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2020・21年考察

公的年金・企業年金の限界突破は「共助から自助へ」ではなく「国助」による日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金で 

 2021/12/7付日経1面の
(人口と世界)新常識の足音(2)老後資金、共助から自助へ  公的年金限界、万国の悩み :日本経済新聞 (nikkei.com)
という記事で、年金問題について論じていた。
 この記事を参考にしつつ、年金制度の「自助」「共助」「公助」等について考えてみたい。

日本が抱える超少子高齢化社会における年金問題


 日本が抱える超少子高齢化社会の加速を背景とした年金問題。
 現役世代の負担が増え続けることに加え、自身の将来に受給する年金額の減少・減額不安。
 過去国民年金の保険料を納付しなかった人や厚生年金に加入しなかった人、加入期間が短期間だった人々の無年金や低額受給は、現在とこれからの高齢者に共通の問題である。
 そうした現状と予測に基づき、全世代型社会保障制度改革と称して、高齢者の年金受給開始年齢の引き上げ、高齢者雇用の延長・促進、そして年金受給額の削減というしりつぼみ型の社会保障しない制度化が、着実に進められていく。
 この中には、毎年ほぼ確実に行われていく介護保険料の引き上げや医療・厚生年金保険料の引き上げで、手取り収入が確実に減少していくことも含まれている。
 年金受給者も現役世代もだ。

グローバル社会が共通して抱える年金問題

 こうした少子高齢社会化は、日本だけの事情・減少ではなく、<人口と世界>をテーマとして、万国の悩みとして、今回は公的年金の限界について論じている。
 まあ、ここでは、「万国」というクラッシックな表現の適不適は別にして、記事では、先進国と後進国の端的な違いがあるが、実情は共通の以下を示している。

先進国の公的年金は、現役世代が引退世代を支える世代間扶養の方式が主流で、高い出生率に支えられ、若い世代の人数が多いうちは問題がなかった。
しかし少子化が加速し、高齢世代が多い逆ピラミッド型に。
これでは年金額を維持するためには、現役世代1人あたりの保険料負担を増やすしかない。
一方国民皆年金自体が実現していない新興国は、より深刻なのは言うまでもない。


高齢化社会の年金制度の成功モデルはオランダ、というが

 そこで示された「世界で最も安定した制度」と評価されるというオランダの年金制度の特徴は、平均寿命が延びると、年金を受け取る年齢も自動的に上がる仕組みを採り入れていること。
 確かに年金制度自体は安定しているかもしれないが、受給する高齢者の生活が安定していること、安定することとは異なるわけだ。

確定給付型年金(DB)は支払総額が掛け金額を上回る「取り崩し期」に

 しかし、今回の日経記事で扱うのは、公的年金制度ではなくて、加入は任意の企業年金についてである。
 
 まずそのうちの一つ、確定給付年金(DB)について。
 そこでは、受給者への支払総額が掛け金総額を上回る「取り崩し期」に入った企業が、2020年度に初めて5割に達し、日経は、これを企業年金の成熟化としている。
 すぐには給付に影響しないが、運用収益を計画通りに確保できないと、母体企業が追加で掛け金を拠出する必要があり、財務に影響するという。
 DBは事前積み立て方式で運営されており、受給者数が少ない導入当初は給付支払額が掛け金収入額を下回る。
 しかし、年数の経過で受給者数が増えると、給付支払額が掛け金収入額を上回るようになる。
 この成熟化に加え、産業構造の変化や企業の成長不足などによる日本企業の規模縮小もあって、想定以上のスピードで成熟度が高まっているという。
 そこで企業は年金資産の積立期とは異なる運用リスクの管理が求められるようになるわけだ。
 

増える確定給付型年金閉鎖、確定拠出年金移行が意味する、企業年金の「共助」から「自助」への転換


 こうしたDBの管理が一段と難しくなる状況下、DBの閉鎖や、確定拠出年金(DC)の移行や併用を行う企業が増え始めた。
 DCは企業が拠出した資金を基に従業員が自ら資金を運用して受け取る年金制度で、年金の受取額は個人の運用次第であるため企業が拠出金以上の負担を負う必要がない。
 これは、企業がリスクを負担する意味での「共助」型年金が、個人がリスクを取る「自助」型年金に切り替えられることを意味する。
 それは当然で、DBは目標とする予定運用利回り(予定利率)を基に運用するが、運用実績が予定利回りを下回り積み立て不足が生じると、母体企業がが追加の掛け金を拠出しなければならないことから、そのリスクの回避に走る。
企業のキャッシュフローが傷むことになり、相関性の低い資産を組み合わせるなど、下方リスクへの手当も重要だ。
 財務体質や経営の持続性に自信がない企業は、この行動を取ることに合理性はある。

 この企業年金の在り方をめぐり、2023年度の導入を目指す新制度が、企業年金を「共助」から「自助」へと近づける内容という。
 企業年金制度においても発生する、若い世代が納めた掛け金が上の世代の年金に回るというリスク・状況を防ぐべく、将来の年金額を約束する確定給付型から、運用次第で年金額が変わる確定拠出型に移行するわけだ。

確定給付型企業年金及び確定拠出年金(企業型) の加入者数 (2021年3月末現在)


 ところで、この 確定給付型年金(DB)と確定拠出年金(DC)に加入している人はどの程度いるのか。

 2021年3月末のデータでは、以下という。

1)確定給付型企業年金加入者数:厚生年金基金12万人、確定給付企業年金933万人、合計946万人(重複含む)
  第1号厚生年金被保険者数4,037万人(2020年3月末)のうち22.6%加入
2)確定拠出年金(企業型)加入者数:750万人、同18.5%
※総計1696万人(重複加入含む)、約42%

 重複加入を考慮すると、通常の被用厚生年金保険加入者の5人に1人が企業年金に加入しているわけだ。
 この比率は、想像していたよりも大きい。
 率直なところ、この加入者にとっての公助から自助への移行は、大した問題ではないだろう。
 すなわち、日経のここでの問題提起、主張は、大企業を中心とした比較的恵まれた被用者を対象としたものであり、社会問題としての「公助」「自助」をめぐる課題には適さない。

公的年金制度をめぐる不毛の「自助」「共助」「公助」議論から脱却するために

 むしろ、日経が課題とすべきは、公的年金における「自助」「共助」「公助」議論に立ち戻り、その議論から建設的に脱却する方策を提案することだ。
 いやこれは、日経の課題ではなくて、政府・行政の課題であることは言うまでもない。
 しかし、そろそろ日経も社会保障政策について、リセットして考えるべきと提案したいと思っての本稿である。

高齢者の年金は、自助・共助ではなく、公助でもない、国助としてのベーシック・ペンションで

 現行の年金制度は、高齢者自身の保険料納付による「自助」と、企業が法定福利費として負担納付する保険料及び現役世代が負担する保険料からの充当、一部国費からの充当等の「共助」とで成り立っている。
 この最後の国費からの充当部分も「公助」としているが、その原資・出どころは国民の税金だから、敢えて「共助」としたわけだ。

 しかし、当サイトが提案する日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金は、国が国民との契約に基づき発行する専用デジタル通貨であり、国民が納付した税金などを原資とする「公助」ではない。
 別の言葉を用いるなら「国助」が適切かもしれない。

 そしてなお、この年金は、高齢者だけでなく、すべての国民に、基礎的な生活を送る上で必要な「生活基礎年金」として、無条件で、平等に支給されるされる。
 国家が持つ通貨発行権を行使し、一定の規律・基準を定めた法律に基づき発行する専用通貨で支給するのである。
 財政規律を考慮する必要がない、基本的人権に基づき、適切に運用と管理が行われる社会経済システムとしての制度である。

 当初は、ベーシック・ペンションの一部を先行して支給することを想定しているが、この第一次段階での年金給付により、現状の国民年金が、このベーシック・ペンションに切り換えられる。
 自動的に、納付額0円の、新たな国民皆年金制度が導入されるわけだ。

 この時、現行の厚生年金保険制度は改訂され、保険料が減額されるとともに、従来の現役世代が高齢世代を支える賦課方式から、本人のための積立方式に切り替えられる。
 これは「自助」による年金加算部分となり、企業年金に加入すれば、それも当然「自助」部分の積み上げとなる。
 何よりの違いは、国助によるベーシック・ペンションが、基礎的な生活に不安がない金額にまでいずれ引き上げられ、自助に頼らずに、暮らしていくことができるどこにもない年金制度。

 実現までには、クリアすべき技術的・法的課題が多くあるが、段階的に現実化する提案に取り組んでいる。

 なお、今回取り上げたDB、DCに個人型年金であるIDECOを加えた、公的年金以外の年金システムについて、別の機会に取り上げたいと思っています。

参考:ベーシック・ペンションについて知っておきたい基礎知識としての5つの記事

日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンションとは(2021/1/17)
諸説入り乱れるBI論の「財源の罠」から解き放つベーシック・ペンション:ベーシック・ペンション10のなぜ?-4、5(2021/1/23)
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)前文(案)(2021/5/20)
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案(2021/3/2)
ベーシック・ペンションの年間給付額203兆1200億円:インフレリスク対策検討へ(2021/4/11)

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