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2022・23年考察

ほとんどが反対論の材料になりがちなベーシックインカム試験プロジェクトの半端度と独善性:ガイ・スタンディング氏『ベーシックインカムへの道』考察シリーズ-12

少しずつ、よくなる社会に・・・

ベーシックインカムの教科書というべき、ガイ・スタンディング氏著『ベーシックインカムへの道 ―正義・自由・安全の社会インフラを実現させるには』(池村千秋氏訳、2018/2/10刊・プレジデント社)について紹介し、検討するシリーズ。

<第1回>:ガイ・スタンディング氏著『ベーシックインカムへの道』の特徴と考察シリーズ基本方針(2022/11/5)
<第2回>:ベーシックインカムの定義と起源・歴史を確認する:ガイ・スタンディング氏『ベーシックインカムへの道』考察シリーズ-2(2022/11/10)
<第3回>:ベーシックインカム導入目的は社会正義の実現のため?:ガイ・スタンディング氏『ベーシックインカムへの道』考察シリーズ-3(2022/11/13)
<第4回>:なじめない「リバタリアン、共和主義者による自由のためのベーシックインカム論」:ガイ・スタンディング氏『ベーシックインカムへの道』考察シリーズ-4(2022/11/14)
<第5回>:貧困問題から生活の経済的不確実性対応のためのベーシックインカム重視へ:ガイ・スタンディング氏『ベーシックインカムへの道』考察シリーズ-5(2022/11/29)
<第6回>:経済成長政策、AI社会雇用喪失懸念対策としてのベーシックインカム:ガイ・スタンディング氏『ベーシックインカムへの道』考察シリーズ-6(2022/11/30)
<第7回>:経済学者のベーシックインカム経済論としては低評価:ガイ・スタンディング氏『ベーシックインカムへの道』考察シリーズ-7(2022/12/3)
<第8回>:ベーシックインカム以外の選択政策評価基準「社会正義」の不都合:ガイ・スタンディング氏『ベーシックインカムへの道』考察シリーズ-8(2022/12/4)
<第9回>:多くの財源論が展開されてきた欧米で未だ実現しないベーシックインカムのなぜ?:ガイ・スタンディング氏『ベーシックインカムへの道』考察シリーズ-9(2022/12/6)
<第10回>::ベーシックインカム批判への反論の多くが「質問返し」の残念!:ガイ・スタンディング氏『ベーシックインカムへの道』考察シリーズ-10(2022/12/8)
<第11回>:途上国のベーシックインカム推奨よりも優先すべき問題先進国BI:ガイ・スタンディング氏『ベーシックインカムへの道』考察シリーズ-11(2022/12/14)

今回は第12回。
「第11章 推進運動と試験プロジェクト」「付録 試験プロジェクトの進め方」を取り上げます。

『ベーシックインカムへの道』考察シリーズー12:「第11章 推進運動と試験プロジェクト」「付録 試験プロジェクトの進め方」から

第11章 推進運動と試験プロジェクト」構成

・ベーシックインカム世界ネットワーク(BIEN)
・2016年のスイス国民投票
・ユニバーサル・ベーシックインカム・ヨーロッパ(UBIE)
・過去の試験プロジェクト
  マニトバ州ドーフィン(カナダ)の実験
  アメリカのチェロキー族 ー 偶然の実験
  ナミビアとインドの試験プロジェクト
・進行中もしくは計画中のプロジェクト
  フィンランド社会保険庁
  オランダの地方自治体
  カナダのオンタリオ州
  Yコンビネーター
  ギブ・ダイレクトリー(ケニア)
  クラウドファンディング/
  その他の計画
・効果は継続するか?
・結論


 ベーシックインカム導入に向けての推進活動の代表的事例と、過去の及び現在進められつつある試験プロジェクト事例の紹介を目的とした上記の構成の本章を、ほぼその展開に従って整理していきます。

ベーシックインカム世界ネットワーク(BIEN)及びユニバーサル・ベーシックインカム・ヨーロッパ(UBIE)等の推進活動

 本章の初めは、ベーシックインカム導入に向けての推進活動の主体となった団体とその活動、及び、推進活動が国民投票という形に現れたスイスにおける事例を取り上げています。

1)ベーシックインカム世界ネットワーク(BIEN)とその活動

・1986年9月、ベルギー・ルーバンラヌーブで「ベーシックインカム世界ネットワーク BIEN(旧称ベーシックインカム欧州ネットワーク)」正式発足。
・「社会のすべての人が権利としてベーシックインカムを受け取るべきである」と主張・提案
・メンバーの会費で運営され、1986年第1回ベルギー・アントワープ以降隔年で世界会議を開催。
・フィレンツェ、ロンドン、パリ、アムステルダム、ウィーン、ベルリン、ジュネーブ、バルセロナ、(以降欧州外・欧州交互に開催)ケープタウン、ダブリン。サンパウロ、ミュンヘン、モントリオール、ソウル(2016年)、リスボン(2017年)、タンペレ(フィンランド・2018年)開催。
・世界各国でBI導入に向けた活動に取り組み、参加団体は34団体(日本も含む。山森亮氏代表)
・多言語版ニュースレターによりさまざまな国の状況を報告。現在はオンライン版「ベーシックインカム・ニューズ」。他査読式専門誌「ベーシックインカム・スタディーズ」発行

2)ユニバーサル・ベーシックインカム・ヨーロッパ(UBIE)とその活動

・多くがBIENメンバーのBI推進派が、2014年EUでBIの「住民提案」実現をめざす署名活動開始
・100万人以上の署名が集まれば、欧州委員会がBIの実現可能性についての調査が義務付け。
 結果30万人超にとどまったが、次回の署名活動の基盤形成がなされることに。
・この運動の中心になってきたのが「ユニバーサル・ベーシックインカム・ヨーロッパ UBIE。
・UBIEとBIENがここ10年ほど年1回「ベーシックインカム・ウィーク」を共同開催し、BI議論の活性化、推進運動・啓蒙活動を展開

2016年スイス国民投票

 世界的に注目されたスイスにおけるBI導入の是非をめぐる国民投票。その結果は否定された。
 しかし、資金も組織もない数人の推進はの活動から始まったにすぎないが、高い関心を集め、国民投票実施に必要な1年以内の10万人以上の署名獲得条件に対して、14万1000人分を集めて実現し、導入機運が一時的にでも高まったことは否定しようがない。
 その活動方法、パフォーマンスは賛否が相半ばしたが、BIの具体的な給付額とその決定方法や導入方法上、反対派に攻撃材料を与える不備・不具合をきたしたことから、投票率44.4%、賛成23%にとどまり、否認された。
 流布された月額2500スイスフランという給付金額の財源面での不安、実施後の移民流入不安、AIによる雇用不安などが反対派により煽られたこと、都市部重視型の運動等も要因に挙げられている。
しかし、この第1回目の国民投票実施・実現が、次回の可能性、中期的な見通しの明るさを示すことになったと前向きに捉えられていることが強調されている。


(参考)
⇒ ベーシック・インカム世界ネットワーク(BIEN)の位置付け(2021/3/22)


次は、主だった過去のベーシックインカムの試験プロジェクト及び進行中・計画中のプロジェクトの紹介です。
各試験例をやや事務的に、簡潔に整理していきます。

過去の試験プロジェクト

1)マニトバ州ドーフィン(カナダ)の実験

・普遍主義の中でのターゲティングとも評される「マニトバ・ベーシック・アニュアル・インカム実験」(MINCOME)の一環として同州で行われた実験プログラムだが、実態は「負の所得税」
・1975年~77年に党政権下で実施。保守党政権誕生で打ち切りになり、分析せぬまま放置。40年後調査資料発掘後一部データ分析実施
・誰でも登録可能で、世帯所得が一定基準を下回れば、理由のいかんを問わず受給資格。
・労働がまったくない人には満額(世帯所得の中央値の半額をわずかに下回る金額を給付。
・1カナダドルの所得があるごとに給付額が50セントずつ減額され、3万9000カナダドル(中央値にほぼ相当)に達すると給付は打ち切り
・3年の期間中、ドーフィンの人口の約5人に1人、2000人以上が受給。
・高校中退率の減少、入院件数・事故や負傷件数・深刻な精神疾患件数が減少。
・」フルタイム労働者の労働時間にほぼ変動はなく、幼児を持つ母親や通学の子どもたちの有給の労働従事時間が減少
・MINCOME受給者に恥辱感はなく、既存の福祉受給者に比して、活発に行動

2)アメリカのチェロキー族 ー 偶然の実験

・1993年アメリカ・デューク大学研究チームによる「グレート・スモーキー山脈ユース研究」プロジェクトにおいて、低所得世帯の学齢期の子ども1420人の精神の健康状態調査を開始
・4年後1997年、アメリカ先住民の東部チェロキー族が保留地でカジノ経営を開始し、毎年利益の半分をすべての部族に均等に分配することを部族リーダーが決定。
・事実上のBIともいえる、調査期間中の分配金が1人当り年間約4000ドル。世帯所得は平均1.2倍に増加(子ども分は別に、18歳になるまで銀行貯蓄)
・10年間の調査期間、この部族の子どもたちと分配金を受け取らない他地域の子どもたちを比較
・受け取った子どもたちに、両親の関係の改善もあり、学業、少年犯罪比率、行動障害・情緒障害、勤勉性・協調性等の各方面で有効・有益な好影響がみられた。

3)ナミビアとインドの試験プロジェクト

 この2つの試験プロジェクトについては、前回の以下の記事
途上国のベーシックインカム推奨よりも優先すべき問題先進国BI:ガイ・スタンディング氏『ベーシックインカムへの道』考察シリーズ-11(2022/12/14)
の中の<真のベーシックインカム実験とされる2例紹介:だが短期間にとどまる>と題した項で紹介。
 本章でガイ氏は再度、その評価として、短期間という制約でのプロジェクトではあったが、本物のBIに最も近づけたものとし、質的データと量的データの組み合わせで、コミュニティ全体、すなわち、個人・世帯・コミュニティレベルでの効果を明らかにしたと賛辞を送っている。

進行中もしくは計画中のプロジェクト

1)フィンランド社会保険庁

・2015年就任同国ユハ・シピラ首相が「実験的統治」の一環としてBIの試験プロジェクト実施方針を発表(予算約2000万ユーロ)
・2016年3月同プロジェクトを担う同国社会保険庁(KELA)が同実験を社会保障制度改革の一つとして、参加型でインセンティブ重視、官僚機構縮小、複雑な給付制度の簡素化により、財政面での持続可能性を高めると方針化し、さまざまな選択肢と法律上の課題をまとめた文書を発表。
・しかしその中で、多額の金がかかりすぎるとして、BI制度は、直ちに選択肢から除外
・2017年1月以降失業給付受給の25~57歳から無作為抽出の2000人に、月額560ユーロ(米ドル換算約620ドル相当)給付(非課税)し、2年間行動や状況を観察。別の失業者2000人と比較。就労しても給付は打ち切りとならない。
・結果、完全なBI放棄により、無条件給付が就労意欲に及ぼす影響を検証するだけの実験に。
この状況についてガイ氏は、BIは、社会工学=国家が好ましいと考える行動を人々に取らせるための手段であってはならないと。
現状BI実験のために確保された資金の大半は使用されず蓄えられており、いずれ行われるであろう大規模試験プロジェクトに、適切に用いられることを期待するとしている。

2)オランダの地方自治体

・2015年、新法「参加法」制定により、福祉受給者に求められる「ワークフェア」の内容が厳格化
 同時に、社会的扶助の提供を行なう自治体にボランティア活動やケア活動への従事など、独自の給付条件を定める権限を付与
・2016年後半まで、これを受けて、ユトレヒト、フローニンゲン、ティルブルク、ワーゲニンゲンなど多数の自治体がBI実験を計画化
・しかし、中央政府の承認が必要であり、連立政権第1党右派自由民主国民党が一貫して反対。
 2016年9月、25自治体合計約2万2000人の福祉申請者限定で、2017年1月から2年間の試験プロジェクトを、厳しい制約を付して承認。結果多くの自治体が実施を見送り。
・対象者を6グループに分け、①通常の給付(単身者973ユーロ、既婚カップル1390ユーロ)かつ職探しせずとも制裁なし ②「労働市場への再統合」目的に、既存福祉制度よりも多くの義務を課し、監視 ③給付金以外の所得があれば、その50%のみ手元に残すことが可能(但し上限あり) ④以上の3つの混合型 ⑤比較グループで対象自治体の住民で既存福祉制度適用 ⑥比較グループでそれ以外の自治体住民で既存福祉制度適用。6グループいずれも参加は強制されないが、一旦参加後はどのグループに入れられるか不明であり、かつ離脱不可
とまあ、神経を疑うようなことを平気でやったわけで、紹介するも恥、というもの。

3)カナダのオンタリオ州

■ 世界初のベーシックインカム導入国の最有力候補と予想されたカナダ
・1971年、上院の委員会が「最低所得保証」(具体的には負の所得税)の導入を勧告
・1985年、王立委員会(マクドナルド委員会)が同様の勧告
・2015~16年、アルバータ、ブリティッシュ・コロンビア、プリンス・エドワード島、ケベック他の各州の政治家がBIの実験に関心を示す
・2016年総選挙で勝利した自由党が、党大会で最低所得保証支持の動議を可決
■ オンタリオ州の動向
・3年間のプロジェクト実施のために州政府が2500万カナダドルの予算を確保
・所得支援をより効率的に実行できるようになり、広がる州民の健康・雇用・住宅状況も改善するという主張の真偽を検証することを目的とする。
・2016年後半、推進派シーガル上院議員の試案をベースに、具体的な制度設計に関する議論のたたき台となる文書を作成
・次の3案を実験①既存の主要福祉給付、「オンタリオ・ワークス」「オンタリオ障がい支援プログラム」に代えてBI導入 ②同様、BIではなく、負の所得税を導入 ③所得の有無や多寡を問わず、18~64歳の勤労年齢者のすべてに給付(但し、最低1年以上居住者に限定)
・他に給付水準2種類、勤労所得がある場合の給付削減率2種類実験。ランダム比較試験に加え、「飽和実験地区」3ヶ所設置し、コミュニティ規模の効果を検証
・当設計に対して過度な複雑化を招くリスク、所得が一定レベルより下の人限定、子どもと高齢者が除外などの問題・欠点をガイ氏は指摘(カナダでは子どもの5人に1人は貧困状態)
・しかし、(本書執筆時点で)最も期待できる実験と評価。シーガル議員提案では、すべての人に(州の貧困ラインの約75%)月額1320カナダドル、障がい者には500カナダドル上乗せし3年間給付

4)Yコンビネーター

・2016年、シリコンバレーのスタートアップ「Yコンビネーター」が、カリフォルニアオークランドでBIの小規模試験プロジェクト実施計画発表
・当初2000万ドル資金準備し、他に寄付を募る
・AIの進化により旧来の雇用が消滅し、不平等拡大の可能性という想定から、BI保証時に人々がどのような行動を取るかに関心
・2016年9月、運用面・設計面の問題点調査のため「プレ試験」開始
・あるコミュニティの住民全員を対象とし、すべての成人に2~3年間給付を行なう2つの試験プロジェクト実施を予定
・試験期間中の情報公開は行わない

5)ギブ・ダイレクトリー(ケニア)

・カリフォルニア州拠点の「極度の貧困」の根絶を目標とする慈善団体「ギブ・ダイレクトリー」の東アフリカでの活動
・クラウドファンディングによる資金で、低所得者への一回限りの大規模給付金配布、無条件の毎月の現金給付など実施。低所得者・貧困者向けの種々の実験プログラムと同様の結果
・(本書執筆時点)3000万ドルかけて、ケニアの2地区で3種類の給付を行なう、過去最大規模の実験を計画
・①40村のすべての成人住民に12年間毎月 ②80村のすべての成人住民に2年間毎月 ③他の80村のすべての成人住民に2年分のBI相当の一時金を支給
・合算すると、約2万6000人が、米ドル換算1日当り75セント受け取り。
・比較グループとして、他の点で似たような100村のデータを収集

6)クラウドファンディング及びその利用による試験事例

この他クラウドファンディングの活用によるBI試験例として、以下も挙げています。
・ベルギー慈善団体「エイト」による2017年1月ウガンダでの小規模実験:同国西部フォートポータル地区の村約50世帯の全住民に米ドル換算月額18ドル2年間給付
・インド非営利団体「キャッシュリリーフ」の実験計画:ある貧しい村のすべての住民に2年間BI提供
・ブラジル非営利団体「へシビタス研究所」:①2008年~14年まで、民間寄付金基盤にサンパウロ州貧村クアチンガ・ヴェーリョの住民100人に米ドル換算月約9ドルのBI給付。②2016年1月個人単位で終身のBI給付の「ベーシックインカム・スタートアップ」プロジェクト発足。寄付1000ドル集まるごとに給付対象者を一人ずつ増やす
⇒ 2004年ブラジルベーシックインカム導入の法制化する法律に当時の大統領が署名
・ドイツ2014年設立「マイン・グルントインコメン」

7)その他の計画

・イギリス:2016年9月ジェレミー・コービン労働党党首再戦後同党影の財務相ジョン・マクドネルが党政策としてBI導入表明と試験プロジェクト実施提案
・スコットランド:自治政府与党スコットランド民族党(SNP)が党大会でBI支持動議可決。グラスゴーとファイフの市議会が市レベルでの試験プロジェクトを議論
・ニュージーランド:野党労働党が試験プロジェクト実施支持
・アメリカ:①ワシントンDC議会が市内でのプロジェクト実施要求の動議採択。サンフランシスコ市も調査を開始。②自治体・州・国レベルの取り組み支援のための政治活動委員会「ベーシックインカム全国運動(NCBI)」設立 ③2016年12月、起業家・研究者・活動家等グループが「経済セキュリティー・プロジェクト」を発足、BIを「概念レベルの議論から実りある行動へ」移行を目指す
・台湾:新政党・台湾共和党(現・基本福利党)がBI推進を訴え
・韓国:2017年大統領選名乗りを上げた李・在明ほか数人の有力リベラル派政治家がBI支持。
・アイスランド:2016年10月総選挙で第3党に躍進の海賊党がプロジェクト実施支持
・ドイツ:海賊党がBI支持。2016年9月無条件のBI導入の単一政策掲げた新党「ベーシックインカム連盟」発足
・スイス:2016年4月ローザンヌ市議会、プロジェクト実施を市政府に求める動議可決
・フランス:元老院がプロジェクト実施勧告。アクテーヌ地方で実験に向けた動き
・イタリア:2016年後半反既成政治掲げる新党「五つ星運動」が市政を担う港湾都市リボルノで小規模実験開始。市の最貧層から100世帯選び無条件で500ユーロ給付。同党が政権を担うラグーザ(シチリア島)、ナポリでも同様の実験を計画

まったく取り上げられていない日本のベーシックインカム事情

と、以上、ベーシックインカムの教科書的書と位置付けていることもあり、極力細かい動向・情報もピックアップして、メモ書きしてきました。
お気づきと思いますが、ここには日本の実情・動向についてはなぜかまったく触れられていません。
当サイト及びその基盤となったWEBサイト https:2050society.com では、これまで日本で発売された多数のBI書を紹介し、その内容について取り上げてきています。
また、政党の動きとして、2020年以降の国政選挙時に予野党数党から掲げられたベーシックインカムに関連する公約等について以下の記事で取り上げています。
お時間がありましたら、チェック頂ければと思います。

れいわ新選組のベーシックインカム方針:デフレ脱却給付金という部分的BI(2021/4/4)
立憲民主党のベーシックインカム方針:ベーシックサービス志向の本気度と曖昧性に疑問(2021/4/6)
日本維新の会のベーシックインカム方針:本気で考えているとすれば稚拙で危うい曖昧BI(2021/4/26)
ベーシックインカムでなく ベーシックサービスへ傾斜する公明党(2021/4/28)
国民民主党の日本版ベーシック・インカム構想は、中道政策というより中途半端政策:給付付き税額控除方式と
真のベーシックインカム実現を政策とする政党ゼロから取り組むべき現状と今後(2021/7/16)
維新の会ベーシックインカム案は全政党中ベストの社会保障制度改革案 (2021/10/21)
期日前投票済ませた翌日の日本維新の会と国民民主党の折込み広告から:維新ベーシックインカムと国民民主日本型ベーシックインカムの大きな違い(2021/10/23)
衆議院選挙とベーシックインカムとバラマキ政策・公約(2021/10/31)
日本維新の会ベーシックインカム政策への懸念(2021/11/20)


効果の持続性と結論

話は本論に戻ります。
ベーシックインカム試験プロジェクトの主な目的。
それは、人々の行動に及ぼす好影響と悪影響の検証と、現実的政策であるか否かを実証すること。
こうガイ氏。
そして、こう続ける。
実験という性格上、どうしても短期間のものとなり、恒久化した場合その結果は変わらないか、終了した場合効果が消滅したり、覆されたりしないかという2つの疑問がある、とも。
当然、これらに答える実証的データは望むべくもないのだが、ガイ氏は、インドでのプロジェクトのフォロー結果を引き合いに出しながら、比較的楽天的に考えている。
好影響が長期間持続すると期待できるなら、無作為に選んだ対象地域を次々と変えていき、すべての地域で給付が行われるまで続ければよく、少なくとも財政面でのハードルは下がる、と。
そして、いくつかの批判・反論例を示すと、そこまで求めるのは、要求が厳しすぎる、とも。
なんとも無邪気な発想であり、結論だろうか。

そして本章をこう結論づける。

確かに、ベーシックインカムを導入すべきかは、人々の目に見える行動を実証的に調べた結果に従って判断すべきものではない。(略)
理想を言えば、試験プロジェクトは、慈善団体が実施主体になったり、現実離れした非公式のデジタル通貨で給付したりするのではなく、国家や地方政府が本物の現金を給付する形で行なうことが望ましい。(略)
試験的プロジェクトの実施に向けて、いま本当に足りないのは政治的意思だけだ。
現状は、試験プロジェクトが実施され始めたばかりの流動的段階だ。(略)
適切な実験であるためには、本来のベーシックインカムの定義に沿った仕組みが試される必要がある。(略)
試験プロジェクトは、人々の行動を調べ、どのような措置をあわせて導入すべきかを明らかにすると同時に、自由と社会正義と経済的な安全を向上させることを目的とすべきだ。
自由を損ない、社会正義と経済的な安全を踏みにじるような安全の原則を踏みにじるような試みは、拒絶しなくてはならない。


試験プロジェクトは実施され始めたばかりで流動的段階というが、果たしてそうだろうか。
これ以降種々試みられても、さほど異なる結果が示されるとは考えられないくらい、相当のプロジェクトが試みられてきたとみてよいと思う。
行われていないのは、付録で示されたような、多様な要素・条件を包摂した、大規模で、より継続的な、国家や地方自治体による公的プロジェクトであろう。
加えて、ガイ氏が求める自由、社会正義、そして経済的安全を向上させるものとしては、他の社会保障制度や社会システム、経済・財政上の基盤や条件がある程度整備されていることが不可欠だろう。
そうした深掘りを回避しての楽観論は、示した理想論の空虚さを募らせるばかりである。
また、本当に足りないのは政治的意思だけだともいうが、それが試験的プロジェクトにとどまるものということでは、まったく話にもならない。
いずれにしても、極めて残念なことである。

当サイトで紹介済みの各国・地域のベーシックインカム実験導入事例・諸事情

当サイトの種々の記事で、さまざまなベーシックインカム書等を参考にして、実験例などを紹介してきています。
特に、昨年3月上旬に、実験導入事例紹介を2冊の書を参考に行いました。
1冊目は、波頭亮氏著AIとBIはいかに人間を変えるのか 』(2018/2/28刊)を用いて編集した以下の記事及び紹介リスト。

カナダオンタリオ州ミンカム等ベーシックインカム、実験導入事例紹介-1(2021/3/6)

1)カナダ・マニトバ州施行のミンカムの実験(1974年)
2)フィンランドの試験的BI(2017年1月~2018年12月)
3)オランダ、ユトレヒト市のBI試験導入(2016年1月~)
4)スイスのBI国民投票、否決(2016年)
5)カナダ、オンタリオ州BI導入実験(2017年~)
6)イギリス・ロンドンで、ホームレスへの現金支給社会実験(2009年)
7)アメリカ、ベンチャーキャピタル「Yコンビネータ」による実験(2016年~)
8)NY拠点のNGO「ギブ・ディレクトリ」によるケニアでの実験(2016年10月~)

2冊目は、井上智洋氏共著『毎年120万円を配れば日本が幸せになる』(2021/1/21刊)を参考にしての以下の記事及び紹介事例です。
BI実験と効果誘導に必要な認識:ベーシックインカム、実験導入事例紹介-2(2021/3/7)

9)アメリカ、アラスカ州「アラスカ・パーマネント・ファンド」(1982年~)
10)アメリカ、ハワイ州「ベーシックインカム州法」2017年成立
11)アメリカ、全米11都市の市長によるベーシックインカム導入実験宣言
12)イタリア(2018年~)
13)スペイン(2020年~)
14)ブラジル(2003年~)
15)ナミビア(2008~2009年)
16)イラン(2010年~)
17)韓国、京畿道行政区の「青年配当」(2019年4月~)
18)韓国、ソウル市の「若者手当」(2019年4月~)
19)日本、「特別定額給付金」支給(2020年)

こうした多数の先行事例が、繰り返し、種々のBI論で紹介・披瀝されても、BI実現にどれほどの影響を与えることができるか。
特に政治・行政課題としてのあり方が、実現に直接的に関係するだけに、世界各国の状況が気になるところですが、勧告や決議などの言葉が取り沙汰される割には、決め手となる状況等の情報は伝わってきません。
果たして最終章の「第12章 政治的課題と実現への道」でどのように提案・提起するのか、気になるところです。

試験プロジェクトの進め方

本章とは別に、最終章を終えた後、「試験プロジェクトの進め方」という付録が添えられ、以下の項目にそれぞれ若干の説明が加えられています。

1)ベーシックインカムとして適切な給付である
2)実験の設計が明確で、持続可能である
3)設計が常に一定である
4)それなりの規模でおこなう
5)それなりの期間にわたり実験をおこなう
6)複製可能で拡張可能である
7)無作為抽出した比較グループを用いる
8)ベースライン調査を実施する
9)評価調査を定期的におこなう
10)有力な情報提供者を活用する
11)多層的な効果を測る実験である
12)検証したい仮説を実験開始前にはっきりさせる
13)コストの計算と予算の計画が現実的である
14)サンプルをできるだけ変えない
15)現金給付の仕組みを監視する
16)人々の自己決定権の要素も検討する


ここまで配慮されれば、もう実験の域を超えて、本番、真のベーシックインカムの導入が可能の状態にあると思ってよいのではと。
単純にいえば、実験そのものが平等性を欠くゆえに反対、というのが私の立場です。
また、あまりに対象を単純化したものでは、むしろ現実性に乏しいものになってしまうゆえでもあります。
しかし、上記の各項目そして全条件を読めば読むほど、相当の規模、かつ多様な観点からの試験・分析を必要とするゆえ、結局複雑で大がかりな、そして馬鹿にならないコストも必要となる実験プログラム、実験プロジェクトになるに違いありません。
なにより、コストの捻出・拠出方法が、国費や自治体負担経費ではないことがほとんどでは、本気度がそこそこにとどまることを示すわけで、調査分析ネタを増やすだけに終わるか、反対理由のこじつけに使われることが想像できるとさえ思ってしまいます。
ですので、乱暴ですが、この付録の各項目の説明はここでは省略させて頂きます。

ベーシック・ペンション導入方法についての考え方:試験導入ではなく、段階的導入で

いくら望ましい試験プロジェクトを何度も重ねても、あくまでも実験は実験。
結局期限付きの実験では、受給者の生活の変化は、給付が継続されることを想定してのものでなく、期限がくれば終わるという認識でのものにとどまることも当然で、それ自体実験の制約・限界を示しています。
調査分析課題を持って臨むのは当然として、中途半端であること、何かしらの独善性を持つことは免れることはできず、事前でも事後でも何かにつけて、反論のネタを提供することに終わってしまうのではとも思っています。
従い、ベーシックインカムは、すべての人に生涯支給されるという大前提のもと、他の社会保障・福祉制度などとの関連を考慮し、実験・試験ではなく、承認された制度として、段階的に導入し、問題点があれば修正・調整を加え、次のステップに進める。
そのプロセス設計にも同意を得た上で、完成計ベーシックインカムの実現・達成をめざすべきと考えます。
ベーシック・ペンションもそうした方針・方向・方策に基づき、段階的に導入し、そのフォローを適切に行いながら、2050年までには完成しているというプロセスを描き、提案していきます。
本年度の提案は、以下の記事に示していますが、来年2023年版の提案は、1月から始める予定です。

<第1回>:ベーシック・ペンション法(生活基礎年金法)2022年版法案:2022年ベーシック・ペンション案-1(2022/2/16)
<第2回>:少子化・高齢化社会対策優先でベーシック・ペンション実現へ:2022年ベーシック・ペンション案-2(2022/2/17)
<第3回>:マイナポイントでベーシック・ペンション暫定支給時の管理運用方法と発行額:2022年ベーシック・ペンション案-3(2022/2/18)
<第4回>:困窮者生活保護制度から全国民生活保障制度ベーシック・ペンションへ:2022年ベーシック・ペンション案-4(2022/2/19)

いよいよというか、ようやくというべきか、次回は最終回第13回。
本書最終章である「第12章 政治的課題と実現への道」を取り上げ、簡単な総括を加えます。


『ベーシックインカムへの道 ―正義・自由・安全の社会インフラを実現させるには』目次

はじめに 
  政治的な課題?
  本書について
第1章 ベーシックインカムの起源
 ・基本的なこと
   「ベーシック」とは?/「普遍的な」とは?/「個人への給付」とは?/
   「無条件」とは?/「定期的」とは?/
 ・注意すべき点
 ・ベーシックインカムとベーシックキャピタル
 ・ベーシックインカムの起源
 ・さまざまな呼称
   ベーシックインカム/ベーシックインカム・グラント(BIG)/
   ユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)/無条件ベーシックインカム/
   市民所得/参加所得・参加給付金/社会配当・万人配当/
   ステートボーナス(国家特別手当)/デモグラント/
   フリーダム・グラント/安定化グラント/ステークホールダー・グラント
第2章 社会正義の手段
 ・社会共通の遺産 ー トマス・ペイント社会配当
 ・リバタリアンの議論
 ・ヘンリー・ジョージの遺産
 ・ミドルズブラの物語
 ・レンティア経済
 ・社会正義のための政策の原則
 ・税の正義
 ・家族関係と正義
 ・地球環境の保護
 ・市民精神の強化
 ・宗教的根拠
 ・まとめ
第3章 ベーシックインカムと自由

 ・リバタリアンの視点
 ・リバタリアン・パターナリズムの危険性
 ・共和主義的自由
 ・社会政策が満たすべき原則
    パターナリズム・テストの原則/「慈善ではなく権利」の原則   
 ・権利を持つ権利
 ・人を解放するという価値
 ・発言力の必要性
第4章 貧困、不平等、不安定の緩和

 ・貧困
    普遍主義と透明性
 ・給付金は浪費されるか?
 ・不平等と公平
    主要な「資産」に関する不平等
 ・経済的な安全 ー不確実な生活という脅威
 ・リスク、レジリエンス、精神の「帯域幅」
第5章 経済的議論

 ・経済成長
 ・自動安定化装置としての役割
 ・金融機関のための金融緩和から、人々のための量的緩和へ
 ・ユーロ配当
 ・AIロボット時代への準備
 ・経済面のフィードバック効果
第6章 よくある批判

 ・ハーシュマンの三つの法則
    「現実離れしている、前例がない」/「予算面で実現不可能だ」
    「福祉国家の解体につながる」/
    「完全雇用など、ほかの進歩的政策の実現がおろそかになる」/
    「お金を配れば問題が解決するという発想は単純すぎる」/
    「金持ちにも金を配るのは馬鹿げている」/
    「ただで何かを与えることになる」/「浪費を助長する/
    「人々が働かなくなる」/「賃金の下落を招く」/「インフレを起こす/
    「移民の流入が加速する」/「政府が選挙の人気取りに利用しかねない」/
第7章 財源の問題

 ・大ざっぱな試算
 ・イギリスの場合
 ・住宅手当の問題
 ・ほかの国々の財源問題
 ・経済に及ぼす好影響
 ・その他の財源
 ・政府系ファンドと社会配当
 ・財源問題は政治問題
第8章 仕事と労働への影響
 ・無給の仕事が増えていく
 ・お金を手にすると仕事量は減るのか?
 ・プレカリアートの仕事と労働
 ・性別役割分業が弱まる
 ・働く権利
 ・参加所得
 ・もっと怠けよう
 ・創造的な仕事と再生の仕事
 ・障がいと稼働能力調査
 ・仕事と余暇の優先順位
第9章 そのほかの選択

    最低賃金(生活賃金)/社会保険(国民保険)/
    資力調査に基づく社会的扶助食料などへの補助金/
    雇用保証/ワークフェア/給付型税額控除/
    ユニバーサルクレジット/負の所得税/慈善活動
 ・ベーシックインカム以外の選択肢が持つ欠陥
第10章 ベーシックインカムと開発

 ・ターゲティング指向と選別指向
 ・現金給付プログラムから学べること
 ・試験プロジェクト
    ナミビア/インド
 ・財源の問題
 ・補助金からベーシックインカムへ
 ・人道援助の手段として
 ・紛争回避の手段として
 ・途上国のほうが有利?
第11章 推進運動と試験プロジェクト

 ・ベーシックインカム世界ネットワーク(BIEN)
 ・2016年のスイス国民投票
 ・ユニバーサル・ベーシックインカム・ヨーロッパ(UBIE)
 ・過去の試験プロジェクト
    マニトバ州ドーフィン(カナダ)の実験/
    アメリカのチェロキー族 ー 偶然の実験/
    ナミビアとインドの試験プロジェクト
 ・進行中もしくは計画中のプロジェクト
    フィンランド社会保険庁/オランダの地方自治体/
    カナダのオンタリオ州/Yコンビネーター/
    ギブ・ダイレクトリー(ケニア)/クラウドファンディング/
    その他の計画
 ・効果は継続するか?
 ・結論
第12章 政治的課題と実現への道

 ・移行への障害
 ・世論の圧力
 ・政治的な必須課題
 ・小さな一歩?
 ・市民配当? 安全配当?
付録 試験プロジェクトの進め方

    ベーシックインカムとして適切な給付であること/
    実験の設計が明確で、持続可能であること/
    設計が常に一定であること/
    それなりの規模でおこなうこと/
    それなりの期間にわたり実験をおこなうこと/
    複製可能で拡張可能であること/
    無作為抽出した比較グループを用いること/
    ベースライン調査を実施すること/
    評価調査を定期的におこなうこと/
    有力な情報提供者を活用すること/
    多層的な効果を測る実験であること/
    検証したい仮説を実験開始前にはっきりさせること/
    コストの計算と予算の計画が現実的であること/
    サンプルをできるだけ変えないこと/
    現金給付の仕組みを監視すること/
    人々の自己決定権の要素も検討すること/
謝辞 
世界のベーシックインカム団体

<『ベーシックインカムへの道』考察シリーズ>展開計画

<第1回>:ベーシックインカムの教科書『ベーシックインカムへの道』の特徴と考察シリーズ方針
<第2回>:「第1章 ベーシックインカムの起源」から

<第3回>:「第2章 社会正義の手段」から
<第4回>:「第3章 ベーシックインカムと自由」から
<第5回>:「第4章 貧困、不平等、不安定の緩和」から
<第6回>:「第5章 経済的議論」から
<第7回>:「第8章 仕事と労働への影響」から
<第8回>:「第9章 そのほかの選択」から
<第9回>:「第7章 財源の問題」から
<第10回>:「第6章 よくある批判」から

<第11回>:「第10章 ベーシックインカムと開発」から
<第12回>:「第11章 推進運動と試験プロジェクト」「付録 試験プロジェクトの進め方」から

<第13回>:「第12章 政治的課題と実現への道」から、及び、総括

少しずつ、よくなる社会に・・・

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