進め、4月に待機児童ゼロ達成
7)<山梨県忍野村>(出生率2.06、上昇幅0.41)
・村独自に教員や支援員を増員
・住宅新築への補助金制度
・8歳までの医療費無償化
・小中学生の給食費無償化
・高校生の修学助成金創設
8)<神奈川県逗子市>(0.23ポイント上昇)
・子育て情報を一元化専用ポータルサイト設置
→子どもの年齢別に子育て支援の催しや検診日程案内メルマガ、妊婦への訪問支援など取り組み
いずれも、現金支給や教育・保育・医療・住宅などへの無料・無償化、補助金などのサービスが主で、他に、子育て支援サービス、保育・教育体制の整備などに、自治体独自に取り組んでいるものです。
これは、出生動向基本調査で、夫婦が理想の子ども数(平均2.32人)を持たない理由として「子育てや教育にお金がかかる」を最も多く(56%)挙げられている事情に、地方自治体がそれぞれ対応するものと言えます。
ただ、同様の政策を採用ものの、明確に成果に結びついていない自治体もあると思われ、またこうして自治体間での競争が増していくわけで、単純に成功事例が増えている部分だけをみることには問題があると考えます。
もちろんそこには、自治体の財源問題が共通に存在しており、国との地方との財源の配分の見直しも、今後不可欠であるのは言うまでもありません。
<『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論>シリーズ
さて、すでに、当サイト及び親サイト https://2050society.com で、少子化問題について、多数の記事を投稿してきています。
なかでも、当サイトでは、山田昌弘氏著の『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』を参考に、以下のシリーズに取り組み済みです。
◆ 結婚・子育ての経済的側面タブー化が少子化対策失敗理由:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-1(2021/5/24)
◆ 夫婦・親子をめぐる欧米中心主義的発想が失敗の理由?:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-2(2021/5/26)
◆ 少子化の主因、リスク回避と世間体意識変革は可能か:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-3(2021/5/27)
◆ 山田昌弘氏提案の少子化対策とは?:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-4(2021/5/28)
そこでは、結論としては、少子化の最大の要因を、現在及び将来への生活そのものと子育て、その前提としての結婚に必要な収入等経済的不安にあるとして、日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金の導入を実現すべきとしました。
ただ、少子化の一因である、非婚・未婚・晩婚化が、著『結婚不要社会』で、結婚自体を困難にさせる経済的要因とそれと関係する「世間体」など精神的要因もあるとする山田氏。
そこで経済的不安を払拭できれば、世間体などの要因が低下しうるとするのは、自然なこと。
やはり、ベーシック・ペンションが有効と考えるのも自然と思います。
(参考)
◆結婚不要社会と結婚困難社会の大きな違い:『結婚不要社会』から考える(2021/6/3)
2020年:<「少子化社会対策大綱」批判>シリーズ他
また、昨年来、政府・厚労省が長期的に取り組んできていることを一応形の上で示している「少子化社会対策」の<少子化社会対策大綱>及び<少子化社会対策白書>の限界、無責任性についても繰り返し、以下のブログで提起してきています。
◆ 出生率1.36、出生数90万人割れ、総人口減少率最大:少子化社会対策大綱は効き目なし(2020/6/11)
◆ 「2020年少子化社会対策大綱」批判-1:批判の後に向けて(2020/6/18)
◆ 「少子化社会対策大綱」批判-2:少子化社会対策基本法が無効施策の根源(2020/6/25)
◆ 「少子化社会対策大綱」批判-3:少子化の真因と究極の少子化対策BI(2020/7/13)
◆ 「少子化社会対策大綱」批判-4:安心して子どもを持つことができるBI、児童基礎年金支給を早期に(2020/7/28)
◆ 「令和2年少子化社会対策白書」と86万ショックと出生率1.36の現実(2020/8/17)
◆ 少子化社会対策と少子化担当相を糾弾する(2020/8/18)
◆ 結婚しない理由、結婚できない理由:少子化社会対策白書から(2020/8/27)
まもなく、今年2021年の<少子化社会対策白書>が公表されるはずですが、この<大綱>の課題への取り組みをいくら繰り返しても、なんら少子化を抑止・抑制する力にはなりません。
もうそのフレームで、2004年からやってきているわけですから。
上記の中にないのが、ベーシックインカム、ベーシック・ペンションの支給という政策。
またその他の具体的な経済的支援、現金給付・サービス給付に関する政策も、数字・金額で明確に読み取ることはできません。
個々の政策に、予算は付けられていますが、当然それらがどれだけ少子化対策として機能・貢献しているかも評価できるものではなく、可能なのは、予算執行度合いのみ。
この政策そのものを全面的に改め、創設予定の「子ども庁」が、その改革のガバナンスとマネジメントを担うことができるか。
そんな気概も、構想・ビジョンも、自民党・内閣・政権政党、その国会議員は当然のこと、野党さえ持ち得ていないでしょう。
残念ながら、その政治体制自体の変革から、着手すべき現状を再確認しておく必要もあるのです。
少子化社会対策の抜本的見直し、ベーシックペンション前倒し導入と地方自治体行政拡充強化
そこで、行政面でも、個人個人の意識と生活部面においても、なかなか克服することが困難な少子化対策を、極力早期に有効にさせる上で、最優先に取り組む方策として、ベーシックインカム、もしくは日本独自のベーシックインカムであるベーシック・ペンション、生活基礎年金を提案していることを、まず確認しておきます。
しかしコロナ禍で、加速化・深刻化した出生数の減少、婚姻数の減少に歯止めをかけることは、一層困難になったことは明らかです。
そのため、10年計画で、と申し上げて提案している「ベーシック・ペンション」は、現状では非現実的な提案と言わざるを得ません。
そこで、以下に、現状で考える少子化対策を、優先順位を考えながらフレーム、大項目レベルでとどまりますが、一応整理してみました。
1.ベーシック・ペンション、ベーシックインカムの一部早期導入
1)児童基礎年金の前倒し導入:月額1人5万円~8万円(現状の児童手当増額も可)
2)現金、一部地域通貨(電子マネー・デジタル通貨)等支給方法・手段検討
3)段階的導入案:金額漸次増額、支給対象年齢(開始誕生年設定)検討
4)2030年までにベーシック・ペンションの完全導入
5)上記関連法制整備
2.地方行政における少子化対策取り組み拡充
1)子育て地域支援センター(地方自治体主管)の拡充
・孤育防止サポート
・産前産後ケア
2)学童保育体制整備拡充
3)婚活支援サービス拡充(オンライン、オフライン婚活共)
4)各種支援制度拡充(※先述地方自治体導入事例参照)
5)関連行政地方財源へ国費の投入(地方税法改正、他税地方配分改正等)
3.労働政策、労働法改正
1)非正規雇用制度・法制改正
2)解雇規制強化(労働基準法、雇用保険法改正)
3)最低賃金法改正
しかし、こう当初のベーシック・ペンションの実現提案を修正したところで、事が簡単になったわけでも、思うように早く実現できるようになるものでないことは明らかです。
ですが、ここでお伝えしておきたいのは、ベーシックインカム、ベーシック・ペンションだけで事が足りるというわけではないこと。
ただ、その取り組みにはお金が必要なことと、生活基盤があるそれぞれの地域、地方自治体で、直接市民・住民に必要な支援やサービスを提供しなければいけないこと、加えて、国の行政としての労働関連政策と法律の改正が総合的に求められること。
これはしっかり押さえておく必要があります。
詳しい説明は、また別の機会に改めて行なわせて頂きます。
そして、そのスタンス、方針は、少子化対策に限らず、本稿最後に示した、ベーシック・ペンション法の前文に掲げたすべての課題への取り組みに共通するものであることも同様です。
また、既にご理解頂いているかと思いますが、この少子化対策が、前文の他の項目と相互に関連していることも、ここで確認しておきたいと思います。
なお、次に、今年上期の当サイトに投稿した関連記事もリストアップしておきました。
2021年上期 https://2050society.com 掲載関連記事リスト
◆ コロナ感染拡大・長期化で妊娠届数大幅減少、出生数80万人割れ、少子化・人口減少加速(2021/5/29)
◆ 『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』シリーズを終え、結婚・非婚・単身をめぐる検討・考察へ(2021/5/30)
◆ 日経提案の少子化対策社説と記事から考える(2021/6/1)
◆結婚不要社会と結婚困難社会の大きな違い:『結婚不要社会』から考える(2021/6/3)
◆ エマニュエル・トッド氏が見る日本の少子化対策問題(2021/6/5)
◆ 少子化対策総動員、全力で支え、あらゆる対策を:少子化対策連呼の日経社説の意識は高いのか低いのか(2021/6/7)
◆ 少子化を援護する?一人で生きるのが当たり前の独身大国ニッポン(2021/6/9)
◆ 2022年施行改正育児・介護休業法は、少子化対策に寄与するか(2021/6/11)
次回は、第4回、<子どもの貧困と幸福度を巡る評価と課題>になります。
(必見:ベーシック・ペンション法とは)
◆ 生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)前文(案)(2021/5/20)
◆ 生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案(2021/3/2)
ベーシック・ペンション生活基礎年金制度の背景と目的(同法前文より)
1)憲法に規定する基本的人権及び生存権等の実現
2)生活保護の運用と実態
3)少子化社会の要因としての結婚・出産・育児等における経済的不安
4)子どもの貧困と幸福度を巡る評価と課題
5)母子世帯・父子世帯の困窮支援の必要性
6)非正規労働者の増加と雇用及び経済的不安の拡大及び格差拡大
7)保育職・介護職等社会保障分野の労働条件等を要因とする慢性的人材不足
8)共働き夫婦世帯の増加と仕事と育児・介護等両立のための生活基盤への不安
9)国民年金受給高齢者の生活基盤の不安・脆弱性及び世代間年金制度問題
10)高齢単身世帯、高齢夫婦世帯、中高齢家族世帯の増加と生活基盤への不安
11)コロナウイルス禍による就労・所得機会の減少・喪失による生活基盤の脆弱化
12)自然災害被災リスクと生活基盤の脆弱化・喪失対策
13)日常における不測・不慮の事故、ケガ、失業等による就労不能、所得減少・喪失リスク
14)IT社会・AI社会進展による雇用・職業職種構造の変化と所得格差拡大と脱労働社会への対応
15)能力・適性・希望に応じた多様な生き方選択による就労・事業機会、自己実現・社会貢献機会創出と付加価値創造
16)貧富の格差をもたらす雇用・結婚・教育格差等の抑制・解消のための社会保障制度改革、所得再分配政策再考
17)世代間負担の不公平対策と全世代型社会保障制度改革の必要性
18)コロナ禍で深刻さ・必要度を増した、安心安全な生活を送るための安全弁としての経済的社会保障制度
19)基本的人権に基づく全世代型・生涯型・全国民社会保障制度としての、生活基礎年金制(ベーシック・ペンション制)導入へ
20)副次的に経済政策として機能する、社会経済システムとしてのベーシック・ペンション
21)生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)導入に必要な種々の課題への取り組み
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