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2020・21年考察

保育職・介護職等エッセンシャル・ワークの構造的低賃金対策に有効なベーシック・ペンション:ベーシック・ペンション法の意義・背景を法前文から読む-7

ベーシック・ペンション法の意義・背景を法前文から読む-7

 当サイトで提案の日本独自のベーシックインカム、「ベーシック・ペンション生活基礎年金」法律案の前文に掲げた、同法制定の背景・目的(当記事最後に掲載)の各項目ごとに補足・解説を行うシリーズを進めています。

 ここまで投稿したのが以下。
「生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)前文」解説、始めます(2021/6/2)
憲法の基本的人権に基づくベーシック・ペンション:BP法の意義・背景を法前文から読む-1(2021/6/12)
生活保護制度を超克するベーシック・ペンション:BP法の意義・背景を法前文から読む-2(2021/6/15)
少子化対策に必須のベーシック・ペンションと地方自治体の取り組み拡充:BP法の意義・背景を法前文から読む-3(2021/6/20)
子どもの貧困解消と幸福度の向上に寄与するベーシック・ペンション児童基礎年金:BP法の意義・背景を法前文から読む-4(2021/6/22)
母子・父子世帯の貧困と子育て家庭環境の改善をもたらすベーシック・ペンション:BP法の意義・背景を法前文から読む-5(2021/6/24)
非正規雇用者2千万人の不安・不安定を解消するベーシック・ペンション:BP法の意義・背景を法前文から読む-6 (2021/7/23)

今回第7回目は、次のテーマです。

保育職・介護職等社会保障分野の労働条件等を要因とする慢性的人材不足

 当該前文に記述した内容は、以下のとおりです。

保育職・介護職等社会保障分野の労働条件等を要因とする慢性的人材不足
 潜在的保育士や潜在的介護士が数多くいるにもかかわらず、慢性的に人材不足となっている、保育や介護の現場があります。
 障害者福祉の現場も含め、どの職業も、厳しい労働条件・労働環境での職務を余儀なくされ、離職率も高く、慢性的な人材不足の状況が続いています。
 新型コロナウィルス禍で、一層その状況は厳しさを増し、心身とも疲弊している現状があります。
 他産業・他職種との賃金格差もなかなか縮まらず、国が補助金を支出しても大きな改善は見られません。
 こうしたいわゆるエッセンシャル・ワークと言われる社会保障分野の職務・職業は、本質的に高い労働生産性を求めることは難しく、民間サービス事業化が進められたことも、労働条件を抑制する方向に向かわせています。
 これらの半ば公的な仕事に就く人たちですが、民間事業者においての賃金は公務員レベルに満たず、また厳しい職場ゆえに常用勤務希望者は少なく、非正規化も進んでおり、それがまた所得の低下、生活上の経済的不安化を推し進める要因ともなっています。
 小さな政府という方針とは本来相いれない社会保障・社会福祉領域の公的サービス事業の職種・職業に、希望する人が安心して就職・就労できる施策が求められています。

保育職・介護職の低い平均賃金レベル

 介護職員の平均賃金は、234,439円で、平均年収は、341万2774円。
 保育士の平均賃金は、239,300円で、平均年収は、357万9,000円。
 単純に比較することに少し問題はありますが、両職種共ほぼ同レベルで、賃金水準の厳しさが示されています。

 介護職も保育職、それに障害者福祉等の関連職種など、いわゆるエッセンシャル・ワークに属する仕事は社会保障・社会福祉業務という公務員的なものであり、以下の記事で、准公務員制度を設けて、賃金レベルを引き上げる方策を採用することも一つの方法と提起したことがあります。
◆ 准公務員制度導入で潜在的労働力の発掘と活躍へ:専門職体系化による行政システム改革-3

 また、国による介護職の処遇改善のための補助金を、事業所に支給し、これまで、月額5.7万円程度底上げされているはずですが、その配布・配分などは事業所に委ねられ、実際に介護職員一人ひとりに行き渡っている証拠はありません。
 こうした補助金行政よりも、一人ひとりに無条件で直接支給するベーシック・ペンション方式が望ましいことは目に見えています。

保育職・介護職者数

 次に双方の職種に就いている人の人数。
 現在の介護業務に従事している介護職員数ですが、ほぼ190万人ほどとみてよいと思います。
 その中で、近年、人材不足を少しでも補うために、都合の良い時間だけ働く、非正規雇用の職員が増えてきているます。
 現在保育業務に従事している保育士の方々の数ですが、ほぼ58万人ほどとみてよいと思います。
 そして特徴的なのは、保育士登録数が約148万人いるにもかかわらず、実際に従事している保育士さんが、その4割を割っていることです。
 いわゆる潜在保育士が90万人以上いるのです。
 合計約250万人の保育職・介護職従事者に、児童福祉・障害者福祉等社会福祉サービス事業・に携わる方々を加えると、正規・非正規合計で270万人以上になることは間違いないと思われます。
 そして、ベーシック・ペンションの導入で、潜在保育士・介護士の現場への参加・復帰も促すとと、300万人規模の社会保障・社会福祉職グループができるわけです。

 もちろん、その中の何割かは、非正規雇用職にあり、その何割かは、正規雇用を希望しながら非正規雇用を強いられています。
 2千万人以上いる非正規雇用の何%かが、エッセンシャルワーカー。
 この非正規雇用の方々にとってもベーシック・ペンションが有効であることは、このシリーズの前回のこの記事で触れたばかりです。

非正規雇用者2千万人の不安・不安定を解消するベーシック・ペンション:BP法の意義・背景を法前文から読む-6 (2021/7/23)

社会的共通資本としての保育・介護サービス職が持つ制約条件

 上の資料は、厚労省によるものですが、非正規雇用者の人数は、正規雇用者一人の労働時間に換算してのものであり、実際の人数とは大きく異なります。
 また、介護事業のデータ集計方法が、民間事業所をカバーできていないと推定され、先に述べた人数と大きく乖離しています。
 この資料を用いたのは、狭義の児童福祉関連職や障害者福祉関連職に従事する社会福祉業務に従事する人数(但し、正規職員換算)を、大まかに知る上で有用と考えたためであることをご了承ください。

 また、これらのデータにおいて、公務員なのか公務員ではない民間の職員なのかの区別・区分は示されていません。
 公務員保育職・介護士職と民間職員保育職・介護職では、賃金に違いがあるでしょうし、そこまで突っ込んだ調査資料は今まで見たことがありません。

 しかし、いずれにしても、これらの職種・職業は、いわゆる「社会的共通資本」ともいうべき公的サービスです。
 それらは、決して、労働生産性を高めることとサービスの質を維持・向上させることを一体化すること、その結果としての利潤を高めることとを一貫して追求することになじまない性質を持っています。
 サービスの相手が市民・国民であり、そのサービスの対価・価値・価格を自由に付けることができない性質を持ちます。
 しかし、こうした本来公的な性質を持つサービスが、いわゆる商品化され、民間企業による事業化、民営化が進められることで、そこで働く人々の賃金が、利潤追求を第一義とすることで、低く抑えられ、かつ労働環境・労働条件も、簡単には改善できない構造になっているのが現実です。

 こうした条件下で、ある程度の利潤を上げ、職員の賃金を上げることができるのは、経営規模が大きく経営効率を高めることができる一部の企業・経営体に限られます。
 そのため、300万人近い、すべての保育職・介護職・福祉職の方々に平等に、毎月15万円、年間180万円のベーシック・ペンション生活基礎年金を支給することで、現在と将来の生活に不安を感じて頑張っている、あるいは頑張らざるを得ない状況から一先ず脱してもらえることになるわけです。

(参考)
社会的共通資本とは:社会的共通資本とベーシック・インカム-1(2021/6/8)
日本独自のベーシック・ペンションを社会的共通資本のモデルに:社会的共通資本とベーシック・インカム-2 (2021/6/10)



ベーシック・ペンション支給と並行して取り組むべき政策課題


 しかし、ベーシック・ペンションを支給すれば、保育・介護職の方々の労働環境や、本来の賃金が自動的に改善・向上されるわけでは当然ありません。
 ベーシック・ペンションは、あくまでも、すべての国民に支給される平等に支給されるものであり、保育職・介護職・福祉職にある人だけに特別に支給されるものではありません。
 他の職業・職種、境遇にある人々との差は、何もしなければ変わらず、解消されるわけでもありません。
 そこで、残っている問題には取り組む必要があります。

 そうした課題は、別のサイト、https://2050society.com のテーマにおいての「社会政策(SOCIAL POLICY)」ジャンルでの課題として位置づけて、今後追究・考察していきます。
 なお、その関連での考察の一部は、ベーシックインカム、ベーシック・ペンションと一体のものとして、以下の記事で述べています。

介護職の皆さんに関心を持って頂きたい日本型ベーシックインカム(2020/10/25)
保育士の皆さんに関心を持って頂きたい日本型ベーシックインカム(2020/10/26)

 ぜひ、確認頂ければと思います。
 なお、上記2つの記事中で紹介しました、https://2050society.com で投稿済み記事のリストを以下に参考までに転記しました。

◆ 保育園義務教育化と保育グレード設定による保育システム改革-1
 保育の社会保障システム化による保育システム改革-2
◆ 准公務員制度導入で潜在的労働力の発掘と活躍へ:専門職体系化による行政システム改革-3
幼保無償化後の現実的課題:抜本的な保育行政システム改革への途(2020/5/29)
少子化対策、2025年児童基礎年金月6万円支給と幼稚園義務教育化(2020/9/25)

◆ 自立・人権・尊厳、労働生産性:介護行政システム改革の視点-1(2020/5/25)
◆ 介護士不足、介護離職、重い家族負担、中小介護事業倒産:介護行政システム改革の視点-2(2020/5/14)
介護の本質を冷静に考え、世代継承可能な制度改革へ:介護行政システム改革の視点-3(2020/5/27)

次回は、以下の前文提起項目の8番目< 共働き夫婦世帯の増加と仕事と育児・介護等両立のための生活基盤への不安>がテーマとなります。

ベーシック・ペンション生活基礎年金制度の背景と目的(同法前文より)

1)憲法に規定する基本的人権及び生存権等の実現
2)生活保護の運用と実態
3)少子化社会の要因としての結婚・出産・育児等における経済的不安
4)子どもの貧困と幸福度を巡る評価と課題
5)母子世帯・父子世帯の困窮支援の必要性
6)非正規労働者の増加と雇用及び経済的不安の拡大及び格差拡大
7)保育職・介護職等社会保障分野の労働条件等を要因とする慢性的人材不足
8)共働き夫婦世帯の増加と仕事と育児・介護等両立のための生活基盤への不安
9)国民年金受給高齢者の生活基盤の不安・脆弱性及び世代間年金制度問題
10)高齢単身世帯、高齢夫婦世帯、中高齢家族世帯の増加と生活基盤への不安
11)コロナウイルス禍による就労・所得機会の減少・喪失による生活基盤の脆弱化
12)自然災害被災リスクと生活基盤の脆弱化・喪失対策
13)日常における不測・不慮の事故、ケガ、失業等による就労不能、所得減少・喪失リスク
14)IT社会・AI社会進展による雇用・職業職種構造の変化と所得格差拡大と脱労働社会への対応
15)能力・適性・希望に応じた多様な生き方選択による就労・事業機会、自己実現・社会貢献機会創出と付加価値創造
16)貧富の格差をもたらす雇用・結婚・教育格差等の抑制・解消のための社会保障制度改革、所得再分配政策再考
17)世代間負担の不公平対策と全世代型社会保障制度改革の必要性
18)コロナ禍で深刻さ・必要度を増した、安心安全な生活を送るための安全弁としての経済的社会保障制度
19)基本的人権に基づく全世代型・生涯型・全国民社会保障制度としての、生活基礎年金制(ベーシック・ペンション制)導入へ
20)副次的に経済政策として機能する、社会経済システムとしてのベーシック・ペンション
21)生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)導入に必要な種々の課題への取り組み

ベーシック・ペンションについて知っておきたい基礎知識としての5つの記事

日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンションとは(2021/1/17)
諸説入り乱れるBI論の「財源の罠」から解き放つベーシック・ペンション:ベーシック・ペンション10のなぜ?-4、5(2021/1/23)
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)前文(案)(2021/5/20)
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案(2021/3/2)
ベーシック・ペンションの年間給付額203兆1200億円:インフレリスク対策検討へ(2021/4/11)

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