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2020・21年考察

ベーシックインカムを突き詰めて考えたことはない竹中平蔵氏

 2020年10月12日にマネーポストWEBに掲載された
ベーシックインカム導入で50代会社員が大損か 月8万円収入減も」と題した記事にも取り上げられた、竹中平蔵氏の年金制度等全廃による月額7万円ベーシックインカム支給暴論。
 それを元に、今年2021年1月14日に、当サイトで
竹中平蔵の暴論はシカトすべき!:週刊ポストの小学館マネーポストWEB、ベーシックインカム記事を追う-1
を。
 翌1月15日には、
宮内義彦氏の話を耳をかっぽじって聞け、竹中平蔵:週刊ポストの小学館マネーポストWEB、ベーシックインカム記事を追う-2
を投稿しました。

 今回は、2021年8月7日に、朝日新聞GLOBE+で
【竹中平蔵】低所得者に「もらえる税」を ベーシックインカム議論、もう避けられない
と題した記事が公開されたので、これを要約して参考にし、前項と一部重複しますが考えてみたいと思います。

 この記事は、以下の目的で行われたインタビューの要約です。

コロナ禍は「富を持つ人」「持たない人」の経済的な格差を浮き彫りにした。
厳しい生活を強いられる人がいるなか、セーフティーネットをいかに整備するかが大きなテーマに浮上した。
政府がすべての国民に最低限の生活を営めるだけのお金を支給する「ベーシックインカム(BI)」の導入を検討する動きが、世界の各地に広がっている。
BIは、国家運営の新しいモデルになるのか。
経済政策運営に詳しい竹中平蔵・慶応大学名誉教授に聞いた。

BI 月額7万円のアイディアを議論の火付けとして言ったつもり、という竹中氏の欺瞞

 同記事の中で、マネーポストWEBが取り上げた内容について、竹中氏はこう言っています。

2020年秋、テレビ番組で、「国民全員に毎月7万円支給」という持論を述べたかのように騒がれたが、ある経済専門家の試算をもとにしたアイデアを紹介しただけで、「1人平均7万円」レベルの支給であれば、財政的にも大きな負担にならないのではないか言ったつもりで、「1人毎月7万円で生活できる」と言ったつもりはない

 

 そのTV番組での発言後、すぐにSNSでその内容について話題になったのですが、この後に及んで、ある経済専門家の「アイディア」を紹介しただけで、「言ったつもり」「言ったつもりはない」レベルの子どもじみた言い逃れをまず行っています。
 しかし、WEBポストの一文には、以下の記述があります。

 2020年8月に刊行した著書ポストコロナの「日本改造計画」で(竹中氏は)こう書いている。
一人に毎月七万円給付する案は、年金や生活保護などの社会保障の廃止とバーターの話でもあります。国民全員に七万円を給付するなら、高齢者への年金や、生活保護者への費用をなくすことができます。それによって浮いた予算をこちらに回すのです〉


 こちらの書も、直接見たわけではないのですが、WEBポストが誤りを書くはずがないでしょうから信憑性は高いです。(一応、中古本が安く手に入るので、今注文しました。後日確認してみます。)

 そして、
ベーシックインカム(BI)か、それに類似した政策を「究極のセーフティーネット」だと考えている。
世界でBIをめぐる議論が盛りあがったのは、テールリスクであるはずのコロナ危機が実際に起きてしまい、生活の「安心安全」のためには新しい政策が必要ではないかと考える人たちが増えたから。

とし、以下こう言います。

BIについて発言すると、「右派」「左派」の両方から批判が出る
右は「働くインセンティブ(動機づけ)をなくすBIは、そもそも受け入れがたい」
左は「社会保障費削減の口実ではないか」と言う。
左右両方から批判が出てくる政策は「いい政策」であり、大いに議論するべき。

BIの議論においては、巨額の財源を必要とする「大きな政府」か、働くインセンティブを重視する「小さな政府」かが課題となるが、そのどちらもあり、とし、各政党がそれぞれBIの政策を提示し、その是非を選挙で問い、国民は支持する政党に投票すればよい。

これからの10年で、BIを導入するかどうかの議論は避けて通れないが、いまの日本には、BIの具体的な制度設計が、ほとんど見当たらない。
そのための作業は非常に複雑で、多大な労力が必要になるためでもあるが、議論は、できるだけ多くの試算をもとに具体的に競っていくことが好ましい。

 そして、こう結びます。

私自身はそういう試算を試みているわけではないので、若い世代の研究者たちにがんばってもらいたい。
その意味でBIの議論に「火を付けている」という立場だ

 いかがでしょうか。
 いかにも、上から目線の、無責任な発言としか受け止めることができません。
 火を付けるどころか、真面目な議論に水を差すような、かえって火を消してしまうような言い回しにしか過ぎません。

試算に限らず、多くの議論を必要とするBI論


 実際に、竹中氏に限らず、BIを提起する多くの学者・研究者は、ごくごくBIを一面からのみ考察し、提案するにとどまっています。
 ただ、竹中氏の言う制度設計は恐らく、財政・財源面におけるものに限ってのことでしょうから、この範囲では、さほど複雑かつ厖大な試算は必要ないように思えます。
 すでに、それだけの範囲での試算は、何例か出されており、その範囲では、数値にある程度根拠・合理性はあると思われます。
 それよりも厖大な議論・検討が必要なのは、BI導入に伴い何らかの改正・改革が必要になる年金制度や所得税法、生活保護制度、雇用政策・賃金政策など多様な社会政策・経済政策に関する課題についてです。

 WEBポスト記事にあるように、 ポストコロナの「日本改造計画」 のなかで、「高齢者への年金や、生活保護者への費用をなくすことによって浮いた予算をこちらに回す」と言っているのですから、その範囲内ならば、責任をもって具体的に試算と提案を行うべきです。


竹中氏は、「負の所得税」「給付付き税額控除方式」派 

 で、結局竹中氏自身のBIは、どういう制度になるのか。
 結局彼の意見は、「負の所得税」方式であり、純粋な意味でのベーシックインカムではありませんでした。

議論のために提唱するとすれば、一番所得の低い人の所得税をゼロではなく「マイナス」にする「負の所得税」という考え方
「税金を払う」のではなく「税金をもらえる」仕組みで、これが、そのままBIになる、徹底した累進課税であり、結果的に所得再配分になる。


 この方式の案になると、月額7万円のBI支給論は、なるほど単に、こんなアイディア、こんな案もあるよでおしまいに。
 都合の良い口実を持ち出してきたものです。

 「負の所得税」方式は、部分BIとも言えない、税制改正による新しい「所得の再分配」方式によるものです。
 「負の所得税」については、以下の記事で取り上げています。
(参考)
ミルトン・フリードマンの「負の所得税」論とベーシックインカム(2021/2/19)

 また、既存政党では、国民民主党が「負の所得税」、言い換えると「給付付き税額控除方式」の導入を提案しています。
(参考)
国民民主党の日本版ベーシック・インカム構想は、中道政策というより中途半端政策:給付付き税額控除方式と地域仮想通貨発行構想(2021/6/6)

真面目に、突き詰めてBIについて考えたことがない竹中平蔵氏


 インタビューの終わりは、

遅かれ早かれ世界の多くの国で、BI、もしくはそれに似た制度は、もっと真剣に議論されてくるだろうが、日本では、目の前に他の難題があるので、すぐには着手できないかもしれない。
BIは制度設計が難しいため簡単にできる政策ではないからこそ、いまから議論を始めておくことが大事だ。


 結局、なんの手応えも、特に着目すべき内容もない記事でした。

 自民党が、BIをめぐって竹中論をどうこうという話は聞きませんし、コロナ禍における単発の給付金レベルでの党内での意見がやり取りされたことはあっても、党の政策・公約次元でBIがどうこうという話も聞きません。

 まあ、今回の記事で分かったことは、竹中氏は、真剣にベーシックインカムについて検討・考察したことがなく、最もシンプルな形での部分的ベーシックインカムとしての制度設計はもちろん、構想も内容とりまとめも試みたこともないということ。

 但し、ポストコロナの「日本改造計画」で、どのようにベーシックインカム論を展開しているか。
 それを確認してから、 竹中BIをめぐる最終評価を行うことにします。

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