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児童手当よりも優先すべき政策とは:少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション-7

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「少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション」というシリーズに取り組み、これまで以下を投稿。

第1回>:女性の逸失所得防止策は、中長期的雇用・労働政策アプローチ:少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション-1(2023/4/8)
第2回>:「幸せ」という情緒的要素を少子化対策の経済的手段とすることは可能か:少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション-2(2023/4/11)
<第3回>:少子化・人口減少に不可欠な経済成長とその実現方法:少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション-32023/4/14)
<第4回>:児童手当の所得制限廃止は、ベーシック・ペンション児童基礎年金の先行導入:少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション-42023/4/17)
<第5回>:新設「こども家庭庁」の責務と課題:少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション-52023/4/22)
<第6回>:東京財団の消費増税社会保障財源論の偏向性と矛盾:少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション-62023/4/25)

 一応、これでシリーズを終わらせたつもりだったが、2023/4/26付日経のコラム<大機小機>に「児童手当よりも優先すべきもの」と題した小文が載った。
⇒ (大機小機)児童手当より優先すべきもの  – 日本経済新聞 (nikkei.com)
 気になるタイトルだったので、遅まきながら、シリーズ継続編<第7回>として、今回簡単に取り上げたいと思う。

児童手当よりも優先すべき政策とは?

1人月額1万数千円がもらえるから子どもを持ちたいと思う

 冒頭、岸田内閣の異次元の少子化対策における児童手当の充実に対する批判が、これである。
ずいぶん、挑発的という表現は当たらないが、乱暴な意見である。
1万数千円という金額が子どもを持つ上でのインセンティブになるかならないか。
筆者の言わんとする感覚は分からぬでもないが、ならば、金額を大幅に引き上げる提案があってもよいのではと思う。
無論、話は別方向に向かう。


子育て家族にカネを渡しても、状況は改善しない

 1万数千円増えても、状況は改善しないと。
子育て家族に渡すカネの総額はいくらになっても状況は改善しないだろうか。
単純に、その金額についての話を深めていってみてはと思うのだが、こんな論点にすり替わる。

「赤字財政と異次元緩和でカネを供給し続けたが、国民総所得は増えていない状況で就業数を増やせば、1人当たりの所得は減る。結果、片方の親が子育てに専念したいと思う家庭さえも共働きをせざるを得なくなる。

 いきなり、と思われるが、その前提は、女性の就業を推進してきた政府の政策批判にある。
読みようによっては、性別役割分業支持論かと思わせるものだが、記者は意識しているだろうか。
そして何より、就業者数の減少で一人当たりの所得を維持・増額することが望ましいかのような、日経にあるまじき主張であるかのようなのだ。
本来の日経なら、労働生産性向上の必要性を強く訴えるはずだから。
そもそも、共働きを前提とした子育て支援、少子化対策を推し進めるべきことは、分かり切ったことだろう。

子どもを産んだ時に直面する困難がもたらす婚姻率や出生率の低下

保活、待機児童、学童保育、延長保育問題。
就労時における子育ての仕事の両立問題。
これに重ね合わせて、保育士や小学校教員も子の親と、離職そして保育士・不足問題にも及ぶ。
こうした事例を用いて、それらが婚姻率や出生率の低下の要因とする。
いずれも、繰り返し論じられ、共通認識化されている内容を追っている。

性差なく活躍できる社会の少子化対策とは

 で、どうまとめるか。
「女性活躍の推進は重要だが、就業意欲のある人に性差なく仕事の機会が開かれているべきであり、共働きの状況に追い込むこと意図するものではない。
そこで必要なのは、
「カネの支給ではなく、安心して子どもを任せられる支援態勢、保育や学童の人材確保、保健室の充実などだ。」という。
 では、カネではないとして、力を入れるべき現物サービスにはカネは必要ないのか。
現物サービスにも必ず財政支出が伴い、拡充すればするほど、際限なくカネは必要になる。
筆者は最後に、こんな単純な試算を示して小文を終わらせている。
「児童手当1人月額1万円なら1クラス分で30万~40万円。これをサポート教員の追加に回せば2クラス分で1人増やせる。加えて、子育て世代には必要なら言い訳なしに帰宅できる職場の制度作りも不可。」
 簡単な話だ。
まあ、そもそも、このレベルで少子化対策を論じること自体にムリがあることは分かりきっている。
それでも言いたかったんだろう「1人月額1万数千円がもらえるから子どもを持ちたいと思うか」と。
発端は、いつにこの思いにあったのだろう。

結婚をためらわせ、諦めさせる経済的雇用・所得不安対策の欠落

「安心して、子どもを生み育てることができる社会」の実現。
そこに、もう一つ、「安心して、結婚ができ、子どもを生み育てることができる社会」の実現、という要素も加えておく必要がある。
実は、前者には、「結婚していなくても、安心して、子どもを生み育てることができる社会」という意味が含まれ、後者には「結婚後、離婚などでひとり親になっても、安心して子どもを育てることができる社会」という条件も含まれている。
そのための総合的・包括的・俯瞰的な政策が多種多様に施されるべきであり、現金給付も現物サービス給付どちらもより適切に行われることが望ましい。

現金給付ベーシック・ペンション導入と並行して行う現物サービス給付社会経済システム改革

 提案している、日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンションは、それ自体現金給付であるが、その導入においては、社会保障制度、雇用・賃金等労働制度等も再編成・再構築することを前提としている。
いわば、社会経済システム改革を合わせて行い、その軸にベーシック・ペンションを位置づけているのである。
もちろん、財源をどうするか、インフレリスクにどう備えるかという問題への最適解をまだ見出してはいないが、より望ましい形での段階的導入案を、引き続き模索・検討している状況である。

 本稿は、前回からしばらく間を置いてのものだが、GWが明けた今日5月7日、偶然にも、日経が「膨張子ども予算、効果は」という特集記事を掲載した。
今回取り上げたコラム記事を拡充深掘りしているので、ものはついでで、次回引き続いて内容を確認することにしたい。

参考関連記事:異次元の少子化対策でも少子化は止められない3つの構造的要因

1.異次元の少子化対策でも少子化は止められない3つの構造的要因(上)人口構造要因:総務省2022年10月人口推計から(2023/4/13)
2.異次元の少子化対策でも少子化は止められない3つの構造的要因(中)雇用・労働構造要因:経済的不安の根幹、非正規雇用者数・比率の増大(2023/4/23)
3.異次元の少子化対策でも少子化は止められない3つの構造的要因(下)心理的・精神的構造要因:選択的非婚化社会化とひとりで生きるソロ社会化(2023/4/26)

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