ベーシックインカム、ベーシック・ペンションと財政赤字、デジタル通貨、外国為替相場との関係:ベーシックインカム現実的実現法考察-7
◆ 真のベーシックインカム実現を政策とする政党ゼロから取り組むべき現状と今後(2021/7/16)
という基本認識から始めた<ベーシックインカム現実的実現法考察>シリーズ。
これまで以下の6記事を投稿。
◆ 全員月額7万円で始める:ベーシックインカム現実的実現法考察-1(2021/7/17)
◆ 月額7万円ベーシックインカムの条件と期待効果:ベーシックインカム現実的実現法考察-2(2021/7/18)
◆ 無理なく、漸進的・段階的に導入するベーシックインカム:ベーシックインカム現実的実現法考察-3 (2021/7/19)
◆ 7万円現金給付ベーシックインカムの次にデジタル通貨ベーシック・ペンションを:ベーシックインカム現実的実現法考察-4 (2021/7/28)
◆ ベーシック・ペンション導入によるインフレリスク対策-1:ベーシックインカム現実的実現法考察-5 (2021/8/2)
◆ ベーシックインカム導入によるインフレリスク対策-2:ベーシックインカム現実的実現法考察-6 (2021/8/4)
この最後の2記事で、ベーシックインカム(ベーシック・ペンション)発行時のインフレリスクについて考えるなか、8月2日から日経の1面で、「通貨漂流 ニクソン・ショック50年」と題した特集が組まれ、以下5回にわたり掲載されました。
1.マネーと経済、切れた連動 金対比、ドル50年で98%下落 (2021/8/2)
2.覇権不在の不安再び 外貨準備、米ドル87%→59% (2021/8/3)
3.円安頼み「貧しい日本」生む 円の実力、48年前に逆戻り (2021/8/4)
4.ニクソン・ショック50年(4)為替リスクゼロは夢か 円の取引量、30年で7倍 (2021/8/5)
5.共通通貨 ケインズの夢 中銀7割、デジタル化研究 (2021/8/5)
特集の主眼は、バイデン政権下拡大するアメリカの財政赤字を大きな要因とするドルの信任性の低下、それに替わる勢いの中国人民元、加えて、中国政府が他先進各国に先んじて導入を図りつつあるデジタル通貨の今後に及ぼすグローバル社会における影響等にあります。
この5つの記事を読みながらイメージしたのが、当サイトで提案するベーシック・ペンション導入において懸念されるいくつかの課題。
その理由は、ベーシック・ペンションが引き起こす懸念が高いインフレ、そのインフレを誘引する要素・要因としての外国為替市場における円安・円高問題、そして、専用デジタル通貨による給付方式などが、当特集記事内容の一部と重ねて読むことができる、あるいは重ね合わせて読むべき、と考えたためです。
そこで、ニクソン・ショックとその後の動向は極力省き、その記事中着目すべき事項を抽出・整理して紹介し、ベーシック・ペンションと結び付けて考えてみることにしました。
専用デジタル通貨ベーシック・ペンションの現実味が膨らむ状況に
1)各国が競って検討を始めたデジタル通貨、その理由
米フェイスブックは2019年6月、ドルなどの法定通貨を裏付け資産にするデジタル通貨「リブラ(現ディエム)」を発表。
世界で約28億人のSNSユーザーが使えば「世界通貨」となる可能性があったが、これに対して世界の中銀は金融システムや通貨政策への影響を懸念。
フェイスブックは計画修正に追い込まれ発行に至っていない。
その後各国は中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行に向けて急ぎ出している。
現在、世界60行以上の中銀が何らかの形でCBDCに取り組み、主要7カ国(G7)は今秋にもデジタル通貨に関する新たな原則を明らかにする。
ここで注目すべきは先行する中国。
デジタル人民元の実証実験を進め、北京冬季五輪開催の2022年発行を目標としている。
6月上旬に北京で行われた実験では7億円近くが配布された。
このことは、先述の当サイト記事
◆ 7万円現金給付ベーシックインカムの次にデジタル通貨ベーシック・ペンションを:ベーシックインカム現実的実現法考察-4 (2021/7/28)
で既に紹介しました。
もちろん日銀もその中の一員ですが、そうした遅れがちな動きに先行して、昨年来ベーシック・ペンションのデジタル通貨での発行を提案しています。
当然、そのためにベーシック・ペンションの実現にはまだまだ時間がかかることとして、10年がかりでの取り組みが必要ともしてきました。
(参考)
◆ ベーシック・ペンション実現は10年がかりの夢、団塊の世代から次世代へのレガシーとして(2021/2/8)
◆ ベーシック・ペンション実現に10年を想定する4つの理由(わけ) (2021/3/4)
しかし、こうした各国でのCBDCに対する研究が仮に急速に進み、法定通貨としてのCBDCが早期に実現すれば、ベーシック・ペンションJBPCの実現の技術的・方法論的裏付けが可能になるわけで、多少期待感が膨らみます。
2)専用デジタル通貨発行・給付によるベーシック・ペンションの合理性と必然性
既に社会生活上、社会経済上、現金への依存度の低下は加速しています。
クレジットカードはある意味過去の決済手段になりつつあり、各種電子マネーが主流になりつつありますが、あまりにも種類が増えすぎて、とりわけ決済を受け入れるサイドでは、かえって複雑になりつつあるとも言えましょう。
消費者サイドも、どんどん利用する決済アプリが増えて、ややこしくなってきています。
これ以外に、まさに地域通貨というように、特定の地域内だけで利用可能な通貨も、法定通貨とはまったく異なるものとして利用される事例も多々あります。
当サイトが提案するベーシック・ペンションJBPCは、専用のデジタル通貨で支給するもの。
各国中央銀行が実験などを進めつつある一般の法定通貨としてのデジタル通貨ではなく、ベーシック・ペンションだけのための専用デジタル通貨であることに特徴があります。
特殊・特別な法定通貨であり、これが実現すると、異なる目的・機能を持つ2種類の法定通貨が存在するわけです。
JBPCは、発行年次が分かり、日本国内だけで流通し、利用方法・利用期限が定められ、目的・役割を終えて期限内に消却される通貨で、一般のデジタル化された法定通貨よりも高度なシステム通貨というわけです。
従い、日本においてベーシックインカムの導入が本格的、あるいは正式に検討される段階になれば、恐らく先行して実現するであろう一般の法定通貨としてのデジタル通貨に次いで、別の名称で発行することも検討課題に位置づけられることも可能になるでしょう。
貧困と格差拡大をもたらした通貨の膨張は、ベーシックペンション(ベーシック・ペンション)でどうなるか
1)通貨と経済の乖離・不一致が招く経営者・富裕層と労働者との格差拡大
「通貨の番人」中銀が悩んでいる。
その遠因は通貨と経済の関係が変わった50年前にある。
「金ドル本位制」が崩れ、固定相場制から変動相場制に移行し、金準備の制約がなくなった通貨、マネーの量は膨張し、世界の通貨供給量は50年で国内総生産(GDP)の6割から1.3倍に。
証券投資や融資が国境を越え、国際決済銀行(BIS)によると1日あたりの為替の取引額は2019年時点で6.6兆ドル30年前の12倍に。
変動相場制での為替の急変は通貨危機をもたらすようになり、金融の膨張で常にバブルの生成・崩壊におびえるようにもなり、格差の拡大も止まらなくなった。
すなわち、1990年代まではドルの供給量が増えると米国の名目GDPの成長率が連動して高まる傾向があったが、2010年以降は供給量が2.4倍になってもGDPは1.6倍どまり。
米国株の時価総額は3倍程度となったが、実体経済を潤す力が衰えている。
1970年代を境に米国では生産性が高まっても労働者の平均賃金は上がりにくくなり、かつ通貨の膨張は市場主義やグローバル化と結びつき、多国籍企業の経営者層や株主が潤うが、労働者の恩恵は乏しくなった。
そしてバイデン政権下、新型コロナウイルス禍の危機に対応し、米国はお金をばらまいた。
金融緩和と財政政策で通貨の供給量を1年強で約5兆ドル(約540兆円)も増やした。
ところが、マネーは株価を最高値に押し上げて富裕層を豊かにするばかりで低所得層はなお失業にあえぐ。
漂流する通貨をどう制御して豊かさにつなげるか。
類似した日本の状況において、ベーシックインカム(ベーシック・ペンション)導入は、プラスの効果をもたらすか、逆にマイナス要因に拍車をかけるか。
2)最低限度の社会保障としてのベーシック・ペンションは、日常生活の安心を提供する
ベーシックインカム、ベーシック・ペンション支給は、厖大な通貨発行を伴い、インフレ発生リスクをも抱える。
確かにそういう側面はありますが、確かなことは、その支給により、日常生活の安心は保障され、総所得は間違いなく増えることに。
全国民に無条件に、一律に支給するために、格差の是正には直結しませんが、最低レベルが維持・保障されることで、中間層の拡大、厚みを増す機会・可能性は高まり、それは、まず貧困からの脱却、そして格差の縮小・是正への繋がります。
そして、ベーシック・ペンションの別の目的でもある、国内の自給自足経済化への取り組みを通じて、豊かさを取り戻す機会を得ることになるのです。
米国の過剰発行通貨・財政赤字拡大によるドル安不安
以下は、日経記事の要約です。
1)弱まる基軸通貨、米ドルの不安要因。米財政赤字、波乱の芽
最近の大幅な財政赤字やインフレがドルの下落を招くとの警戒感が強まっている。
貿易や投資など国際的な取引でドルは他通貨を圧倒する。
外国為替市場で取引する通貨ペアにドルが含まれる比率は90%近く、国境を越えた資金決済の約4割はドル。
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で金融市場が混乱した際はドルを確保しようとする動きが広がった。
経常赤字の続く米国は20年、新型コロナウイルスに対応する巨額の財政出動に踏み切った。
国内総生産(GDP)比で見た政府債務は第2次大戦期を超える。
コロナ禍でアメリカの財政赤字は史上最悪の3兆ドル、経常収支の赤字は12年ぶりの高水準に達した。
足元のインフレは5%に届いた。
リスクを織り込み始めているのが各国の外貨準備。
IMFによると、21年3月末時点でドルの構成比率はピークの87%から59%に低下している。
ユーロなど他通貨への分散が進みつつあり、デジタル人民元などが登場すれば、将来はさらにドル比率が下がる可能性がある。
ロシアは2021年7月、政府系ファンド「国民福祉基金」で35%を占めていた米ドルをゼロにし、中国・人民元とユーロをそれぞれ15%から30%、35%から40%に増やした。
中国は外貨準備のドル依存度を20年間で8割から6割に下げ、米制裁に直面するイラン産原油の輸入「2020年4月にほぼ人民元建てに。
米国からのドル離れは、基軸通貨としてのドルの脆弱性を強め始めている証拠といえる。
現在は米景気の相対的な強さがドルを支えるが、潜在的な下落不安がくすぶる。
2)高まる中国、人民元の国際化とプレゼンス
その最大の要因は、中国の台頭。
米財政赤字の拡大などでドルの覇権を危ぶむ声が出てきた。
米国との激しい対立も辞さない世界第2位の経済大国、中国は人民元の国際化を推し進める。
2030年までに経済規模で中国が米国を追い抜くとの試算もある。
さらに購買力平価という通貨の交換比率で比べると、17年にすでに逆転している。
金融や貿易の取引で決まる為替レートに対し、購買力平価は同じ製品の価格は国が違っても同じと考えた場合の交換レートであり、貿易の対象にならない国内サービスの価格なども含み、経済の実力を映しているとも言われる。
購買力平価で計った人民元は為替レートより割高になり、経済規模も大きくなる。
中国では貧富の地域間格差は依然として大きい。
当局は庶民の不満を高めないよう必需品の価格に目を光らせ、外食費や交通費は日米欧より安いまま。
価格が抑制されていると購買力平価でみた人民元のレートは高くなり、このレートを前提にした経済規模は大きくなる。
中国は人民元の国際化にも取り組んできた。
自国が主導する広域経済圏構想「一帯一路」の沿線国に、2次元バーコードを使ったアプリ決済を通じて、人民元での決済を少しずつ広げている。
しかし金融開放は人民元の国際通貨としての地位向上に不可欠だが、拙速な開放は資金流出などのリスクを高める側面があり、経済規模で世界一の座が見えてきたとはいえ、規制や統制が厳しい国が通貨覇権を取るハードルは高い。
ただ、中国の外貨準備の2割をユーロが占めるに至っており、中国がいずれ変動相場制に移行すればアジアは人民元を軸にまとまることも想定される。
それが決して想定外のこととは言えない状況を示すもう一つの不安は、以下によるIMFによる国際通貨体制自体の危うさである。
3)国際通貨基金(IMF)が抱える「2023年問題」とその不安
2030年前後とされる米中の経済規模の逆転を前に、すでに貿易では中国が米国を上回る。
モノの輸出入の世界シェアはこの50年で米国が13%から11%に低下する一方、中国は1%から13%に拡張した。
2023年までに増資計画の決着をめざし、国際通貨システムの安定を担うIMF。
各国の出資比率は国内総生産(GDP)をベースに算出する。
中国経済の拡大で米国の出資比率が現在の17%から低下し、重要事項に対して拒否権を持てる15%を割り込む可能性がある。
もし米議会が増資を拒否すれば、中国がIMFを見限って自国主導の新基金を設立するシナリオが囁かれている。
基軸通貨の揺らぎは国際通貨体制を分断し、世界を再び震わせかねない。
ベーシックインカム(ベーシック・ペンション)による過剰通貨発行と外国為替市場円安・円高影響リスク論
1)円安は日本経済にプラスか、円安が生む「貧しい日本」「安い日本」
日本の貿易収支しいては経常収支、そして消費者物価にも大きな影響を与える原油価格。
ドルで購入した原油を精製して円で販売するため、円安・ドル高になると購買力が低下し、負担は消費者に直接転嫁されるお決まりの構造・構図。
2011年に75円32銭の最高値を付けるまでの長期の円高は、輸出主導で成長した日本経済の重荷となってきた。
高度成長期を経た後、企業は海外に生産拠点を移し国内からの輸出は減った。
一方、化石燃料の輸入が年17兆円規模に膨らみ貿易収支は赤字基調に。
円安は輸出促進効果より、輸入コスト上昇の弊害が目立つようになった。
しかし、日本経済にとって円安はプラスなのか。
「外貨建てで輸出する商品の円換算額が増え、売上高が膨らむプラス効果」と「輸入品が値上がりしコストが増えるマイナス効果」を比べると対ドルで10%の円安になった場合、国内生産額比で0.5%デメリットが上回る。
すなわち、デメリットの方が大きいという試算がある。
脱炭素やデジタルトランスフォーメーション(DX)が進み、輸出入の構造が変わる50年の日本経済を描いても結果は同じ。
「エネルギー源が再生可能エネルギーとなり化石燃料の輸入は8割弱減る」「シェアリングエコノミーが広がり、必要な乗用車は10分の1になる」といった想定では10%の円安で全産業では0.4%マイナス効果が勝る。
やはり、デメリットの方が大きいとされる。
2)円安日本は、低賃金構造を長期化し、購買力を低下させ、安い日本を構造化した
化石燃料の輸入が減っても円安のマイナス効果が減らないのは「海外のソフトウエアやクラウド、ネット通販といったサービスや情報通信機器の輸入が増えるため。
デジタル化が遅れる日本経済の弱点がここに表れているという。
アベノミクス以前、そして以降も、日本の政策は円高是正に重点が置かれ、それは産業界の望むところであった。
結果、新興国との価格競争にさらされる付加価値の低い産業を延命し、より付加価値の高い産業へのシフトを遅らせることに繋がったという指摘がある。
(私は、そんな単純なものではなく、官民の戦略の欠如、判断ミスと責任の先送り体質にあると思っているが。)
そして、賃金が上がらず消費が低迷する悪循環を招いた。
主要国の平均年収は00年以降1~4割上昇し、日本だけが横ばい。
ドル建ての賃金水準は韓国より1割近く低いなど、賃金水準では新興国に近づいている。
円安とともに、日本人の購買力は落ち、貧しくなった。
円の弱体化は世界の中での日本経済の地盤沈下をそのまま映し出しているわけだ。
3)自給自足社会経済システム構築をも目的としたベーシック・ペンションの確実性と不確実性
低賃金を理由とし海外移転を継続してきた経営経済政策は、後進国の成長による賃金上昇と中間層の創出で、行き詰まりをみせている。
それらが却って日本国内の経済の停滞、賃金の抑制、可処分所得の減少、そして貧しさの拡大を招き、かつ長期化している。
そろそろその向かう先を反転させ、国内での需要供給体制を再整備し、円の信任性を回復させ、適度な暮らしの豊かさの回復・入手を可能にすべき時期にきている。
そう考えるべきだろう。
そして、それは、ベーシック・ペンションの全国民への無条件での支給により、実行・実現できる。
ベーシック・ペンションは、そういう意図・目的をも包含する政策です。
無論、何のリスクもないなどと断言できるわけではありませんが、目的・目標を明確にし、実現のための方策を描くことができることで、不確実性は大きく低減できるものです。
ベーシック・ペンション専用通貨は、為替リスクや送金コスト問題とは無縁の地域限定デジタル通貨
以下では、記事内容の要約に、私の意見を付加して進めます。
1)膨らむ海外資産と為替リスク、送金コスト対策にデジタル通貨が必須に
送金が安く早くでき、為替取引のコストやリスクを減らせる暗号通貨(仮想通貨)を媒介に使う。
暗号通貨の値動きをヘッジ(損失回避)できるかが成功のカギだ。
国際決済銀行(BIS)によると、円の為替取引の1日当たりの規模は、日本企業の海外活動とともに増え、2019年で約120兆円で1989年に比べ7.3倍。
海外直接投資で築いた資産は205兆円にのぼり、海外資産の価値も為替に影響されやすくなった。
為替予約や金融子会社による一括管理、コストと負債による相殺など、為替リスクやコストの軽減手段は多様だがゼロにはできない。
が、デジタル化が風景を変えようとしている。
中銀デジタル通貨(CBDC)が広がれば連動して企業財務はすべてデジタル化する必要があると指摘する。
ドル円の決済は現在の平均2日から瞬時になり、対応できない企業は取引対象から外される。
CBDCでは日銀は海外に比べ慎重だが、為替のリスクやコストの低減に対する企業の需要は高まっている。
デジタル通貨化はもはや必然となっていると言うべきだろう。
2)ケインズの共通通貨「バンコール」構想は見果てぬ夢
第2次世界大戦末期の1944年。
連合国のブレトンウッズ会議で金ドル本位の通貨体制が固まり、番人としてIMFの設立が決まった。
英国代表のケインズは生みの親の一人だが、IMFはケインズの「敗北」の産物でもあるという。
ケインズは、世界の中央銀行としての機能を持つ国際清算同盟(ICU)が共通通貨「バンコール」を発行する案を唱えた。
バンコールは国家間の決済に使われ、中央機関がその流通を加減することで国際収支の安定をもたらそうとした。
が、結局は米国代表ホワイトの案を下敷きに戦後のドル覇権が確立した。
デジタル化の流れは、ケインズの80年越しの悲願を技術的には可能にしようとしているようにみえる。
最初に実現に挑んだのは米フェイスブック。
2019年の「リブラ構想」は、一企業が国家から通貨発行権を奪うもくろみに映り、各国はリブラつぶしで団結した。
当時の最も踏み込んだ提言が、前英イングランド銀総裁マーク・カーニーの「合成覇権通貨」論。
各国の中銀デジタル通貨(CBDC)をネットワークで結び、ドルに代わる共同の準備通貨をつくる案だ。
米国経済の相対的な地位低下に比して米ドルは国際金融で支配的な座から降りず、各国は米金融政策に振り回され、世界経済を不安定にしている、という問題意識から、合成覇権通貨は世界貿易や国際金融での米ドルの影響力を落とすだろうという認識を持っていた。
同氏のアイデアはケインズの理想とも共鳴する。
世界の中銀の7割が取り組むCBDCの研究や実証実験は、デジタル・バンコールへの道を切り開くことになるのか。
「ドル危機が起きて米当局が身動きをとれなくなった場合、国際社会が臨時の通貨緊急発行のコンソーシアムをつくりデジタル・バンコールに移行する」というシナリオを描く人もいるが、同時に「これはSF」とも言う。
基軸通貨の座を奪われたくない米国や、CBDCを国家統制の手段にしたい中国の存在が、協調への道をふさぐ。
仮に合意ができても、管理する機関を誰がどう運営するのか。
第二次大戦後の成果物の一つである国連で未だに繰り返されている常任理事国の拒否権による茶番劇が、簡単に想起できよう。
金が通貨価値を裏付けなくなって50年。
代わって価値を担保するのは通貨秩序を守る世界の意思だ。
共通通貨を訴えたケインズが抱いていた国際協調への思いは今も生きる。
国家権力のあり方に歩むよりがたい違いが厳然としてあるなか、こうした国際協調は、見果てぬ夢のままであるように思えてならない。
しかし、それは決して悲観すべきことではなく、信じる体制内での安寧が保たれるならば、それも一つの望ましいありかたと思うからである。
3)あくまでも地域通貨としての役割と機能を持つベーシック・ペンション
ある意味、かけ離れた共通通貨構想を引き合いに出したのは、提案するベーシック・ペンションが、真逆の日本限定のローカル・デジタル通貨であることをより明確にするためでした。
国際的な決済機能をもつCBDCではないベーシック・ペンションJBPC。
それは、むしろユーロが決して理想的に機能していないことを反面教師としてみていることを意味するわけでもありません。
ただ、現実的には、世界が一つの共通通貨にまとまるわけがないと思いますし、ベーシック・ペンションにように目的も手段も明確で、人の暮らしを安心・安定して送ることができる社会経済システムが確立し、機能するならば、社会的共通資本として、多くの国のモデルになるのでは。
そういう期待感を持ち、提案しているからです。
4)現金かデジタル通貨か、個人情報直結するBI支給反対をめぐる課題
もうひとつ、デジタル通貨の動向を注視すると、やはり現金からデジタル通貨は必須のこととして、今後を考えるべきと思うゆえの本稿でもありました。
なぜ現金でなく、デジタル通貨が望ましいかは、これまでも述べてきています。
そして、ベーシック・ペンションでは、マイナンバーカードと紐付けし、日銀に開設する個人専用JBPC口座への振り込みを提案しています。
これに対して、個人情報が守られないことを理由に反対する方がいます。
しかし、基礎的な生活費用にのみ利用すると限定され、利用期限があり、国内の自給自足経済の拡充・確立を目的とするJBPCですから、その利用データを収集・分析し、より望ましい利用方法・利用システムに改善することが非常に重要になります。
他の資産の個人情報は一定基準の下守られるべきですが、JPBCは、そもそも一般的なベーシックインカムとは異なる目的・性質を持つ、日本独自の社会経済システムとしてのオリジナル・デジタル通貨。
非現実的なように初めは思われるかもしれませんが、実は、現実をしっかり見据えての構想・提案であることをご理解頂きたいと思います。
但し、繰り返しになりますが、その実現には、時間が必要です。
参考:ベーシック・ペンションについて知っておきたい基礎知識としての5つの記事
◆ 日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンションとは(2021/1/17)
◆ 諸説入り乱れるBI論の「財源の罠」から解き放つベーシック・ペンション:ベーシック・ペンション10のなぜ?-4、5(2021/1/23)
◆ 生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)前文(案)(2021/5/20)
◆ 生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案(2021/3/2)
◆ ベーシック・ペンションの年間給付額203兆1200億円:インフレリスク対策検討へ(2021/4/11)
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