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2020・21年考察

日本独自のベーシック・ペンションを社会的共通資本のモデルに:社会的共通資本とベーシック・インカム-2

前回
社会的共通資本とは:社会的共通資本とベーシック・インカム-1(2021/6/8)
で、宇野弘文氏(故人)が提起した社会的共通資本とはどういうものか、どういう考え方で構成・構築しているものかを確認しました。

 そこでは、以下の3種類に社会的公共資本が分類されていました。

1.自然環境:大気、水、森林、河川、湖沼、海洋、沿岸湿地帯、土壌など
2.社会的インフラストラクチャー:道路、交通機関、上下水道、電力・ガスなど(社会資本ともいう)
3.制度資本:教育、医療、金融、司法、行政などの制度


 それらの社会的共通資本には、適切な管理・運営が必要であり、
・それぞれの分野における職業的専門家により、専門的知見に基づき、職業的規律に従って管理、運営される
・政府によって規定された基準ないしはルール、あるいは市場的基準に従って行なわれるものではなく、フィデュシアリー(受託者・被信託者)の原則に基づいて信託されている
ことが基本とされています。
 これに
生み出されるサービスが、市民の基本的権利を充足することを目的として信託される
管理を委ねられた機構は、独立で、自立的な立場に立って、市民に対して直接的に管理責任を負う
・そのために政府の経済的機能は、統治機構としての国家によるものでなく市民の基本的権利を充足すべく信託原則に忠実に管理運営が行なわれるよう監理・監視し、財政的バランスを保つ
ことなども条件に加わります。

 ここで若干疑問があるのが、「管理を委ねられた機構」と「政府」との関係についてです。
 本書では、本件については論じられていませんので、別の機会を通じて取り上げていきます。

ユニバーサル・ベーシックインカムと社会的共通資本

次に、
2002年アイルランド政府「ベーシック・インカム白書」によるBI定義・特徴(2021/1/13)
のなかで紹介している、一般的なベーシックインカムの定義と特徴を紹介します。

(定義)
1.個人に対して、どのような状況におかれているかに関わりなく無条件に給付される。
2.べーシック・インカム給付は課税されず、それ以外の所得は全て課税される。
3.給付水準は尊厳をもって生きること、生活上の真の選択を行使することを保障するものであることが望ましい

(特徴)
1)金銭で給付され、いつどのように使うかに制約は無い
2)毎月など定期的に支払われる。
3)国家・地方自治体などにより支払われる。
4)個々人に支払われる。
5)資力調査なしに支払われ、一連の行政管理やそれに掛かる費用、労働へのインセンティブを阻害する要因がなくなる
6)稼働能力調査なしに支払われ、雇用の柔軟性や個人の選択を最大化し、社会的に有益だが低賃金の仕事に人々がつ就くインセンティブを高める

(魅力・メリット)
現存の行政手続きの多くは必要なくなる
現存の税制や社会保障システムから生じる「貧困の壁」や「失業の罠」が除去される。
給付から漏れることや受給にあたって恥辱感を感じるという問題がなくなる
所得がない人々、支払い労働に従事していない人を含む全ての人に、独立した所得を与える。
⑤ 以下の点で公正で結束力のある社会を作り出す。
 ・仕事や雇用に結びつき、労働市場において効率的である。
 ・衡平性を維持し、貧困回避水準の所得を確保できる。
 ・社会保障と税の体系を個人単位に変える公正な方法を提供する。
 ・男女平等であり、透明性がある。
 ・家事や子育てなどの仕事にも報いる
 ・教育や職業訓練を促進する。
 ・技術発展や非典型的な働き方などを含む、グローバル経済における変化や課題に対応できる
 ・付随する様々な経済的社会的改良から良い能動的効果が生まれる


 このベーシックインカムが、社会的共通資本と直接・間接に結びついていることを次に見ていきましょう。

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社会的インフラストラクチャ―としてのベーシック・インカム、ベーシック・ペンション

 
 3種類の社会的共通資本の2番目は、道路、交通機関、上下水道、電力・ガスなどの「社会的インフラストラクチャー」社会資本ともいう)でした。
 それらは、基本的には、目に見えるもの、確認できるものであり、資源そのものであり、一部は資本が資産として形に表れるものです。

社会的共通資本とは:社会的共通資本とベーシック・インカム-1
でも引用した、社会的公共資本の定義・特徴の1)から3)を以下に再掲しました。

1)すべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置
2)一人ひとりの尊厳を守り、魂の自立を支え、市民の基本的権利を最大限に維持する
3)社会全体にとって共通の財産として、社会的な基準に従って管理・運営される。

 
 まさに、「社会的インフラ」は、3)にある「社会全体にとっての共通の財産」。
 こうした物理的・化学的・物質的インフラに、1)に書かれた「ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能とする、あるいはそれを目的とする社会的装置社会的システム」として、ベーシックインカム、ベーシック・ペンションが、並立して存在すると言えるでしょう。
 それは、2)にある「市民の基本的人権」を具体化する社会的装置、社会的経済的システムでもあります。

 上述した一般的なユニバーサル・ベーシックインカム、そして後述する日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンションの内容で、そのことは確認できると思います。
 そこで給付される通貨、お金は、道路や水や電気・ガスと同様の、社会生活に不可欠の資本・資源、社会的インフラストラクチャーと言えるのです。

制度資本としてのベーシック・インカム、ベーシック・ペンション


 3つ目の社会的共通資本である教育、医療、金融、司法、行政などの制度資本。
 社会的インフラとして、日常生活に、水や電気と同じように供給され、用いることができるためには、制度化され、法律化される必要があります。

 前項同様、
社会的共通資本とは:社会的共通資本とベーシック・インカム-1
でも引用した、社会的公共資本の定義・特徴の4)から7)を以下に再掲しました。

4)それぞれの国ないし地域の自然的、歴史的、文化的、社会的、経済的、技術的諸要因に依存して、政治的なプロセスを経て決められる
5)分権的市場経済制度が円滑に機能し、実質的所得分配が安定的となるような制度的諸条件。
6)国家の統治機構の一部として官僚的に管理されたり、また利潤追求の対象として市場的な条件によって左右されてはならない
7)職業的専門家によって、専門的知見に基づき、職業的規範に従って管理・維持されなければならない。

 まさに、4)にあるように、ベーシックインカムは、「それぞれの国の歴史的、文化的、社会的、経済的、技術的要因に依存して、政治的なプロセスを経て決められる」必要があります。
 また、所得配分や国の統治機構との関係、その管理運用に当たっての専門的な技術や規律・ルールに基づいて管理・維持されるべきものです。

 例えば、ベーシック・ペンションにおいては、以下の記事のように、その法律案を提示しています。
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)前文(案)(2021/5/20)
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案(2021/3/2)

 そこでは、一般的なユニバーサル・ベーシックインカムとは異なる歴史・文化・社会・経済・技術などの諸要素・事情を背景として、日本独自のベーシックインカム、と断り書きを付して、検討考察し、法案を試案としてまとめています。
 まさに制度資本化を企図し、その運営・維持を行う行政システムの確立・導入をめざしているわけです。

 ただ、それらは、現状の政治的プロセスを経て法制化させる必要があるため、簡単には実現できないことも認識。
 以下の記事で、その課題を整理しています。
ベーシック・ペンション実現は10年がかりの夢、団塊の世代から次世代へのレガシーとして(2021/2/8)
ベーシック・ペンション実現に10年を想定する4つの理由(2021/3/4)

日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金とは

 そして、今回の本題・目的である、一般的なユニバーサル・ベーシックインカムとは異なる制度資本としての日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金とはどういうものか。

日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンションとは(2021/1/17)
から定義・特徴等を以下に抽出し、整理しました。

(定義)
1.すべての日本国民に、個人ごとに支給。
2.
生まれた日から亡くなった日まで、年齢に応じて、無条件に、毎月定期的に生活基礎年金(総称)として支給。
3.基礎的な生活に必要な物品やサービスを購入・利用する
ことを目的に支給。
4.
個人が、自分の名義で、日本銀行に、個人番号を口座番号として開設した専用口座宛に支給。
5.
現金ではなく、デジタル通貨(JBPC、Japanese Basic Pension Currency)が支給される。
6.このデジタル通貨は、国の負担で、日本銀行が発行し、日本銀行から支給される。

(特徴及び条件)
1.日本銀行に開設した、個人番号を口座番号とするJBPC専用口座だけに保有・保管できる。【個人番号日銀口座】
2.日本国内でのみ利用できる、一種の地域通貨である。【国内限定】
3.利用できる商品やサービスは、基礎的な生活を送るための利用に限定される。【使途限定】
4.その目的に適応した、事前に申請し、認可された事業所で利用できる。【利用事業所限定】
5.個人番号カードまたはインターネット上で支払い決済し、個人口座から引き落とされる。【デジタル通貨限定】
6.利用期間が決められており、期限内に利用しない場合は自動的に日本銀行に回収される。【期間限定】
7.個人当人の基礎的な生活に利用することを目的としており、他人への譲渡・相続や資産として長期に保有・蓄財することはできない。【譲渡・相続・資産化禁止】
8.事前に届け出て認可された事業所は、法人番号を口座番号としてたJBPC専用口座を、日本銀行に開設する。【事業所法人番号紐付け日銀口座限定】
9.通貨保有者の利用によりJBPCを専用口座で受け取った事業所は、規定する方法(略)により、処理・処分できる。【処理処分限定】
10.利用・流通・保管されたすべてのJBPCは、所定期間内にすべて日本銀行に回収・返却され、日本銀行の資産処分により消却され、還流したJBPC残高はなくなる。【日本銀行管理限定】

(支給額)
1.0歳以上学齢15歳まで     児童基礎年金  毎月8万円
2.学齢16歳以上学齢18歳まで  学生等基礎年金 毎月10万円
3.学齢19歳以上満80歳未満まで  生活基礎年金  毎月15万円
4.満80歳以上          高齢者基礎年金  毎月12万円

(使途・利用方法)
1.飲食費・住宅費・水道光熱費・衣類日用品費などの生活基礎費
2.
通信費・交通費・国内旅行費及び一部娯楽サービス費 
3.入学金・授業料・受験料、教育訓練研修費・教材費・新聞図書費
4.健康関連費・市販医薬品
5.医療保険・介護保険等社会保険給付サービス利用時の本人負担費
6.その他法令で定める生活諸費用

 

 こうした内容のベーシック・ペンションは、先に述べたように、「社会的インフラ」の要素を持ち、「制度資本」化されている「社会的共通資本」と言ってよいでしょう。
 いやむしろ、「これを社会的共通資本とする」という明確な意図をもっての導入・提案であることを申し上げておきたいと思います。
 その意図・内容は、
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)前文(案)(2021/5/20)
で示した以下で、一層強く理解でき、認識できることになるでしょう。

ベーシック・ペンション生活基礎年金制度の背景と目的(同法前文より)

1)憲法に規定する基本的人権及び生存権等の実現
2)生活保護の運用と実態
3)少子化社会の要因としての結婚・出産・育児等における経済的不安
4)子どもの貧困と幸福度を巡る評価と課題
5)母子世帯・父子世帯の困窮支援の必要性
6)非正規労働者の増加と雇用及び経済的不安の拡大及び格差拡大
7)保育職・介護職等社会保障分野の労働条件等を要因とする慢性的人材不足
8)共働き夫婦世帯の増加と仕事と育児・介護等両立のための生活基盤への不安
9)国民年金受給高齢者の生活基盤の不安・脆弱性及び世代間年金制度問題
10)高齢単身世帯、高齢夫婦世帯、中高齢家族世帯の増加と生活基盤への不安
11)コロナウイルス禍による就労・所得機会の減少・喪失による生活基盤の脆弱化
12)自然災害被災リスクと生活基盤の脆弱化・喪失対策
13)日常における不測・不慮の事故、ケガ、失業等による就労不能、所得減少・喪失リスク
14)IT社会・AI社会進展による雇用・職業職種構造の変化と所得格差拡大と脱労働社会への対応
15)能力・適性・希望に応じた多様な生き方選択による就労・事業機会、自己実現・社会貢献機会創出と付加価値創造
16)貧富の格差をもたらす雇用・結婚・教育格差等の抑制・解消のための社会保障制度改革、所得再分配政策再考
17)世代間負担の不公平対策と全世代型社会保障制度改革の必要性
18)コロナ禍で深刻さ・必要度を増した、安心安全な生活を送るための安全弁としての経済的社会保障制度
19)基本的人権に基づく全世代型・生涯型・全国民社会保障制度としての、生活基礎年金制(ベーシック・ペンション制)導入へ
20)副次的に経済政策として機能する、社会経済システムとしてのベーシック・ペンション
21)生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)導入に必要な種々の課題への取り組み

3種類の社会的共通資本の形成と管理運営を支える、新たな社会的公共資本としてのベーシック・ペンション

 前項の内容は、すべての人、市民を対象としてベーシック・ペンションが制定されていることを示しています。
 実は、当然ですが、自然環境、社会的インフラ、制度資本すべて、人と社会のためのものであり、それらの管理運営を行うのもすべて「人」もしくは「人と人」の組み合わせ・集合である「組織」や「社会」です。

 その単位である人、すべての人に給付する社会的共通資本であるベーシック・ペンションは、3種類すべての社会的共通資本の管理・運営に関わっていることになります。
 ある意味では、ゆたかな社会、社会を構成する人・市民の安心・安定的生活を形成・維持するための資本形態・資源であるわけです。

 それは、宇野氏が想定していなかった形態であったかもしれません。
 財政学や経済学の領域でも、ベーシック・ペンションの財源が、従来の財政規律、プライマリーバランスの適用外のものとして設定されており、それは、所得の分配・再分配制度のあり方の枠外のものです。

フィデュシアリーな関係により、市民からの信託に応じて、国が創出し、日本銀行に管理運営を委ねる、まったく新しい、しかし、社会的インフラストラクチャーと制度資本の性質を持つ「社会的公共資本

 
 それが、日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金であり、いかなる政治経済体制においても普遍的な、それ故に、グローバル社会における、さまざまな国や地域にも移管・適用できる、社会的共通資本のモデルとなることを目標とするものなのです。

コロナ禍により、新たな社会的共通資本の確立が求められる時代に

 この見出しは、前回の記事
社会的共通資本とは:社会的共通資本とベーシック・インカム-1
で用いたものです。
 宇野氏提起の「社会的公共資本」のすべてについての見直すべきことを、コロナ禍は、私たちの社会に突きつけました。
 しかし、こうした観点から、次の衆議院選挙で長期ビジョン、長期政策・計画として提示する政党が果たしてあるかどうか。
 その観点、問題意識からの提案・提言は、親サイトの https://2050society.com でしつこく行っていく予定です。
 そちらも、折を見てチェック頂ければと思います。


(参考):ベーシック・ペンションについて知っておきたい基礎知識と5つの記事

日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンションとは(2021/1/17)
諸説入り乱れるBI論の「財源の罠」から解き放つベーシック・ペンション:ベーシック・ペンション10のなぜ?-4、5(2021/1/23)
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)前文(案)(2021/5/20)
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案(2021/3/2)
ベーシック・ペンションの年間給付額203兆1200億円:インフレリスク対策検討へ(2021/4/11)

  1. zoritoler imol

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