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2023年blog&考察

女性の逸失所得防止策は、中長期的雇用・労働政策アプローチ:少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション-1

新年度に入っており、岸田内閣による「異次元の少子化対策」についての議論・報道が慌ただしく行われ、そろそろ具体的な内容が明らかになりつつある。
当サイトは、児童手当の「児童基礎年金」化による支給額の引き上げ、結婚と出産をためらわせる雇用・所得不安を取り除く目的も持つ「生活基礎年金」の支給という基本政策を含む日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金の実現をめざしている。
その関係から、以前から「少子化対策・政策」に関して多くの批判を行ってきた。

「異次元の少子化対策」に関しても、やはりその際最も重要な課題となる財源政策を含め、十分評価できる内容は期待できないと思っている。
例によって「こども未来戦略会議」が設置され、6月までにはまとめられるというが、すでに内閣案の骨子はまとめられ、先行して情報は流されている。
有識者や子育て期にある親の参加もあるというが、それで大きく方針・方向が変わるはずもないと思う。

さて、年度替わりに先立つ3月下旬、日経<経済教室>で「少子化対策の視点」という3回シリーズの小論が掲載された。
この3回分と、新年度に入ってからの動向を参考にして、「少子化対策の視点とベーシックインカム、ベーシック・ペンション」というシリーズに4~5回取り組んでいきたい。

今回第1回は、過去の<経済教室>でも執筆している鈴木亘学習院大学教授(1970年生)の2023/3/27掲載「女性の逸失所得 防止が本筋」と題した小論を取り上げる。

(参考)
⇒ (経済教室)少子化対策の視点(上) 女性の逸失所得 防止が本筋  鈴木亘・学習院大学教授 – 日本経済新聞 (nikkei.com) 2023/3/27

2月末公表の人口動態統計速報によると、2022年の在日外国人や在外日本人を含む出生数は、初めて80万人を割り、79.9万人。
日本にいる日本人の確報ベースでは、77万人前後となる見込み。
こういう書き出しでの小論を、以下のテーマで見てみよう。

女性の逸失所得防止政策は、少子化対策に有効か


「異次元の少子化対策」に必要な、中長期トレンドとしての少子化と、コロナ禍による少子化2つの視点

コロナ禍でさらに急減した出生数。
そのために、回復傾向にあった合計特殊出生率さえも減少に転じる懸念から、真に「異次元の少子化対策」が求められる状況と鈴木氏。
そこでの対策は中長期のトレンドとして進む少子化と、コロナ禍で進む少子化の2つに分けるべきと。
しかし、前者の解決策を見出すのは困難だが、後者は対処がまだ可能、というのだ。
従い、まず、コロナ禍における少子化対策が課題となり、その要因を展開する。

コロナ禍における特筆すべき少子化要因。婚姻率の低下と20~30歳代前半既婚女性の出産控え

1)最も重要なのは、婚姻率の低下。
2015~2019年の平均婚姻率は人口1千人当たり4.9ポイントであったのが、コロナ禍、2020年4.3、2021年4.1、2022年4.2 と急降下したことを深刻な問題と指摘する。
むろん、それにより出生数も大きく減少するからだ。

2)次に指摘したのが、20~30歳代前半の既婚女性の出産控え。
そこから、結婚や出産に対する若者の意識が変わり始めたことを懸念する。
<2021年出生動向基本調査>:
未婚女性の希望こども数1.79人。初めて2人を下回り、30歳代前半男性の約3割、女性約2割が一生結婚するつもりはないと。
対策を急がなければこの傾向が定着し、コロナ禍後も元に戻らなくなる可能性があると指摘する。

中長期トレンド少子化要因は、晩婚化、晩産化、非婚

一方、中長期トレンドの直接的要因は晩婚化、晩産化、非婚としているのは当然。
その理由・背景として以下を挙げるが、無論その対策は容易ではないと。
1)進学率や就業率上昇で進む女性の機会費用増加
 =女性が結婚、出産でキャリアを中断することによる逸失所得の増加
2)教育費や住宅費などの育児の直接費用増加
3)若者雇用の不安定化や低賃金化
4)日本企業における働き方の柔軟性欠如

私としては、鈴木氏には、たとえ時間が掛かろうとも、是非とも3)と4)の雇用・労働政策に切り込んで欲しいのだが、なぜか、1)に絞ってしまうのだ。
とりわけ、ベーシック・ペンション実現を10年、20年スパンでの取り組みが必要と考えているからこそ、並行して中長期的に雇用・労働政策改革を推し進めるべきと考える所以だ。

具体策が見えてこない岸田内閣の少子化対策

次に、具体策が見えてこない、と岸田政権の少子化対策批判が行われる。
ことさら岸田内閣にこれまでの少子化の責任があるわけではなく、歴代政権と行政の連帯責任なのだから、ここで批判してどうなるというものではあるまい。
異次元の少子化対策がまとめられ、公開しされてからでよいから、割愛しよう。

鈴木氏の最強調点は、直接費用給付ではなく、子育てに対する女性の機会費用

学者が好む「従来の実証研究によれば」、という表現で鈴木氏はこう続ける。
「各種の現金給付や現物給付の効果は必ずしも明確でなく、効果があったとしてもわずか。実際、幼児教育や医療費の無償化が近年実施されたが、少子化のトレンドが変わったようには見えない。」

そもそも、こうした個別政策が、トレンドとしての出生数の増減にどの程度影響を与えるか、与えたかをデータで分析・検証することなどムリなのだが、同氏はこう続ける。

「これは理論的にも当然といえる。経済学の観点からは、出産とは夫婦による一種の投資行動だ。長期的な費用と便益を比較考量して、子どもという耐久消費財の投資量が決定される。1人の子どもにかかる教育費や生活費は1300万~3千万円程度とされる。」

子どもを生み育てることが理論的行動といえるのか、いうべきか。
「長期的費用と便益を比較考量して、子どもという耐久消費財の投資量を決定する投資行動」として出産の有無や人数を決定するのが、人間の常なのか。

毎度のことながら、経済学者の頭の構造には恐れ入る。(社会学者も同様なのかもしれないが。)

この直接費用よりはるかに大きいのが、子育てに対する女性の機会費用、と本小論の主題を絞る。
周燕飛日本女子大教授の最近研究、大卒女性が子育て期でのキャリア中断による逸失所得は生涯約2億円、高卒女性で約1億円というのを援用する。
こういう学者間のリレーションは流石にうまい。
そこから「これらの莫大な費用と比較すると、月1万円程度の児童手当など、倍増させても焼け石に水」と一刀両断。
返す刀で「政権が変わるたびにコロコロ変更される不安定な制度では、投資を決断できない」と曲玉を飛ばす。
上手いというべきか、姑息というべきか、すり替えというべきか、ムリ筋というべきか。

女性の逸失所得を発生する要因とその抑止のための中長期的政策

結局の結論は「少子化対策の本丸は給付増ではなく、女性の逸失所得の発生をいかに防ぐかにある」ことに。
短期的な対策としての認識として果たしてどういうものか、とふと頭をよぎる。
鈴木氏の主張を追ってみよう。

18歳未満の子どもを持つ女性の約3分の2が、第1子を産んだ後までにキャリアを中断。
その原因として次の2点を挙げる。
1)旧態依然とした日本的雇用慣行
2)それを支える専業主婦優遇などの諸制度

そして、日本企業の長時間労働、転勤、出産時期を先送りさせる遅い昇進制度などは、共働きが一般的な若い世代にとって結婚と出産の障害でしかないとし、「長期雇用労働者+専業主婦」の伝統的モデル世帯でなく、欧米型の男女ともに仕事を継続しながら子育てをする「デュアルキャリア夫婦(Dual-Career Couple)」向けの政策に主軸を移すべきとする。

しかしながら、長期雇用労働者を前提とする伝統モデル世帯の否定は、非正規雇用者とその比率の増大を招く側面が強いこと、はたまた、男性女性とも非正規雇用化により、結婚さえも断念させる経済的不安・不安定化をもたらす側面がある。
それが看過されているのは片手落ちというものだろう。
そうすると、鈴木氏の主張は、先述の1)を最重要視しつつも、結局3)4)という雇用・労働政策に向かうべきということになるわけだ。
対象は女性とすることで、なにか別の有効な手立てが浮上するかのような期待感を持たせるが、コロナ禍に限定したものではない、極めてオーソドックスな問題に、中長期的視点で取り組むべきことになるのだろう。
ゆえに、鈴木氏は自ずとこう言っている。
「異次元の対策と言うのであれば、専業主婦優遇制度や日本的雇用慣行の是正に切り込むべきだ。」

即効性少子化対策は、結婚・出産をためらっていた人々への支援

では、肝心のコロナ禍を意識した対策は、どうなるのか。
「即効性のある少子化対策としては、コロナ禍で結婚、出産をためらっていた人々の後押しを急ぐべき」というのが基本的スタンス。

こんな情報を引き合いに出す。
「2021年の出生動向基本調査によれば、女性の同棲率はコロナ前からほぼ倍増している」と。
倍増とは実数レベルでどの程度か不明なのが気になるが、ガマンしよう。
そして、「もう一押しで結婚を決断できる若いカップルのため、時限的に結婚費用や家賃の一部を補助し、国を挙げて「コロナ卒業婚」のキャンペーン」を提案する。
「令和婚で婚姻率が上昇したように、社会的ムードの醸成は重要」というのだが、状況・背景は似て非なるものだろう。
一気にトーンが下がってしまった気がする。
どさくさに紛れてというか、なにを血迷ったか、最近のマッチングアプリによる婚活においての既婚者の紛れ込み問題を持ち出し、こうした行為に罰則を科し、婚活市場の質向上に政府はもっと積極的に介入したら、と・・・。
次に、正気を取り戻して、「コロナ禍の出産控えで限界年齢に達しつつある人々への、不妊治療のさらなる費用補助(3割負担部分への補助)の時限的実施」が有効とも。
真面目な提案に水を浴びせてはいけないが、これはコロナ禍ゆえだけのものではなく、持続的な政策とすべきでしょう。
決して、一過性のキャンペーンで良い結果を継続的に得ることができる問題ではないでしょう。

予算規模ありきのバラマキではなく、効果見込み期待のためのターゲットの絞り込みを

アップ&ダウンやブレが激しい主張・提案ついでという感覚になるが、こんな表現もなされている。
「もし政治的な理由で児童手当をどうしても拡充したいのであれば、予算規模ありきのバラマキではなく、効果が少しでも見込まれるよう、ターゲットを絞ることが必要」。
どう絞ればいいのか気になったのだが、例えば、での提案は「第2子、第3子の出産や低所得世帯への給付増は、これまでの実証研究でもある程度の効果が認められている」と。
またまた実証研究結果ということだが、「ある程度の効果」とは、どれほどのものか示されていない。
示す程のものではないことは明らかだろう。

財源確保策としての政府構想「子育て支援連帯基金」の問題点

そして最後は、例によって財源問題に行き着く。
年金や医療、介護などの社会保険から少子化対策の財源を拠出させる「子育て支援連帯基金」の創設が、政府内で検討されていることを紹介。
これには、次の2つの問題を指摘している。
1)子育てをしている現役層が、負担の中心的な担い手となる可能性が高い。
 給付増の対価を子育て世代自身が支払うものであるし、子どもの増加は、社会保険の持続可能性を高め、高齢者利益になるため公平な負担を求めるべき。
2)拠出金は社会保険料の流用でブラックボックス化しやすく、チェック機能が働きにくく他への補助金等に流用されるリスクも。

鈴木氏推奨の「子ども保険」とその根拠

こうした問題のある案に対して鈴木氏が提案するのが、以前検討されていた「子ども保険」。
「高齢者を含む全国民に一律に保険料を課す仕組みで、子ども向け支出という使途が明確だから、国民がチェックしやすい。子ども保険を4月に発足するこども家庭庁の予算とすれば、子ども施策の司令塔として大いに力を発揮できる。」
と、いとも簡単に結論付けて、はい、おしまい。
「全国民に一律に」の「一律」のあり方が肝心の話であり、どうにも無責任。

鈴木氏らしいといえば鈴木氏らしい小論。
同氏の過去の主張・提案については、一部賛同、一部反対と見てきており、以下のような記事を投稿してきています。
関心をお持ち頂ければ、確認してみてください。

鈴木亘学習院大学教授による、財源面からの2021年ベーシックインカム試案(2021/2/4:http://basicpension.jp)
鈴木亘氏の社会保障制度論の限界と社会保障制度改革の必然性(2021/2/5:https://2050society.com)
鈴木亘教授『社会保障亡国論』にみる正解と誤解(2021/2/10:https://2050society.com)
鈴木亘氏による非常時対応可能既存社会保障制度改定提案:日経経済教室「社会保障 次のビジョン」から-2(2022/3/26:http://basicpension.jp)

鈴木氏の少子化対策の視点での提案とベーシック・ペンションとの違い

短期的取り組みにしても、中長期取り組みにしても、個々の政策ごとに、投入する財源の効果を実証することは不可能といってよい。
出生率をめぐる欧米の成功例と推定する成功要因を持ち込んでみても、その背景にある社会保障制度・税制、労働法制などの違いを論じることにより、反対に、問題や要因の本質は、ぼやけて曖昧になってしまうだろう。
また、現金給付や現物給付の支給条件を設定することで、その費用や保険料負担に公平感が失われること、所得再分配論に不満が高まることなど、合意形成が一層困難になることは、これまでの経験でだれもが知るところだろう。
結局、財政規律主義や税と社会保障の一体改革などのあいも変わらぬ議論や主張は、根本的・抜本的な改善・解決を諦めさせ、先送りにすることも経験済みである。
こうしたことから、ベーシック・ペンションでは、財源フリーの、日銀発行による専用デジタル通貨での支給を、児童手当を児童基礎年金に切り替えて実施することを提案している。
また専業主婦・働く母親、正規雇用の女性・非正規雇用の女性の別に関係なく、無条件ですべての成人男性女性に生活基礎年金を支給するとしている。
要するに、現金給付に条件を一切付けないことを方針としているわけだ。
そのことが、どれだけ少子化対策に寄与するか。
それはあくまでも期待のレベルであり、出生率向上、婚姻率向上に寄与するであろうという希望的推測の域を出ない。
高齢者には、はやり無条件で、高齢者基礎年金が支給される。
そして、このベーシック・ペンション支給のために、特定のあるいは何かしらの条件に合った人々が、保険料や税の負担が増えるということもない。
むろん、それを可能にし、安定的に管理運営・運用できるために配慮し、整備し、打つべき対策・政策は多岐にわたっていることは当然ある。
その克服のための中長期的な取り組みも提案している。
今回は、以上の基本的な話で終えることにしたい。

次回は、<経済教室>「少子化対策の視点」その2を取り上げる。

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