ベーシック・ペンションによる過剰流動性及び需給アンバランス要因でのインフレ対策:渡辺努氏の物価・インフレ論から考える-2
少しずつ、よくなる社会に・・・
かねてから、ベーシックインカムあるいはベーシック・ペンション導入時に懸念されるインフレ、ハイパーインフレについて、経済音痴の私なりに考えて、今年初めに以下の記事を投稿しています。
◆ ベーシック・ペンション導入によるインフレリスクと対策を考える:ベーシック・ペンション実現へのヒント-3(2022/2/12)
この課題について考察を加えるべく、今年2022年に発刊された、渡辺努氏による『物価とは何か』(2022/1/11刊・講談社選書メチエ)と『世界インフレの謎』(2022/10/20刊・講談社現代新書)の2冊を用い、今年に入ってグローバル社会及び日本社会で急速に進んでいるインフレの発生要因と特徴、その抑制等についての論述を、提案しているベーシック・ペンションの課題と重ね合わせて自分なりに整理したのが、以下の記事です。
◆ 従来の経済理論が通用しなくなった物価・インフレ動向・要因とベーシックインカムとの関係:渡辺努氏の物価・インフレ論から考える-1(2022/12/24)
今回は、これを参考にして、ベーシック・ペンション導入時に懸念されるインフレをいかに抑止・防止するか、かなりの部分は、従来の主張・提案と重なりますが、次のステップに向けての踏み出しとしてこれまでの提案の整理も兼ねて、以下行ってみることにします。
先述の2冊において最も力点を置いているのは、需要と供給のアンバランスを要因としてインフレです。
その特徴は、金融政策によるインフレ抑制を主目的とする中央銀行には、<供給>要因への対策・対応は不可能とする論述でした。
従い、どちらかというと、過剰流動性を要因とするインフレ対策こそ中央銀行の出番として、極端を言えば「利上げ」の度合いとタイミングだけが課題かのような論述と勝手に理解しています。
そして現在のアメリカのFRBの行動や、ついにゼロ金利政策をやめざるを得なくなった日銀の政策転換の現実がそれを示しているといえます。
本稿では、2050年には、最大で200兆円規模の膨大なベーシック・ペンション給付を想定していることから、当然、少なからずある、インフレもしくはハイバーインフレの発生は不可避という意見に対する提案として<「過剰流動性」問題への現実的対策>をまず整理します。
ついで、2冊の参考図書の主命題である<「需要供給」問題への現実的対策>について整理します。
但し、当然両者は相互に関連しているため、重複して記述する内容があることをご容赦ください。
インフレ主要因の一つ、過剰流動性問題への現実的対策(1):国内利用限定の専用デジタル法定通貨給付・回収消却システムと日銀法改正及びデジタル通貨技術開発課題対応策
1)もう一つの法定通貨としての専用デジタル通貨ベーシック・ペンションとその特徴
現在、各国中央銀行が、デジタル通貨の研究開発、実証実験に取り組んでいますが、日銀も同様です。
いずれ、現状の法定通貨である日銀券や硬貨がデジタル通貨に換わることは間違いないと思いますが、ベーシック・ペンション(BP)では、その実現を前提としつつ、別途BP専用のデジタル通貨(BPDC)を日銀が発行し、すべての個人が開設する日銀専用口座に支給するシステムを提案しています。
そして、そのBPDCは、日本国内でのみ流通し、循環し、最終的に日銀に回収・還流し、一定期間内に消却するとしています。
これにより、BPDCの供給・流通量には上限が設定されており、一応過剰流動性発生の歯止めがかかるようにしています。
回収されるといっても、一部のBPDCは、一般の法定通貨に交換されるため、そこでの過剰流動性の懸念をすべて払拭できるわけではありませんが、BPDCが利用できる範囲を、国内における生活基礎消費や社会保険の自己負担分支払い等への利用構成比が高くなることで、一般法定通貨の流通量を抑止させる効果が想定できます。
なお、これも当然ですが、BPDCの実現に関しては、まだまだ時間・年数を必要とするため、過剰流動性発生懸念に対しては、次項で論じる、段階的導入で、影響評価分析や対策を実践しながら、理想とする給付レベルに近づける方策を取ること、むしろ取らざるを得ないことを提案します。
2)経過措置としての「マイナンバー通貨」の活用
しかし、解決・解消すべき社会保障制度や種々のリスク管理等のために、BP導入が一部分でも早期になされる必要もあります。
その優先順位案については後述しますが、そうした段階的導入においては、BPDC開発を待たずに、現状のマイナンバーカードを用いてのマイナポイント制を活用する、あるいは、マイナコインシステムを開発して導入するなどの方法も、現実的な対応・対策として検討の余地があると考えます。
3)やむを得ない限定的措置としての現金給付
また、マイナンバーカード活用も、現状理想とする形になっていないことなどを考慮すると、避けたい方法ですが、支給対象も極力絞り込んだ上で、現金給付とすることもありうると考えます。
4)苫米地氏提案のデジタル半減通貨構想も選択肢
ところで、苫米地英人氏の近著『デジタル・ベーシックインカムで日本は無税国家になる!』で提案されている「デジタル・ベーシックインカム半減期通貨」が非常に参考になります。
専用デジタル通貨ベーシック・ペンションBPDCの考え方と共通点があり、技術的な課題がクリアされれば、十分導入が検討されてよいシステムと考えています。
同書及び投稿済みの以下のシリーズ記事を参考にして頂ければと思います。
<第1回>:ベーシック・ペンションと苫米地氏デジタル・ベーシックインカムとの類似点:『デジタル・ベーシックインカムで日本は無税国家になる!』より-1(2022/10/7)
<第2回>:日銀の通貨発行権によるQE量的緩和をベーシックインカムの財源に:『デジタル・ベーシックインカムで日本は無税国家になる!』より-2(2022/10/10)
を投稿してきました。
<第3回>:無税国家論よりも重要な、財源不要のデジタル・ベーシックインカム論の理解:『デジタル・ベーシックインカムで日本は無税国家になる!』より-3(2022/10/12)
5)政府財源不要の日本銀行によるベーシック・ペンション専用デジタル通貨発行と日本銀行法改正
本稿では省略しますが、ベーシック・ペンションの財源は、政府の一般会計から支出するものではなく、日本が通貨発行権に基づき、発行し、給付し、回収し、消却まで新しい管理システムを開発構築するものです。
そのために、日本銀行法の改正が必須となることを確認しておきたいと思います。
過剰流動性問題への現実的対策(2):社会保障制度改革及び関連行政改革の優先度に応じた段階的個別政策導入
前項では、通貨のあり方の現実性を考慮しての段階的導入を考えました。
その中でも触れましたが、段階的な現実的導入方法の基本方針は、既存の社会保障制度の一部の廃止や改正等の優先順を考慮し、かつ給付規模も少額ずつ上乗せしていくことにあります。
廃止もしくは改正は、ガイ・スタンディング氏が強調した恣意性とコスト膨張が伴う「資力調査」を極力廃止し、行政の簡素化・コスト削減に結びつくことも重要な目的として行なうとしています。
その優先順を例として挙げてみました。
1)児童基礎年金化と児童手当制度廃止
ベーシック・ペンションでは、すべての15歳以下の子ども・児童・乳幼児に、生活基礎年金を児童基礎年金と呼び替えて、月額7万円年額86万円支給するとしています。
これは、子どもの貧困対策だけでなく、将来の教育費等の負担不安から子どもを持つことをためらう人々、断念する人々が、少しでも安心して子どもを持つことが出来るよう「少子化対策」として支給するものです。
当然、片親世帯の子どもも対象になりますし、生活保護受給世帯の子どもに支給され、当該福祉制度の一層の充実に結びつけようというものです。
段階の設定方法は多様で、ある特定の年に生まれた乳児から支給、未就学児から支給、次に小学生全体、最後に中学生まで、など政策自体多様に検討できます。
また、学齢18歳までは、<学生等基礎年金>と呼び、月額10万円支給としており、中学卒業後自動的に移行することにするわけですが、これは返済不要の奨学金機能をもつことになります。
2)高齢者基礎年金化と老齢基礎年金制度・国民年金制度の廃止、厚生年金制度の段階的改正
次に優先して考えることが適切なのが、現状の国民年金及び厚生年金制度の老齢基礎年金部分を、増額し、70歳以上の高齢者に対して、生活基礎年金を高齢者基礎年金と呼び替え、月額7万円を支給することです。
段階手順としては、80歳以上、75歳以上、70歳以上等、検討選択すればよいでしょう。
この高齢者基礎年金制導入に伴い、現在の国民年金制度を廃止し、これまでその保険料を納付していた方々を厚生年金制度に吸収。
加えて、従来の賦課方式から積立方式に変更し、世代間の不公平感の解消を実現します。
かなり大がかりな制度改正になるため、導入を段階的にせざるを得ない側面がありますが、公平性と安心性の実現にむけ、十分検討した上での導入・改正をめざすことになります。
3)片親世帯への生活基礎年金支給、学生等基礎年金の拡大による大学生・大学院生などへの生活基礎年金支給
その他の具体的な優先社会保障等の政策課題例としては、母子世帯・父子世帯の貧困対策があります。何らかの調査等が欠かせませんが、優先度としては高い問題であり、先行しての導入が検討されるべきと考えています。
また、大学・大学院等の高等教育機関での研究等を志す人々、学究に励んでいる学生の教育費や生活費を支援するものとして、生活基礎年金の先行支給も、返済不要の奨学金としての機能を持つことになるため、先行して支給したい領域ではあります。
4)結婚適齢期年代等、生活基礎年金給付年齢幅・対象枠の拡大政策採用
そしてまた、ベーシック・ペンションは、多種多様な生き方を実践するためのサポート機能を持つものであり、経済的な不安から結婚をためらう人々、諦める人々の結婚と出産などを後押しすることも<少子化対策>上、有効と考えます。
また、起業を志す若い世代やNPO法人化などで社会貢献をめざす世代等を増やす上でも、ベーシック・ペンションは有効な基礎的生活コスト(所得)の確保を実現するなど、多面的な社会的経済的効果を期待できるものであり、段階的導入を通じて、インフレ懸念の解消や有効なプログラムの開発が見込まれれば、極力早くその給付対象を拡大していくことが望ましいでしょう。
5)生活保護制度の廃止、厚生住宅制度導入
こうした段階的な導入の究極的な目標の一つが、種々の問題をは内包したまま運用・管理されている「生活保護制度」を廃止できるレベル・内容でのベーシック・ペンションを実現することにあります。
また、ベーシック・ペンションと並行して、新たに整備すべき制度として、住まいの問題を解決するための「厚生住宅制度」の導入が必要と考えています。
6)段階的な給付額の増加政策:実験と調整を兼ねる
こうして述べてきた段階的導入は、給付額が比較的少額にとどまる初期段階から、次第に支給対象を拡げ、支給額を増加していくものです。
従い、それ自体が、本番でありつつ実験も兼ねており、その運用データを収集・分析することで、次の段階的導入をより有効にする方法・方策の検討、修正を要するシステム、プログラム対応等、調整を重ねながら、より望ましい制度・システムの開発・導入に結びつけることが可能になります。
ガイ・スタンディング氏の『ベーシックインカムへの道』で種々紹介されていた試験プロジェクト、実験プロジェクトの形式性や限界の不安・懸念なしに、即実効が期待でき、実現できる方法です。
7)廃止・改正制度政府支出分の余剰化と他財源転用可能化
なお、上記事例を含め、一般会計・特別会計に計上され、社会保障制度等に充てられていた政府支出はベーシック・ペンション導入に伴い不要になるため、他の使途に充当可能になることを添えておきます。
もう一つのインフレ主要因、需要供給問題への現実的対策
次いで、もう一つのインフレ発生要因である、<需要と供給>のバランスの崩壊にいかに対処するか、その問題の発生を抑止するかについての、ベーシック・ペンションにおける方法、考えについてです。
生活基礎消費への活用限定
まず、ベーシック・インカムは、食・衣・住居、健康・医療、教育等、主として基礎的な生活の消費に利用を限定していることを最大の特徴の一つにしています。
その多くは、個々人とその世帯が暮らす地域経済・地域産業と大きく関わっており、どちらかというとローカルにおいて自給自足度が高い商品・サービスへの消費に充当されると考えられます。
そして、ベーシック・ペンション支給により需要が一層創造され、地域経済の活性化・成長に結びつくとともに、小規模・零細事業者の事業基盤の安定化・拡充にも寄与できるんではないでしょうか。
国内自給自足型グローカル経済システムの長期戦略化と地道な持続的取り組み
次に、現状グローバル社会で拡大し、対策が講じられているインフレの原因は、需要と供給のバランスの大きな崩れにあります。
その真因を探れば、自ずとウクライナ侵攻に起因するエネルギー及び食料の供給リスク・不足問題に至ります。
もう一つは、それより遡っての新型コロナパンデミックに拠って各国で行われた膨大かつ多種多様なな補助金・給付金支出による過剰流動性がもたらした、米国における人手不足要因も含めての需要増大と供給不足にあります。
その対策は、現状では自国だけでの改善・解決は困難ですが、長期的には、国内需要に対する、可能な限りでの自国内供給体制・供給可能経済システムの構築にあります。
現在では、化石燃料のほとんどを輸入に依存しており、いかに再生可能エネルギーの構成比を高める目標を掲げても、困難であることは自明です。
食料自給に関しても、自給率の著しい低さを考えると、同様です。
ですが、2050年頃、30年後頃を想定しての長期的・戦略的政策を国家レベルで掲げ、取り組むべきことも自明です。
こうした共通認識は、現在「○○安保」と多種多様に表現されていますが、別サイト https://2050society.com で継続的に取り上げ、提案しています。
なお同サイトにおける「安保」は、一般的な意味での「安全保障」ではなく、「安心安全安定・保有保持確保」の意味意義を持つものとして活用しています。
(参考)
⇒ 体系的課題別「安心安全安定・保有保持確保」の安保政策の長期的政策合意形成と取り組みを:21世紀第2四半期の安保政策シリーズ-1(2022/12/2)
それらの取り組みにより、金融政策では如何ともし難い供給問題を原因とするインフレ抑止策を、ベーシック・ペンション導入と運用と結びつけていくことを考え、提案していきます。
双方を要因とする円安化とインフレ懸念対応
単に過剰流動性や需給アンバランスを要因とするにとどまらず、それらとの関係をも要因とする外為の不安定化、円安の進行が、スパイラル化して一層インフレを亢進する。
そういう不安・懸念も当然想定しておく必要があります。
ベーシック・ペンション専用デジタル通貨の給付で、従来生活基礎消費に充てられていた一般の法定通貨が過剰流動化を起こす要因となり得、それ以外の使用・消費に充てられる。
部分的には、高額商品・サービスによって、需給バランスを欠き、旺盛な需要を喚起し、インフレ化することも想定内のこととすべきでしょう。
しかし、それらはある意味不要不急の消費であり、当該あるいは当該品の原材料供給不足の発生による値上げもやむを得ないものと考えるべきであり、いずれ価格の高止まりや解消に至るはずです。
むしろ、それらの余剰分が、消費よりも、個人個人の起業化・事業化資金や拡大されるNISAを含め、投資資金として活用されれば、減少している中間層の復活・拡充をもたらすなど、より望ましい状況を生み出すことも考えられます。
円安は、円の信任性の低下を一因とするものです。
国内の自給自足体制の整備拡充と並行して、完全な閉鎖型の自給自足国家をめざすのではなく、社会経済システムの構築・安定化を実現しつつ、そのノウハウの輸出・海外移転を含め、グローバリズムの課題解決モデルを各国に示すことで、国家と自国通貨の信任性・信頼性を高めていくことをめざすのです。
ベーシック・ペンションの理念・目的もそうした社会経済システムの軸として導入・運用管理され、一つの日本文化として定着し、他から学ぶべき文化、制度・システムに昇華していくことが理想です。
最後に、今年初めに投稿した2022年提起のベーシック・ペンション案を転記しました。
次年2023年は、これを少しでも昇華できるよう、深掘りし、広く目配りして、考察と提案作業を継続し、2023年版をまとめたいと思っています。
参考:「2022年ベーシック・ペンション案」シリーズ
<第1回>:ベーシック・ペンション法(生活基礎年金法)2022年版法案:2022年ベーシック・ペンション案-1(2022/2/16)
<第2回>:少子化・高齢化社会対策優先でベーシック・ペンション実現へ:2022年ベーシック・ペンション案-2(2022/2/17)
<第3回>:マイナポイントでベーシック・ペンション暫定支給時の管理運用方法と発行額:2022年ベーシック・ペンション案-3(2022/2/18)
<第4回>:困窮者生活保護制度から全国民生活保障制度ベーシック・ペンションへ:2022年ベーシック・ペンション案-4(2022/2/19)
少しずつ、よくなる社会に・・・
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