鈴木亘学習院大学教授による、財源面からの2021年ベーシックインカム試案
セーフティネットとしてのベーシックインカム
2021年1月29日から、日経の<経済教室>欄で、3回シリーズで、コロナ禍でのさまざまな支援政策の要求や実施が図られている中、それらのセーフティネットについての小論が掲載されました。
今日は、その第1回での『社会保障亡国論 』などの著がある鈴木亘学習院大学教授による『あるべきセーフティーネット(上) 還付型給付、自己申告方式で』と題した小論で触れられたベーシックインカムを紹介します。
他にも以前から提案されているBI案があり、取り上げる順を考えていたのですが、急にこの鈴木氏の最新の小論を紹介することにしたのは、前回紹介した、以下の原田泰氏提案と類似した方法で記述されており、比較できることと、現在導入するならばという前提で理解できる内容であったためです。
◆ リフレ派原田泰氏2015年提案ベーシックインカム給付額と財源試算:月額7万円、年間総額96兆3千億円(2021/2/3)
コロナ禍、感染拡大第3波と再度の緊急事態宣言を迎えていることを受けて企画されたシリーズの第1回目の小論では、まず、コロナ禍において運用されている雇用調整助成金や失業手当について評価・考察しています。
ここではベーシックインカムに焦点を当てるため、そこでの主張は割愛します。
可能でしたら、日経のWEB版で確認頂ければと思います。(有料会員のみ閲覧可能かと思いますが)
◆ あるべきセーフティーネット(上) 還付型給付、自己申告方式で
支給額と必要予算
鈴木氏のBI提案は、
1.<支給額>:15歳以上月額10万円
15歳未満月額6.7万円(10万円の2/3)
2.必要予算:年間145.2兆円
となっています。
原田氏案は、
1.<支給額>:20歳未満(2,260万人) 月額3万円
20歳以上(1億490万人) 月額7万
2.必要予算:年間96兆3千億円
でした、
財源(代替予算)案
その必要額をどのように捻出・調達するか。
鈴木氏は、まず計上可能分を、次のように提示しています。
1)生活保護(生活扶助と住宅扶助分) 1.8兆円
2)基礎年金 23.9兆円
3)配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除等 51.2兆円
4)失業等給付 1.3兆円
5)育児休業給付 0.7兆円
6)児童手当・児童扶養手当 2.3兆円
合 計 81.2兆円
そのうちの1)2)4)5)6)は、ベーシックインカムにより、現在の当該制度が必要なくなることで、算出したものです。
3)は、現在の所得税算定において控除されている額も、課税対象となるため、税収が増えることを示しています。
その合計額が、81.2兆円となり、必要予算の145.2兆円に、64兆円不足することになります。
この方式での原田氏案は、
◆ リフレ派原田泰氏2015年提案ベーシックインカム給付額と財源試算:月額7万円、年間総額96兆3千億円(2021/2/3)
で確認し、比較してみてください。
不足額64兆円の捻出・調達方法試案・試算
では、その不足分64兆円をどう捻出・調達するのか。
鈴木氏の提案では、
1)消費税増税による場合 23.7%に増税
2)所得税増税による場合 30.4%に増税
どちらかで可能と試算していますが、これを「壮絶な負担増」としています。
そして、
「さらなる社会保障・福祉の費用削減や、地方や中小零細企業、農林水産業への補助金削減で、負担増をゼロにできるとする研究もある。」とするのは、原田氏の提案を意識してのことです。
そして、「政治的にはほぼ実現不可能だろう。」と断定します。
そのために「セーフティーネットとして継続実施するには低所得者にターゲットを絞るべき」とします。
とは言うものの、政府・自治体は国民の所得や資産状況や、誰が低所得者なのかも、国民の預貯金の口座番号すらも把握しておらず、昨年の定額給付業務の大混乱の原因ともなったこと、マイナンバーカードの普及も一向に進んでいなことも指摘しています。
鈴木氏提案は、「負の所得税」方式
そこで結論として同氏が提案するのが、迅速に現金給付をできる仕組みとして「自己申告制の税還付方式」です。
これは、米国のジョージ・スティグラー(1911~1991)やミルトン・フリードマン(1912~2006)が提案した「負の所得税」方式、「給付型税額控除」に当たるものです。
しかし、その導入・実行提案内容を読むと、低所得者や自営業者等に、手続き等相当の負荷をかけるものであり、極めてハードルが高いと感じさせるものです。
自分が給付を受けるためには、進んでそうした手続き・手順を踏むだろうとしていますが、果たしてどうでしょうか。
一部、生活保護申制度の運用管理における問題と同様の状況や要因が出てくるのではと危惧します。
申請しなければもらえないのだから申請するだろうし、申請しないのは自分に責任がある、自分が悪いのだから仕方ない、ということになります。
ある意味「自助」主義です。
鈴木氏の、より具体的・詳細な提案内容については、ここでは省略します。
BI論における「負の所得税」の報告と重ね合わせて、別の機会に説明できればと思いますが、「負の所得税」自体も、私自身すんなり理解できる能力に欠けるためあまり自信がありません。
言い訳ついでに、鈴木氏がこう言っていることも紹介しておきたいと思います。
給付付き税額控除は格差社会に対応する理想的な再分配制度だが、日本で国民の所得・資産が完璧に把握できるようになるまで、導入は不可能と思われている。
だが自己申告制にすれば、最も肝心な低所得者への再分配についてはこと足りる。
コロナ禍を機に、不完全でもまずは制度をスタートさせ、徐々に完成度を高めていけばよい。
給付額は定額ではなく所得に応じて増減するが、所得がゼロの場合でも基礎的生活費が保障されており、一種のBIといえる。
ただし非就業者には失業手当や生活保護が引き続き必要であり、既存制度を大きく変えなくてよいため、政治的に実行しやすい。
当然のことですが、「給付付き税額控除」「負の所得税」は、格差社会に対応するための理想的な所得再分配制度としています。
しかし、自己申告に拠るという条件は、審査する上での基準・規程のあり方と強く結びつきます。
いわゆる裁量型になるリスクが拭えません。
いやそれ以前の生活の仕方、仕事の仕方の標準化さえ強制するリスクもイメージしてしまいます。
考えすぎかもしれませんが。
生活保護制度の存続・併用も必要です。
「政治的に実行しやすい」という断定もなにやら含み、条件が付いて回るでしょう。
冒頭紹介した鈴木氏の書のタイトル『社会保障亡国論』がイメージさせる何かを考えてしまいます。
やはり、ベーシックインカムは、従来の財源に依存しない、財源の罠から解き放たれた、国が発行し管理する、専用デジタル通貨が望ましいと考えます。
もちろん、税と保険料との一体化を組みこんだ国家財政の仕組みは、ベーシック・ペンションおよびその他の社会保障制度と統合して、総合的にシステム化し機能化させることは言うまでもありません。
規律性をもったベーシック・ペンションゆえです。
今回は、ここまでとします。
こちらも参考に
◆ 3種類の所得再分配論によるベーシックインカム思想の原型:原田泰氏著『ベーシック・インカム』より(2021/1/28)
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