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少子化・人口減少に不可欠な経済成長とその実現方法:少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション-3

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年度替わりに先立つ3月下旬、日経<経済教室>で「少子化対策の視点」という3回シリーズの小論が掲載された。
この3回分と、新年度に入ってからの動向を参考にして、「少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション」というシリーズに4~5回で取り組むことにした。

第1回は、 鈴木亘学習院大学教授の「女性の逸失所得 防止が本筋」と題した小論を取り上げ、
女性の逸失所得防止策は、中長期的雇用・労働政策アプローチ:少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション-1(2023/4/8)
第2回は、吉田千鶴関東学院大学教授による小論「子育て世代の幸せな姿 重要」 から
「幸せ」という情緒的要素を少子化対策の経済的手段とすることは可能か:少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション-2(2023/4/11)

今回第3回は、2023/3/29掲載の平口良司明治大学教授(1977年生)による「人口減前提の成長モデルを」と題した以下の小論から「少子化・人口減少に必要な経済成長と実現方法」と題して、少子化対策の視点で考えてみたい。
⇒ (経済教室)少子化対策の視点(下) 人口減前提の成長モデルを  平口良司・明治大学教授 – 日本経済新聞 (nikkei.com) 2023/3/29

少子化・人口減少に必要な経済成長と実現方法

前2回は、少子化対策として必要な政策を考察することが目的の小論だった。
しかし、今回は、まったく趣き・目的を異にし、種々行われている政府の少子化対策の効果はあまり期待できず、「最悪のケースとして、人口減少下の成長戦略を考える必要がある」として、その方策を提案するのである。
当然、異次元の少子化対策にも関心を示していない。

経済成長に必要な3要素と持続的な増加

まず、「経済学では、経済成長は消費などの需要面ではなく次の3つの要素の供給と持続的な増加により実現される」とする。
1)労働力:少子化社会・人口減少社会における労働力課題
2)資本:設備や機械、無形資産などの物的資本、および、人々の持つ能力である人的資本
3)技術力:技術革新などを示す全要素生産性
以降、この3要素について、平口氏の論述を概括していきたい。

少子化がもたらす労働力の急減と女性・シニア就業率上昇による労働力確保の限界

初めに、<労働力>要素について。
日本では経済成長の第一の要素である労働力が今後急減する可能性が高い。
女性やシニアの就業が進み、生産年齢人口(15~64歳)の就業率は20年前の約68%から約78%に上昇した。
しかし就業率上昇による労働力の確保にはまもなく限界が来るだろうと。
当然のことである。
経済成長実現には、残りの要素である資本と技術力の水準を高めていくしかないということで、次は<資本>要素について。

労働力減少下での経済成長に必須のエネルギー源確保のための電力関連投資

人口減少が続く中、人口1人当たりでみた物的資本の伸びが極めて弱いことは、日本経済の低迷をもって示している。
ゆえに経済成長には、物的資本の増大=設備投資が欠かせない。
その中で特に重要なのは発電関連の設備投資。
このところのエネルギー価格の高騰は、日本経済の持続的成長の厳しい足枷になっている。
ウクライナ侵攻によりグローバル社会のエネルギー事情は激変したが、脱炭素の方向性は変わらない。
そこで、エネルギー源の確保に向けた大規模投資が望まれると強調し、その取り組み事例をいくつか紹介している。
ただ、再生可能エネルギーの安定供給不安を上げて、再稼働や建て替えなどにより短期的には原子力発電に頼る必要があると添えている。
もう一つ、その関連で示したのが以下。

製造業の国内回帰にも必要な電力確保

日本の労働者の賃金が相対的に安くなっていることもあり、半導体工場建設など、製造業の国内回帰が進んでいる。
この動きが経済にプラスなのは間違いないが、戻ってきた工場が安定した生産を続けるには、電力確保は必須の課題というわけだ

省人化・デジタル化投資、技術力向上・技術革新も不可欠

最後に3つ目の要素、<技術力>。
日本では省人化・デジタル化投資が活発化しているが、まだ十分でない産業もある。
資本蓄積のための設備投資は経済発展に必須だが、それだけでは十分でなく、技術力の向上つまり技術革新も欠かせない。
ただ、日本の技術水準(全要素生産性)の最近20年の伸びは、資本と異なり、他の先進国と比べ劣っていないという。

持続的技術革新を生み出すための人的資本水準の向上を

ある意味で、人口減少は、技術革新の低下・遅滞をもたらし、経済成長を抑制する恐れがある。
従い、人口減少下で経済成長を続けるには、技術革新のエネルギーとなる人々の能力、人的資本の水準を、教育・人材投資を通じて向上させる必要があるわけだ。
人口が減っても人材投資の水準が十分であれば、持続的な技術革新を通じた経済成長が可能といい、学校・企業双方での継続的な人材育成が必要と。
これまで企業サイドでは低調だったものが、デジタル技術の必修性やAI技術者ニーズの高まりを背景に強化されていることを紹介。
また、大学教育変革として、企業の教育プログラムとの連動や、就職後必要となる技能習得の組み入れ、企業による学生支援、社員と学生との交流などを提案。

最後に、こう結んでいる。
「これからの日本を、様々な投資を通じて物的・人的双方の資本が蓄積され続けるような社会に変えることができれば、たとえ人口が減っても持続的な経済成長は十分期待できる。」

重複するが、敢えて付け加えると、
その鍵は、人材の質にかかっており、人口減少社会にあっても、人材への投資・教育が、持続的な経済成長の原動力・推進力になる。

経済学者によるベーシックインカム論における経済成長

これまで、あるいは現状も含めてであるが、ベーシックインカムの導入を提案する経済学者がそれなりに存在する。
ここ2年ほど前までは、デフレ、低成長経済を克服することを主眼としてのベーシックインカム論が主。
時に「反緊縮」を掲げての提案でもあった。
平口氏の小論は、当然、ベーシックインカムなどまったく意識も想定もしておらず、ベーシックインカム提案経済学者と比べる必要はない。
ただ「経済成長」をいう共通用語があることで、ベーシック・ペンションを自ずと結びつけようという作用が働く。
しかし、ベーシック・ペンションは、経済成長や経済政策を第一義として提案するものでは決してない。
人が生きる上の基本的人権を守ることを第一義としており、その目的を実現する上で、ベーシック・ペンションの使用・運営・管理という一連のプロセスが、社会経済システムとして機能し、多様な効果を生み出す。
その成果の一部が、経済成長に結びつく。
こう考えていることを確認しておきたい。

ベーシック・ペンションは、人口減少社会を想定して、提案し、実現し、運用・管理される

もう一つ、書き添えておきたいことがある。
それは、多様な目的をもち、多様な成果・効果を期待するものであるが、当分継続すると思われる人口減少を抑制することは困難と考えており、完全なベーシック・ペンションの実現を想定・目標とする2050年の日本の総人口を、ほぼ1億人と想定。
それ以降は、人口減少傾向は停止し、同規模の人口が維持される社会であって欲しいと望んでもいる。
ベーシック・ペンションは、その実現にも寄与することを目標としているのです。
そういう意味では、今回の平口氏の小論は、少子化対策視点ではなく、人口減少対策視点でのものとして、ベーシック・ペンションと直接・間接に関係する、有意義なものと受け止めた次第です。

次回は、異次元の少子化対策の課題の一つとして、議論の対象となっている、児童手当支給における所得制限の撤廃問題について、確認したい。


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