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2023年blog&考察

専門家もメディアも最適解を示せない少子化対策:ベーシック・ペンション導入が望まれる社会-9


一昨日
2022年の「ベーシック・ペンション導入が望まれる社会」シリーズを再開(2023/2/23)
でお知らせしたシリーズ再開。
再開シリーズ2回は、
・河合雅司氏著『未来の年表 業界大変化 瀬戸際の日本で起きること』(2022/12/20刊・講談社現代新書)
・野口悠紀雄氏著『2040年の日本』(2023/1/20刊:幻冬舎新書 )
の2冊を参考にしての記事。
(最後のシリーズ記事リストにあります。)

今回は、2023/2/20付日経の「子ども給付、増額の勘所」と題した<複眼>欄掲載の4人の専門家へのインタビュー記事を参考に考えます。
(参考)
⇒ (複眼)子ども給付、増額の勘所  公教育改善、優先度高く 慶応義塾大学教授 中室牧子氏 :日本経済新聞 (nikkei.com)

テーマ「子ども給付、増額の勘所」設定のセンスの無さ

今回の<複眼>欄のテーマは、「子ども給付、増額の勘所」。
以下の問題提起から始まり、4人の専門家へのインタビューで構成される。
原文そのまま、転載させてもらった。

子ども向け給付の増額をめぐる議論が熱を帯びてきた
2022年の出生数は77万人程度まで落ちこむ見通しで、少子化の加速に対する危機感が背景にある。
中学生以下を対象とする児童手当の増額や所得制限の廃止が論点となる中、実効性や財源にも注目が集まる。
政策設計のあり方を有識者に聞いた。

⇒ 熱の帯びかたが、ちょっと違うのだが、と思うが。
  少子化加速に対する危機感というが、危機感のレベルが示されることはなく、非常に感覚的な問題提起であることは毎度のことだ。
  そして日経の常套・常用表現、「実効性や財源」への注目の集まりが示される。
  それらを前提とした議論では、行き着くところ、決定的な政策はまとめられないし、財源は、増税か社会保険料の増額となる。
  増税においては、なぜか富裕層から重点的に徴収する方法は取られず、幅広く、となるだろう。
  社会保険料の方は、高齢者負担が給付サービスの自己負担を含め増えることで、全世代型社会保障制度の実現という目眩まし策を取ることも常套手段である。
  こうしたいちゃもんを先行させ、先入観をもって4人のインタビュー記事に臨むのは構成ではないかもしれないが、(影の声)は、⇒ の後に私の独り言( monologue ならぬ Onologue )として、メモしていくことにしたい。


中室牧子慶大教授インタビュー要約と影の声

同氏の専門は教育経済学。教育環境と学力の関係など様々なデータを使って分析し、政策提言に生かしている、と紹介されている。
私の手元には、よく知られている『』がある。

小見出しは「公教育改善、優先度高く」

・児童手当の所得制限はなくてもよい。
・ドイツに高学歴・高所得女性への手厚い経済的支援が出生率改善に繋がったという研究がある。
⇒ 部分的な事例で、全女性についてはどうなのか不明。
制限の撤廃にかかる費用も1500億円ほどだが、給付額の拡充や支給年齢の引き上げには数兆円規模の財源が必要になるゆえ、議論が必要
・所得制限に終始するのは矮小化した議論
⇒ 財源規模の大小で議論の大小が決まるというのは、分かるような分からないような・・・
  矮小化というよりも必要な議論を後回しにしただけのこと
現金給付を増やす前に必要なのは公教育の改善
⇒ 増やしつつでも、増やした後でも必要では? 長い取り組みになるでしょう。
が増え続けている。
・教育に関心のある親が公立学校の質に満足できず、塾や私学にかける費用を補完している
・そういう状況で現金給付を増やしても塾や私学にお金が流れるだけで、2人目3人目を増やそうとはならない
・東京都の私立中学学費10万円補助事業検討は完全な悪手。私学が学費を上げ家計の負担は減らない。
⇒ こうした民間のやり方は、介護や保育事業でもみられる。
・公教育の改善策の要は教員の質で、レベルの高い人にしっかり入ってきてほしい。
・待遇の悪いところに良い人は来ないので改善が必要で、単なるばらまきよりもはるかに良い。
⇒ こう断言するのは、現場で頑張っている人たちに悪いし、モティベーションを下げることに気づかないのか、その神経を疑う。
⇒ 教員の働く環境、条件の改善に話が向かないのは、何か理由があるのだろうか?
・7人に1人の子供が相対的貧困にあるなか、質の高い公教育は格差の縮小にもつながる。
・その子たちが将来、就労して納税者になれば社会として恩恵を受け、投資リターンは大きい。
⇒ そういう側面、副次的効果はあるにしても、子を持ちたい人々の動機とはならないだろう。
・子育て政策はころころ変わってきた。政権が代わっても続く財源と制度をつくってほしい
⇒ この指摘だけは、絶対的に支持できる。「ほしい」ではなく、マストなのだ。
・現金給付にせよ教育改善にせよ、恒久的な財源が大事だ。
・社会保険からの拠出が浮上しているが、消費税など恒久財源について議論しないのはなぜ
・現役世代だけでなく高齢者世代にも負担してもらうことが重要
あらゆる選択肢を検討してもらいたい。
⇒ その「あらゆる選択肢」を、中室氏も専門外のこととせず、どのようなものになるのか、機会があれば示してほしいものだ。

松田茂樹中京大学教授へのインタビュー要約と影の声

家族社会学が専門の同氏は、岸田政権の少子化対策会議にも提言しているとのこと。
これまでに日経<経済教室>への執筆もある。

小見出しは「児童手当拡充、消費税で」

・結婚しない、子どもを持たないという主体的な個人の選択を尊重すると、3人以上の多子世帯が一定割合いないと人口を持続させることは困難
希望する家庭が、希望する人数の子どもを持てるようにする必要
結婚したいけれどできないという未婚化の一番の要因は雇用
・20代後半~30代前半の年収300万円を下回る男性の結婚確率が明確に下がる
・子ども数を抑える要因では、子育て・教育にかかる経済的負担の重さが最も大きい
・世帯主の年代別世帯1人あたり平均所得は30代が一番少なく、バブル崩壊前より明確に悪化し、高齢者の世帯を下回る
大学進学者が増えて教育費はより重くなった
⇒ 増えて負担が重くなった、というのは総体的な話で、個々の世帯での議論は別ではないかと。
  ベーシック・ペンションは、すべての個人に支給されるため、大学進学者の支援そのものを実現。
・保育サービスなどの現物給付を急速に拡充させ、家族関係社会支出のGDP比は2020年1.26%と英仏並みになったが、他方、現金給付は0.75%と両国の半分以下
⇒ 私は、GDPを用いての比較論は好みません。問題は、支援を必要とする人々にどのような支援が行われているかということ。まずそれを明らかにすべきでは。
・少子化対策には現物給付と現金給付の両輪が必要
子どもをもう一人持つ意欲を高める効果が最も大きいのは児童手当の増額
・女性には同一労働同一賃金なども効果があるが、児童手当はそれらを上回る。
⇒ こういう比較が必要なものか、有効有益なものか、疑問。
・児童手当は多子世帯に手厚くし、所得制限はないのが望ましい
・高所得者を除くと、同じ所得なら子どもを育てない方が経済的に有利になる
これは次世代を生み育てていく社会の姿ではない。
財政的に制限が必要なら、夫婦の合算所得が1000万円より多い世帯を外す方法はありうる。
少子化対策の財源は消費税が適切
⇒ とはいっても、財源の規模次第では、相当の消費税率アップが必要になるのでは?
社会の仕組みを持続させるためのものなので、国民全員が負担するのが望ましい
・比率が高い高齢者や結婚・出産を選ばない人も子どもを産み育てる人を応援するために負担を。
⇒ 松田氏の今回の提案の中では、唯一引っかる内容・表現。子どもは社会のためのもの?
・これがないと子育てしないほうが経済合理的な社会になりかねない
⇒ 子どもを持ちたくないという人々すべてが経済合理性からその生き方を選択しているかのように言うのは適切ではないと思うが?

結局消費税を財源とすべきということになるが、他にも財源を消費税でという議論も今後出てくるだろうし、そのときどうするのだろうか。
なお松田氏は、過去の<経済教室>でも執筆しており、後述もするが、その小論について、以下の記事を投稿したことがある。
⇒ 究極の少子化対策、総域的支援の意味と現金給付の適正額は?:日経経済教室「少子化に打つ手はないか」から考える-1(2022/7/14)
私も一応<家族社会学>を選考とした者であり、松田氏の主張提案には同調するところが多い。

熊谷亮丸大和総研副理事長へのインタビュー要約と影の声

同氏は、経済調査・政策調査・金融調査専門で、岸田内閣の官房参与を務めている。

小見出しは「在宅育児にも目配りを 」

日本はこれまで仕事と子育ての両立に力を入れてきて、待機児童数はほぼゼロに近くなった。
正規で働いている女性の粗出生率は2010年から20年にかけて上昇したが、非正規や専業主婦では低下している。
⇒ 見方・捉え方が極めて限定的で、それも10年間に亘ってのデータを引っ張り出してのもの。全体へのその影響度がどの程度のものか、数字で示さない(示せない?)言い方は悪いが、卑怯な方法だ。
・今後必要になるのは0~2歳の子の在宅育児を希望する再就職者や、専業主婦への支援
在宅育児の世帯に対する現金給付や一時預かりなどの現物給付を拡充し、多様な子育てに対して網羅的な支援をすべき
⇒ これも独断的で、自分の主張を押し通すための強引な方法。
  なんとなく性別役割分業支持者の視点のように感じられる。
・児童手当は年間約2兆円の支出がなされており、一律の増額には巨額の財源が必要になり、その費用対効果は検証しなければならない。
⇒ 巨額のレベル自体曖昧だし、費用対効果検証を求めるとすれば、政府の財政政策すべてに求めるべきであろう。そう考えると、児童手当だけの問題ではなくなるのだが、そういう認識をもっているだろうか。
・所得制限の撤廃も慎重に考える必要がある。
・多子世帯加算はあってしかるべき。
・支給年齢の引き上げよりは低年齢期の支援を手厚くすべき
・給付型奨学金など教育費支援の所得制限の引き上げも、新たに支援対象となる世帯は少なくなるので、進学率向上などの効果が小さくなるため慎重に進めるべき
⇒ インタビューなので、思いつくままを述べている感が強い。これを繰り返していくと、いずれすべてに支援が必要となるはずだが、なんとか広がりを止めたいということだろうか。
・日本の育休制度は世界でもトップクラスだが、運用面に課題があり、男性の育休取得率は現在約14%。2025年取得率30%の目標達成をめざすべきだが、将来的には取得義務化の必要も
⇒ 前後の脈絡を考えると、なにか取って付けたように感じられるのだが。
少子化の主因は若者の婚姻減少
⇒ 当たっているが、主因の一つであって、その前提でどのようにして取り組んでいくかを考えるわけだ。
正規と非正規の生涯年収の格差が結婚の格差につながる。
・児童手当などの現金給付とともに、雇用制度の是正や働き方改革も進める必要がある。
⇒ この2つの発言は、内閣官房参与のものとしては、非常に重要なものといえ、是非とも「異次元の少子化対策」に繋がる政策の提出に繋がることを期待したいものだが、果たして???
・少子化対策は恒久的政策であり、拡充には恒久的な財源が必要になる。
・岸田政権が「消費税には手をつけない」とするため、社会保険から拠出の連帯基金は、税よりは負担増への国民の理解も得やすく、検討に値する。
⇒ その内容がまだ明らかにされない状況ではなんとも評価しづらいが、どこまで議論と現実化が進められるか、注目したい。
・少子化対策は将来的な社会保険財政の安定にも寄与し、被保険者にも恩恵がある
⇒ なにを根拠に、将来的な社会保険財政の安定化に寄与すると言えるのか、非常に疑問である。
  将来とはいつ頃を想定しているのか、財政安定化とはどのレベルのものか、曖昧なままの見通しは、いい加減なものでしかない。

岸田内閣官房参与である人物にインタビューすること自体、多少疑問を感じるのだが。
であれば、当然政府寄りの考えに偏るだろうし、公平な立場や現場に近い感覚での発言は期待できそうもないゆえ。
だが、雇用と賃金格差に踏み込んだ発言は評価できる。
その具体的な改革についての議論を進めてほしいものだが・・・。

天野妙みらい子育て全国ネットワーク代表インタビュー要約と影の声

同氏は、待機児童問題等市民団体を立上げた人で、3児の母。女性活躍推進等コンサルティング会社代表も務める。

小見出しは「所得制限、幅広く撤廃 」

・児童手当の所得制限は撤廃が必要
・年齢が高くなるにつれ、年収も高くなるのが一般的で、子を持つのが遅くなったばかりに支給対象外となる人は多いだろう。
⇒ その傾向が低くなってきているのが現状と思うのだが。
・高齢出産の高所得世帯が厳しい状況に追い込まれている例は多いとみている。
⇒ 他の要因で厳しい状況に追い込まれている人の方が、絶対数では多いと思うのだが。
・財源問題をクリアできず、所得制限が必要となっても次善の策として、基準年収を少しでも超えれば0円支給という「崖」を改める検討を。
年収の崖の境界にある世帯にとっては死活問題で、基準を超えたら徐々に支給が減る制度を。
⇒ 最低時給の引き上げや、今春の非正規雇用者の賃上げにおいて必ず問題になる「106万円の壁」「130万円の壁」問題への対策提案だが、なぜかこうした提案・議論はメディアでもあまり行われてこなかったのが不思議である。
・児童手当は、昨年2022年秋に年収1200万円以上世帯向けの特例給付がなくなったばかりで、今の議論はそれが元に戻るだけの話。
⇒ 一貫性のない政治の実態である。
・高校無償化なども含め、支援にかかるさまざまな所得制限の撤廃を考えるべき。
⇒ 規制緩和とそれによる行政の簡素化、という側面も評価すべきことは言うまでもない。
  ところが、政治の場での規制緩和は、まったく逆の方向を向いてのものであることの方が多いのだ。それが徒に非正規雇用を増やし、賃金の低下や格差拡大、そして経済成長を妨げた要因となったことを認めるべきだろう。
手当支給は少子化対策のメニューのひとつにすぎず、もっと大胆な政策が要る。
教育費負担軽減が大きなポイントで以下の制度・政策を
 ※公教育の質の向上
 ※子どもがいる親の「可処分時間」を増やす政策として、現物給付の家事支援サービス利用支援
 ※全ての労働者の法定労働時間を6時間に。但し年収が下がらないことが条件
⇒ 当初のベーシックインカム導入論においては、1日の労働時間が3時間で済むようになるともされたという。
  それは夢物語に終わったが、ベーシック・ペンション導入となれば、就労時間の削減は、個人の希望に準じて行うことが可能になる。
・1月の日経の世論調査では、子ども関連予算のための負担増について「増えてよいとは思わない」が過半数を占めた。
・少子化対策の意義や負担方法を具体的に示さないままでは不安が先行するのは当然で、議論を広げていくことが大切だ。
⇒ いくら議論を広げたところで、絶対的に効果を生み出すことができるという政策をまとめるのは厳しいだろう。
 また、財源問題を増税と社会保険料負担・自己負担の引き上げが不可欠となれば、そして財政規律が絶対条件となれば、議論の勢いも広がりも弱まることは間違いないだろう。

 まあそもそも、「子ども給付、増額の勘所」というテーマでの論述と文字数制約では、「議論を広げるべき」とか「あらゆる選択肢の検討を」という提案で締めくくるしかないのは無理からぬところではあるが。

アンカー氏による専門家発言総括の要約

「専門家もメディアも最適解を示せない少子化対策」を当記事の見出しにした。
といっても、政治家や行政にはそれができる、などというものではまったくないことに説明の必要はない。
与党も野党もさしたる違いはない。
上記の4人の専門家の意見をすべて採用することは当然ムリだが、すべてを参考にして、良いとこ取りの政策を提案することも、結局、狭い範囲でのものに限定され、理想とは遠ざかるばかりだろう。
専門家の要約には、一言添えたが、メディア日経のアンカー編集氏の要約も、以下示した。

小見出しは「効果最大化へ財源論を急げ

3氏の児童手当の所得制限撤廃支持について
・現状の年収制限ラインは少子化対策の効果追求に基づく設定ではない。
・広く配った方が効果が大きくなるという指摘は理解できる。
実際の制度設計では、財源との見合いで最大限の効果が期待できる配り方を選択するしかない
・財源限定時「薄く広く」「多子世帯に手厚く」どちらが良いか。
・投入財源規模により給付対象者を絞りメリハリをつけた方が効果が大きい場合もある。
・所得制限撤廃論先行では、後戻りできずに効果の薄いバラマキに終わってしまいかねない。
・制度議論深化には財源の検討を急ぐべき
少子化対策が使途の一つと定められている消費税の議論を封印すべきでない。

日経<アンカー氏>のアンカーへのアンガー、プラス少々の全体総括

婚外子を社会的、ご近所的、地域社会的に積極的には認めず、初めに結婚ありきが一つの文化として形成されている日本では、そうした意識の転換・変革を早急に求めることは極めて困難。
これをある程度は自然に認める風潮、そして文化にまでするには、婚外子の親や片親世帯への支援を厚くし、安心して子どもを持つこと、安心して子どもを養育することができる社会とすることにより、と考える。

4人の意見を集約し、そのすべてを実現しようとすると、結局普通の少子化対策は、従来どおり総合的なものとなり、専門家が求めるデータでその効果を検証することなど、かえって遠のいてしまうことは、これまでと同様である。
まして、財源問題がその縛りになるという前提での議論は、結局、少子化対策に限らず、ほとんどすべての社会保障制度改革における問題と同根であり、中途半端な結果・結論に終わることも、やはり過去を繰り返すことになる。
「異次元の」という枕詞は、最初に気を引くためのだけのもので、過去の政権が好んで用いたスローガン政治と同様、しっかりとした考えや構想や財源論への回答を準備してのものでないことと、言った結果になんの責任も取らないことも、私たちは、繰り返しみてきた。

そもそも、子どもを持ち育てるという個々人の営みは、国の将来を支える財源確保のための働き手・担い手を確保する「安全保障」政策と直結するというものでは本来あるまい。
それは、戦時体制における「産めよ、増やせよ」と同質のものだろう。
また、子どもへの現金・現物給付支出の効果を検証すべき、という議論も、その延長線上にあるもので、そこで用いられるデータで示された効果や効率とやらは、結局多数決、構成比の論理で用いられることが多く、いわゆる多様性や民主主義を重んじる学者に、EBPMを主張する人が多いことに、日頃から疑問を持つことは、これまでも再三再四述べてきた。

4人の意見を集約する意味での<アンカー>氏のまとめ方などは論外のもので、経済合理主義に基づく日経の本質を表している。
比較的に経済的に恵まれている人の意見を代弁した、随分あっけらかんとしたものだ。
実際の制度設計では、財源との見合いで最大限の効果が期待できる配り方を選択するしかない。」
「最大限の効果」とはどのレベルのもので、どのような方法で検証するのか?
こう問いたいが、逃げはきちんと?用意されている。
「効果が期待できる」と。
そうあくまでも、期待であり、願いであるのだ。
そもそも、一つの要素が出生率向上にどれほど貢献できたかを分析検証しても、それで変化する数値は、0コンマのあとゼロがいくつもついた後の数字程度のもので、0.いくつのレベルになるまでは、5年、10年と何年も後のことになるだろう。
「多子世帯に厚く」を推奨しているようだが、多子世帯どころか、結婚したくてもできない人々が多いという問題などそっちのけである。
今回の回答にもあるように、専門家各氏がようやく最近主張するようになった、正規・非正規雇用問題と賃金格差問題の改善・解決が並行して行われなければ、3人以上の子どもを持つ世帯の増加があっても、数字で検証できるレベルには至らないだろう。
アンカー氏の依拠する経済合理主義が、こうした雇用問題や格差問題の根源であることなど、まったく意に介していない不合理さと無神経さには、本当に感心してしまうのだ。

2022年6月<経済教室>「少子化に打つ手はないか」を考えるシリーズ

実は、2022年6月下旬に、同様日経<経済教室>で「少子化に打つ手はないか」というテーマで3人の小論が掲載され、他サイト https://2050society.com で以下のシリーズ記事を掲載しています。

<第1回>:究極の少子化対策、総域的支援の意味と現金給付の適正額は?:日経経済教室「少子化に打つ手はないか」から考える-1(2022/7/14)
<第2回>:こどもは公共財か、社会の覚悟で少子化は改善できるか:日経経済教室「少子化に打つ手はないか」から考える-2(2022/7/17)
<第3回>:実らぬ少子化対策総動員。働き方改革策の限界は明らか:日経経済教室「少子化に打つ手はないか」から考える-3(2022/7/20)
<第4回>:共働き世帯を基準とした少子化対策の限界:日経経済教室「少子化に打つ手はないか」から考える-番外編(2022/7/23)
<第5回>:ぶれる育児支援政策、10月支給分から児童手当61万人対象外に:日経経済教室「少子化に打つ手はないか」から考える-番外編その2(2022/7/25)

そのテーマは、同年6月に公開された2021年人口動態統計で、出生率1.30、出生数81万人余と発表されたことを背景としたもの。
その<第5回>の記事のタイトルに「ぶれる育児支援政策、10月支給分から児童手当61万人対象外に」とあります。
現在、支給対象の所得制限をなくす云々という議論は、こうしたブレブレの政策の迷走とこれからの世代と社会のあり方を巡る根本的な政策をしっかり定めることなく徒に時間を費やしている政治の欠陥によるものと分かります。

すべての国民に無条件で、平等に支給するベーシック・ペンション制が、すべての社会保障制度改革の起点

昨年そして今年の少子化対策を巡る日経<経済教室>での課題化は、それらの内容を何度読み返しても、子育て支援という一言で議論しても、中室氏が簡単にいうようなすべての選択肢が示されるわけではありません。
それらの議論の中で出てくるのは、出産・子育て支援、結婚したい人々・子どもを持ちたい人々への経済的支援、所得格差是正、進学・就学希望者への支援を必要とするさまざまな人々です。
そしてそれらの支援を担う保育士、教員、地域NPO法人、そして地方自治体などの専門スタッフも何らかの支援を必要としているのです。
児童手当の所得制限がどうとか、現物給付と現金給付をどうするとかいう議論と同時に、関連する業務フロー、業務プロセスに関わる内容なども並行して論じる必要があります。
いうならば、<経済教室>レベルの文字数で、網羅的にその対策・解決策を論じることそのものに限界があるのです。
ベーシックインカム、ベーシック・ペンションは、ともすると金額と財源、そしてインフレ懸念等の問題のみに評価と反論が向けられます。
しかし、ベーシック・ペンションは、社会保障改革の基軸とし、併せて労働制度や財政制度の改革にも踏み込んだ提案・提言を含むものです。
それらの取り組みには、非常に時間・年数を必要とし、それらの議論・検討を通じて、長期間ぶれない政策を形成・合意することをめざしています。

以下に、現状におけるベーシック・ペンション案の記事リストを掲載しています。
しかし、本稿の後、2023年案の整理・取りまとめ・提案作業に入る予定です。
下記記事での内容も、一部改訂・更新することになります。
またその都度、確認頂ければと思います。
宜しくお願いします。

参考:「2022年ベーシック・ペンション案」シリーズ

<第1回>:ベーシック・ペンション法(生活基礎年金法)2022年版法案:2022年ベーシック・ペンション案-1(2022/2/16)
<第2回>:少子化・高齢化社会対策優先でベーシック・ペンション実現へ:2022年ベーシック・ペンション案-2(2022/2/17)
<第3回>:マイナポイントでベーシック・ペンション暫定支給時の管理運用方法と発行額:2022年ベーシック・ペンション案-3(2022/2/18)
<第4回>:困窮者生活保護制度から全国民生活保障制度ベーシック・ペンションへ:2022年ベーシック・ペンション案-4(2022/2/19)


「ベーシック・ペンション導入が望まれる社会」シリーズ記事リスト

<第1回>: 2022年2月生活保護受給164万世帯、現役世代も増加:ベーシック・ペンション導入が望まれる社会-1(2022/5/16)
<第2回>:生活保護世帯の子どもの進学率に地域格差:ベーシック・ペンション導入が望まれる社会-2(2022/5/17)
<第3回>:コロナ禍、目立つ低所得層の子どもの医療機関受診減少:ベーシック・ペンション導入が望まれる社会-3(2022/5/18)
<第4回>:コロナ禍の「生活福祉資金の特例貸付」利用者が返済不能に:ベーシック・ペンション導入が望まれる社会-4(2022/5/19)
<第5回>:平均年収443万円に含まれた多様な格差要因:全世代共通に広がるベーシック・ペンション早期導入ニーズ-1(ベーシック・ペンション導入が望まれる社会-5)(2023/1/12)
<第6回>:突出する日本の生涯無子率が示す結婚困難要因:全世代共通に広がるベーシック・ペンション早期導入ニーズ-2(ベーシック・ペンション導入が望まれる社会-6)(2023/1/14)
<第7回>:ベーシック・ペンション実現のための近未来の年表を描く:ベーシック・ペンション導入が望まれる社会-7(2023/2/24)
<第8回>:インフレ抑止に不可欠な供給力向上と技術革新:ベーシック・ペンション導入が望まれる社会-8(2023/2/25)
<第9回>:専門家もメディアも最適解を示せない少子化対策:ベーシック・ペンション導入が望まれる社会-9(2023/2/26)

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