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貨幣の本質とベーシックインカムに関係はあるか:島倉原氏著『MMTとは何か』から考えるベーシック・ペンションー2

財源・財政・金融・インフレ問題とMMTを関連付けてベーシックインカム、ベーシック・ペンションを考察するシリーズ-Ⅱ

前回から、【『ベーシックインカム×MMTでお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション】シリーズ(記事リストは最後に掲載)に続いて、
島倉原氏著MMT〈現代貨幣理論〉とは何か 日本を救う反緊縮理論』(2019/12/10刊・角川新書)を参考にした、【島倉原氏著『MMTとは何か』から考えるベーシック・ペンション】シリーズを始めている。
<第1回>:ベーシックインカムとMMTの誤解・無理解をどう克服するか:島倉原氏著『MMTとは何か』から考えるベーシック・ペンションー1(2023/7/5)

『MMTとは何か』から考えるベーシック・ペンション-2

前回<第1回>に続き、最後に掲載した本書の全体構成に従い、今回から「第1部 MMTの貨幣論」に入り、<第1章 貨幣の本質>を取り上げる。

経済理論としてのMMT、2つの組み立て

MMTは、
1)貨幣や財政、経済全体の仕組みが「どのようなものか」を解明する説明的部分
2)そうした現実を前提として、経済政策が「どうあるべきか」を提言する規範的部分
からなる経済理論とまず説明。
「第1部 MMTの貨幣論」を構成する3つの章<第1章 貨幣の本質><第2章 預金のメカニズム><第3章 主権通貨国における政府の機能>が、前者1)に当たる。

第1部 MMTの貨幣論
第1章 貨幣の本質

・貨幣の定義
・貨幣に関する3つの機能と「計算貨幣」
主流派経済学は「商品貨幣論」
・商品貨幣論の問題点(1)論理構造の欠陥
・商品貨幣論の問題点(2)物々交換経済の不在
・商品貨幣論の問題点(3)「貴金属硬貨=効率的な交換媒体」論の非現実性
・MMTは「信用貨幣論」
・「割り符=貴金属硬貨の代用品」はありえない
・貴金属硬貨も債務証書の一種だった
・「貨幣国定学説」と表券主義
・租税が貨幣を動かす
・国定貨幣=国家を債務者とする特殊な信用貨幣


上記の第1章構成を以下のように整理して要点を確認し、感じた点のメモを加えていく。

貨幣の定義

1)貨幣:現金及び銀行預金など決済手段として用いられるモノ
2)通貨:貨幣のうち政府(中央政府および中央銀行)が発行するもので、現金および中央銀行当座預金
ここでは、これ以上深く掘り下げようがないし、必要もないと感じる。
次に、本章のテーマである、2つの経済学における貨幣の見方・理論の違いを。

主流派経済学の商品貨幣論、MMTの信用貨幣論

1)主流派経済学における「商品貨幣論」とは
原始的な社会の取引は物々交換で行われていたが、それでは何かと不便だったため、それ自体にモノとしての価値がある「商品」が、便利な交換媒体(=貨幣)として用いられるようになった。
・貨幣の起源を素材としての価値に求め、「貨幣=交換に用いられる財」と捉える考え方
2)MMTにおける「信用貨幣論」とは
・物々交換市場は存在しなかったとするMMT
・貨幣の起源を「貸し借り」の関係に求め、貨幣=支払い手段として用いられる「債務証書」として捉える考え方



両派の学者にとっては、どちらが正しいかが絶対的に重要なのだろうが、私には、どちらも正しいし、どちらかを絶対のものとする必要性はない気がするのだが。
当然、MMTによる「商品貨幣論」批判には、彼らなりの論拠があるわけで、次の同論の3機能が対象となる。

主流派経済学の「商品貨幣論」における3つの機能

1)交換媒体(medium of exchange)機能:モノやサービスの売り手に対して提供することでそれらと交換できる、モノやサービスの購入を可能にするものとして
2)価値の貯蔵手段(store of value)機能:モノやサービスの購入に備えて「貯蔵」しておくことが可能であり、資産のストックの性質をもつものとして
3)計算単位(unit of account)機能:モノやサービスの価格を設定したり、負債を記録したりする際の単位、経済的な取引を測るときの尺度として

そうだろうし、特に問題はないと受け止めるのだが、MMTからすると以下の3点が問題であると。

主流派経済学による商品貨幣論、3つの問題点

1)理論的問題点:論理構造の欠陥
1971年の米ドルと金との兌換が廃止されて以降、世界のほとんどの国で不換紙幣が価値を認められて流通している。
その理由について、商品貨幣論による説明が説得力に乏しいことを、理論上、論理的な問題と、マンキューの論述を引き合いに出してまず指摘する。
2)実証的問題点①:物々交換経済の不在
歴史的事象の観察から導かれたというより、実証的裏付けを伴わないまま、物々交換ありきの推論として成立したに過ぎない。
これが、仰々しく<実証的問題点>として挙げられた理由の一つ。
その推論が、MMTの「貸し借り」関係の実証とやらとどれほどの違いや断固否定すべきこととして重要性があるものか、門外漢には理解しがたいところだ。
3)実証的問題点②:「貴金属硬貨=効率的な交換媒体」論の非現実性
もう一つは、「商品貨幣の代表的存在とされる貴金属硬貨は、取引コストの節約のために導入された」とする論理、理論が、非現実的だというもの。
しかし、その根拠として示しているのが、時代や発行主体の多様性とそのための交換媒体としての安定性・効率性を欠いていたこと。
一時的に、特定の社会や環境条件においてそうと認められたものであれば、それも一つの現実であったと評価・実証してもよいのではと思うのだが。
理論とは、一旦形成されれば普遍的・絶対的なものとすれば、MMTそのものも、すべからく唯一無二の絶対理論と断定できるものかどうか、疑わしい。
もしそうなら、主流派経済学は、とうに衰退しているはずだから。

以上の問題点の指摘を受けて、MMTの正しさを以下の観点から論証している。

MMT信用貨幣論の論証

1)MMTの起源である、債務証書の走りとしての「割り符」
中世ヨーロッパの商取引目的で、購入額を示す刻み目を付け、買い手の名前、取引日付を記入し、刻み目中心で分割され、切り離されて使用された2つの木片を、売り手と買い手に渡した「割り符」。
これは「債権」「債務」当事者間における決済手段として用いられ、加えて、「譲渡、売買が可能なて証券」として流通していたことを示し、信用貨幣論を取るMMTの正当性・妥当性の論拠としている。

また、割り符が、貴金属硬貨の代用品すなわち商品貨幣としての機能を持つものという見方に対して、それが、貴金属硬貨よりも古くから存在していたことを理由に否定する。
しかし、歴史的事実の順序が理論の絶対条件とされることには違和感を感じる。
先行した歴史が、後世・現在に至っても持続・継続し、システム化されたわけではないのだから、実証の妥当性・正当性を比較する基準としては、果たしてどうなのか。
こうした疑問に対してのことではないが、貴金属硬貨も債務証書の一種だったことを認める記述も付け加えている。
要するに、一つに断定できず、多面的な機能・要素をもつ貨幣の性質・本質をめぐる考え方を並記していることになるわけだ。

2)債務の計測単位・計算単位としての「貨幣国定学説」と表券主義
貨幣をめぐる議論が、特定の地域や社会、特定の時代に限定して進められるなか、必ず国家概念の下での貨幣論にたどりつくことになる。
そこで提示されるのが、ケインズの貨幣観に影響を与えたとされる、クナップの『貨幣国定学説』。
そして彼が、貨幣を表現するに当たって用いた「表券的(chartal)」という造語から生まれた、貨幣が法制あるいは国家の創造物であるという「表券主義(Chartalism)」を紹介。
この考えを受け継いで、MMTは、現代的な文脈で「新表券主義(Neo-Chartalism)」として再構築。
その論拠として、文明化以前の部族社会の慣習がそのルーツであり、古代オリエント文明や西洋文明の初期の計算貨幣が、小麦・大麦など主要食料の測定単位由来であることを取り上げる。
しかし、これも私には、実証されたものというよりも、歴史の断面を切り取って、つぎはぎした程度のことにしか思えないのだが。

3)租税が貨幣を動かす
国家がいよいよ出てきたことから、次に「租税」と貨幣との関わりが、MMTの信用貨幣論の重要要素として取り上げられることに。
・国家がまず、租税の大きさを測る単位として計算貨幣を創造する
・計算貨幣に基づいて、国民に対して納税義務を課す
・計算貨幣で表示された国家貨幣=自国通貨を発行し、租税の支払手段として受け取ることを約束する
・民間も含め、ほとんどの債務や資産、モノやサービスの価格が計算貨幣で表示され、それらに関わる取引の決済手段として自国通貨が用いられるようになる
以上のメカニズムを「租税が貨幣を動かす」と表現する。

そして、このメカニズムは実証されているとして、その説明を縷々述べているがここでは省略したい。
租税論は、ベーシックインカムやベーシック・ペンションとの関係では、その財源として税が第一の対象として検討されることから、重要なテーマである。
しかし、ここではその議論は時期尚早なので、上記の確認にとどめ、以下の本章最後のテーマの確認に進もう。

4)国定貨幣は、国家を債務者とする特殊な信用貨幣
素材価値とは無関係に国家が法的に定める国定貨幣は、商品貨幣とは異質なもの。
支払手段として受け取るという国家の法的な約束=債務の存在を示す債務証書ゆえ、それは信用貨幣。
但し、通常の債務の場合、債務証書を提示した債権者に対して、債務者が何かを引き渡すことで履行は完了。
一方、債務証書である国定貨幣を債務者である国家に提示しても、債権者=国定貨幣所有者が国家に対して負っていた債務が消去されるだけで、国家から引き渡されるものは何もない。
すなわち、国定貨幣は特殊な債務証書と言え、元来債務証書という本質を持つ信用通貨が表券主義と結びつくことで、現代の通貨制度の原型が、(MMTやケインズによれば4000年以上前に)でき上った、と。

5)市場経済発展の前提条件としての信用貨幣たる国定貨幣
このことから、MMTにおいては、税金など国家に対する債務を抱えた多数の人々の存在が、国定貨幣に対する需要を絶えず生み出し、債務証書による信用取引の背景に、国定貨幣を入手しようというニーズが存在するという二重の意味で、現代にいたる市場経済発展の前提条件が整備拡大してきたということになる。

<第1章 貨幣の本質>から考える、ベーシックインカム及びベーシック・ペンションと貨幣の本質との関係

率直なところ、「貨幣の本質」をめぐる主流派経済学とMMTの貨幣論を比較・評価することが、ベーシックインカムやベーシック・ペンション考察・提案に何か直接的に関係する、あるいは影響を与えるとは考えられない。
しかし、間接的に関係づけて思い浮かぶ点はある。
ベーシックインカムが法定通貨で給付される場合、本章における貨幣の機能や性質は、ほぼ無条件で確認できる。
しかし、ベーシック・ペンションは、専用デジタル通貨で支給し、かつ利用方法に制限・条件があること、一定期間内に消費し、貯蓄・委譲できないこと、特定の条件以外は、一般の法定通貨への交換もできないことなど、今回の理論には当てはまらないという問題がある。

また、一応、MMTをベーシック・ペンション導入・実現のための財源面での考察の根拠として検討したいと思っている立場からは、やはり現状では間接的だが、「租税」と貨幣の関係を、「税」とベーシック・ペンション専用通貨発行との関係と読み替えて、いずれ論じることになると想定される。
そう考えると、本書を構成に従い追っていくほど、ベーシックインカム、ベーシック・ペンションと関係づけうる機会が増えてくるのではと期待している。

ということで、次回<第2章 預金のメカニズム>は、今回よりも興味深く読むことができるのではと思いたい。

MMT<現代貨幣論>とは何か 日本を救う反緊縮理論』構成

序章 MMTはなぜ注目されているのか
・MMTブームに火をつけた女性政治家
・有力者による批判の的となったMMT
・日本にも波及したMMT論争
・MMTサイドからの報道や議論
・本書の目的と構成
第1部 MMTの貨幣論
第1章 貨幣の本質

・貨幣の定義
・貨幣に関する3つの機能と「計算貨幣」
主流派経済学は「商品貨幣論」
・商品貨幣論の問題点(1)論理構造の欠陥
・商品貨幣論の問題点(2)物々交換経済の不在
・商品貨幣論の問題点(3)「貴金属硬貨=効率的な交換媒体」論の非現実性
MMTは「信用貨幣論」
・「割り符=貴金属硬貨の代用品」はありえない
・貴金属硬貨も債務証書の一種だった
・「貨幣国定学説」と表券主義
・租税が貨幣を動かす
・国定貨幣=国家を債務者とする特殊な信用貨幣
第2章 預金のメカニズム
・預金も信用貨幣の一種
・通貨供給が貸出と預金を生み出す ー 主流派経済学は「外生的貨幣供給論
・中央銀行はマネーストックを制御できる ー 主流派経済学の「貨幣乗数理論」
・銀行貸出が預金と通貨を生み出す ー MMTは「内生的貨幣供給論
・実務関係者が支持するのは内生的貨幣供給論
・負債のピラミッド構造
・ビットコインは貨幣か?
・ビットコインは貨幣ではない ー MMTの結論
第3章 主権国家における政府の機能
・主権通貨とは何か
・自国通貨建てであれば政府の支出能力には制限がない
支出能力に制限はないが、インフレが政府支出の制約となる
税金は財源ではなく、国債は資金調達手段ではない
・主権通貨国の財政オペレーション(1)統合政府のケース
・主権通貨国の財政オペレーション(2)中央銀行が国債を引き受けるケース 
・主権通貨国の財政オペレーション(3)民間銀行が国債を引き受けるケース
・現実に行われている「間接的な財政ファイナンス」
・中央銀行の独立性は「手段の独立性」
・政府の赤字支出は金利を引き下げる
財政赤字が非政府部門の貯蓄を創造する
・海外部門の国債保有は問題ではない
政府財政は赤字が正常
第2部 MMTの政策論
第4章 MMTの租税政策論

・「MMT=無税国家論」ではない
・租税の目的とは何か
悪い税(1)社会保障税
悪い税(2)消費税
悪い税(3)法人税
第5章 機能的財政論
「完全雇用と物価安定」という公共目的
・機能的財政と二つのルール
・機能的財政と表券主義
・機能的財政と為替相場制度
第6章 就業保証プログラム
・裁量的財政政策に否定的なMMT
・就業保証プログラムとは何か
・就業保証プログラムの3つの意義
就業保証プログラムの問題点
・就業保証プログラムの実例? ー 理論と現実とのギャップ
・ベーシック・インカムや最低賃金制度との違い
第3部 MMTから見た日本経済
第7章 日本は財政危機なのか

・クルーグマンの機能的財政論批判
・日本は非常に良い事例 ー ケルトンの反論
・財政赤字は金利やインフレ率の上昇とは無関係
・日本は財政危機ではない ー MMTと財務省のコンセンサス?
・自国通貨建て債務でも国家は破綻する? ー サマーズの批判
デフォルトや通貨危機の真の原因は固定相場制 ー MMTの結論
第8章 日本経済には何が必要なのか
・企業の過少投資が主導する日本の長期デフレ
・生産能力と人々の生活を破綻するデフレ・スパイラル
・金融政策よりも財政政策 ー ケルトンの提言
・金融政策こそ主要な政策手段 ー クルーグマンの異論
・金融政策の効果は乏しい ー ケルトンの反論
・緊縮財政こそが長期デフレの原因
・量的緩和政策は何が問題なのか
・デフレ不況を深刻化させる消費増税
・「マクロ経済スライド」は緊縮財政の産物
・機能的財政が「老後2000万円問題」を解決する
第9章 民主主義はインフレを制御できるのか
・財政の民主的統制は難しい?
・ケインズ型政策がスタグフレーションをもたらした?
・マクロな視点が欠落した『赤字の民主主義』
・民主的統制能力を示す現代の日本
・スタグフレーションには複合的対策を ー MMTのスタンス
民主主義はインフレを制御できる ー MMTのハイパーインフレ論
・民主主義の不在が招いた日本の悲劇
おわりに ー MMTをどう生かすべきか
・主流派経済学はなぜ間違えるのか
・現実とも整合的なMMT
・MMTの課題と展望
・MMTの「実践」が求められる日本
・「公益民主主義」の形成に向けて

(参考)【『ベーシックインカム×MMT(現代貨幣理論)でお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション】シリーズ

<第1回>:スコット・サンテンス氏の想いを知る:『ベーシックインカム×MMTでお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション-1(2023/5/28)
<第2回>:MMT視点での財政支出・BI支出によるインフレと課税論:『ベーシックインカム×MMTでお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション-2(2023/6/12)
<第3回>:MMTのJG雇用保証プログラムよりもBIを、という卓見:『ベーシックインカム×MMTでお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション-3(2023/6/13)
<第4回>:MMTに欠けるBI導入要件の矛盾と正論:『ベーシックインカム×MMTでお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション-4(2023/6/18)
<第5回>:MMTなくしてBI実現は不可能なのか:『ベーシックインカム×MMTでお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション-5(最終回)(2023/6/29)

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