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BI THEORY

岩田規久男氏による「給付付き税額控除制度」提案とベーシックインカム批判

『「日本型格差社会」からの脱却』からー3


 先月末発刊された、前日銀副総裁・岩田規久男氏による新刊『「日本型格差社会」からの脱却』 (2021/7/30刊)を参考にして、親サイト https://2050society.com で以下の記事を投稿しました。

岩田規久男氏による「21世紀の日本経済の課題」:当サイト2050年長期社会経済政策比較(2021/8/26)
岩田規久男氏提案「21世紀の日本経済の課題」評価:『「日本型格差社会」からの脱却』からー2(2021/8/27)

「日本型格差社会」からの脱却
 同書の中で、岩田氏は、日本の格差社会化の要因である長期化しているデフレからの脱却を目標に、経済政策において所得再分配の在り方の見直しと税制改革等の実行を提案しています。
 その税制改革の一つに、負の所得税、給付付き税額控除方式を提案。
 これをベーシックインカムを批判しつつ、それとは異なる望ましい方式としています。

 そこで、今回、岩田氏の主張する給付付き税額控除方式とはどういうものか、とベーシックインカムになぜ反対かを見てみることにしました。

 まずは、基本用語の解説からです。

負の所得税方式の「給付付き税額控除制度」 とは

所得控除方式と給付付き税額控除方式

1)所得税控除方式 ⇒  納税額=限界税率 ✕(所得金額ー各種税額控除)ー 控除
2)給付付き税額控除方式 ⇒ 納税額=限界税率 ✕ 所得 ー 税額控除
  税額控除のほうが(限界税率✕所得)よりも大きくなると、納税額は負になり、その額を納税者に還付する。

限界税率とは

限界税率とは、課税標準の増分に対する税額の増分を意味し、課税標準の増分をΔX、税額の増分をΔTとしたならば、ΔT/ΔXとなる。
限界税率は、累進課税では段階的に高くなり、比例税では不変であり、逆進課税では低くなる。

岩田氏によるベーシックインカム(BI)と同氏BI論に反対する理由


 次に、同書で岩田氏が示しているベーシックインカムとはどういうものかについて引用し、その考え方への反論をメモしました。

 
給付付き税額控除方式に拠る負の所得税還付は、ベーシックインカムにあらず


 「上記の2)の<税額控除>が「ベーシックインカム」と呼ばれるようになった。」と岩田氏は言います。
 そして、「これは、この税額控除に相当する金額を個人の所得にかかわらず一律に給付されることから命名されており、「給付付き税額控除方式」と呼ばれるとします。

 しかし、この言い回しは、ベーシックインカムの由来を考えると、こじつけ的なもので、正確ではありません。
 「ベーシックインカム的」あるいは「ベーシックインカムの考え方に似ている」というレベルに過ぎません。

 不思議なことに、同氏は、こう続けます。
「これまで提案されているベーシックインカム案は、基本的に、この限界税率が一定で累進的ではなく、税額控除も所得とは無関係に一定であるものが多い」と。
 そして
「所得税は公平性の観点から累進的にすべきであると考えるので、これまで提案されてきたベーシックインカムには賛成できない」と主張しています。

 元来、ベーシックインカムは、税制、所得税の在り方から発生したものではありません。
 また、所得がない人にも平等に支給するのが、オーソドックスなユニバーサル・ベーシックインカムであり、「給付付き税額控除方式」による負の所得税方式をベーシックインカムと呼ぶこと自体が不適切なのです。

ワークフェア「働かざるもの食うべからず」の考え方はベーシックインカム論の基軸にはならない


 また、岩田氏は、こう言います。
「BI制度を導入すれば、雇用保険制度や生活保護制度、さらに基礎年金制度を廃止できると考える人もいる。しかし、BI制度では雇用保険制度等を代替できない」と。

 この当たりの指摘から、同氏の「日本型格差社会」、特に「貧困」からの脱却方法として提案する、雇用・労働政策と繋がっていきます。
 例えて、「ワーキングプアが失業した時には、BIのような金銭補助だけでは足りず、就職を支援する「訓練制度」や「再チャレンジ支援制度」などの就労支援プログラムを提供する必要がある」となります。
 すなわち、社会保障の基本的な考え方は、まず働くことと働いて収入を得ることを大前提としているのです。
 福祉(ウェルフェア)ではなく就労、働かざるもの食うべからずという「ワークフェア」が基本原則というわけです。


 生活保護制度は、稼働不能者への選別的社会保障・福祉制度にすべきという岩田論


 ワークフェアを原則とするため、現状の生活保護制度の捉え方も、同氏によるとこうなります。
「また、BIは生活保護制度の代替にもなりえず、同制度は、稼働能力者を対象とすべきではなく」、「負の所得税は、生活保障としても機能する」と主張するのです。
 すなわち、現金給付は、選別的生活保障制度としてのみ行われるべきということになります。

 しかし、一般的なベーシックインカムは、無条件での現金給付で、働くことを絶対条件とするものではなく、なにかしらの理由・原因で働くことができない事情・状況にある人々もカバーし、平等に支給対象とするセーフティネットとしての機能を持つものなのです。
 
 そもそも、岩田氏の認識し考えるベーシックインカムは、ごくごく一面的で、正直なところ、本書の内容レベルで論じられると、大きな誤解を前提とした議論に終始し、なにかモヤモヤとした感覚で終わってしまうと感じます。

 


 

岩田氏の「21世紀日本経済課題」と「2050Society」提案の2050長期計画との違い


 まあ元々、本書が、デフレ経済からの脱却が、「日本型格差社会」からの脱却の王道、という提案なので、ベーシックインカムについて深く論じる気持ちはなかったはず。
 同氏の21世紀の日本経済の課題の軸に、需要創出、雇用創出、賃金引き上げ、労働生産性向上、そのための公正な企業間競争社会の創出というシナリオが据えられており、社会保障制度の整備・拡充は、その後に着いてくるという感覚なのでしょう。
 従い、先述した2記事で取り上げたように、極めて楽観的な労働政策・雇用政策上の自由化提案や、自民党政権がこれまで全く取り組む気がなかった資本所得を含めた所得税等の累進性の強化政策等税制改革提案を、簡単に実現可能可のようにさらっと行うことができるわけです。
 そこにも、やはり他記事で述べた、誰に対する提案なのか分からないことが、もっとも、同氏の主張提案の立ち位置と向かう先の曖昧さと実現困難性を示しているように思えるのです。

 もちろん、対比させた https://2050soceity.com での提案も類似性を持ちますが、その提案は、既存政党には受け入れられないことをしっかり認識した上での、一つの理想論としてのものであるという自覚はしっかり持っています。

 本稿は、『「日本型格差社会」からの脱却』 において論じられた岩田規久男氏のベーシックインカムに関する考え方に絞って紹介し、当サイト提案のベーシック・ペンションとは相容れないものであることを簡潔に考察・提起したものです。

 来月は、『貧困・介護・育児の政治 ベーシックアセットの福祉国家へ (朝日選書)』(宮本太郎氏著:2021/4/25刊)における「ベーシックインカム論」及び「ベーシックアセット論」を取り上げて、ベーシック・ペンション論の強化に結び付けたいと考えています。

 

 

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