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2022・23年考察

不思議で矛盾に満ちた生活保護を考えた結果としての解体:『生活保護解体論』から考えるベーシック・ペンション-3

『生活保護解体論 セーフティネットを編みなおす』より-3

 岩田正美氏著『生活保護解体論 セーフティネットを編みなおす』(2021/11/5刊:岩波書店)を参考に、当サイト提案のベーシック・ペンションを再確認し、より深堀りすることを目的としたシリーズを始めました。

<『生活保護解体論』から考えるベーシック・ペンション>シリーズ展開計画(案)

第1回:本シリーズ方針
第2回:<序章 解体でみえる、最低生活保障の新たなかたち>より
第3回:<第Ⅰ章 生活保護という不思議な世界>より
第4回:<第Ⅱ章 国民皆保険・皆年金体制のなかの「低所得者対策」>より
第5回:<第Ⅲ章 解体・編み直しの戦略と指針 ー 「原理問題」を整理する>よりー1
第6回:<第Ⅲ章 解体・編み直しの戦略と指針 ー 「原理問題」を整理する>よりー2
第7回:<第Ⅳ章 提案 どう解体し、どう溶け込ませるか>より-1:医療制度・介護制度課題
第8回:<第Ⅳ章 提案 どう解体し、どう溶け込ませるか>より-2:住宅手当制度問題
第9回:<第Ⅳ章 提案 どう解体し、どう溶け込ませるか>より-3:教育制度・子ども制度課題
第10回:<第Ⅳ章 提案 どう解体し、どう溶け込ませるか>より-4:高齢者・障害者制度課題
第11回:<第Ⅳ章 提案 どう解体し、どう溶け込ませるか>より-5:失業及び就労関連課題
第12回:<第Ⅳ章 提案 どう解体し、どう溶け込ませるか>より-6:第Ⅳ章総括
第13回:<終章 生活の「最低限」をどう決める>より-1 :最低限生活課題
第14回:<終章 生活の「最低限」をどう決める>より-2:ベーシック・インカム
第15回:『生活保護制度解体』総括評価
第16回:ベーシック・ペンションと『生活保護制度解体』 との比較総括


 以上の計画に従って、
第1回:岩田正美氏著『生活保護解体論』から考えるベーシック・ペンション-1:本シリーズ方針(2022/1/8)
第2回:生活保護の誤解、誤ったイメージを解消する解体論か:『生活保護解体論』から考えるベーシック・ペンション-2 (2022/1/12)
とそろりと始めて、今回は第3回。
 <第Ⅰ章 生活保護という不思議な世界> を取り上げ、岩田氏が解体論を提起するに至る生活保護とはどういうものか、どういう問題認識に発しているかを確認します。

第Ⅰ章 生活保護という不思議な世界 >から

 本章の構成は以下のとおりです。
 

第Ⅰ章 生活保護という不思議な世界
1.生活保護とはどういうものか?
・生活保護の目的と責任
・「誰」が利用できるか ー無差別平等
・必要な生活費をどう計算しているか
・資産調査(ミーンズテスト)と他の要件
・「親族扶養」はマストなのか?
・日本的特徴 ー新しい考えと古い考え
2.古い「貧困理解」と、生活保護としての不徹底
・「生活困窮者」への「全一的」保障という設計
・貧困の原因を区別する
・社会保障と社会福祉のあいだで
3.運営の二重原則
・申請保護/職権保護
・世帯単位/個人単位(世帯分離)
・ 基準表/必要即応
・非現実的な「すべて現物給付」
4.具体例で考えてみると
・A子さんの保護申請と要否の判定
・医療・介護の計上の仕方と収入充当順位
・生活保護は「差額」の支給にすぎない
・貧困の大きなファクターとしての医療費
5.いくつかの謎 ー 生活扶助の「加算」と住宅扶助基準
・生活扶助と加算
・年金・手当に連動した加算の再配置
・「特殊需要」というロジックのあいまいさ
・障害者加算の複層構造と「その場限りの需要」
・さらに不思議な住宅扶助基準
・住宅の特別な位置
6.何が社会扶助の保障機能を弱めているか


 この章の冒頭で、
社会扶助は「今、貧困である」状態への、主として現金給付による社会保障制度ではシンプルなものなのだが、生活保護の制度設計は、かなり複雑。
としていることで、解体論展開の布石が打たれていると思わせられます。

 では、この構成の流れを私流に整理しつつ、感じたところを加えていくことにします。

生活保護とは

生活保護法第一条

この法律は、日本国憲法第二五条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。

⇒ 【生活保護法】 http://basicpension.jp/?p=672
⇒ 【日本国憲法】 http://basicpension.jp/?p=670

日本国憲法第二五条

〔生存権及び国民生活の社会的進歩向上に努める国の義務〕
第二十五条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

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生活保護法制度の概要(生活保護の目的と役割)

 以下、本章にある(表Ⅰー1)を参考にしました。

1.対象(「誰」が利用できるか):生活に困窮する国民(外国人は準用)

2.責任(「誰」が管理運用するか):国家責任だが、地方も一部負担し。実施は、地方自治体の長とその福祉事務所

3.目的(何のために):最低生活保障であり、一般扶助は無差別平等だが、自立助長が基本

4.保護の原則(保護適用の基本ルール):
 1)申請の原則(急迫状態などでは職権保護。申請は口頭でも可)
 2)基準及び程度の原則(基準と資産調査で要否判定)
 3)必要即応の原則(個人や世帯に応じて)
 4)世帯単位の原則(個人や世帯分離)

5.保護の種類(どのように保護するか):生活保護の8つの扶助(生活扶助・医療扶助・介護扶助・教育扶助・住宅扶助・出産扶助・生業扶助・葬祭扶助)の組み合わせ(全一的保障)
 ・それぞれ基準あり
 ・加算や特別扶助、一時扶助
 ・生活扶助は居宅原則・現金給付、施設保護あり

6.貧困の認定(何をもって保護基準とするか):最低生活費(世帯ごとに算定)
 ・収入<最低生活費の時、その差額を支給

7.要件(保護を適用する上での条件):保護の補足性(急迫保護は必要に応じて可)
 1)利用しうる資産の活用:預金、自動車、不動産など=資産調査(ミーンズテスト)
 2)利用しうる能力の活用:能力と実際の就職状況
 3)利用しうる他法・他施策の活用

8.優先(要件確認に認められた条件):民法の扶養義務も優先:扶養照会


 この整理でそれらの課題についておおまかに把握できますので、以下要点を絞って、簡略化して見ていきます。

制度解体提言に導く現行制度が抱える矛盾・問題点

 先の制度概要で既に明らかにされている事項を含み、筆者が制度解体論を提起する要因となった事項を、数多く示しています。
 その中から一部を抽出してみました。

古い「貧困理解」と、生活保障としての不徹底

 こう筆者が評価している制度ですが、その基準策定に関与した人の後悔として「全ての国民は、その生活が困窮している時に」とすべきだったと言っていたことを紹介しています。
 確かに「生活困窮者」と特定・断定するのとは大きな違いであり、当初からそうしていれば異なった、すこしは望ましい運用が可能になったかもしれません。
 労働者等がそうした貧困状態になったときというリスクへの対応を社会保障化するわけですから。

 また、
生活扶助は、日々の生活を最低基準まで引き上げる役割を果たす一方、医療・住宅・教育・生業・葬祭などの他の扶助は、「ある目的のための支出が生じることによって、生活困窮に陥ることを防ぐ」ための扶助であり、今「生活に困窮している者」だけでなく、それよりも収入は上だけれども「生活困窮のおそれのある者」も含んで保護が行われる。
というのが、前出の関係者の考えとしています。
 この考えでいくと、「全一的保障」という運用に無理があるといえます。


自立助長に込められた「惰民防止」観念

 もう一つ問題として加えられているのが「自立助長」という考え方が反映されていること。
 この文言を法に組み込んだ当事者によれば、そこには惰民の発生を防ぐといった次元の低い意図はなく、「個々人を社会生活に適応させるようにしていく」社会福祉的側面を強調するため、というのです。
 どうも眉唾ものですね。
 筆者は、「自立助長」という部分がなければ、シンプルな社会扶助だといっています。
 私もそう思います。

 なお、この発言、この問題と絡めて、ここで筆者は、社会保障と社会福祉の違い・定義・線引について述べており、私も関心があるのですが、別の機会にとしておきたいと思います。

運営・運用の二重原則と着目すべき課題

上記の構成で示された
・申請保護/職権保護
・世帯単位/個人単位(世帯分離)
・ 基準表/必要即応
・非現実的な「すべて現物給付」
と、生活保護の概要を突き合わせると二重原則が並立・併用されていることがわかります。
 筆者はこれを、概ね反対のやり方を併記しているとしています。
 これが、やはり生活保護制度をややこしく、利用希望者を困惑させ、解体を提起するまでの問題を生起させ、解決できないまま放置されてきている要因というわけです。

 最後の非現実的な「すべて現物給付」については、実際は現金給付が行われており、この項目は必要ないはずですが、これを公約に掲げる政党があるためと加えたものです。
 そこからイメージしたのは、ベーシックインカムに反対し、現物給付サービスによるベーシック・サービスの導入を提案している立民や公明党です。
 論外なので、無視すべきと考えています。
 現金給付は、必須です。

 この後、一人の受給者の具体的な事例をモデルとして上げて、生活保護を受ける内容や課題についてページを費やして論じていますが、省略します。
 ただその中で、最も真実を表し、問題を集約していると考える表現を引用しておきます。
「生活保護は「差額」の支給にすぎない」
 という部分です。
 生保の諸悪の根源というと大げさですが、生活保護受給者が、自立助長を掲げる制度に反して、いわゆる「貧困の罠」に陥る原因が、そこに表れているのです。

「いくつかの謎」として示された、さまざまな「加算」等の不思議

 次の<いくつかの謎ー生活扶助の「加算」と住宅扶助基準>では、
・生活扶助の加算
・年金・手当に連動した加算
・障害者加算
・より不思議な住宅扶助
などについて説明しています。

 加算規定が加えられるのは、元々の給付基準が低いためや、漏れや不足・不十分な要素・実態が確認されたための小手先の改善策の補足を行なうため。
 これが制度の運用を一層複雑に、難しくする元凶の一つです。
 実際に受給している方や、受給を考えている人々には重要な事項ですが、ここでは省略させて頂きます。


社会扶助の保障機能を弱めている根本要因

 かなり細部に亘って、現行の1950年生活保護法に規定された制度運営・運用に関する問題や矛盾が、立案当事を者の意図・思いをも加えて説明された本章でした。
 そのほとんどを省略し、そこから私が強く感じた点だけを取り上げた感が強い本稿になってしまいましたが、最後の、<何が社会扶助の保障機能を弱めているか>としてまとめた一文を最後に紹介しておきたいと思います。
(※表現方法を一部代えています。)

 生活保護制度「無差別平等」な一般扶助として最低限度の生活保障を国の責任として約束する、という意味で、経済の貧しかった日本において「輝くような」存在として誕生した。
 しかし、法の目的も運営の原理・原則も、福祉国家の基礎となった貧困理解に基づく最低生活保障を軸に展開されているというより、(略)二重規定がなされ、さらに多層的な基準設定をすすことで、生活保障給付を福祉的フィールドの中での「裁量」的判断に持ち込む余地をかなり大きくしてきた。
 このため、肝心の最低生活保障は「たんなる経済給付」とか「機械的な一律給付」と解説され、その意義が歪められてきた。
 (中略)
 分野ごとに成立している社会保険や手当を直接補完する社会扶助ではなく、それらとは相当な距離をもった「最後のセーフティネット」の位置に扶助を閉じ込めてしまい、貧困問題への社会保障の対応力を弱体化させてきた。
 とりわけ「バブル」崩壊以降のポスト工業社会の展開、それに合わせたフレキシブルな労働体制、家族の変容の中で登場している現代の貧困と闘うには、あまりにも古く、あまりに不十分と考える。
 「今、貧困である」状態は生活保護の外に広がり、たとえば食料配布などに並ぶ人々にとって、生活保護はそこから抜け出す手段として考えられていないし、またそう考えてはいけないように仕向けられているのかもしれない。

ベーシック・ペンションにおける生活保護の位置付け-2

 私自身は、筆者のその気持ちに共感を持ちますが、加えて、経済成長を遂げてなお、1950年生活保護法の運用レベルがより厳しくなってきている状況を考える時、情けなく感じてしまいます。
 国や政治・行政が担ってきた役割・責任の情けないばかりの不履行であり、為政者・官僚の意識の低さに対して感じる情けなさです。

 もう一つその表現から感じたのは、<たんなる経済給付>という表現からのもの。
 それは、今ベーシックインカムの導入を主張する人の多くが、「経済対策」「経済復興」のためのBIとしていることと相通じていると感じたのです。
 そこには、情けなさではなく、悲しさを感じています。

 さて、ベーシック・ペンションではそもそも、生活保護制度の厳しく、曖昧な基準の適用・運用を受ける必要がないようにすべく、生活保護制度を解体ではなく、廃止することを目的としています。
 岩田氏が解体・再編するとした関連社会保障諸規定は、社会保障制度の総合的な体系において見直しを行い、新たに作りかえるという考え方をとるものです。
 そこでの基本的な考え方は、低所得対策や貧困対策にとどまるものではありません。
 憲法第二五条の前提・前段にある、広い範囲・意味での、基本的人権を基本としているのです。
 そして、先述した内容にあったように、生活保護の外にも社会保障のネットワークを拡大・展開し、セーフティネットの適用の概念と現実枠を広げ、生活における安心と安全を確保・提供する社会経済システムを構築することを目指します。

(参考)
⇒ なぜ国がベーシック・ペンションを支給するのか?憲法の基本的人権を保障・実現するため:ベーシック・ペンション10のなぜ?-1(2021/1/20)
⇒ 憲法第三章基本的人権と自由・平等に基づき支給されるベーシック・ペンション(2021/2/21)
⇒ 日本国民すべてに、唯一の、真の平等を実現・保障するベーシック・ペンション (2021/3/5)

参考:ベーシック・ペンションの基礎知識としての5記事

日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンションとは(2021/1/17)
諸説入り乱れるBI論の「財源の罠」から解き放つベーシック・ペンション:ベーシック・ペンション10のなぜ?-4、5(2021/1/23)
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)前文(案)(2021/5/20)
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案(2021/3/2)

 次回第4回は、<第Ⅱ章 国民皆保険・皆年金体制のなかの「低所得者対策」> を取り上げ、解体論の軸の一つとなる「低所得者対策」をキーワードとした問題提起を確認します。

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『生活保護解体論 セーフティネットを編みなおす』 構成-1

序章 解体でみえる、最低生活保障の新たなかたち
1.パンデミックと「最後のセーフティネット」
2.誤解とマイナスイメージ
3.「必要な人」にどのくらい利用されているか
4.もう生活保護は解体して出直したほうがいい
5.これまでの改革案 ー 再構築の道筋

第Ⅰ章 生活保護という不思議な世界
1.生活保護とはどういうものか?
2.古い「貧困理解」と、生活保護としての不徹底
3.運営の二重原則
4.具体例で考えてみると
5.いくつかの謎 ー 生活扶助の「加算」と住宅扶助基準
6.何が社会扶助の保障機能を弱めているか

第Ⅱ章 国民皆保険・皆年金体制のなかの「低所得者対策」
1.社会保険と社会扶助
2.国民皆保険と「低所得者対策」
3.国民皆保険の保険料免除・軽減制度と福祉年金
4.「皆保険・皆年金」以外の低所得者対策
5. 低所得基準と生活保護基準

第Ⅲ章 解体・編み直しの戦略と指針 ー 「原理問題」を整理する
1.基礎的生活ニーズに着目して八つの扶助をグループ化する
2.原理問題(1)保険と扶助の区別をどう考えるか
3.原理問題(2)普遍と選別の多様性と「選別的普遍主義」
4.時代の変化に対応した制度に ーその他の課題

第Ⅳ章 提案 どう解体し、どう溶け込ませるか
1.医療・介護サービスニーズの「標準」保障
2.住宅手当の新設
3.教育扶助の解体と子ども養育費の保障
4.高齢期・障害のあるときの生活扶助はどうするか
5.失業時の生活保障と就労支援 ー求職者支援制度の全面改定
6.多様な方法での最低生活保障を

終章  生活の「最低限」をどう決める
1.生活の「最低限」の意味と保障水準
2.唯一正しい最低生活費算定の方法があるわけではない
3.「資産ベース」の福祉へ ー転換は可能か?
4.ベーシック・インカムのほうが早い?

『生活保護解体論 セーフティネットを編みなおす』 構成-2

序章 解体でみえる、最低生活保障の新たなかたち
1.パンデミックと「最後のセーフティネット」
・都内バス停にて ーホームレス女性殺人事件
・パンデミック下の生活保護利用と特別定額給付金
・「現金一律給付」と生活保護制度
2.誤解とマイナスイメージ
・社会扶助としての生活保護
・生活保護が増えると国の底が抜ける?
・高齢・単身利用者の急増
3.「必要な人」にどのくらい利用されているか
・生活保護が「必要な人」とは?
・ 生活保護は捕捉率が大事
4.もう生活保護は解体して出直したほうがいい
・近年の危機と第二のセーフティネット
・なぜ「最後のセーフティネット」であることにこだわるのか?
・生活保護の八つの扶助は、異なった生活ニーズに対応している
・「低所得者対策」と生活保護の関係を解きほぐす
5.これまでの改革案 ー 再構築の道筋
・生活保護改革案
・全国知事会・全国市長会の新たなセーフティネット案
・全国知事会・全国市長会提案と「わたしは、ダニエル・ブレイク」
・なぜ自治体は生活保護を押さえ込みたいのか
・提案にあたっての二つの原則
・カテゴリー別「制限扶助」の弊害
・ 本書の構成

第Ⅰ章 生活保護という不思議な世界
1.生活保護とはどういうものか?
・生活保護の目的と責任
・「誰」が利用できるか ー無差別平等
・必要な生活費をどう計算しているか
・資産調査(ミーンズテスト)と他の要件
・「親族扶養」はマストなのか?
・日本的特徴 ー新しい考えと古い考え
2.古い「貧困理解」と、生活保護としての不徹底
・「生活困窮者」への「全一的」保障という設計
・貧困の原因を区別する
・社会保障と社会福祉のあいだで
3.運営の二重原則
・申請保護/職権保護
・世帯単位/個人単位(世帯分離)
・ 基準表/必要即応
・非現実的な「すべて現物給付」
4.具体例で考えてみると
・A子さんの保護申請と要否の判定
・医療・介護の計上の仕方と収入充当順位
・生活保護は「差額」の支給にすぎない
・貧困の大きなファクターとしての医療費
5.いくつかの謎 ー 生活扶助の「加算」と住宅扶助基準
・生活扶助と加算
・年金・手当に連動した加算の再配置
・「特殊需要」というロジックのあいまいさ
・障害者加算の複層構造と「その場限りの需要」
・さらに不思議な住宅扶助基準
・住宅の特別な位置
6.何が社会扶助の保障機能を弱めているか

第Ⅱ章 国民皆保険・皆年金体制のなかの「低所得者対策」
1.社会保険と社会扶助
・ベヴァリッジ報告と社会保険中心主義
・奇跡か、冒険か
2.国民皆保険と「低所得者対策」
・生活保護利用者の国保「適用除外」
・国民健康保険の基本問題 ー三重の均質性の欠落
・低所得層への保険料の軽減・減免策と高齢者医療無料化
・国保加入世帯の半数以上が保険料軽減対象
・高額療養費「特例該当」と医療扶助単給
3.国民皆保険の保険料免除・軽減制度と福祉年金
・「基礎年金」は「最低生活費」を意味していない
・国民年金の低所得者対策 ー福祉年金としてのスタート
・二つの福祉年金
・国民年金の保険料免除・軽減策
・「皆保険・皆年金」内部の低所得者対策の意味
4.「皆保険・皆年金」以外の低所得者対策
・生活保護への移行を防止する「境界層措置」
・「ボーダーライン層」への貸付制度と第二のセーフティネット
5. 低所得基準と生活保護基準
・多様な「低所得者」の定義
・「基礎控除」と「非課税限度額」 ー何が違うのか?
・ 基礎控除、「非課税限度額」、生活保護基準はどのような関係にあるのか
・低所得基準は保護基準より上でなければおかしい

第Ⅲ章 解体・編み直しの戦略と指針 ー 「原理問題」を整理する
1.基礎的生活ニーズに着目して八つの扶助をグループ化する
・義務教育なのに生ずる教育費用
・社会生活の基盤としての住宅扶助と、情報インフラの重要性
・医療・介護はなぜ現物給付か
・「妊娠・分娩・産褥・新生児管理」と出産扶助
・出産期の女性を支える包括的な施策が必要
・「死後の保障」としての葬祭扶助
・増加する葬祭扶助
・自立助長のための生業扶助
・一歩手前での対応が可能な制度設計に
・日本の既存の制度体系の中に溶け込ませる
2.原理問題(1)保険と扶助の区別をどう考えるか
・社会保険と社会扶助の教科書的整理
・公助・共助・自助
・保険と扶助は共に「互恵的」なもの
・社会保険は「対価的」というより、はじめから「社会的賃金」
・保険料を税的に使う ー社会保険における支援金
・社会保険は「共助」で税による生活保障は「公助」なのか?
3.原理問題(2)普遍と選別の多様性と「選別的普遍主義」
・目標はあくまでも問題解決
・普遍主義の枠組みの中に選別政策を配置する
・「選別的普遍主義」というありかた
・国民皆保険・皆年金の低所得者対策と選別的普遍主義
4.時代の変化に対応した制度に ーその他の課題
・「多様な働き方」に中立的な社会保険の改革を
・対象は国民限定か ー国際的な相互関係のなかで

第Ⅳ章 提案 どう解体し、どう溶け込ませるか
1.医療・介護サービスニーズの「標準」保障
・生活保護費のほぼ半分は医療扶助
・医療や介護サービスはなぜ「標準化」されるのか
・二つの編みなおし案
・医療扶助と国保合体への反対論
・「無料低額診療制度」「行旅病人死亡人法」
・医療扶助と介護扶助の編みなおし 二つのイメージ
2.住宅手当の新設
・住宅手当のない国・日本
・住宅手当こそ全世代型社会保障の代表だ
・施設や宿泊所の問題
・一時的なダイレクトシェルターは必要だが、「ホームレス施設」はいらない
・英国の住宅手当と施設
・「住居確保給付金」を拡張し、恒久化する
・ 公正家賃という考え方
・国交省か厚労省か、財源をどう考えるか
・住宅手当創設の提案のイメージ
3.教育扶助の解体と子ども養育費の保障
・就学援助支援制度を発展させる
・一元化にあたっての三つの課題
・高校・大学も視野に
・子どものいる世帯の生活費への配慮 ー児童手当と児童扶養手当
・「ひとり親」による子の養育への支援に
・ 遺族基礎年金を「ひとり親世帯等基礎年金」へ
・ ひとり親世帯等基礎年金の提案のイメージ
4.高齢期・障害のあるときの生活扶助はどうするか
■ 高齢期の場合
・個人単位+夫婦(ペア)単位で設計する
・高齢世帯の資産の考え方
・高齢期における生活扶助のイメージ
■ 障害のあるとき
・障害年金で「なんとかなる」のか?
・日本の障害年金認定の特徴は
・所得保障の確立が意味すること
・障害者加算分を「福祉手当」に
・保護の決定状況からみた不足額
・障害のあるときの最低生活保障のイメージ
5.失業時の生活保障と就労支援 ー求職者支援制度の全面改定
・失業=貧困とならないために
・失業給付の中心 ー「求職者給付」の基本手当
・保護行政の「ねじれた反応」
・二つのハロトレくんと生活保護
・求職者支援法の給付金を、「求職者支援給付へ」
・求職者支援制度における求職者支援給付の提案
6.多様な方法での最低生活保障を
・「生計維持給付」としての「一般扶助」の存続と一時扶助
・利用者自身がニードを組み立て、保障を請求できる制度に

終章  生活の「最低限」をどう決める
1.生活の「最低限」の意味と保障水準
・残された問題
・妥当な「公的貧困線」として機能する制度 ー政府のMIS
・G-MISとしての生活保護
・生活扶助基準改定の「妥当性」とその変遷
・最低生活は相対的なもの
・格差縮小への合意の時代から「水準均衡」の確認へ
・「格差の時代」の扶助基準の引き下げ圧力
2.唯一正しい最低生活費算定の方法があるわけではない
・新たなマーケット・バスケット方式による算定
・日本での取り組み
・別のアプローチ ー主観的生活費の研究
・低所得単身世帯の把握と家計実態アプローチの可能性
・複数の基準から生活保護基準を検証
3.「資産ベース」の福祉へ ー転換は可能か?
・資力調査か、課税資料か
・個人単位を原則に
・世帯認定と扶養問題
・人間の生活にそくした家計の見方を
・家計における「運転資金」の意味
・破産法における自由財産の考え方を参考に
・資産は「プラス思考」で
・社会扶助の効果を高めるという発想
4.ベーシック・インカムのほうが早い?
・パンデミック以後のリアリティ
・所得保障は完璧な手法ではない ー方法がすべてを解決するわけではない
・公共財としての所得保障
・「共同財源」と「私の家計」をリンクさせていくことが重要
・時代は変化している

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