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2020年関連図書考察

森 周子氏「ベーシックインカムと制度・政策」への対論(2020/11/11)

『ベーシックインカムを問いなおす: その現実と可能性』対論シリーズ-5

 『ベーシックインカムを問いなおす その現実と可能性』(法律文化社・2019/10/20刊)
を用い、同書で問い直すべきとしているベーシックインカムについての各章を対象として、私が考え提起する日本型ベーシックインカム生活基礎年金制と突き合わせをするシリーズに取り組んでいます。

・第1回:今野晴貴氏「労働の視点から見たベーシックインカム論」への対論(2020/11/3)
・第2回:藤田孝典氏「貧困問題とベーシックインカム」への対論(2020/11/5)
・第3回:竹信三恵子氏「ベーシックインカムはジェンダー平等の切り札か」への対論(2020/11/7)
・第4回:井手英策氏「財政とベーシックインカム」への対論(2020/11/9)

 

 今回第5回は、森 周子氏による<第9章 ベーシックインカムと制度・政策>に対する対論です。

森 周子氏の本論の視点

1.BIが既存の社会政策の制度枠組からどのように捉えられるか
2.BI導入に伴って実施されうる社会政策とはどのようなものか

 この2つが、森氏小論の課題としています。
 これまでの4つ、4人の小論は、本来、この森氏小論で問いかけられた種々のBI論の答えを踏まえて論じられるべきでした。
 また、当書が基本としているベーシックサービスについても、同様の視点で検討し、その回答を示すべき、とも言えます。
 前者に関しては、ほとんどのBI論は、そこまでの回答・対策を準備していないと感じます。
 私は、JBI日本型ベーシックインカム生活基礎年金の提案においては、極力そうした政策・制度の改定についてこれまで提起してきています。
 是非、当サイトで該当記事を確認頂ければと思います。
(後ほど、森氏の問いかけに対し、一部は回答したいと思います。)
 まだ不十分であることも承知しており、今後もその作業を継続し、12月には、第2次段階のまとめに入る予定です。
 では、以下、森氏の問いかけ内容と一部ですが私の回答を併記していくことにします。


社会政策の制度枠組みとBIに関する整理

社会政策の制度体系

1.労働政策
 1)労働市場政策
 2)労働者保護政策
 3)労働組合政策
2.社会保障  

 1)社会保険:医療、年金、労災、雇用、介護 各保険
 2)公的扶助:
生活保護制度
 3)社会手当:
児童、児童扶養、特別児童扶養、特別障害者、障害児童福祉、経過的福祉、各手当
 4)社会福祉
:高齢者、障害者、児童家庭、各福祉。個別的相談・援助
隣接分野:教育政策、住宅政策、税制

 これが、森氏の提示する社会政策の制度体系です。
 私は、雇用保険・労災保険は、社会保険に加えず、労働政策に、労働保険を組み入れ、その中に位置付けるべきと考えています。
 この体系の中で、BIは一体どこに位置付けられるのか。
 森氏は、一般的なBI、完全UBIをそれぞれ用いて、社会手当あるいは公的扶助両面の性質を持つものとしています。
 私が提案するJBIは、生活保護制度を廃止してそれに完全に近い形で代替する一面もありますが、根本的には、社会手当の感覚です。
 ただ、「手当」と呼ぶことは適切でなく、全国民が受け取る生涯型・全世代型年金であり、基本的な生活を維持するための給付、ということで、「生活基礎年金」と呼んでいます。
 なお、教育政策とは別に保育政策を加え、住宅政策と併せて、社会保障の範疇に組み入れてもよいと考えます。
 こうした前提の上で、以下の視点でBIの在り方について問題提起していきます。

労働政策との関係

 BIは、社会保障には深く関連するが、労働政策との関連性は薄くなりがちとしています。
 しかし、私のJBIでは、労働政策も社会保障及び生活保障と緊密に関係しており、BI導入に伴って、現行の労働基準法をベースとした労働政策や労働保険制度の改定も必須としています。
 例えば、最低賃金法は、当然存続させ、より引き上げる方向を示すべきです。
 但し、全国一律に統一してよいと考えています。
 また、現状の解雇規制をより厳しくし、現状の予告解雇制を廃し、厳しく解雇手当を支給させる法律を導入すべきと考えています。
 同氏は、BIの起点が「労働と所得の分離」にあることをその理由にしているが、私のJBIは、必ずしも労働のみにフォーカスするものではなく、生活を起点とするものであるためです。
 また、完全UBIのリスクも提示していますが、実は完全UBIが、破綻するリスクを内包しているからこそ、未だ導入実績がないと考えるべきと私は思っています。

現物給付との関係

 次は、BIでは、社会保障としての現物給付への着目が薄くなることを懸念し、高指摘します。
 現物給付(サービス)は、BSベーシックサービスの領域です。

 社会保険の現物給付部分及び社会福祉における相談・援助が、BI導入後の社会でどのように提供されうるかが検討されなければならない。

 まだBI論では、そこにしっかりコミットした提案がされていないということ。
 しかし、小沢氏の以下の提案をその一部の対応法として例示しています。

 BI導入によって廃止あるいは縮小されるであろう年金保険などの社会保険の将来の社会保険の従来の使用者負担分および国庫負担分を、医療保険・介護保険に振り向けるなどの方法が必要になる。

 私も、国民年金と厚生年金保険、及び医療・介護保険の社会保険制度の廃止・統合と給付方式・負担方式の改定は必須と考えています。
(参考)
◆ ベーシックインカム生活基礎年金15万円で社会保障制度改革・行政改革(2020/10/9)
ベーシックインカム導入で健康保険・介護保険統合、健保財政改善へ(2020/10/14)

社会政策の隣接分野との関係

 ここでは、教育政策、住宅政策、税制が取り上げられています。
 私のJBIでは、その給付額で、教育機会の格差の解消に大きく寄与できると考えています。
 住宅政策については、別制度が必要と考えるのは、ベーシックサービス論者と同様です。
社会保障厚生住宅(社厚住)で、住宅全世帯保有社会へ(2020/4/14)

 税制については、BI支給に伴い所得控除は当然廃止することになりますが、森氏は、完全UBI導入の場合の、所得税率大幅引き上げによる低所得者・生活困窮者の勤労意欲を削ぐことへの懸念を示しています。
 またかよ、という感じですが、そもそもそれでは完全UBIではないのです。
 欠陥があることが明白なBIをなぜ完全UBIと呼ぶのか。
 この辺りが、BS論者も含む、教条主義・原理主義的論者の大きな欠点です。
 JBIにおける税制については、再掲になりますが、以下で、少し触れています。
◆ ベーシックインカム生活基礎年金15万円で社会保障制度改革・行政改革(2020/10/9)

一国の社会保障制度体系との関係

 BIが一国の既存の社会政策の制度枠組みをどの程度まで代替すべきかは、その国の社会政策の制度体系のタイプに応じて異なるとし、
1)二層構造:公的扶助と社会保険
2)三層構造:公的扶助と社会手当と社会保険

の2種類を掲げます。
 また、BI導入の影響は、既存の社会保障制度体系の財政や各制度の構造によっても変わってくることも加えています。
 後から理屈を整理すれば、そう分類できるのでしょうが、要は、社会保障制度全体に中に、BIをどう位置付けるかを明確化する必要があることは、私のJBIの方針の基軸とするところです。
 ネオリベBI論も、左派BI論も、財政心配無用BI論も、ほとんどが、この社会保障制度全体の改革の軸としてBIを位置付け、かつ関連する諸制度すべての改定・改革について、出来得る限り具体的に検討し、提示してはいない、と思われるのです。
 そういう意味から、森氏の小論は、極めて合理性を持ちます。
 ただそれはBS論に対しても言えることを再度確認しておきたいと思います。

BI導入に伴い実施されうる社会政策

 次に、
1)貧困から抜け出せないものの存在
2)スティグマの問題
3)AI化の進展などによる雇用の場の減少
4)行政コストの肥大化

という現行の福祉国家の不完全性や問題点批判が、種々のBI論に共通であることをまず示しています。
 これは、理解納得できることです。
 そして、
1.新自由主義的BI(竹中等提唱)
2.社会変革的BI(左派提唱)
3.福祉国家再編の手段としてのBI(小沢修司氏・山森亮氏提唱)

の3区分のそれぞれのBIの内容を簡単に評価し、問題点を指摘します。
 1は論外なので、ここでは無視しますが、2を資本主義から社会主義への移行をめざす中で位置付けていることに留意すべきでしょう。
 でも、現在日本のこの論者には、そこまでの気概を持つ人はむしろ少ないのではないでしょうか。
 それは、BS論者においても同様です。
 私は、どちらかというと、3に近いですが、日本を福祉国家として再編すべきという前提には与しません。
 基本的人権に基づく、当然の社会保障ベースとしてのJBIであり、福祉に重点を置くBIではないと考えるからです。
 これが、森氏の「BIは既存の社会政策関連諸制度をどの程度代替するか」というテーマへの私の回答です。
 繰り返します。
 BIは、代替機能ではなく、社会保障制度と関連する諸制度すべての改革・改定と一体化し、統合された新しい制度・システム機能そのものです。

BIの実現可能性について

 BIを現在の経済・社会状況下で導入しようとするならば、それは「革命」をもたらすような完全UBIではなく、条件付き完全BIという、現行の社会手当の「進化」形にとどまらざるをえないのではないか。

 森氏は、最後をこう結んでいます。
 途中、条件を付けざるを得ないBIの理由を種々指摘していますが、ここでは省略します。
 多くは、これまで見てきているものですが、学者らしく分類整理もされています。
 しかし、学究上は意味があるのかもしれませんが、実務的にはあまり意味があること、価値を持つこととは思えません。
 より適切な条件を知恵を出して付与し、まとめ上げ、合意形成されれば、その時点で良しと考えるべきでしょう。
 そして改善結果で満足せず、立ち止まらず、より望ましい、それよりもベターな内容に改善を加えていく。
 問題・課題が見えていれば、その改善策を講じるだけのことです。
 ただ、尋常ならざる金額・通貨の発行になるため、事前の十分な議論・検討が不可欠であることはいうまでもありません。
 簡単に「実験を」というべきものではないとも考えています。

 今回の森氏の小論は、是非他のBI論者には確認してもらいたい内容です。
 そしてその疑問・課題的に応えてもらいたい。
 そう願います。
 もちろん、BS論においてもです。
 BIについて論じ、提案するには、社会保障制度及び関連する諸制度とそれらの法律についてもセットで行うべき。
 それを認識し、不足する提案を補うべき。
 その確認のためには、非常に意味・意義のある小論でした。
 私にとっては、当然のことであり、これまで種々の提案・考察を行なってきています。
 その2回目の取り組みを、来月12月のメインテーマに据え、2021年に繋げていく予定です。
 なお、文中にも一部リンクを添えましたが、最後に添えた再考察シリーズのリストの中で、これらに関する提案も行なっていますので、確認頂ければと思います。

次回は、第Ⅲ部「ベーシックインカム論再考」志賀信夫氏による<第10章 ベーシックインカムと自由>です。

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本稿は、WEBサイト https://2050society.com 2020年11月11日投稿記事 2050society.com/?p=1478 を転載したものです。
当ベーシックインカム、ベーシック・ペンション専用サイト http://basicpension.jp は2021年1月1日に開設しました。
しかし、2020年から上記WEBサイトで、ベーシックインカムに関する考察と記事投稿を行っていました。
そこで、同年中のベーシックインカム及び同年12月から用い始めたベーシック・ペンションに関するすべての記事を、当サイトに、実際の投稿日扱いで、2023年3月から転載作業を開始。
数日間かけて、不要部分の削除を含め一部修正を加えて、転載と公開を行うこととしました。
なお、現記事中には相当数の画像を挿入していますが、当転載記事では、必要な資料画像のみそのまま活用し、他は削除しています。
原記事は、上記リンクから確認頂けます。

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