ベーシック・インカム世界ネットワーク(BIEN)の位置付け
BIEN、Basic Income Earth Network を知る
本稿は、当サイトで頻繁に利用・引用させて頂いている山森亮氏著『ベーシック・インカム入門』(2009/2/20刊)『お金のために働く必要がなくなったら、何をしますか?』(2018/11/20刊・共著)及び、同氏による2019年6月14日公開の現代ビジネス | 講談社 (ismedia.jp)への寄稿を参考にさせて頂いて構成する、「ベーシック・インカム世界ネットワーク」についての投稿です。
1986 年、ベーシック・インカム欧州ネットワーク、設立
1985 年イギリスで、Basic Income research group(現在はCitizen’s Income Trust)が設立。
これに続いて、1986 年にはベーシック・インカム欧州ネットワークが設立されました。
いずれも設立当初は、反失業運動や福祉権運動などと連携しつつ、活動家、研究者、福祉関係者など幅広い領域から、ベーシック・インカムへの関心を共通項に集まり議論する場とされていました。
2004 年、世界ネットワーク(Basic Income Earth Network:BIEN)に改組
隔年で大会をが開催されていたベーシック・インカム欧州ネットワークは、2004年に世界ネットワーク(Basic IncomeEarth Network, BIEN)に改組。
その運営は研究者中心の色彩を強めていたが、世界大会は、次第に活動家や、NPO 関係者、政治家など多様な人々の交流の場としても機能するように発展していきます。
各国ネットワークとの連携の広がり
このBIEN に連携する形で、イギリスの団体など各国のネットワークが活動。
日本の準備研究会も、2008 年 6 月に、イタリア、カナダ、メキシコとともに連携が認められ、現在連携団
体は16カ国に及んでいます。
ベーシック・インカム日本ネットワーク(Basic Income Japanese Network:BIJN)準備研究会
2007 年秋にBIJN 設立を目的とした準備研究会の開催を開始。
その後、2009 年8 月までに 8 回開催。
この間ベーシック・インカムについての書籍の刊行やメディアでの紹介、マニフ
ェストに採用する政党の出現、などもあり関心は高まり、研究会への出席者も増加傾向にある。
2009 年秋に社会政策学会でBI をテーマにした2つの分科会実施。
2009 年11 月に600 名超の参加によりベーシック・インカムのシンポジウムを同志社大学で実施。
以上の記録をネット上で確認できましたが、以降の活動がどうなっているのか確認できていないことが残念です。
2008年アイルランド首都ダブリンで、BIEN主催ベーシック・インカム世界会議開催
国際NPOであるBIENが、欧州ネットワークとしての設立以降20年以上にわたって研究を蓄積してきていた2008年に、アイルランドの首都ダブリンで、世界会議を開催。
ヨーロッパ、北米諸国ははもとより、メキシコ、ブラジル、アルゼンチン、南アフリカ、それに日本など世界各地から約300人が参加。
イギリスの社会政策学者、ドイツの国会議員で左翼党副党首、カナダの右派保守党国会議員、アイルランド、イングランド&ウェールズ、カナダ各国の緑の党、ベルギーの政治哲学者、南アフリカ社会開発副大臣孫その他参加の顔ぶれも多士済々の2日間の会議となりました。
その会議の内容の詳細は、先述の山森亮氏著『ベーシック・インカム入門』の「第6章 <南>・<緑>・プレカリティ ー ベーシック・インカム運動の現在>に詳述されていますので、参照頂ければと思います。
その歴史的背景と議論など蓄積の厚さには驚かされます。
しかし、どれも社会実験の枠を出ず、なぜ現在でもUBIに近いベーシックインカムが、どこにも導入されていません。
ということは、BIには、何かしらの欠陥があり、どこもそれらを払拭できないでいることを示しているわけです。
山森氏の同書は、2009年2月20日の発刊であり、ちょうどこの2008年のダブリンでの世界会議を受けての出版であることが分かります。
BIENによるベーシックインカムと5つの特徴
さて、そのBIENは、現在BIを以下のように定義しています。
ベーシックインカムとは、
全ての人に、個人単位で、資力調査や労働要件を課さずに無条件で定期的に給付されるお金であり、以下の5つの特徴を持つ。
1.定期的:一回限りで一括でという形ではなく、(例えば毎月などのように)規則的に支払われる。
2.現金給付:給付を受けた人がそれを何に使うかを決められるように、適切な交換手段で支払われる。したがって食料やサービスなどのような現物での給付ではないし、使用目的が定められたバウチャーでの給付でもない。
3. 個人:個人単位で支払われる。したがって、例えば世帯単位ではない。
4.普遍的:資力調査なしに、全ての人に支払われる。
5.無条件:働くことや、働く意思を表示することを要件とはせず、支払われる。
しかし、その特徴・定義の中には、ベーシック・インカムの水準についての記述が入っていません。
その理由は
1)部分ベーシックインカムも含めて広く議論を提起しようという戦略的な意図
2)一口に「個人が生活していくのに必要な収入」といっても、それは生存が保証されればよいのか、それとも文化的な生活が保証されるべきなのか、といった問題に答えを出すことが容易でないという実際的な問題
の2つとされています。
BIEN、2016年韓国ソウル大会における宣言
山森氏は、2016年のBIEN大会での、これらの問題を話し合うワークショップの座長を務めました。
上記の5つの定義は、その議論の結果であり、加えて以下の文言が採択されています。
BIEN今大会に参加している私たち多数は、以下の形のベーシックインカムを支持する。
すなわち、給付される水準や頻度は一定で、その水準は、他の様々な社会サービスと結びつくことによって、物質的貧困を根絶する政策戦略の一部となり、かつすべての個人の社会的文化的参加を可能にするに十分に高いものである。
(ベーシックインカムの導入と引き換えに)社会サービスや権利を削減することには、もしそのような削減が、相対的に不利益な状態に置かれている人びと、脆弱な状態に置かれている人びと、低所得の人びとの状況を悪化せる場合には、反対する。
「水準や頻度が一定」とは、年や月ごとに額が変動したり、給付のインターバルが変わったりしない、ということ。
「他の様々な社会サービスと結びつくことによって物質的貧困を根絶する……かつすべての個人の社会的文化的参加を可能にする・・・」とは、
1)ベーシックインカムが保障すべきなのは、貧困に陥らないで生活できることに加え
2)社会的、文化的活動を行える余裕がある生活も保障しなくてはならない
ということです。
すなわち、ベーシックインカム導入においては、他の社会保障制度や諸施策も動員されて、望ましい水準が確保・実現されれば良いとしているわけです。
これは非常に重要な点で、現在の日本の一部のベーシックインカム論及び論者にはこれが欠落しています。
また一部は、単純に一定額のBI支給を他の諸制度の上に重ね合わせれば良いしとし、現状それらが抱える問題に踏み込んでいない欠陥が見てとれるのです。
こうした同様の多様な議論が、各国の事情や背景を元にして個別に行われており、それが完全BI、部分BIという捉え方の違いにも現れる要因になっているわけです。
BIENの限界と今後
今回のテーマであるBIENに戻ると、BIEN自体が、世界各国のBIへの取り組みに対してリーダーシップを取るわけではなく、取れるわけでもありません。
BIENのホームページにも、(翻訳で)以下のように記されています。
BIENは、その教育的役割に専念する慈善団体であり、したがって、特定の詳細な提案を支持することはできません。これは、彼らがベーシックインカムのBIENの定義に準拠している限り、異なる提案を支持する人々や提携組織に開かれています。
言うならば、啓蒙活動を図りつつ、現状の加盟各国の実情などについて情報交換・意見交換を行い、それぞれでの実現をめざすサポートを行う。
そんな役割でしょうか。
今年2021年の大会は、8月18日から21日までスコットランドのグラスゴーが主催する形でのバーチャル会議として開催が予定されています。
その概要を、開催後入手して紹介できればと思っています。
BIENのホームページをチェック!
なお、BIENについての詳細は、是非、BIEN自体のホームページで確認頂ければと思います。
各国語はもちろん、日本語の翻訳でも当然読むことができます。
翻訳に若干の違和感を感じる場合もあるかもしれませんが、そう問題なく理解できると思います。
⇒ BIEN — Basic Income Earth Network | Educating about Basic Income
以下は、ホームページで見ることができるBIENのPR動画です。
蛇足ですが、実は、先述した日本の準備研究会のその後の活動状況についての情報を未だに入手できていません。
もしご存じの方がいらっしゃいましたら、お教え頂きたく、よろしくお願いします。
(最近では、日本ベーシックインカム学会の活動が目立っています。)
また、山森亮氏の昨年・今年の直近の活動状況もあまりみることがありません。
こちらも、どうすれば知ることができるか、ご存知の方、お教え頂ければと思います。
なお、当サイトでは、その他の山森氏執筆内容及びご自身の主張等についても知って頂きたいものが多く、今後も適宜紹介させて頂く予定です。
こちらも参考に
⇒ 各国の緑の党が主張するベーシックインカムの背景と今後への期待(2021/3/26)
<ベーシック・ペンションをご理解頂くために最低限お読み頂きたい3つの記事>
⇒ 日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンションとは(2021/1/17)
⇒ 生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案(2021/3/2)
⇒ ベーシック・ペンションの年間給付額203兆1200億円:インフレリスク対策検討へ(2021/4/11)
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