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預金事業参入アップルショックから考える:民間銀行の信用創造抑制とベーシックインカム

 米国アップルが超高利率で預金サービスを開始したという以下の2023/4/18付日経夕刊報道を受けて、2つのブログを投稿した。

(参考)
⇒ アップルが預金サービス  年利4.15% 米で、国内平均の10倍超 – 日本経済新聞 (nikkei.com)

アップル、預金年利率4.15%。SVBショック・SVB危機を軽く凌駕する、アップルショックの凄さ(2023/4/18)
米アップル新事業「預金サービス」の「アップルショック」続考(2023/4/28)

 この2つ目のブログを投稿した同日、グローバル・ビジネス・コラムニスト ラナ・フォルーハーによるフィナンシャル・タイムズ(2023/4/24)投稿の「アップル、銀行にもなるか」と題した小論の以下の日本語訳が日経に掲載された。
⇒ (FINANCIAL TIMES)アップル、銀行にもなるか グローバル・ビジネス・コラムニスト ラナ・フォルーハー – 日本経済新聞 (nikkei.com) (2023/4/28)

この報道は、アップルショックの続報の一つとして同ブログに紹介しており、今回、その内容で気になった点を引用し、もう一つ、後述するその後の関連記事も活用しながら、感じたところをメモしてみたい。

はじめに、念のため、アップルが始めた年率4.15%付与の預金サービスの概要・特徴を再再掲。

アップルの新事業「預金サービス」の概要(再々掲)

1)米国で発行のクレジットカード「アップルカード」利用者向けサービス
2)年利率4.15%で預金サービスを提供
3)預け入れ上限額は25万ドルまで
4)米国内居住者が口座開設可能
5)手数料や最低入金額、最低残高等の条件なし
6)財布アプリ「ウォレット」内のアップルカードから直接、貯蓄口座を開設して利用管理
7)ウォレットアプリから口座残高や利息の推移が確認可能
8)他の銀行口座からの預け入れ、他銀行口座への送金・引き出しも可能
9)アップルカードで行った買い物に対して付与されるキャッシュバックが同口座に自動入金され、その残高に利息付与
10)米ゴールドマン・サックスが貯蓄口座の提供と管理を担当

シリコン・バレー・バンク、ファースト・リパブリック・バンク、相次ぐ銀行破綻が示した現代の金融システム・銀行システムの根本的な問題点

 FRBによる引き締め策が続く中で起きた2023年3月10日のシリコン・バレー・バンクの破綻。
SNSの想定外の影響力が、預金流出の想定外での加速が要因の一つとされてはいるが、根本的には、現状の金融システム、銀行システムの欠点・欠陥が露呈したものと考えるべきだろう。
それを考える上で、重要なヒントになったのが、私が勝手にそう呼んだ、今回の「アップルショック」である。

 ラナ・フォルーハーの小論にこういう記述がある。
アップルは、貯蓄口座の提供を発表した17日、初日だけで約4億ドル(約540億円)、開始後4日間で9億9000万ドル(約1350億円)を集め、最初の週に約24万口座開設
・その週の、米金融大手3社の今年1~3月期の預金流出額は、計600億ドル(約8兆円)。
・アップルの昨年10~12月期末時点でのBSは、負債1110億ドルに対し、現金と流動性のある有価証券等資産1650億ドル。BNPL(バイ・ナウ・ペイ・レイター)に必要な資金は十分保有している。
ほとんどの銀行が日常業務に必要な資金の90%以上を借入金で賄っているのと対照的
銀行の負債の多くは、短期ローンやすぐに引き出される可能性がある預金が占めている
・預金流出で破綻する銀行がある一方で、アップルとゴールドマン・サックス両社は消費者のお金を急速に引き寄せた。

 米シリコンバレーバンクで、実際に預金者が1日で約420億ドルの預金が引き出されており、こうした民間銀行・地方銀行の脆弱性に対して、アップルの強みが一層顕著になる。
こうした実態から「銀行のCEOは、預金者が債権者であることを忘れがち」として、銀行にエクイティファイナンスによる自己資本の積み増しを求めている経済学者の言を小論で紹介している。

アップルのビジネスモデルの今後の問題点

 なお、現状の金融・銀行システムが抱える問題点に対して、アップルは問題ないのか。
今回のブログで私自身がこのことに対する興味関心はないのだが、持ち出した手前、この問いについて筆者の当小論での注視すべきを、以下に要約しておきたい。

 アップルの預金口座は間違いなくユーザーフレンドリーで、他のサービスと相乗的にサービス価値を高め、典型的なネットワーク効果を実現させている。
それだけに利用者がひとたびアップルのエコシステムに入り込むと、そこから抜け出すのは難しくなるるのだが、こうした消費者にとって実に魅力的なサービスは、どこまで拡大すると独禁法に触れることになるのかという問題が強くなっていく。
アップルがすでに窮地に陥っている銀行業界をさらに弱体化させるような形で預金流出を加速させる行動に出れば、規制当局は同社の事業モデルを精査することになるだろう。
同社は顧客の個人データの扱いで独禁法違反を疑われるような行為についても注意が必要だ。
しかし、そうした問題が浮上するまでは、iPhoneを使った金融取引は増えていくだろう。

インフレ抑制のための金融引き締めが継続される中、銀行破綻が続く米国から感じる金融・銀行システム不安とベーシックインカムの課題

 次に、もう一つ、2023/5/2付日経の以下の記事を参考に加えて、考えてみたい。
⇒ 米地銀FRC破綻 JPモルガンが買収  資産規模 過去2番目 – 日本経済新聞 (nikkei.com)

米地銀FRCファースト・リパブリック・バンク破綻の事情

 米国では2カ月足らずで3つの銀行が破綻したが、ここで取り上げるのは、5月2日に報じられた米地銀ファースト・リパブリック・バンク(FRC)の経営破綻(3月シグネチャー・バンク破綻)。
米連邦預金保険公社(FDIC)が公的管理下に置きつつ、米銀最大手JPモルガン・チェースがFRCのすべての預金と資産を買収するという合作。
FRCは低金利下で融資や債券投資を増やしてきたが、米連邦準備理事会(FRB)の利上げで貸出債権や債券の含み損が拡大。
3月のSVBの破綻後、財務が脆弱だったFRCの預金も急減し、信用不安が広がっていた。
・FRCは富裕層向け事業を軸に業容を急拡大。
・1口座あたり25万ドルまでの預金保険の対象外となる大口預金比率は昨年末時点で全体の7割弱で、約9割のSVBに次ぐ高い水準。
・3月のSVB破綻でFRCにも経営不安が飛び火し、預金取り付けが集中。
信用不安の広がりを防ぐための官民連携の救済措置として、3月半ばJPモルガン等大手11行から300億ドルの預金を受け入れ。
・4月下旬発表の今年1~3月期決算での四半期末預金が前年末比4割以上減少を受け経営不安から株価が急落。
・一端FDICの管理下に置く破綻処理を経て、JPモルガン・チェースがFRCのすべての預金と資産を買収する方法で一応決着。

米国金融システムを支える影の存在、米連邦預金保険公社(FDIC)と米連邦住宅貸付銀行(FHLB)

 これも本稿にあまり関係がない内容だが、米国の金融システムの一端を知る参考になる、今日2023/5/17付日経に冒頭記事同様のフィナンシャル・タイムズ記事の以下の日本語訳記事が掲載。
ごく一部の内容紹介と、関心を持った部分をメモすることにしたい。
⇒ (FINANCIAL TIMES)米生保にも信用収縮の影  米国版エディター・アット・ラージ ジリアン・テット – 日本経済新聞 (nikkei.com)

・米国では地銀を巡る新たな懸念が毎週のように。
・米連邦預金保険公社(FDIC)が法的な義務はなくても前例に従って金融システムを支え、幸いにも状況はやや落ち着いている。
・しかし銀行経営基盤の弱体化が問題なのは自明。
・体力が弱った銀行では預金が流出し、資金調達コストが上昇し、他方、商業用不動産ローンや危険な企業への融資は不良債権化。
・従い業界再編が一段と進む可能性があり、長期的には歓迎すべきだが、短期的には難局も覚悟が必要。
全米の銀行数が4000超というのはおかしい。

こういう一般論の後に、意外な問題がこう提起されている。
「投資家や米国内の政治家が銀行の動向に気をもむ中、実は他にも注意を要する業界がある。それは生命保険業界」。
理論上この業界で通常は、時価評価が不要の長期債を大量保有し、金利上昇時に損失を計上することなく利息収入を得るという恩恵を受けられる。
しかし、10年続いた超低金利で金融界にゆがみが生じており、米連邦準備理事会(FRB)が5月上旬発表の金融安定性報告書(FSR)で生保の実態が明らかになった。
 こうありますが、その内容は省略し、関心をもった点に集中します。

 見過ごされがちなもう一つの問題も浮かび上がらせ、興味深い。
今日の米国で金融システムを随所で支えているのは地銀ではなく、政府系のFHLB連邦住宅貸付銀行。
FRBによると、生保はFHLBから調達する資金への依存を高めつつある。
自由市場経済に基づく米国の資本主義も所詮、この程度といえる。

 最後はこうです。
 金利上昇が生保の支払い不能を招く一因であり、現状では流動性管理が極めて重要に。
体力を消耗し、米国で信用バブルの収縮の憂き目にあうリスクに直面しているのは地銀だけではない。

米国の銀行・金融破綻事情が暗示するベーシックインカムによるインフレリスク対策

 アップルショックが、どちらの方向に行くのか少々曖昧になってきた。
基本的には、ベーシックインカム、ベーシック・ペンション導入時のインフレ発生懸念への対応・対策を考えることが、当サイトの当面の課題である。
現状の米国で起きているインフレとその対策としての金融・財政システムおよびその影響を受ける銀行システムの問題を理解し、中長期的にどのような準備や対応を行うべきか、である。
 無論、ここでその解を示すことができるはずもないが、漠然と感じたこと、考えたことを以下にメモ書きして、今回は終えたい。

・銀行の自己資本率を高める必要性、および信用創造の一定レベルでの規制の必要性(ベーシックインカムによるインフレ発生リスク抑制策として)
・インフレ抑制のための利上げ、金融政策及びシステムの有効性や限界の理解(ベーシックインカムによりインフレ発生時の対策を考える上で)

 なお、現状の米国の金融システム・銀行システムを巡る動向は、いわゆる主流派経済学に基づく理論と実践領域によるものである。
そろそろMMTとベーシックインカム、ベーシック・ペンションとの関係・相性についてできるだけ正面から考えてみたいと思っており、そこでは当然主流派経済学批判や比較が必須になる。
そのための部分的には予習に当たるのかなと思いつつの本稿と言えるのかと。


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