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2023年blog&考察

遊びのような「内生的貨幣供給論」と「外生的貨幣供給論」の比較論:島倉原氏著『MMTとは何か』から考えるベーシック・ペンションー3

財源・財政・金融・インフレ問題とMMTを関連付けてベーシックインカム、ベーシック・ペンションを考察するシリーズ-Ⅱ

【『ベーシックインカム×MMTでお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション】シリーズ(記事リストは最後に掲載)に続いて、
島倉原氏著MMT〈現代貨幣理論〉とは何か 日本を救う反緊縮理論』(2019/12/10刊・角川新書)を参考にした、【島倉原氏著『MMTとは何か』から考えるベーシック・ペンション】シリーズに、前々回から取り組んでいる。
<第1回>:ベーシックインカムとMMTの誤解・無理解をどう克服するか:島倉原氏著『MMTとは何か』から考えるベーシック・ペンションー1(2023/7/5)
<第2回>:貨幣の本質とベーシックインカムに関係はあるか:島倉原氏著『MMTとは何か』から考えるベーシック・ペンションー2(2023/7/7)


『MMTとは何か』から考えるベーシック・ペンション-3

上記<第2回>に続いて【第1部 MMTの貨幣論】の2、<第2章 預金のメカニズム>を今回取り上げる。
以下の本章構成を整理しながら要点を確認し、感じた点のメモを加えていくことに。

第1部 MMTの貨幣論
第2章 預金のメカニズム
・預金も信用貨幣の一種
・通貨供給が貸出と預金を生み出す ー 主流派経済学は「外生的貨幣供給論
・中央銀行はマネーストックを制御できる ー 主流派経済学の「貨幣乗数理論」
・銀行貸出が預金と通貨を生み出す ー MMTは「内生的貨幣供給論
・実務関係者が支持するのは内生的貨幣供給論
・負債のピラミッド構造
・ビットコインは貨幣か?
・ビットコインは貨幣ではない ー MMTの結論

MMTにおける信用貨幣の一種としての「預金」

本章のテーマは「預金」。
預金は、銀行・信用金庫・農協など、法律で定められた「預金取扱機関」(以下、銀行)が提供する、元本保証の金融商品。
その貯蓄・利殖機能に加え、振込や口座振替により他者の預金口座に残高を移動し取引を完了させる決済手段として用いることもできることから、貨幣の一種ということができる。
但し、その残高は、銀行のホストコンピュータ上に電子情報として記帳されており、他者への支払いも電子情報が書き換えられるだけで、現金等の形があるもののやり取りが生じているわけではない。
ここからキーパンチ・マネーと表現されることはよく耳にする。
また当然、その電子記録と引き換えに、預金残高を銀行ATMや窓口で現金として受け取ることもできるわけで、預金が、債務証書の性質をもつことを確認できる。
なお、この他、マネーストックやマネタリーベースについても簡単に触れており、以下のみ記しておきたい。
マネーストック:中央銀行や銀行以外の個人や法人が保有している貨幣残高の合計
マネタリーベース:中央政府や中央銀行が発行した貨幣、すなわち通貨の残高(民間金融機関が保有する中央銀行当座預金を含む)

その「預金」がどのように発生するかという問いに対しての答えが、主流派経済学とMMTでは異なる。
前者は「外生的貨幣供給論」、後者は「内生的貨幣供給論」を取るとしており、その内容・特徴を見ていく。

主流派学派の「外生的貨幣供給論」と中央銀行のマネーストック管理

「外生的貨幣供給論」とは:民間銀行に外部から新たに通貨が供給されると、それに基づいて貸出しが行われ、その結果預金という貨幣が生み出される、という考え方。
その説明では、まず、個人が現金を所有(=マネーストック)し、それを銀行に預け、その預かった預金を元手に、一部は別途準備金化しつつ残りを他の個人に貸出し(=マネーストックの増加)、使用された現金を受け取った企業が、また別の銀行に預け・・、と貨幣の移動を提示しつつ、そのプロセスでのマネーストックの額の変化を付け加えている。
・「貨幣創造(money creation)」とは:銀行貸出によって新たなマネーストックが生み出される仕組み。「信用創造」とさもされる。
・主流派経済学も預金が信用貨幣であることに同意しているが、銀行貸出は、あくまでも預金者などから借り入れた「通貨=商品貨幣」を「又貸しする」行為とし、「預金=商品貨幣たる通貨の代替物」とみなす。
・純粋に外部から預け入れられた現金との交換によって発生した預金が「本源的預金」、これを前提として貸出ししたことで発生した預金を「派生的預金」と呼ぶ。
・こうして、外部から通貨供給が行われることで、銀行が準備金に相当する額を除き、残り全てを必ず貸出に回すと想定することで、マネタリーベースとマネーストック間には、必ずある種の比例関係(比率=乗数)が成立するという「貨幣乗数理論」を取る。
これに基づき、中央銀行がマネタリーベースの供給の操作を通じて、マネーストックを制御できるとする。

以上を読むと、「本源的貨幣」である個人所有の現金貨幣は、いったいどこから供給・発生したものかという疑問・追究も必要と思うのだが・・・。
対して、MMTの「内生的貨幣理論」とは。

MMTの「内生的貨幣供給論」

「内生的貨幣供給論」とは:銀行は借り手の債務(借入金)を購入するため、貨幣として機能する債務証書を無から創造する。
マネーストックが中央銀行からの通貨供給ではなく、借入れその他の経済活動内部における資金需要に基づいて変動する、すなわちマネタリーベースの発生要因となる、という考え方。
・主流派経済学の外生的貨幣供給論におけるマネーストックのスタートは、個人が所有する(外生的)現金。
これに対してMMTでは、個人からの預金が銀行の貸出開始に必要ではなく、特段通貨は必要ではなく、無から預金および貸付金情報を入力するだけで(内生的に)マネーストックを創造できるとする。
すなわち、先の「本源的貨幣」は不要、存在しない、というわけだ。
預金という観点から見ればそうなのだろうが、個人が受け取る賃金などの出どころが、すべて企業の銀行からの借り入れに依存するわけではないだろうから、内生的貨幣供給も、一面的に過ぎないと思うのだが。

これで一応両者の違いがはっきりした、のだろうが、こんな議論を本気でやってる気がしれない、漠とした思いは、晴れることがない。
ただこの関連で、MMTにおいて、銀行預金が銀行貸出以外によって創造される例外として、「中央政府による支出」が示されていることには重要な意味がある。
いずれこの指摘について深堀する機会がでてくるだろう。

実務関係者の支持を集めるMMTの内生的貨幣供給論

もう一つ、確認しておくべきは、銀行預金に関する二つの見方のどちらが正しいかという問いかけに対して、中銀や民間銀行の実務者の多くが、内生的貨幣供給論、すなわちMMTを支持していることの説明・紹介に多くの文字数を費やしていること。
その例もここでは省略するが、当然、そうであるならば、なぜ、MMTが主流派経済学に成り代わって、金融や財政における実務の基軸の考え方にならないのか、という疑問が生じる。
同様の思いとそれに対する回答について、これも当然ながら、筆者はここで触れることはない。

負債のピラミッドの意義と国家の負債の特徴

預金を一貫して信用貨幣論の枠組みでとらえるMMTの貨幣観?をテーマとした本章だったが、もう一つ書き添えられているのが、負債ピラミッドについて。
MMTでは、通貨や預金も含めた全ての負債は、国家の負債を頂点とする「負債ピラミッド」を形成していると。
・頂点には国家の負債、次に民間銀行の負債、最後に(土台のように)その他の経済主体の負債。
・その他の経済主体では、ノンバンク、非金融企業、家計という序列で形成され、概ねすべての負債が、国家の計算貨幣である通貨単位で表示される。
・それぞれの経済主体は自らの負債の履行のために、より上位に位置する主体の負債を利用し、そこでの運用を可能にするメカニズムが存在し、その序列が、信用力の高さの序列を示している。
民間銀行が中位にあるのは、国家(中央銀行)との間に、中央銀行当座預金口座を持ち、特別の権利義務関係(債権債務関係)を持つためだが、詳細は、今回は割愛する。
・通常、それぞれの負債の発行者は、自らの負債額に比べ、その決済手段である上位の負債をより少ない額でしか保有していない。
・こうした構造から、下位での債務不履行が、信用不安を引き起こし、金融危機を招くこともあるわけだ。
なお、ここでもう一つ付け加えておくべきことは、
・ピラミッドの頂点に位置する国家の負債は、他者の負債ではなく、自らの負債によってのみ返済されること。
・但し、これは国家が金本位制や固定為替相場制を採用し、自国通貨を金や外国通貨(外貨)に交換する約束をしている場合には、このピラミッドは形成されないことに留意が必要である。

双方の考え方を理解するため、それぞれの項で、具体的な取引内容と手順を示し詳述しているが、意外にその説明が逆効果になり、理解が困難になるのでは感じることがある。
文字数が増えすぎることもあり、かなり省略し、私なりの整理・解釈にとどめた。

なお、上記の本章の終わりに、ビットコインに関する記述があるが、筆者自身が「余談」としているし、ベーシックインカム、ベーシックペンション共に何の関係もないので、ここでは省略した。

<第2章 預金のメカニズム>から考える、ベーシックインカム及びベーシック・ペンションにおける預金と通貨の特性

外生的貨幣供給論か、内生的貨幣供給論か。
問われれば、鶏が先か、玉子が先かと同様の議論、提示される要素・状況は、どちらも事実であり、循環的なもの。見方、切り取り方の違いであり、本質的な違いではないのではないか、と。
ゆえに、双方とも正しく、どちらか一方のみが選択・断定されるというものではない。
何か議論をもてあそんでいるように思えるのだが、批判を受けることだろうか。

ベーシックインカムにおける預金

一応、「預金」という要素で、一般的なベーシックインカムと関連付けて考えてみよう。
ベーシックインカムは、現金で支給され、利用方法は問われない。
そのため、政府または中央銀行により支給されるこの通貨は、民間銀行の貸出以外によって創造される例外としてのものであり、そこで発生した国家の負債は、自らの負債によってのみ返済されるというMMTの考え方を背景としたものか否かが問題となる。
主流派経済学に準じた貨幣及び預金の考え方によることになれば、その財源をどこに、どのように求めるかが重要な課題になる。
といっても、今ここでその議論を取り上げる必要はないだろう。

ベーシック・ペンション・デジタル通貨のもつ貨幣の特殊性

次は、同様、ベーシック・ペンションについて。
専用デジタル通貨で支給するベーシック・ペンションは、貯蓄や譲渡は禁止されている、法定通貨貨幣の一種である。
使用すべき期間と利用できるモノやサービスも、原則、基礎的な生活のためのものと限定されている。
利用されなければ、自動的に中央銀行に回収され、消却される。
国民により利用されたベーシック・ペンションを受け取った事業者が、一般の法定通貨と交換する場合にも一定の条件が付けられており、原則、納税や事業上の損益金処理され、受け取った国や自治体や中央銀行のその後の利用にも条件が付けられる。
すなわち、「預金」としての機能を持たない貨幣であり、決済手段・交換手段としても制限・条件が付けられている、極めて特殊な貨幣というわけだ。

こう考えると、本章の論述の中でチェックしておくべきことは、
・政府または中央銀行によるベーシック・ペンションの支給・支出が、銀行以外の支出による例外的な内生的貨幣供給に当たり、
・その支給により発生した国家の負債は、他者の負債ではなく、自らの負債によってのみ返済される
というMMTの性質・特徴についてである。

その観点から、次回のテーマ【第1部 MMTの貨幣論】の3、<第3章 主権国家における政府の機能>が、ベーシックインカム、あるいはベーシック・ペンションの財源問題と直接的に関連することがイメージされ、興味関心が募ってくる。

参考:「2022年ベーシック・ペンション案」シリーズ

<第1回>:ベーシック・ペンション法(生活基礎年金法)2022年版法案:2022年ベーシック・ペンション案-1(2022/2/16)
<第2回>:少子化・高齢化社会対策優先でベーシック・ペンション実現へ:2022年ベーシック・ペンション案-2(2022/2/17)
<第3回>:マイナポイントでベーシック・ペンション暫定支給時の管理運用方法と発行額:2022年ベーシック・ペンション案-3(2022/2/18)
<第4回>:困窮者生活保護制度から全国民生活保障制度ベーシック・ペンションへ:2022年ベーシック・ペンション案-4(2022/2/19)

MMT<現代貨幣論>とは何か 日本を救う反緊縮理論』構成

序章 MMTはなぜ注目されているのか
・MMTブームに火をつけた女性政治家
・有力者による批判の的となったMMT
・日本にも波及したMMT論争
・MMTサイドからの報道や議論
・本書の目的と構成
第1部 MMTの貨幣論
第1章 貨幣の本質

・貨幣の定義
・貨幣に関する3つの機能と「計算貨幣」
主流派経済学は「商品貨幣論」
・商品貨幣論の問題点(1)論理構造の欠陥
・商品貨幣論の問題点(2)物々交換経済の不在
・商品貨幣論の問題点(3)「貴金属硬貨=効率的な交換媒体」論の非現実性
MMTは「信用貨幣論」
・「割り符=貴金属硬貨の代用品」はありえない
・貴金属硬貨も債務証書の一種だった
・「貨幣国定学説」と表券主義
・租税が貨幣を動かす
・国定貨幣=国家を債務者とする特殊な信用貨幣
第2章 預金のメカニズム
・預金も信用貨幣の一種
・通貨供給が貸出と預金を生み出す ー 主流派経済学は「外生的貨幣供給論
・中央銀行はマネーストックを制御できる ー 主流派経済学の「貨幣乗数理論」
・銀行貸出が預金と通貨を生み出す ー MMTは「内生的貨幣供給論
・実務関係者が支持するのは内生的貨幣供給論
・負債のピラミッド構造
・ビットコインは貨幣か?
・ビットコインは貨幣ではない ー MMTの結論
第3章 主権国家における政府の機能
・主権通貨とは何か
・自国通貨建てであれば政府の支出能力には制限がない
支出能力に制限はないが、インフレが政府支出の制約となる
税金は財源ではなく、国債は資金調達手段ではない
・主権通貨国の財政オペレーション(1)統合政府のケース
・主権通貨国の財政オペレーション(2)中央銀行が国債を引き受けるケース 
・主権通貨国の財政オペレーション(3)民間銀行が国債を引き受けるケース
・現実に行われている「間接的な財政ファイナンス」
・中央銀行の独立性は「手段の独立性」
・政府の赤字支出は金利を引き下げる
財政赤字が非政府部門の貯蓄を創造する
・海外部門の国債保有は問題ではない
政府財政は赤字が正常
第2部 MMTの政策論
第4章 MMTの租税政策論

・「MMT=無税国家論」ではない
・租税の目的とは何か
悪い税(1)社会保障税
悪い税(2)消費税
悪い税(3)法人税
第5章 機能的財政論
「完全雇用と物価安定」という公共目的
・機能的財政と二つのルール
・機能的財政と表券主義
・機能的財政と為替相場制度
第6章 就業保証プログラム
・裁量的財政政策に否定的なMMT
・就業保証プログラムとは何か
・就業保証プログラムの3つの意義
就業保証プログラムの問題点
・就業保証プログラムの実例? ー 理論と現実とのギャップ
・ベーシック・インカムや最低賃金制度との違い
第3部 MMTから見た日本経済
第7章 日本は財政危機なのか

・クルーグマンの機能的財政論批判
・日本は非常に良い事例 ー ケルトンの反論
・財政赤字は金利やインフレ率の上昇とは無関係
・日本は財政危機ではない ー MMTと財務省のコンセンサス?
・自国通貨建て債務でも国家は破綻する? ー サマーズの批判
デフォルトや通貨危機の真の原因は固定相場制 ー MMTの結論
第8章 日本経済には何が必要なのか
・企業の過少投資が主導する日本の長期デフレ
・生産能力と人々の生活を破綻するデフレ・スパイラル
・金融政策よりも財政政策 ー ケルトンの提言
・金融政策こそ主要な政策手段 ー クルーグマンの異論
・金融政策の効果は乏しい ー ケルトンの反論
・緊縮財政こそが長期デフレの原因
・量的緩和政策は何が問題なのか
・デフレ不況を深刻化させる消費増税
・「マクロ経済スライド」は緊縮財政の産物
・機能的財政が「老後2000万円問題」を解決する
第9章 民主主義はインフレを制御できるのか
・財政の民主的統制は難しい?
・ケインズ型政策がスタグフレーションをもたらした?
・マクロな視点が欠落した『赤字の民主主義』
・民主的統制能力を示す現代の日本
・スタグフレーションには複合的対策を ー MMTのスタンス
民主主義はインフレを制御できる ー MMTのハイパーインフレ論
・民主主義の不在が招いた日本の悲劇
おわりに ー MMTをどう生かすべきか
・主流派経済学はなぜ間違えるのか
・現実とも整合的なMMT
・MMTの課題と展望
・MMTの「実践」が求められる日本
・「公益民主主義」の形成に向けて

(参考)【『ベーシックインカム×MMT(現代貨幣理論)でお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション】シリーズ

<第1回>:スコット・サンテンス氏の想いを知る:『ベーシックインカム×MMTでお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション-1(2023/5/28)
<第2回>:MMT視点での財政支出・BI支出によるインフレと課税論:『ベーシックインカム×MMTでお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション-2(2023/6/12)
<第3回>:MMTのJG雇用保証プログラムよりもBIを、という卓見:『ベーシックインカム×MMTでお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション-3(2023/6/13)
<第4回>:MMTに欠けるBI導入要件の矛盾と正論:『ベーシックインカム×MMTでお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション-4(2023/6/18)
<第5回>:MMTなくしてBI実現は不可能なのか:『ベーシックインカム×MMTでお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション-5(最終回)(2023/6/29)

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