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2022・23年考察

鈴木亘氏による非常時対応可能既存社会保障制度改定提案:日経経済教室「社会保障 次のビジョン」から-2


3月上旬、日経<経済教室>欄で、<社会保障 次のビジョン>というテーマで、3人の学者による小論が連載されました。
それぞれを順にその内容を取り上げ、当サイト提案の日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンションの必要性・有効性と結びつけて考えてみます。

第1回は、香取照幸上智大学教授による「経済・財政と一体的改革を」と題した小論
⇒ 社会保障 次のビジョン(上) 経済・財政と一体的改革を: 日本経済新聞 (nikkei.com)
を元にして、以下の記事を。
紋切り型<社会保障の経済・財政との一体改革>論から脱却してベーシック・ペンションを:日経経済教室「社会保障 次のビジョン」から-1(2022/3/11)

今回の第2回目は、これまでも何回か取り上げている、鈴木亘学習院大学教授による「非常時対応、既存制度改革で」と題した、以下の小論が対象です。
⇒ 非常時対応、既存制度改革で 社会保障 次のビジョン: 日本経済新聞 (nikkei.com)


非常時の対応は、既存制度改革で、という鈴木氏の提案の概要

新型コロナウイルス感染症によるパンデミックや、大規模災害や地域紛争のリスクへの対応・対策で余儀なくされている多額の財政出動。
こうした財政規律維持に反する経済財政政策に対して、通常時はもちろん、非常時においても批判的に見ている鈴木氏。
いわゆる新自由主義的学者と見られ、リベラルには評判が悪いのですが、私は、それなりに評価をしています。
もちろん、基本としている<財政規律主義>への盲目的な傾斜には私は反対しており、鈴木氏の論理でいくと、税と保険料徴収範囲内での社会保障制度は、ゼロサム、マイナスサム条件における、高齢者の自己負担増大化と、ワークフェアを基本とする自助努力主義に帰結するのです。
その体でいくと当然、財政の現実数値を持ち出すわけで、以下示しています。

問題は今後もショックが起きるたびに、今回のような大規模な財政出動を繰り返すのかということだ。コロナ前の国の一般会計歳出額は年間100兆円前後で推移。
これが、2020年度の3回の補正予算を含む歳出額は175.7兆円、2021年末成立補正予算を含む同年度の歳出額は142.5兆円と、空前の規模に。
高齢化による社会保障費増が続くなか、こうした大盤振る舞いを何度も続けていては、いずれ日本の財政は立ちいかなくなる。


ということで、当小論のテーマである、「ウィズコロナにふさわしい効率的な経済対策を検討し、現在の「非常時体制」から脱する」方策について、展開されます。
概要を示し、若干考えるところを書き留めることにします。


コロナ経済対策の多くは、広義の社会保障

コロナ禍で賄われた、生活支援の給付金、雇用対策、休業支援、弱者・貧困対策、医療・介護の補助金などは、広義の社会保障
本来の社会保障においては、失業給付や生活保護などのセーフティーネットが優先して活用されるべきだが、現金給付、特例措置などの新施策が創設され、既存制度がフル動員されてはいない。

こういう認識を踏まえて、最も力点を置いているのが「雇用調整助成金」をめぐる問題と改善策です。
以下、見ていくことにします。

雇用調整助成金を巡る問題

雇用保険領域における雇用調整助成金特例措置の原資のほとんどは、国が助成

これを利用するため、多くの企業は、解雇ではなく休業を選択。
雇用調整助成金は、特例措置と期限延長で、2月11日までの累計額5.3兆円超。
そのための安定資金残高は2020年度中に枯渇。失業給付等積立金からの借入総額2022年度に3.1兆円に。その積立金残高は2022年度中にほぼ底をつく見込みで、雇用保険は財政破綻寸前。
ということで、早速雇用保険料の引き上げが検討・予定されている。
一方参考までに。
・直近(21年12月)の失業給付受給者数はコロナ前(19年12月)比5.8%増止まり
・求職者支援制度の2021年度利用者数、20年度比12.9%増で低調

雇用調整助成金を巡るその他の問題
1)失業給付と休業手当の待遇格差:解雇失業者の1人1日当たりの給付上限額8265円。雇用調整助成金の上限額1万5千円とその差大
2)給付期間の格差:特例措置期限満了時の休業者解雇時、改めて失業給付支給。現在の休業者は休業手当・失業給付両方受領により救済期間は既解雇失業者より長期で不公平
3)企業にとって休業のコストが低く、安易に休業に頼るモラルハザードが生み出されており、ゾンビ企業を無駄に生き永らえさせている可能性
4)ゾンビ企業にいる休業者たちも早々に見切りを付けて成長企業に移る方がよいが、休業手当により足止め。無為に過ごす長期休業で職業能力が失われるよりは失業し、失業給付や求職者支援制度を受け、職業訓練で技能・資格を学び、キャリアアップして新たな成長分野に再就職するチャンスが

4)などは、そう簡単にいくようなことでもないので、余分な記述のような気がしますが。

救済すべき対象以外にもなされたバラマキで財政規模拡大へ

・国民全員へ特別定額給付金10万円の支給
・ひとり親世帯や子育て世帯への臨時特別給付金等の支給
・休業支援金の本来の使途とは本末転倒の悪用
・支援持続化給付金のように不正受給が横行する例も

一方、
・現金給付や特例貸し付け:生活困窮者が生活保護に陥ることを防ぎ、直近(21年11月)生活保護率1.63%で、コロナ前(19年12月)1.64%から増えていない。
・事業者に対する各種給付金や休業支援金が功を奏し、倒産件数も歴史的低水準
という反証も添えてはいます。

財政浪費的新政策を、既存の社会保障制度の中に取り入れて、次のショックに備えるべき

しかし、こうしたバラマキ的浪費的財政政策を戒め、こういっています。
既存制度は完成度が高く効率的だが、もっとも、コロナ禍の新施策導入の背景には、非正規労働者や被害を受けた業界への迅速な救済が難く、見直すべき課題が多い。
そこで多くは、既存の社会保障制度の中に、財政浪費的な政策を改めて組み入れるべきというわけです。
その提案をいくつか上げており、以下整理してみます。
1)雇用延長助成金連続利用期間の半年への制限
2)その運用のっための財源の借り入れの禁止(雇用調整助成金は保険料と公費のみで運営)
3)企業のみ負担の雇用保険料の労働者も負担へ

ただし、「既存制度は完成度が高く効率的」というのは基本認識の違いを表しています。
税と社会保障の一体化、財政規律の主義にまだまだ問題を残しているという鈴木氏の認識のはずですが、矛盾していますね。
どちらも問題が多いと私は認識しています。

非正規労働者の雇用保険料負担・徴収法を

もう一つ鈴木氏が評価しているのは、
今回の特例措置で雇用調整助成金が、公費を財源として非正規労働者にも適用されたこと。
それを踏まえて、
非正規労働者からも保険料を徴収したうえで、この措置を制度化すべき」と提案しています。

私が提案するベーシック・ペンションでは、その導入に伴い、事業主も含め、何かしらの労働所得があるすべての人が加入する「就労保険制度」を「雇用保険制度」に替わって創設することを併せて提案しています。
加えて、企業のモラルハザード対策として、助成金の期限終了直後の廃業や解雇に対し、助成金の一部返還を罰則として科すこと。
非正規労働者の救済は、雇用調整助成金に頼るのではなく、失業給付の対象拡大で対処すべきこと。
等を上げ、雇用保険自体の改革も怠るべきではないと強調しています。
この点については、至極当然のことです。

生活困窮者支援策として、給付付き税額控除制度の導入を

そして、バラマキ財政の象徴とする世帯への各種給付金については、以下の、鈴木氏のかねてからの持論を提案します。

世帯への各種給付金を廃止し、生活困窮者に給付金が還付される「給付付き税額控除」を導入すべき。この制度により、経済ショック等発生時には、自動的に生活困窮者が救済されるため生活保護を必要以上に増やさず、新しい給付金制度を作る必要もない。

生活困窮者の基準やその適用者の特定に関して、さまざまな問題がコロナ禍で表出したのですが、現実的にスパッと公平・公正に運用することは難しいことは、鈴木氏も承知していると思うのですが。
また、この「給付付き税額控除」は、基本、給与所得がある人に適用するものであり、それ以外の人は排除されるわけで、部分的・限定的な運用にとどまります。
私が提案するベーシック・ペンションとは相反する、中途半端な制度となってしまう可能性が高いのです。

事業者向け給付金・休業支援金等は、広義の災害保険等創設で

もう一つ、事業者に対する給付金・休業支援金の運用・適用については、以下の提案を行っています。

事業者に対する給付金や休業支援金については、休業命令保険の一種である、(感染症を含む)広義の災害保険を国が創設し、事業者から保険料を徴収し運営する。
医療機関や介護事業者の減収対策も、補助金や診療報酬・介護報酬に頼るのではなく、この災害保険で自ら備えてもらう。

まあ、実際には、この災害保険の保険料の設定基準が問題になるでしょう。
医療・介護という公的・公共的事業においては、自ずとその保険料の一部は公費を充当する必要があると考えます。
事業規模や業種等を考えた時、こうした保険料負担を何の問題もなく受け入れることができるかどうか。
簡単ではない気がします。

保守主義鈴木氏のコロナ後の社会保障ビジョンのレベル


結局、バラマキ政策と総括されていますが、必要なものは必要なので、問題は、抜け道・抜け穴が多い運用だったことが一番。
そうしたムダを今後なくすために、鈴木氏提案の<既存制度>に必要な要素・要件・条件を組み入れることには賛成です。
基本的には、ワークフェア、自助努力主義を基礎として、財政規律主義を守るという主旨によるコロナ後の社会保障改革提案ということができるでしょうか。
しかし、そのことで今後どの程度、社会保障必要財源が増減するのかは不明です。
そのことで、財政規律が改善されることが確かなわけではありません。
多種多様な改善策が、盛りだくさんに提示されていますが、これをもって社会保障ビジョンというレベル・内容とは言えませんし、ある意味弥縫策レベルに過ぎないのでは、と思ったりもします。

言うならば、鈴木氏にとっては、物足りないテーマであったのではないでしょうか。
鈴木氏の基本的な考え方と、それに対する私の意見などは、これまで以下のように数回記事としています。

鈴木亘学習院大学教授による、財源面からの2021年ベーシックインカム試案(2021/2/4)
鈴木亘氏の社会保障制度論の限界と社会保障制度改革の必然性(2021/2/5)
鈴木亘教授『社会保障亡国論』にみる正解と誤解(2021/2/10)

そろそろ同氏の認識にも多少の変化を期待したいと思うのですが、ムリでしょうね。

次回は、やはり当サイトで既に取り上げたことがある、ベーシック・アセットという何やら得体のしれない社会保障制度を提案している宮本太郎中央大学教授の小論を取り上げます。

(参考:社会保障制度に関する基本認識記事)
2030年社会保障制度改革の起点とすべき社会保障制度基本方針大転換による政治改革と財政システム改革(2021/2/4)

(参考:ベーシック・ペンションに関する2022年提案記事リスト)
ベーシック・ペンション法(生活基礎年金法)2022年版法案:2022年ベーシック・ペンション案-1(2022/2/16)
少子化・高齢化社会対策優先でベーシック・ペンション実現へ:2022年ベーシック・ペンション案-2(2022/2/17)
マイナポイントでベーシック・ペンション暫定支給時の管理運用方法と発行額:2022年ベーシック・ペンション案-3(2022/2/18)
困窮者生活保護制度から全国民生活保障制度ベーシック・ペンションへ:2022年ベーシック・ペンション案-4(2022/2/19)

                       少しずつ、よくなる社会に・・・

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