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「少子化社会対策大綱」批判-3:少子化の真因と究極の少子化対策ベーシックインカム(2020/7/13)

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 今年2020年5月下旬に閣議決定をみた「2020年少子化社会対策大綱」の形式性・形骸化を批判すべく
「2020年少子化社会対策大綱」批判-1:批判の後に向けて(2020/6/18)
を以前投稿した。
 その流れから、大綱の本元、<少子化社会対策基本法>をチェックし、それも批判した。
「少子化社会対策大綱」批判-2:少子化社会対策基本法が無効施策の根源(2020/6/25)

 そもそも、大綱の基本となるべき<基本法>が、無責任法なのだ。
 しかし、これをもって法律と呼ぶには、あまりにもひどい仕事を、国会議員や官僚がしているものだと、怒りを通り越して、愕然としてしまう。
 まあ、基本方針を唱っただけで少子化に歯止めがかかるものではないことは重々承知してはいるが、この内容をもって法律と呼ぶには、法とは何なのか疑問を感じるということだ。
 法がこの程度ならば、大綱は飽くまでも大綱に過ぎない。
 やはり責任を持って取り組もうというものではないということになる。
 が、ここで放り出しては身も蓋もない。
 現実に戻ろう。

先進諸国も合計特殊出生率に苦戦。決め手に欠く少子化対策

 実は、少子化に悩むのは日本に限ったことではない。
 成功している海外の事例を参考にすればいいという単純なものでもない。
 上に、最近の各国の実態を厚労省HPから借用した。
 少子化対策の成功例の代表とされるフランスも、出生率が2008年の2.01から18年に1.88に低下。女性がキャリア重視で出産を遅らせ、20歳代の出産が減っている。
 韓国は18年に初めて1を下回り世界最低水準を記録し、19年は0.92。育児と仕事の両立が進まず、住宅価格の高騰等もあり、子どもを育てる余裕がない。
 逆に、ドイツは、2007年に育児休業中の所得を67%まで補填する「両親手当」を導入し、13年から1歳以上の子どもが保育を受ける権利を保障。父親の育児参加を促し、育休取得率は19年時点で35.8%に。そして18年の出生率は0.19ポイント上昇し1.57に。
 一方日本は2005年に過去最低の1.26に。その後回復し、このところ1.4台で推移していたが、2019年に8年ぶりに1.3台に下げた。
出生率1.36、出生数90万人割れ、総人口減少率最大:少子化社会対策大綱は効き目なし


 厚生労働省「人口動態統計」より。
 当然だが、婚姻数の減少と出生数の減少、同一傾向を示している。

 各国とも、それぞれそれなりに過去取り組み、今も取り組んでいる。
 そして、この日本だ。
 日本の<少子化社会対策大綱(概要)>を再掲する。


新型コロナウイルス感染症・パンデミックで明けた令和にふさわしい時代の少子化対策とは

 上図の<基本的な考え方>では、大項目5項目を提示しているが、実際にはその冒頭、以下の前文がある。

基本的な考え方 ~新しい令和の時代にふさわしい少子化対策へ~

若い世代が結婚や子供についての希望を実現できる社会をつくり、「希望出生率 1.8」を実現するため、以下の基本的な考え方に基づき、社会情勢の変化等を踏まえた、令和の時代にふさわしい当事者目線の少子化対策を進めていく。
本大綱の推進に当たっては、将来の子供たちに負担を先送りすることのないよう、安定的な財源を確保しつつ、有効性や優先順位を踏まえ、できることから速やかに着手することとする。

 「令和に時代にふさわしい」こととは一体何か。
 まったく具体性を欠く、情緒的な表現である。
 2019年から継続しての年であり、2021年に繋がる年であり、令和がどういう年と規定した物があるわけではない。
 「結婚や子供についての希望を実現できる社会」を絶対に令和の時代に構築すると仮に言っても、令和が何年続くかわからないし、何年までに出生率どれだけに回復させるか、決めておくわけでもない。
 「将来の子供たちに負担を先送りすることがないよう、安定的な財源を確保」するというが、「できることから速やかに着手する」ので、どっちにしても、令和を、はっきりと見通せる時代としてはいないのだ。
 残念だが令和は、コロナ禍と各地での集中豪雨による大規模自然災害で、その時代の幕を開けた。
 少子化対策には、厳しい逆風となる。
 となれば、極力、対策として機能する確率が高い施策に絞り込み、そこに集中して取り組む新たなプランを立てるべきだろう。
 図の一番下にある<施策の推進体制等>などという寝ぼけた体制で、形ばかりのPDCAサイクルを回したところで、時間とコストの浪費にしかならない。

<基本的な考え方>2項目の解説に隠された真因

 ただ、<基本的な考え方>5項目の内の(1)(2)の解説文には、少子化を長引かせている根本的な要因が示されている。
 だが、やはり真因に踏み込んでいないのだ。
 その真因をぼかしたまま、<重点課題>として箇条書きレベルで収めてしまっている。
 たとえば、
(1)結婚・子育て世代が将来にわたる展望を描ける環境をつくる
に、こうある。
「若い世代の非正規雇用労働者の未婚率は、特に男性で正規雇用に比べて顕著に 高くなっており、雇用の安定を図り経済的基盤を確保することが重要である。」

(2)多様化する子育て家庭の様々なニーズに応える
には、
ひとり親家庭や再婚家庭など、家族の在り方は多様であり、また、都市部への人口流入を背景に、自分の生まれ育った地域以外で子育てをする家庭や、不安や悩みを誰にも相談できず孤立して子育てをする家庭も少なくない。」
「子育て家庭における様々なニーズに対応するとともに、一人一人の子供が心身ともに健やかに育つことができるよう、全ての子育て家庭が、平常時・ 非常時を問わず、それぞれが必要とする支援にアクセスでき、安心して子供を生み育てられる環境を整備する。」
「その際、在宅の子育て家庭、ひとり親家庭、低所得の子育て家庭、障害児や医 療的ケア児を育てる家庭、多子世帯、多胎児を育てる家庭、再婚家庭などに配慮 する。」

 次の3項目は、自治体や地域への丸投げであったり、情緒的表現のみにとどまったり、具体性を著しく欠くなど、あまり評価できないので省略する。
(3)地域の実情に応じたきめ細かな取組を進める
(4)結婚、妊娠・出産、子供・子育てに温かい社会をつくる
(5)科学技術の成果など新たなリソースを積極的に活用する

「少子化社会対策大綱」の<基本的な考え方>の全文は、以下のリンク先で確認を。
◆ 少子化社会対策大綱本文(PDF形式:424KB)

少子化の真因は、結婚できない、子どもを持てない現在と将来の経済的不安

 上記の(1)で真っ先に「結婚・子育て世代が将来にわたる展望を描ける」ことを取り上げた。
 その中で、「非正規雇用労働者」の不安を<経済的基盤の確保>で解消する必要を示したかのようだ。
 そしてその対策として、別に
・若者の雇用の安定
・非正規雇用対策の推進

の2項目を掲げてはいる。
別添1 施策の具体的内容(PDF形式:677KB)
 だが、その程度で、企業に対して強制力を行使するわけでもなく、社会経済システムを変革することなど全く考えていない。
(2)では
ひとり親家庭、低所得の子育て家庭、障害児や医療的ケア児を育てる家庭、多子世帯、多胎児を育てる家庭、再婚家庭」と最重点対象者・対象世帯を特定したのだが、「環境整備」や「配慮」でお茶を濁し、抜本的かつ十分な経済的支援と心身の支援相談を包摂化した法律策定にまでは踏み込んでいない。

 結局、(1)だけでなく(2)も経済的不安が主たる要因とした問題と言える。
非正規雇用者、ひとり親世帯、低所得者及び世帯、低所得多子世帯、障害者等を抱え理想とする働き方が不可能な世帯。
 多くに共通な格差・貧困、必要かつニーズに応じた働き方ができないことからの低所得。
実態としてそこに行き着く。

 対策大綱に組み込まれた種々の対策は、あれば、なされれば望ましい事柄だが、決め手にはならず、少子化抑止への影響度は極めて低いと考えてよいだろう。

女性の高学歴化に伴う晩婚化、高齢出産化は、個人の自由だが

 もう一つ、この大綱の中で、個人の意思・意識を尊重すべく踏み込んでいないのは、晩婚化とそれに伴う高齢出産化に対する部分である。
 それはそうで、多様で自由な生き方を選択してのことだ。
 だがその結果としての多様なライフステージ、ライフイベントのパターンとして、結婚年齢・出産年齢、自身の年齢・こどもの年齢、仕事のキャリアにおける年齢・年数などのモデルパターンを提示したり、自分で記入し描いてみるアプリを提供するなどの間接的な支援を行うべきと思うのだ。
 もちろん、妊娠・出産・子育て、休職・復職など、働く企業サイドの理解協力や制度改革などがセットで必要となるのだが。
 少なくとも、少しでも早く産んで、早く育て上げる方が、キャリア的にも、個人生活上も良いのでは、と考える者なので。
 高齢出産になると、子育てと介護と仕事、トリプル立が必要になるリスクもあるかもしれない。

少子化対策の決め手、主軸は、ベーシック・インカム制の導入

 色々批判ばかりしていても埒があきません。
 結婚したくても結婚できない、子どもを持ちたくても持てない。
 その多くの理由・原因は、現在と将来の経済的不安、先が見通せない、将来に希望が持てない仕事や賃金。
 その不安を解消し、将来にきぼうを持つことが可能になる社会経済システム。
 それは、すべての人に無条件で、毎月の最低限の生活を営むことを可能にするベーシック・インカムを支給する社会保障システムの導入である。
 大人には「生活基礎年金」として、子どもにには「児童基礎年金」として、同額を。
 もちろん、無条件とは言っても、何かしらの制約はありますし、いきなりすぐに始めることができるわけでもありません。
 財源をどうするか、いつからどのように始めるか・・・。
 議論・検討し、法律を作り、導入の準備をし・・・。

 2025年くらいまでに議論され、合意を得て法律化し、2027年頃までに準備を進め、順次優先順位に従い導入を開始し、2030年にはすべての日本国民に行き渡る。
 その夢を描き、現実味を帯びさせる作業を、一歩一歩進めていくことができれば。
 ウイズコロナとしても、アフターコロナとしても、ベーシック・インカムは有効に機能するでしょう。

 なお、この他、幼保無償化に続いて行うべき義務保育化も、少子化対策に大きな好影響を与えると思われることを書き添えておきたい。

(参考):<保育システム及び保育行政システム改革>関連投稿ラインアップ

保育園義務教育化と保育グレード設定による保育システム改革-1
保育の社会保障システム化による保育システム改革-2
准公務員制度導入で潜在的労働力の発掘と活躍へ:専門職体系化による行政システム改革-3
幼保無償化後の現実的課題:抜本的な保育行政システム改革への途

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本稿は、WEBサイト https://2050society.com 2020年7月13日投稿記事 2050society.com/?p=2394 を転載したものです。

当ベーシックインカム、ベーシック・ペンション専用サイト http://basicpension.jp は2021年1月1日に開設しました。
しかし、2020年から上記WEBサイトで、ベーシックインカムに関する考察と記事投稿を行っていました。
そこで、同年中のベーシックインカム及び同年12月から用い始めたベーシック・ペンションに関するすべての記事を、当サイトに、実際の投稿日扱いで、2023年3月から転載作業を開始。
数日間かけて、不要部分の削除を含め一部修正を加えて、転載と公開を行うこととしました。
なお、現記事中には相当数の画像を挿入していますが、当転載記事では、必要な資料画像のみそのまま活用し、他は削除しています。
原記事は、上記リンクから確認頂けます。

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