1. HOME
  2. 2022・23年考察
  3. 2023年blog&考察
  4. ベーシックインカムとMMTの誤解・無理解をどう克服するか:島倉原氏著『MMTとは何か』から考えるベーシック・ペンションー1
2023年blog&考察

ベーシックインカムとMMTの誤解・無理解をどう克服するか:島倉原氏著『MMTとは何か』から考えるベーシック・ペンションー1

財源・財政・金融・インフレ問題とMMTを関連付けてベーシックインカム、ベーシック・ペンションを考察するシリーズ-Ⅱ

スコット・サンテンス氏著・朴勝俊氏訳ベーシックインカム×MMT(現代貨幣理論)でお金を配ろう 誰ひとり取り残さない経済のために 』(2023/3/10刊・那須里山舎)を参考図書としての【『ベーシックインカム×MMT(現代貨幣理論)でお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション】シリーズに続いての標記シリーズⅡ。

島倉原氏著MMT〈現代貨幣理論〉とは何か 日本を救う反緊縮理論』(2019/12/10刊・角川新書)を参考にした、【島倉原氏著『MMTとは何か』から考えるベーシック・ペンション】シリーズを始める。
同書の全体構成は、以下。

MMT<現代貨幣論>とは何か 日本を救う反緊縮理論』構成
はじめに
序章 MMTはなぜ注目されているのか
・MMTブームに火をつけた女性政治家
・有力者による批判の的となったMMT
・日本にも波及したMMT論争
・MMTサイドからの報道や議論
・本書の目的と構成
第1部 MMTの貨幣論
第1章 貨幣の本質

・貨幣の定義
・貨幣に関する3つの機能と「計算貨幣」
主流派経済学は「商品貨幣論」
・商品貨幣論の問題点(1)論理構造の欠陥
・商品貨幣論の問題点(2)物々交換経済の不在
・商品貨幣論の問題点(3)「貴金属硬貨=効率的な交換媒体」論の非現実性
MMTは「信用貨幣論」
・「割り符=貴金属硬貨の代用品」はありえない
・貴金属硬貨も債務証書の一種だった
・「貨幣国定学説」と表券主義
・租税が貨幣を動かす
・国定貨幣=国家を債務者とする特殊な信用貨幣
第2章 預金のメカニズム
・預金も信用貨幣の一種
・通貨供給が貸出と預金を生み出す ー 主流派経済学は「外生的貨幣供給論
・中央銀行はマネーストックを制御できる ー 主流派経済学の「貨幣乗数理論」
・銀行貸出が預金と通貨を生み出す ー MMTは「内生的貨幣供給論
・実務関係者が支持するのは内生的貨幣供給論
・負債のピラミッド構造
・ビットコインは貨幣か?
・ビットコインは貨幣ではない ー MMTの結論
第3章 主権国家における政府の機能
・主権通貨とは何か
・自国通貨建てであれば政府の支出能力には制限がない
支出能力に制限はないが、インフレが政府支出の制約となる
税金は財源ではなく、国債は資金調達手段ではない
・主権通貨国の財政オペレーション(1)統合政府のケース
・主権通貨国の財政オペレーション(2)中央銀行が国債を引き受けるケース 
・主権通貨国の財政オペレーション(3)民間銀行が国債を引き受けるケース
・現実に行われている「間接的な財政ファイナンス」
・中央銀行の独立性は「手段の独立性」
・政府の赤字支出は金利を引き下げる
財政赤字が非政府部門の貯蓄を創造する
・海外部門の国債保有は問題ではない
政府財政は赤字が正常
第2部 MMTの政策論
第4章 MMTの租税政策論

・「MMT=無税国家論」ではない
・租税の目的とは何か
悪い税(1)社会保障税
悪い税(2)消費税
悪い税(3)法人税
第5章 機能的財政論
「完全雇用と物価安定」という公共目的
・機能的財政と二つのルール
・機能的財政と表券主義
・機能的財政と為替相場制度
第6章 就業保証プログラム
・裁量的財政政策に否定的なMMT
・就業保証プログラムとは何か
・就業保証プログラムの3つの意義
就業保証プログラムの問題点
・就業保証プログラムの実例? ー 理論と現実とのギャップ
・ベーシック・インカムや最低賃金制度との違い
第3部 MMTから見た日本経済
第7章 日本は財政危機なのか

・クルーグマンの機能的財政論批判
・日本は非常に良い事例 ー ケルトンの反論
・財政赤字は金利やインフレ率の上昇とは無関係
・日本は財政危機ではない ー MMTと財務省のコンセンサス?
・自国通貨建て債務でも国家は破綻する? ー サマーズの批判
デフォルトや通貨危機の真の原因は固定相場制 ー MMTの結論
第8章 日本経済には何が必要なのか
・企業の過少投資が主導する日本の長期デフレ
・生産能力と人々の生活を破綻するデフレ・スパイラル
・金融政策よりも財政政策 ー ケルトンの提言
・金融政策こそ主要な政策手段 ー クルーグマンの異論
・金融政策の効果は乏しい ー ケルトンの反論
・緊縮財政こそが長期デフレの原因
・量的緩和政策は何が問題なのか
・デフレ不況を深刻化させる消費増税
・「マクロ経済スライド」は緊縮財政の産物
・機能的財政が「老後2000万円問題」を解決する
第9章 民主主義はインフレを制御できるのか
・財政の民主的統制は難しい?
・ケインズ型政策がスタグフレーションをもたらした?
・マクロな視点が欠落した『赤字の民主主義』
・民主的統制能力を示す現代の日本
・スタグフレーションには複合的対策を ー MMTのスタンス
民主主義はインフレを制御できる ー MMTのハイパーインフレ論
・民主主義の不在が招いた日本の悲劇
おわりに ー MMTをどう生かすべきか
・主流派経済学はなぜ間違えるのか
・現実とも整合的なMMT
・MMTの課題と展望
・MMTの「実践」が求められる日本
・「公益民主主義」の形成に向けて

『MMTとは何か』から考えるベーシック・ペンション-1

上記の構成に基づき、1章ずつ取り上げて、検討・考察を全11回を予定している。
今回は、<序章>を対象として以下の内容を概括したい。

序章 MMTはなぜ注目されているのか
・MMTブームに火をつけた女性政治家
・有力者による批判の的となったMMT
・日本にも波及したMMT論争
・MMTサイドからの報道や議論
・本書の目的と構成

MMTブームに火をつけた女性政治家、アレキサンドリア・オカシオ=コルテス

「MMTはなぜ注目されているのか」と題された<序章>の初めに、MMTブームに火をつけた女性政治家として紹介されたのが、「民主社会主義者」を自認し、2018年11月の中間選挙で、史上最年少女性下院議員になり、アメリカ民主党リベラル派のホープと目されたアレキサンドリア・オカシオ=コルテス氏。
同氏が、2019年1月公表の「ビジネス・インサイダー」インタビューで、「財政赤字や政府債務を心配ないと説く経済理論」としてMMTを支持したことがきっかけとされてる。
同氏が公約として掲げている次の4つの政策が、政府による大規模な財政支出を必要としていることが、その発言の裏付けとなっていることにも着目しておきたい。
・国民皆保険制度の導入
・中低所得者向け住宅所得優遇税制の拡充
・連邦就業保証プログラムの実施
・公立大学授業料の無料化
・グリーン・ニューディールの実施

この公約には、ベーシックインカムの実施はない。
なお、当WEBサイトが提案している日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金制度では、これらの社会保障体系全般の改革と一体化させて導入することを提案している。

MMT経済学者ステファニー・ケルトン対主流派経済学者及び欧米金融当局者のMMT批判

その後、MMT論争のほんかくてき口火を切ったのが、ノーベル経済学者ポール・クルーグマンで、2019年2月、ニューヨーク・タイムズに、MMTの理論的欠陥批判「機能的財政は何が間違っているのか?」を寄稿。
これに対し、ステファニー・ケルトン(後述)が、ブルームバーグのサイトに「現代貨幣理論は破滅の処方箋ではない」とクルーグマンへの反論を展開し、論争は継続。
その後、ローレンス・サマーズ、ケネス・ラゴフ、ジャネット・イエレンなど大物経済学者や、ジェローム・パウエルFRB議長、クリスティーヌ・ラガルドEU中銀総裁など金融政策担当要人らが、MMT批判を展開。
彼らの批判の要約は「MMTとは、正統派経済学の教義から外れているだけでなく、政府債務の膨張やハイパーインフレなどの危険な結果をもたらしかねない、異端の経済理論である」と。

日本におけるMMT論争、政治とマスコミ

上記の欧米各国でのMMT論争は、日本にも影響をもたらし、2019年3月以降、関連報道・言論がメディアで取り上げられることに。
その中の一つが、先述のケルトンの寄稿の中で、日本の財政赤字政策が有効な事例と、聞き方によっては皮肉とさえ評価されたことを含んでいる。
その他、
・異次元の金融緩和で何かと話題になっていた当時の日銀黒田総裁のMMTへの否定的見解
・2019年4月参議院決算委員会における自民党西田昌司議員のMMTに基づいた政策を取ってきているという指摘と質問に対する麻生財相、黒田総裁、安倍首相のMMTへの及び腰・否定的見解
・2019年4月の財政制度審議会説明資料「わが国財政の現状について」におけるMMTに関する記述と否定的意図
なども紹介。
加えて、この時期以降におけるマスコミでは、ケルトンやランダル・レイへのインタビュー記事を取り上げ、MMTへの強い関心を向けはしたが、全般的には、これを支持する流れとして取り扱うことがないままであると言ってよいだろう。
なお、少数派の動向として、当サイトですでに取り上げた中野剛志氏、2019年7月及び11月のMMT国際シンポジウム開催の中心的役割を果たし、ケルトンやMMT派の中心的学者ビル・ミッチェルらを招聘した内閣官房参与経験者藤井聡氏、本書筆者の島原氏自身の活動と関連書の執筆なども併せて紹介している。

本書の目的

「財政赤字」「政府債務」問題がネガティブに喧伝され、「財政健全化」が絶対的条件であるかのように報じられ、論じられる現状。
この議論の真逆のものとしての、「国の借金は怖くない」と断言するMMTが、異端とされ、怪しげな新興宗教であるかのような報道・言論。
そのMMTのルーツを辿れば、100年以上の歴史があり、確固たる基礎や理論的枠組みがあると。
すなわち、20世紀最大の経済学者ジョン・メイナード・ケインズの著『貨幣論Ⅰ 貨幣の純粋理論』における貨幣観を出発点とし、そこから独自の経済理論を発展させたラーナーやミンスキー等やの業績も、理論的基礎として受け継いでいると紹介。
一方、MMTを、「ケインジアン」「ニュー・ケインジアン」「オールド・ケインジアン」と対比させ、まったく異なる、より現実に即した貨幣観を構築したものとし、趣を変えてきている古典派の大いなる誤解を解くべく、次のテーマで、 L・ランダル・レイ著『MMT入門 』等を手掛かりに解説することを目的としている。
・MMTは果たしてどのような経済理論か
・主流派経済学とはどこが違うか
・MMTからどのような結論や示唆を得ることができるか


序論から考える、本シリーズ:ベーシックインカム、MMTの誤解・無理解をどう解くか、共通の課題に取り組む

2019年から急に注目されるようになったMMT現代貨幣理論。
日本では、長引くデフレ経済からの脱却の決め手として反緊縮を掲げる左派経済学者が主張し、またその一部は、ベーシックインカム導入において財源不要の論拠としてMMTを喧伝していた。
その勢いが、コロナパンデミック禍における2020年の「特別定額給付金」の給付をきっかけとして、一時的に高まったのだが、現状は沈静化というか、一時ほどの熱は醒めた状態にある。
元々、「特別定額給付金」支給をもって、ベーシックインカム導入・実現の基盤が整った、あるいはベーシックインカムの理解が進むと感じたこと自体、あまりにも幼稚でイージーな想像力の域を出ていなかったこと。
ベーシックインカムと特別定額給付金は、まったく異次元の政策であり、制度なのだ。
こうした感覚のズレは、前シリーズ【『ベーシックインカム×MMT(現代貨幣理論)でお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション】シリーズ(後述)で取り上げた、スコット・サンテンス氏が、コロナ禍で行われた米国の膨大な財政支出を、ひとまとめにして、ベーシックインカムとして支給したら、という前提での話に置き換えて展開したことでのズレ、と共通している感じがする。

無論、島原氏による本書は、ベーシックインカムを微塵も想像・想定したものではない。
その副題に「日本を救う反緊縮理論」とあるように、財政や経済成長を主眼とする経済理論としてのMMTを正面からテーマとし、主流派経済学が根深く根付く現代社会をなんとか変革しようというものである。
ただ、ベーシックインカム、そしてベーシック・ペンション自体が、停滞し、閉塞し、格差が拡大する一方の現代社会を変革できる社会経済システムであると考えるゆえ、ともに正しく理解・認識されにくいMMTを援用し、主流派経済学が、既得権者のバックボーンとしての生きながらえている現実をなんとか変えたい。
それは、ベーシックインカムとMMTの誤解・無理解をいかに克服するかという取り組みでもある。
その思いを確認して、次回から、本論、「第1部 MMTの貨幣論」<第1章 貨幣の本質>に入っていくことにしよう。

なお、本来ならば、
◆ L・ランダル・レイ氏著、島倉原氏監訳、鈴木正徳氏訳、中野剛志氏・松尾匡氏解説『MMT現代貨幣理論入門 』(2019/9/12刊・東洋経済新報社)
◆ ステファニー・ケルトン氏著、土方奈美氏訳『財政赤字の神話: MMTと国民のための経済の誕生 』(2020/10/15刊・早川書房)
を先に読んで、大筋を理解した上で、本書を確認の意味で読むのが望ましいだろう。
しかしそれでは、本題のベーシック・ペンション論の更新作業が遅れるばかりなので、本書に忠実にシリーズを進めていきたいと思う。

(参考)【『ベーシックインカム×MMT(現代貨幣理論)でお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション】シリーズ

<第1回>:スコット・サンテンス氏の想いを知る:『ベーシックインカム×MMTでお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション-1(2023/5/28)
<第2回>:MMT視点での財政支出・BI支出によるインフレと課税論:『ベーシックインカム×MMTでお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション-2(2023/6/12)
<第3回>:MMTのJG雇用保証プログラムよりもBIを、という卓見:『ベーシックインカム×MMTでお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション-3(2023/6/13)
<第4回>:MMTに欠けるBI導入要件の矛盾と正論:『ベーシックインカム×MMTでお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション-4(2023/6/18)
<第5回>:MMTなくしてBI実現は不可能なのか:『ベーシックインカム×MMTでお金を配ろう』から考えるベーシック・ペンション-5(最終回)(2023/6/29)






  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。