東京財団の消費増税社会保障財源論の偏向性と矛盾:少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション-6
年度替わりに先立つ3月下旬、日経<経済教室>で「少子化対策の視点」という3回シリーズの小論が掲載された。
この小論を機に、新年度に入ってからの動向を参考にして、「少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション」というシリーズに取り組み、これまで以下を投稿。
<第1回>:女性の逸失所得防止策は、中長期的雇用・労働政策アプローチ:少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション-1(2023/4/8)
<第2回>:「幸せ」という情緒的要素を少子化対策の経済的手段とすることは可能か:少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション-2(2023/4/11)
<第3回>:少子化・人口減少に不可欠な経済成長とその実現方法:少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション-3(2023/4/14)
<第4回>:児童手当の所得制限廃止は、ベーシック・ペンション児童基礎年金の先行導入:少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション-4(2023/4/17)
<第5回>:新設「こども家庭庁」の責務と課題:少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション-5(2023/4/22)
今回<第6回>で、一応最終回としたい。
取り上げるのは、2023/4/3付日経<経済教室>の加藤創太東京財団政策研究所研究主幹と前田幸男・東京大学教授による以下の記事の小論
⇒ (経済教室)財政・社会保障制度改革の視点 消費税増税前に歳出削減を 加藤創太・東京財団政策研究所研究主幹、前田幸男・東京大学教授 – 日本経済新聞 (nikkei.com)
「財政・社会保障制度改革」を財政・財源問題に封じ込めた暴論
「財政・社会保障制度改革の視点 消費税増税前に歳出削減を」というテーマでの小論。
基本的にはもったいぶって制度改革を謳っているが、「財政・社会保障の持続可能性」が主課題なので、結局財源問題である。
政治的実現可能性と経済的実現可能性比較による論点化
もう一つ。
持続可能な財政・社会保障制度改革提案が、経済・財政学者らにより提案されてきたが、その中の消費増税や歳出削減・緊縮財政が政治的に不人気で、政権が採用しないと。
そこで持ち出したのが、「過去の対策案には経済的実現可能性はあっても、政治的実現可能性が欠けていた。」
ということで、政治が悪いんだが、一歩譲って、政治的にも経済的にも実現の可能性のある財源案を考えようではないか、という視点で、問題先送りに終止符を打つべく提案を行うということになる。
東京財団による財政・社会保障制度改革のあり方研究アンケート調査
そこで活用したのが、同財団が、経済の専門家である「経済学者」と政治の最終的な意思決定権者である「国民」を対象に昨年10月に行った13の質問からなるアンケート調査結果。
アンケート対象は、
・経済学者:海外学術データベースで国内上位25%に位置づけた研究機関727人の内の回答者282人
・国民:ネット調査会社を通じ20~69歳の1千人対象
もうここで問題の所在が明らかになっている。
政治の最終的な意思決定権者が国民、というのだが、本来なら政権与党であろう。
責任主体のすり替えを前提としての議論・提案である。
まあ、ここで終わっては全く意味をなさないので、一応、アンケート結果を活用しての主張を見ることにしよう。
経済学者の認識と国民一般の認識の乖離の度大きいと、経済学者の考えが経済的に適切でも、政治的には支持されない可能性が高くなる。
というわけで、学者はいいが、国民が悪いんだ、というロジックになるわけだ。
福祉と負担、成長と分配のバランスなど、社会全体の方向性や、財政赤字に関しては、両者の意識の乖離は、想定より全体的に小さかったとするが、当然のことだろう。
国の借金がこのまま増えた場合にどうなるかという問いに対して、「増税や歳出カットなど厳しい財政再建を強いられる」という回答を選択したのが、経済学者(44%)、国民(31%)でともに最多で差は大きくないと。
私から見ると、差が大きいと思えるのだが。
そこで唐突なのが、ここから、
「現代貨幣理論(MMT)など、財政赤字や公的債務を問題視しない考えも聞かれるが、現時点では経済学者や国民にはさほど浸透していないようだ。」と持ち出していること。
MMTについて理解している人がどれほどいるだろうか。
強引な、節操のない判断である。
消費税に関する認識の違いに関する偏った視点
話が遠回りし過ぎのきらいがある。
本題は、財政・社会保障を持続可能にするには、「消費税率引き上げ」が、ベストの政策だという主張。
しかし、国民サイドにその認識上の問題があり、経済学者との間に以下の大きな認識格差がある。
・多くの経済学者は消費税に対し「世代間で公平」「安定財源」などプラスの認識を持ち、半数以上が税率を引き上げるべきとする。
・多くの国民一般は「逆進的で不公平」「景気に悪影響」などマイナスのイメージを持ち、廃止や税率引き下げを求めている。
これらの結果が示すのは「歳出削減や増税などの財政緊縮策は国民(有権者)に不人気」「財政バラマキは大衆迎合的」といった単純な決めつけは国民全般には当てはまらないということだ。
国民の多くはむしろ経済学者と同様、財政赤字問題を懸念し、いずれは財政再建の必要が出てくると考えている。
そうであろうが、問題の本質と再建方法についての知識については、非常に不足していると思う。
財政緊縮・再建の一つのツールである消費税については、国民の反発や拒否反応が非常に強いことも示された。
よって財政・社会保障制度改革案の中身に消費税増税が含まれた途端、その改革案への国民の強い反発が生まれ、政治的実現可能性は非常に低くなることが予想される。
国民の受容度を高める活動が必要というが
世論動向を把握し、それに寄り添うことも重要だが、一方で国民と丹念に意思疎通を図り、世論に働きかける努力も必要、と一応建前上の発言がある。
しかしこうも言っている。
「別途実施の回帰分析では、国民の税・社会保障の知識が多いほど、経済学者と国民の意識の乖離は縮小することが示された」と。
ここで求めたいのは、アンケート調査回答国民1000人の属性である。
年齢・性別・職業・所得等の属性に加え、そもそも税・社会保障の知識の多少は、どうやって評価分析したのか。
「消費税の本質や利点を政府や専門家が国民にわかりやすく伝えるというレベルまで対策に取り入れていく必要がある。」
というが、消費税に関する必要知識は、そんなに複雑で理解しにくいものだろうか、はなはだ疑問である。
消費税率の20~40%程度への大幅引き上げが、どういう意味をもち、どのように生活に影響を与えるかを考えるのに、理屈や知識は必要あるまい。
歳出抑制・削減方法に関する知識・情報・考察はフリーハンドで深め、提供を
「また有権者が歳出削減を増税より志向する傾向が各国で見られ、今回の結果もそれを裏付ける。」
従い、「歳出の抑制・削減と効率化を徹底した場合の姿や規模を国民に示したうえで、消費税増税が必須であることを説明するという手順も必要」とある。
しかし、歳出削減方法と可能な額に関する知識と情報を、どこまで提示・提供してのことかはまったく分からず、是非財団には実行してほしいものだ。
但し、そこでは従来の手法に拘泥せず、フリーハンドで、聖域なく検討考察・提案してもらいたい。
例えば、維新の会が提起する国会議員報酬の削減程度のことではなく、二院制から一院制への改革と議員定数の削減なども選択肢に入れ、試算に加えることなども。
持続性のある財政・社会保障制度改革への国民の受容度は高いとする穿った視点
持続性のある財政・社会保障制度改革に対しては、一般に想定されているよりも国民の受容度は高く、各国で過去実施された実証研究の結果とも整合的、と我田引水。
「一般的」という括りが曖昧なことが少々気になるが。
有権者は財政緊縮策に常に反発するわけではなく、時に強く支持さえする。
この指摘の裏付けとして持ち出すのが、今ここに継続するロシアのウクライナ侵攻やいつあるかもしれぬとする中国の台湾侵攻、北朝鮮のミサイル攻撃に備えるための防衛費大幅増の財源を巡る議論。
自民党内での「増税か借金(国債発行)か」議論の一方、NHK世論調査などによる国民の国債発行(借金)ではなく歳出削減をと傾向。
消費税と防衛費財源のあり方を持ち出して云々という次元の問題ではないだろう。
「消費増税はじめにありき」東京財団基本方針の偏向性
小論のまとめは、以下のようになっている。
1970年代末、消費税の原型である「一般消費税」の導入が世論の反発により頓挫した後、政府は行政改革を通じた歳出削減にいったん転じた。
その結果とその後の政策に関しての論述はない。
その後の消費税導入と数字の税率引き上げが及ぼした経済停滞やデフレ経済の長期化への影響もまったく触れられていない。
ゆえに、決して本小論が客観的に、中立の立場で書かれたとは思えないのだ。
結局、以下のごまかしで終わらせるしかない。
「国民の意識を変えるうえで大きな役割を果たすのはやはり政治リーダーだ。
世論におびえてただ追随するのではなく、国民の信頼を勝ち取り、数十年先を見通したビジョンを提示し、そのための応分の負担を国民に求める。
そうした強いリーダーシップは、持続性のある改革案に世論を一気に引き寄せる可能性を持つ。」
政治的実現性の障害・責任は国民の意識とし、それを乗り越えるのは、政治リーダーと話をすり替えてしまう。
強いリーダーシップには、小論筆者がいう、経済的実現性と政治的実現性、両方の面から国民が受容できる提案を行うことと理解を得ることが不可欠なのである。
しかし、実際に「消費増税」で、財政・社会保障制度改革を行うことは、あまりに偏った手法であり、受容可能性は、限りなく低いと言えるだろう。
東京財団【全世代型の社会保障の構築に向けての提案】から
今月同東京財団政策研究所が【全世代型の社会保障の構築に向けての提案】と題した提案を行っている。
その<第6章 膨張する社会保障費と新たな財源の可能性>に示されているのが、当然「消費税」なのである。
一応これ以外に社会保障財源として示されているのが、
・健康の決定因子に着眼しての、たばこ、アルコール、砂糖など健康リスクに対する課税
・環境負荷と社会保障の充実の必要性とを関連づけての環境税
である。
しかし、なにゆえ、富裕層に応分の税負担を加えるための累進所得税の改正や有価証券の売買益への税率引き上げによる税収増と社会保障財源化という提案がまったく出てこないのだろうか。
経済学者による経済的実現可能性のある財源政策には、まったく信用・信頼できないことが、自身でどれだけ認識しているのか。
経済学者といっても、現実的には、先述したように、消費増税が経済成長どころか、デフレ経済を一層厳しくし、長引かせた要因の一つと批判する同業者も存在する。
ますます本小論が偏ったものであることを確認することになる。
異次元の少子化対策の財源問題と同質の小論
社会保障全体に及ぶ財源・財政問題が焦点の本論は、少子化対策を巡る財源・財政論と当然共通性がある。
これまでの5回の少子化対策の視点シリーズでも、結局行き着くところは財源問題となる。
現状、異次元の少子化対策の議論では、「社会保険料」の引き上げ案が優勢・有力になる雰囲気だが、それは結局現役世代の負担が重くなることを意味する。
これでは、少子化対策に必要な財源を、子どもを持ち、育てる現役世代自身が負担するという矛盾が生じ、理解納得を得ることは本来難しいはずだ、心情的にも、経済的にも。
現実の政治的実現可能性は、東京財団がいうところのこうした「国民一般」にはないのが社会的通念と思う。
しかし、現実の政権政党の権力をもってすれば、政治的可能性は極めて高いのだ。
財団が「推し」の消費税率の引き上げ策を、仮に経済学者がここで、経済的に可能だと「ゴリ推し」しても、政権政党は、選挙対策上決してこれを推さず、なんとか社会保険料改正に持ち込もうとするのではと、と思う。
まあ、財団の提案など、あまり政治には関係ないといえるのではないかと思ってしまう。
あまりにも視野が狭い、偏った議論であり、乱暴なアンケートとその結果の雑な活用だった。
真面目に、経済的実現可能性と政治的実現可能性視点で、社会保障のあり方とその財源問題を扱い、論じること自体に意味があるとは思えなかったのだが、日経はどう感じただろうか。
社会保障制度全体の改革と連動し、少子化要因の根幹である経済的要因への対策と連動するベーシックインカム、ベーシック・ペンション
5回のシリーズにおいて、何度もベーシック・ペンションが少子化対策のための方策として有効であろうことを述べてきた。
今回の最終回では、社会保障制度全体の財政問題をテーマとしていたが、もちろん「消費税」をベーシック・ペンションの財源とする発想は微塵もない。
税や保険料に財源を求めず、従来の財源・財政論とは別次元での方法を採用するベーシック・ペンションだが、その導入に伴って、現状の社会保障制度のほとんどを改正するとしている。
従い、社会保険制度および保険料制度、そして配偶者控除や扶養控除の廃止を含め、所得税税制の改定も行われる。
いわば異次元の改革が、すべての国民の生活に安心・安全・安定を与えることができるように行われることを想定している。
子どもには児童基礎年金、高等学校生徒学齢者には学生等基礎年金、成人には生活基礎年金、高齢者には高齢者基礎年金が、無条件で、すべての国民に支給されるのである。
その際、財政上、常に議論の制約を受け、真の意味での改革が先送りされ続けてきた社会保障制度は、財源問題も大きく改善し、持続可能な制度に改編されることになるのである。
具体的根拠や方法などについての検討・考察は、これまでのものに加えて、今後も推し進めていきたい。
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