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「幸せ」という情緒的要素を少子化対策の経済的手段とすることは可能か:少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション-2

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年度替わりに先立つ3月下旬、日経<経済教室>で「少子化対策の視点」という3回シリーズの小論が掲載された。
この3回分と、新年度に入ってからの動向を参考にして、「少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション」というシリーズに4~5回で取り組むことにした。

第1回は、 鈴木亘学習院大学教授の「女性の逸失所得 防止が本筋」と題した小論を取り上げ
女性の逸失所得防止策は、中長期的雇用・労働政策アプローチ:少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション-1(2023/4/8)
を投稿。

第2回の今回は、2023/3/28掲載の、吉田千鶴関東学院大学教授による「子育て世代の幸せな姿 重要」と題した、以下の記事を参考にする。
⇒ (経済教室)少子化対策の視点(中) 子育て世代の幸せな姿 重要  吉田千鶴・関東学院大学教授 – 日本経済新聞 (nikkei.com) 

本小論は、『2021 年社会保障・人口問題基本調査 <結婚と出産に関する全国調査>:第 16 回出生動向基本調査』を主に参考にしてのもの。
2021年6月実施の調査対象者とその母数は、次のとおり。

■ 独身者調査:配布調査票 14,011 票 有効票数 7,826 票(有効回収率 55.9%)
■ 夫婦調査:配布調査票 9,401 票 有効票数 6,834 票(有効回収率 72.7%)

本稿では、「経済的視点での子育ての幸せ志向と少子化対策との関係」と題して考えてみたい。

経済的視点での子育ての幸せ志向と少子化対策との関係

人口を維持するために必要な出生率の水準、「人口置換水準」。
日本では2.06程度とされるが、1970年代半ば以降合計特殊出生率は人口置換水準を下回り、低下を続け、90年代後半以降、1.3~1.4前後で推移。
この事実を紹介した後、
・結婚して子どもをもつことに対する人々の姿勢は、この期間に消極的な方向に大きく変化
・この長期的な変化を政府の金銭的支援策だけで短期的に逆転させることは困難
と。
そして、少子化対策には、「人々が結婚して子どもをもつことを幸福と感じ、子どもをもつことに積極的になる長期的・包括的な対策が必要」という基本認識を提示。
そこで、取り上げられたのが、冒頭の<出生動向基本調査>である。
調査実施の、<国立社会保障・人口問題研究所(略称・社人研)>のホームページで公開された「第16回出生動向基本調査」概要にあるグラフなど資料を転載しながら、以下、吉田氏の論述を追ってみたい。


国立社会保障・人口問題研究所(略称・社人研)「(第16回)出生動向基本調査」から

はじめに吉田氏が簡単に紹介しているのが以下。

1)18~34歳未婚者「いずれ結婚するつもり」の比率
 80年代以降の割合は男女とも下がり続け、2021年に、男性81%、女性84%。
2)2020年20代後半女性6割超、30代前半女性3割超が未婚
3)結婚するつもりのある若い未婚女性の平均希望子ども数
 1982年2.28人から減り続け、2021年1.79人。
⇒ 結婚や子どもをもつことを幸福だと思う者が減っていると考えられる

「なぜ子どもをもつのか」「子どもを持つ幸せとはなにか」へ問いへの経済学視点での解

調査結果から「結婚や子どもをもつことを幸福だと思う者が減っている」と分析判断する同氏。
そして、「人々はなぜ子どもをもつのか」と問い、「経済学では、人々がより幸せになれるよう、子どもをもつか否か、もつとすれば何人かを決定する」と回答。
また、経済学視点での子どもをもつ「幸せ」は、以下の3つで構成されると。
1)子どもをもつ喜び
2)物質的豊かさ(消費量)
3)余暇時間量(好きなことに使える時間)
人々は、最も幸せになれるよう、子どもの数、労働時間量、余暇時間量を決めるが、活動可能な時間は有限であり、3つの要素を同時には増大させられないこと、そのため、自ずともてる子どもの数には限界があるという。

以下では、まず時間の使い方、次に「子どもをもつ喜び」に焦点を当て、少子化の要因と対策を考える。

男性の家事育児時間の少なさが少子化の重要要因。その対策

そこでまず提示されるのが、時間の使い方について。
日本男性の家事育児時間が国際的にみても非常に少ないことが、少子化の重要な要因。
子どもを2人もって余暇時間をほとんど失うよりも、子どもが1人で余暇時間を確保する方が幸せになれると考える母親は多いという。
また、母親がより幸せになるために、高い所得を得て消費量を多くすることを重視すると、子どもに時間とエネルギーを使うことは、できるだけ短期間で終わらせたいとなる。
結果希望子ども数は少なくなるわけだ。

この場合どのような対策が考えられるか。
・最も有効な対策は、夫が家事育児にもっと参加できる環境の整備
 但し、この場合の出生率へのプラス効果は、夫が家事育児に時間を使うことで被る経済的損失の大きさにより異なる。
・そのためには、男女間賃金格差の是正が重要
 これにより、夫は労働時間を減らし、家事育児にもっと参加する。
・共働き夫婦が子どもをもち、余暇時間を確保するためには、労働時間適正化政策も必要
現状未整備であり、あるいは浸透していないこれらの政策を実現することで、子どもをもつことが幸せだと感じられる社会を構築することが、現役世代・次世代どちらにも重要、と筆者はまとめている。

子どもをもつ喜びを鮮明に想像できることが結婚意欲を高め、少子化対策に結びつく

そして、少子化のもう一つの重要な要因である若者が結婚しなくなっていることへの対策として、若者が子どもをもつ喜びを鮮明に想像できるようにし、結婚意欲を高めることを提起する。
ここで再度、前述の調査の一部を活用する。
すなわち、まず「子どもをもつ喜びを、子どもをもったことのない未婚者はいかに予測するか」と問いかけ、再度前述の調査を用いる。
同調査によれば、
・2021年に若い未婚者で、赤ちゃんや小さい子どもと触れ合う機会がよくあると答えた割合は約4割。
 多くの若い未婚者は直接的に情報を得る機会がない。
・触れ合う機会がよくあると回答した未婚者では「いずれ結婚するつもり」と回答した割合が男女で約9割で、若い未婚者全体よりも結婚意欲が高い。
こうしたことから
・若い未婚者が乳幼児に接する機会を増やすことは、子どもをもつ喜びの予想を通じて、結婚意欲にプラスの影響を及ぼす。
・そのために、地域でのかかわりなどを通じた若い未婚者による育児支援参加促進。
・「地域子育て支援拠点」での親子の交流や子育てに関する講習への若者の積極的な取り込み。
などを推奨する。

以上のように述べた後、「若者が接する現役子育て世代の姿は幸せでなくては意味がない」とし、人々がいま以上に長い自由な時間をもてば、
・子どもと接して子どもをもつ喜びを知る機会を増やすことができ
・子どもをもってその喜びを感じながら働き、余暇時間をもって幸せになれると考える人が増える
ことが期待される
と結んでいる。

「幸せ」感、「幸せ」観を主眼とした<結婚・子ども保有行動>の経済学的考察の情緒性と限界

吉田氏による「経済学視点」での<少子化対策>への視点とは、どのような特徴・特性に基づくものだったのか。
「幸せ」度を何かしら数値化しようとしたのか、社人研調査の数値結果を活用することをもって経済学的見立てとしたレベルのことだったのか。
今もって、よく分からないというのが正直な感想である。
そもそも幸福感という情緒的な指標は、個人個人の持ち方になにかしらの明確な基準を標準的なものとしてはめ込むことは困難なはず。
物質的な豊かさや、余暇時間という要素においては、数値化可能で、そこから深掘りして「幸せ度」、「幸せ感応度」を計量経済学的アプローチに持ち込めば、議論・検討も可能であっただろう。
しかし、その手段を意識するにはまったく至っていない。

無視できない、結婚するしない、子どもをもつ持たないの希望と判断の経済的基本要素

こう書くと、そしてまたここまでの吉田氏の主張を読んで、恐らく、根源的かつ決定的に重要な問いかけがなされていないことに気がつくだろう。
「経済学的な視点では、仕事や収入がどういう状態ならば安心感を抱き、実際に結婚する行動を起こすか、そして、子どもを持つことの「幸せ」をイメージできるか」という問いとその答えである。
基本調査の中から、その問いの要素の一部を含む質問と回答を以下に転載した。
まず、
1)<独身でいる理由>についての調査


「独身でいる理由」というテーマでのアンケートだが、その回答選択肢の中に、「結婚資金が足りない」と「結婚生活のための住居が見つからない」という理由が入っている。
本来なら、ずばり直截的な表現で、例えば「結婚して安心して生活できる就労あるいは所得状態にはない」という選択肢があってもよい、あるいはあるべきではないか、と思うのだ。

とすると、本調査対象となった独身男女の就労状況・所得状況などの経済的な属性が、統計分析に反映されていないことに気がつく。
そこで、もう一つ別の調査項目を。

2)「就業状況」別<一年以内の結婚意志>調査


社人研の本調査。
独身者一括しての調査結果のみで、分析し結論することには、問題が大きい。
吉田氏が活用した項目は、主に正規雇用にある人々を想起させるものと感じる。
この調査項目は、全体の中では珍しく、「就業状況」という一つの属性に基づいている。
<一年以内に結婚する意志>の有無を問うものだが、その結果は以下。

男性では
・正規の職員、自営業主・家族従業者・内職、派遣・嘱託・契約社員の 6 割前後が結婚意思を示した。
・パート・アルバイトでは 37.6%、無職・家事では 25.3%と少ない。
・前回調査比では、自営業主・家族従業者・内職、パート・アルバイト、無職・家事で、一年以内の結婚意思のある人が減少
女性では、
・就業状況による違いは男性ほど顕著ではなく
・正規の職員、パート・アルバイト、自営業主・家族従業者・内職いずれも、約 3 分の 2 が結婚意思
・無職・家事の女性は、47.2%だが、前回調査62.7%から大きく低下

そして、ベースとなる就業区分は、次のようになっている。

【第15回(2015年)】
<男性>:正規職員1,155、パート・アルバイト166、派遣・嘱託・契約社員118、自営業主・家族従業者・内職80、無職・家事122、学生583 (非正規合計486、学生583)
<女性>:正規職員1,078、パート・アルバイト273、派遣・嘱託・契約社員183、自営業主・家族従業者・内職33、無職・家事126、学生532(非正規合計715、学生532)
【第16回(2021年)】
<男性>:正規職員904、パート・アルバイト93、派遣・嘱託・契約社員70、自営業主・家族従業者・内職43、無職・家事75、学生406(非正規合計281、学生406)
<女性>:正規職員840、パート・アルバイト184、派遣・嘱託・契約社員95、自営業主・家族従業者・内職25、無職・家事89、学生439(非正規合計393、学生439)

前回調査に比べて、合計母数そのものが随分減少していることが気になるが、男女とも、正規雇用の3~5割の範囲で、非正規雇用者が存在する。(学生除く)
(この類の調査で、学生数とその比率が高いことにも疑問を感じるが。)

こうした、就業状況とそれがもたらす所得という経済的要素が、結婚や子どもをもち、生み育てるという営みのモティベーションに同影響するか。
少子化対策視点では不可欠のものと思うのだが、吉田氏は当小論においてどう考え、判断したのだろうか。
問いたいところである。

ベーシック・ペンションは、「幸せ感」よりも「不安」の抑制・「安心感」の確保・醸成をもたらす

最後に、当シリーズの目的から、ベーシック・ペンションと関連させて、前回の記述と重なり合うので、今回は少しだけ書き添えておきたい。
吉田氏が少子化を抑制する要素として掲げた、結婚し、子どもをもつことで体験する「幸せ」や、「幸せ」を求めて結婚し、子どもをもつという考え方やその現れとしての行動。
ベーシック・ペンションは、結婚や、子どもを生み育てる上での、経済的要素である給付を無条件で、すべての人々に行うもの。
これにより、経済的不安を取リ除き、あるいは抑制し、それらが一体化された生活の「安心感」を醸成し、持続させることも、重要な目的としている。


次回、第3回は、同じく日経<経済教室>「少子化対策の視点」第3回、平口良司明治大学教授による「人口減前提の成長モデルを」と題した小論を取り上げます。



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