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斎藤幸平氏のベーシックインカム批判・ベーシックサービス支持への反論

貧困に陥った若者たちの実態をテーマとした、東洋経済オンラインにおける特集「見過ごされる若者の貧困」シリーズ。
その1回目の記事:竹中平蔵「私が弱者切り捨て論者というのは誤解」 と題した竹中氏へのインタビュー内容を紹介し、その中で触れられた竹中ベーシックインカム論について、次の記事を投稿しました。
誤解を招く発言への客観的自己評価ができない竹中平蔵氏のベーシックインカム論、弱者切り捨て論(2021/12/5)

そのあとの第2回目は、若者の貧困の解決策を斎藤幸平氏に聞いた以下のインタビュー記事。
日本人が知らない「脱成長でも豊かになれる」根拠 | 見過ごされる若者の貧困 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース (toyokeizai.net)

その内容は、斎藤氏のベストセラー『人新世の「資本論」』で書かれたものを繰り返した感があるため、ここでは取り上げません。
実は、同書の概要を紹介し、私なりの意見を加えたシリーズ記事があります。
以下の記事で紹介していますので、チェック頂ければと思います。
斎藤幸平氏著『人新世の「資本論」』紹介・考察シリーズ記事案内(2021/11/24)

で、本稿の目的は、同インタビューでほんの少しですが、ベーシックインカムについて述べられている部分の紹介です。

斎藤幸平氏のベーシックインカムへの単純な理解


 そこでは、斎藤幸平氏が抱く「ベーシックインカムについての考え」を尋ねられると、以下のように応えています。

今の日本で議論されているベーシックインカムは、例えば月7万円を配る代わりに社会保障をすべて削る、究極の「自己責任社会」になりかねない
さらに「ベーシックインカムの分給料を下げる」という企業側の要求もはねのけられず、結局ますますお金に依存する社会になることを危惧しています。


 この程度の認識で、ベーシックインカムへの疑問を呈しているのです。
 なぜか、月額7万円で社会保障をすべて削るのがベーシックインカムと、「例えば」とはしていますが、緻密なマルクス論調査分析を行なった気鋭の学者にしては、随分乱暴な扱いです。
 「究極の」自己責任社会にまで突き進む「極論」も、ベーシックインカムへの考察の浅さを自ら示していると言えるでしょう。
 
 この7万円ベーシックインカム説が誤解されていると言い訳している竹中平蔵氏の無責任BI論について、先日
誤解を招く発言への客観的自己評価ができない竹中平蔵氏のベーシックインカム論、弱者切り捨て論(2021/12/5)
で厳しく述べましたが、ことベーシックインカムについては、竹中氏同様、斎藤氏もそう深く考えていないようです。
ベーシックインカムを突き詰めて考えたことはない竹中平蔵氏 (2021/8/17)

ベーシックサービス評価もこれでいいのかと思うくらい、貧相・貧弱な理由で

 そして、べーシックインカムよりも望ましい制度として「ベーシックペンション」を以下のコメントを添えて推奨します。

私はベーシックインカムよりもベーシックサービス、必要なものを無償化して現物給付で渡す「コモン化」の道を選びたい。
それによって貨幣の支配を弱め、市場に頼らずに生きていける領域を増やしていくほうがよいと考えています。

 
 これも、随分雑な意見・考え方です。
 必要なものを無償化して現物給付で渡す「コモン化」の道はどのように開拓でき、その場合の財源や人的資源はどのようにするのか。
 なにより、現物給付するベーシックサービスの領域・種類は何か、どこまで及ぶのか、具体的なこと、ものは何一つ示されないままの単なる希望・意見です。
 専門が経済思想・社会思想という斎藤氏。
 経済と社会双方を架け渡して望ましい社会経済システム、コモンを思想するならば、社会保障制度・社会政策としてのベーシックサービスとは具体的にどういうものか、何を見れば、調べれば理解できるかなどにも配慮した発言を今後望みたいと思います。

 でないと、一生懸命弁明・弁解する新自由主義(経済学)者竹中氏の無責任BI論とさして違わぬリベラル学者の誤解を生む発言として固定化・定着化してしまうのです。
 特に著名人の発言は、一層単純化され、強度を増すことで、言葉足らずのものが、断定・結論として独り歩きすることに十分留意すべきです。

 因みに、立憲民主党は、ベーシックインカムではなくベーシックサービスを政策に組み入れています。
 そのベーシックサービスは、日本では井手英策氏が提案してきているのですが、同氏著『未来の再建 (ちくま新書)』でその考え方を展開しています。
 その書を紹介しつつベーシックサービスを批判した以下の記事を、1年前に投稿しています。
 参考までに見て頂ければと思います。
井手英策氏「未来の再建のためのベーシック・サービス」とは:『未来の再建』より-2(2020/11/18)
 加えて、井出氏案では、ベーシックサービスにかかる費用の財源は、消費増税によると提案していることを知っておく必要があります。

東洋経済オンライン・インタビュー内容からのピックアップ

 以上だけで終わってしまうことは、一方的、断片的・一面的過ぎると思いますので、そのインタビュー内で述べている内容のうち、ベーシックインカムやベーシックサービスと関連付けることができる事項、斎藤氏の考え方を一部、以下に転載しておきたいと思います。

コモン化と脱成長コミュニズムとは

無限の利潤獲得を目的とする資本主義のために働くのではなく、自然環境も人間の身体も有限であることを前提に、持続可能なペースで幸福を追求する。
労働者も環境も食いつぶすような経済システムとは手を切り、経済自体をスケールダウン、スローダウンさせていく。それが脱成長。

そこに向かう過程として、人間誰もが必要とするもの、たとえば水道、電力、住宅や医療・教育などを共有財産にして、人々の手で管理し、無償もしくは、安価に提供する「コモン」化が必要。

なぜ安価にできるか。
たとえばパリ市は民営だった水道を「市民営化」という形で「コモン」化をしたが、民営時代は経営陣の高額報酬や株主配当、不透明な経営で料金が高騰していた。
生きるのに必要なものを脱民営化・脱商品化し、人々の手でマネージメントしていくことで費用を下げていくことができる。
足りなければ、そこに公的資金をもっと入れていったほうがいい。
かつては少しずつ上がる給料で家のローンや子どもの教育費用、医療費、老後の資金を賄っていた。
企業からのお金に依存して、人生設計を行ってきた。
今の問題は、日本型の安定雇用が壊れたのに、教育なり医療なりに多額のお金がかかる制度がそのまま残っていることで、当然収支が合わない。

こうした貨幣の支配を和らげるためにも、生活の基盤となるシステムを安価にし、収入に依存せず、皆がある程度平等な機会を持てる社会にしていく。
コモン化によって、貨幣の動きや市場経済に依存しない領域が増えていくことが脱成長経済。
人々が市場から稼ぐプレッシャーから解放され、同時に、環境にも優しいケアを中心とした社会ができていく。
それがコモン型の社会、「脱成長コミュニズム」。
これまで経済の成長だけを考えていたところに、環境とか、「コモン」を拡大して不平等を解消する視点を取り入れることで、私たちの考え方自体が大きく変わる。
我慢と捉えられがちだった環境対策のイメージがむしろ生活の豊かさに結びついていく。
そんな発想の転換もできるんじゃないかと考えている。

 
 ここでは触れませんが、多くの疑問や懸念を抱かせる内容・表現が、この中にはいくつも見られます。
 また、ベーシックサービスそのものと直接関係している課題がこの表現の中に見られます。
 しかし脱商品化し、脱民営化しても、コストと人的資源の投入は不可欠であり、脱成長によってその原資・資源を確保することが、安価に可能に果たしてなるか。
 財政領域の課題やコモンとしての必要制度・システムの開発・運用・管理に関する課題が、コモン型社会や脱成長コミュニズム社会において、問題なく克服できるのか。
 それはまだ現実モデルが存在せず、一つの理想郷としての描写でとどまるのです。
 とりわけ、最も困難な人間社会関係に関わる課題解決へのアプローチは、斎藤氏が提起する市民運動からの展開で可能かどうか。
 個別のモデルらしき活動や制度事例を取り上げても、それが国家やグローバル社会レベルで拡大展開、あるいはコピー展開できるものではありえないでしょう。
 無条件に、反射的に賛同することは、まだまだできませんし、委ねる気持ちにもなりません。
 もし斎藤氏自身がその社会の実現をめざして、自身が理想とする活動展開に身を投じ、思想から活動に向かうことで、そうした疑問・疑念は僅かずつでも払拭できていくのかもしれませんが。


貧困問題解決のための財源確保と税制改革

経済格差の是正を同時に進めるためにも、大企業や富裕層への課税を強化。
金融資産課税でもいいし、不動産などの資産に直接、富裕税として課税をしてもいい。
ここまで下げられてきた法人税や所得税ももっと上げていけばいい。
大胆に格差を是正し、社会を平等にしていく必要がある。
先進国の貧困問題は、富が偏りすぎているせいで、サービスや必需品にアクセスできない人が多いだけなので、格差是正が実現すれば、今ある貧困問題はかなりの部分が解決する。


 最後にある「格差是正が実現すれば、今ある(先進国の)貧困問題はかなりの部分が解決する」という部分を取り上げると、ベーシックインカムを現実的に考える価値があると言えると思います。

<斎藤幸平氏プロフィール>

1987年生、大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。専門=経済思想・社会思想。
ベルリン・フンボルト大学哲学科 博士課程修了。博士(哲学)。
Karl Marx’s Ecosocialism: Capital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy (邦訳『大洪水の前に』堀之内出版)により「ドイッチャー記念賞」を歴代最年少で受賞。
著書に『人新世の「資本論」 』(集英社新書)等。

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