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2020年関連図書考察

竹信三恵子氏「ベーシックインカムはジェンダー平等の切り札か」への対論(2020/11/7)

『ベーシックインカムを問いなおす: その現実と可能性』対論シリーズ-3

 今月から、『ベーシックインカムを問いなおす その現実と可能性』(法律文化社・2019/10/20刊)
を用いて、同書で問い直すべきとしているベーシックインカムについての多数の執筆者が担当する各章を対象として、私が考え、提起する日本型ベーシックインカム生活基礎年金制と突き合わせをするシリーズを始めました。

 第1回は、
今野晴貴氏「労働の視点から見たベーシックインカム論」への対論(2020/11/3)
 第2回は、
藤田孝典氏「貧困問題とベーシックインカム」への対論(2020/11/5)

 そして今回、第3回は、竹信三恵子氏担当の「ベーシックインカムはジェンダー平等の切り札か」への対論です。
 竹信三恵子さんは、元新聞記者でジャーナリスト。
『官製ワーキングプアの女性たち――あなたを支える人たちのリアル』 (岩波ブックレット)、『家事労働ハラスメント――生きづらさの根にあるもの』 (岩波新書)、『ルポ 賃金差別 』(ちくま新書)など多数の著書があります。

竹信三恵子氏の本論の視点

 BI待望論を、女性たちから聞くことが増えている。
 背景にあると考えられるのは2つの壁だ。
 まず、「家族による包摂」が揺らぎ、潜在化していた女性の貧困がむき出しの形で現れ始めたことがある。
 さらにこれを乗り越えようと労働市場への参加をめざしても、女性労働の世界では、男性以上に経済的自立が難しい劣悪な働き方が席巻している。

 だが、BIは本当にジェンダー差別を解消し、女性の自立を実現する切り札となるのだろうか
 日本の土壌のなかでのその危うさと可能性を検証してみたい。

 これが、冒頭に提示される、同氏の小論の基本的な視点・問題意識です。
 そして、女性の、家事・地域活動等における「無償(家庭内)労働」や非正規職傾斜や男性企業社会内での差別等に示される「雇用劣化」、生活保護・母子世帯適用審査等における性差別と一体化した「ミーンズテスト資力調査」などの現状を示します。
 これが、本論の「ジェンダー平等」を進める上でのBIの有効性検証の起点となるものです。

BIの優位性を主張する堅田香緒里氏の「フェミニスト・シチズンシップ」とは

 そして次に、このBI待望者として見る堅田香緒里氏による、男性中心の市民権に対置されるフェミニスト的な市民権、すなわち以下の4つの類型のフェミニスト・シチズンシップやジェンダー平等、女性の貧困解決の実現に寄与するBIの優位性も、同氏は引用しています。

1.総稼ぎ手モデル:女性が男性並みの稼ぎ手となる
2.ケア提供者対等モデル:家族内労働への評価の引き上げを通じてその価値を引き上げる
3.総ケア提供者対等モデル:男女ともにケアと賃労働を引き受ける
4.もう一つのファミニスト・シチズンシップ:シチズンベース

 加えて、堅田香緒里氏が示している<もう一つのフェミニスト・シチズンシップ>が内包する3つの優位性・有意義性の根拠も、同様に以下に転載し、確認しておきましょう。

1)労働を等閑視するBIは、労働者の地位を相対化するため、これまで労働者の地位から排除されてきた女の地位を相対的に引き上げる
2)一般に女に配分されがちだったパートタイム労働と、一般的に男に配分されがちだったフルタイム労働との分断も弱体化するため、労働市場における男女平等を促進しうる
3)BIは個人単位の給付であるため、女性への夫を経由しない自立的は所得保障ともなりうる。

 それに対して、竹信氏はこう付け加えています。

 しかし、それが実現されるかどうかは、BIの額が女性の相対的な地位の向上に見合うだけの水準に達しているかどうかや、育児サービス、諸手当、性差別禁止に関する様々な政策との組み合わせによる、とも述べている。

 ここでも、竹信氏の基本的な認識は示されています。
 BIだけでは、社会保障制度自体改善されたことにならず、ジェンダー平等問題の解決にもならない。
 私も、私の提案するBIで、すべての社会保障制度もジェンダー不平等も改善・解消されるとは思っていません。
 しかし、関連して行う社会保障制度等の改善・改革で、多くは可能と考えています。
 前回、前々回述べたように、BI導入が社会保障制度が不要になるというネオリベの暴論を闘うべき対象として議論をすることは、不毛です。
 そこから早く脱しましょう。
 ところで、蛇足ですが、女性のBI待望論が勢いを増しているかの認識ですが、果たして、それはどの程度のものなのでしょうか。
 何をもって、どの程度をもって、そのように評価するのか、できるのか。

 本書の終わりに、参考文献リストがあり、その中に、小論で参考に用いたとみられる書『ベーシックインカムとジェンダー 生きづらさからの解放に向けて』(2011/11/7刊:堅田 香緒里・野村 史子・屋嘉比 ふみ子・白崎 朝子氏共著)
 を見かけました。
 一応、早速入手すべく手配しました。
 いずれ紹介し、意見を述べたいと思います。
 9年前の書です。
 当然、それ以前から活動されているはずですが、現在、それを起点としての論考の広がりや、政治イシューとされている事実はないと思われます。
 仮にあったとしても、勢力と呼べるレベルには至っていないでしょう。

BIがジェンダー平等を損なうと主張する根拠

 本題に戻って。
 BIだけでは、社会保障問題やジェンダー平等問題の解決にはならない。
 逆に、BIが、ジェンダー平等自体も、それををめざす活動も損なうと言います。
 例えば、BIが女性にも無条件で支給されることで、より家庭内労働に拘束される可能性もある、と。
 そういうケースもあるでしょうし、そうではない例もあるでしょう。
 非正規や正規雇用の女性が、BI導入で、雇用サイドが賃金引き下げに向かう可能性もある。
 これも想定されるところですが、一方で引き上げられる場合もあるでしょう。
 下げられれば、その就労を辞めて他を求める機会もあるでしょうし、無理して働くことをやめる人もでる。
 絶対的なものはない、ということです。
 また、新自由主義の暴論だけでなく、新保守主義ともいう、もう一つの暴言論者の発言にも神経を遣い、ジェンダー平等を逆行させる勢いと警戒します。
 もちろん無視できるはずはないですが、こちらの主張の正しさ、評価を得ることができる提案のとりまとめと、それを用いての活動展開に持ち込むことに注力すべきでしょう。

ジェンダー平等論起点のBIではなく、社会保障論起点のBIに

 繰り返しになりますが、
 BIによる現金給付が、女性の家族からの自由を保障するとは限らない。
と言います。
 限らないということは、保障するまで至らなくても、自由度を高めることを期待できる可能性もあるということでしょう。
 また、すべての女性が、拘束される家族を持つわけでもないことも確認しておくべきでしょう。
現に家族関係を持たない女性の単身生活者も存在します。
 ジェンダー問題の多様化と共に、個人個人の生き方の多様性視点で、BIを論じる意味・意義があります。

 そして、前回、前々回も申し上げましたが、BIは、社会保障制度の一環としての制度であり、その軸に位置付けられるべきものです。
 すなわち、社会保障制度全体、そして当然ですが、本書『ベーシックインカムを問いなおす その現実と可能性』の基本方針としてのベーシックサービスの領域の行政とサービスの見直し・改革も含めて、検討・改定されるべきことを、再度申し上げておきます。

BIは、起点でも、終点でもなく、通過点

 BIは、女性運動・社会運動の組織化という「疲れる」段階をスキップできる「癒やし」の道具ではない。
 必要なのは、どんな形のBIを政策のどこに入れ込むのか(または現物サービスの方が適切なのか)を明確化し、そこへ向けて女性を組織化していくこと。

 現行の社会保障制度は、性差別的な部分を多数はらんでいる。
 BIは、「無条件の給付」を打ち出すことで、その歪みを浮かび上がらせる。
 また、「労働市場から切り離した支給」という点で、労働市場内の序列に従って社会保障制度がきまってしまう仕組みの不合理性も照らし出す。
 その意味でBIという思想は、現行の制度の矛盾を切り裂く刃物となりうる。
 その切れ味を生かし、「BIさえあれば・・・」といった癒やしの呪文としてのBIではなく、「急進右派」に利用されないBIのための社会経済環境づくりへ向けた女性運動の再構築が求められている。
 BIは、出発点ではない。
 終着点なのだ。

 そう。
 ここまでの認識をお持ちならば、BIの位置付けは、決して終着点ではないことにも実はお気づきでしょう。
 もちろん、今回は触れることはありませんが、ベーシックサービスも、起点でも終着点でもなく、一つの選択肢あるいは目標であり、実現後も次なる課題があるはずの通過点のことでしょう。
 望ましい総合社会保障制度は、社会経済状況の変化と共に、時代にそぐわない制度になったり、新たなニーズが生まれたりすることでしょう。
 例えば、夫婦共働き社会が普通になったことから、家族無償労働解消への議論が日常化し、決して満足できるレベルではないですが、育児や介護と仕事との両立問題から、種々の支援制度が広がってきているように、です。
 ネオリベラルや急進右派のBI論への警戒感は理解できますが、それを凌駕し、絶対多数の女性の共感を呼び、直接・間接の参加・賛同を得ることができる、社会保障制度の一つの基軸としてのBIのための女性運動の構築を目指してはどうでしょうか。
 私は、決して再構築とは、思っていません。
 これまで、現実的に、その取り組みのための国家レベル市民規模での女性活動が展開されたとは思っていないからです。

JBI実現を通過点とする、社会保障改革、望ましい社会創造への女性主体の取り組みへの期待

 実は、今年9月下旬から、<女性にしか社会は変えられない>シリーズと題して、「女性が社会を変える10年計画」「女性国会議員4割実現10年計画」という夢想を当サイトに投稿しています。
◆ 男性社会改造への途(2020/9/21)
◆ 女性活躍推進政策を女性自身はどう感じてきたか(2020/9/22)
の2記事の後、女性が高学歴化した現代だからこそ、ということで
◆ 常態化した女性高学歴社会への期待と主体的な社会経済活動参加の先(2020/9/23)
の記事中で、これから女性自身が、社会活動に限らず、経済活動分野においてジェンダー問題を切り拓いていくことへの期待をお伝えしました。
 そしてその基盤を拡充しながら、ジェンダー問題を含むさまざまな社会問題・社会保障問題の望ましい在り方を議論検討し、提言していく組織母体として、例えばとして「平和と社会保障と民主主義を守る女性会議」的なものができればと提案しました。
◆ 「平和と社会保障と民主主義を守る女性会議」(仮称)創設のご提案(2020/9/24)
 そして、次に、その会議が、政策策定および法案起案の機能も持ちつつ、これを立法の場に持ち込み、BIを含む総合的社会保障制度改革を目標・公約とする女性主体政党の創設を提案しました。
女性主体政党創設の夢:2030年自民党女性国会議員30%、20年後女性総理誕生に先駆けて(2020/9/30)

 もちろん、結局は、政治イシュー(政治マター)に持ち込むことが不可欠で、その方法を決める・選択することになります。
 ただ、現状の与野党、政党の実態を考えると、どうも、望ましいものがないように思えるのです。
 ならば、やはり女性主体政党(会派)があるべきでしょう。
 しかし、いきなり政治・選挙とすることに抵抗感を感じる女性は、まだまだ多いでしょう。
 この時、どういう手順・方法でその準備を進めるか、そして女性主体政党設立を本気で考える段階にきたらどうするか。
 そこでのヒントとしたいのが、倉持麟太郎氏著の『リベラルの敵はリベラルにあり』の主張です。

 同書を参考に、これまで以下投稿してきました。
『リベラルの敵はリベラルにあり』から考える、個人の生き方と社会の在り方-1(2020/10/18)
政治的なるものと日常生活における個人と社会(2020/10/21)
生身の弱い個人とそのアイデンティティを救えないリベラルの弱み(2020/10/22)

 またその内容をヒントに、私の日本型ベーシックインカム生活基礎年金JBIのとりまとめ・法案作りを目標の一つとする、カウンター・デモクラシー・ミーティング(その後、クラウド・ミーティングに改称)をFacebookのグループとして今年10月に設置しています。
日本型ベーシックインカム実現をめざすクラウド・ミーティング
 こちらへのご参加も是非お待ちしております。
 またご関心をお持ち頂けそうなお友だちや、保育職・介護職、非正規でお勤めの方々にもご紹介頂ければと思います。
⇒ https://www.facebook.com/groups/1000705250416115

 次回は、本丸の一つ、井手英策氏による「第4章 財政とベーシックインカム」を対象とした対論を予定しています。

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本稿は、WEBサイト https://2050society.com 2020年11月7日投稿記事 2050society.com/?p=5342 を転載したものです。
当ベーシックインカム、ベーシック・ペンション専用サイト http://basicpension.jp は2021年1月1日に開設しました。
しかし、2020年から上記WEBサイトで、ベーシックインカムに関する考察と記事投稿を行っていました。
そこで、同年中のベーシックインカム及び同年12月から用い始めたベーシック・ペンションに関するすべての記事を、当サイトに、実際の投稿日扱いで、2023年3月から転載作業を開始。
数日間かけて、不要部分の削除を含め一部修正を加えて、転載と公開を行うこととしました。
なお、現記事中には相当数の画像を挿入していますが、当転載記事では、必要な資料画像のみそのまま活用し、他は削除しています。
原記事は、上記リンクから確認頂けます。

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