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ポストコロナの税制改革とベーシックインカム財源問題(2020/11/19)

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 長引く新型コロナウイルス感染拡大で、世界の多くの国が、国民の所得の減少・喪失や、企業の収益獲得のための事業機会の減少・喪失を補填するために、膨大な財政支出を強いられています。
 当然その多くは、現状の税収規模を遥かに上回る可能性が高く、赤字国公債の発行などにより、個人と企業の延命を謀ることになる。
 そうして膨れ上がる財政赤字の後処理をどうするか。
 早晩、その対策として、主に増税など、国民や企業の負担増で対応することを要請されるのが一般的ですが、最近は、MMTにより、財政赤字は放置してもなんら問題はないとする議論・声も大きくなってきているのです。
 現在は、コロナの第3波に影響を与えているとも推察されているGoToトラベルやGoToイートにおける政府からの財政支援や、事業継続給付金支給期間の延長による財政出動も、財政赤字規模を膨張させる政策ですね。
 そのプロセスにおいて、すべての国民に一律10万円の特別定額給付金が支給されましたが、当然それも財政赤字にも拘らず行われた施策でした。
 その給付実績が、ベーシックインカムの現実味を知らしめたとして、関心を高めつつありますが、当然、10万円給付とは比較にならない金額を必要とするため、やはり財政状況を考えると、簡単には、国民的規模での議論にはなかなか至らないだろうと思われます。
 だが、そうは言っても、あまりにも必要な金額が膨大過ぎて、まったく議論されずじまいというのも、BIの意義や個々人の生活への影響の大きさを考えると、荒唐無稽の話と断ぜず、何かしらの可能性・方策がないものか、多様な視点・角度から知恵を絞り、検討する価値は十分あるでしょう

 そうした中、先週日経の<経済教室>で「コロナ後の税制改革の展望」と題したテーマで、2人の学者による各々「格差・環境・巨大IT 対応急げ」「資産課税の累進性 高めよ」とする小論が、上下2回にわたって掲載されました。
 タイトルを見て、コロナ禍による大規模財政出動後の増税の在り方についての提案をイメージし、これが、ベーシックインカム制が導入された場合の財源問題対策を考える上でのヒントになると考えたのですが。
 実際の論述は、2つとも、異なる視点からのものでした。
 しかし、内容そのものは、BIの財源をどうするかと同じ視点で受け止め、選択肢として考えうるものだったので、これを整理してみることにした次第です。

経済社会を大きく変えたコロナとその後の税制課題

 その2つの論述を整理すると、コロナ禍でもたらされた社会経済的影響とその背景を

 新型コロナウイルスの感染拡大は、あらゆる地域や階層にグローバルな規模で影響を及ぼし、経済・社会・政治的問題を一層顕在化させている。
 例えば、国の役割に対する期待がより大きなものになり、そのことから、公共サービスの財源を調達しつつ所得再分配機能を担う税制のあり方に大きな影響を及ぼす。

と捉え、以下の3つの着眼点で税制のあり方を検討すべきと整理できます。

1.所得(税)の再分配強化
2.環境税(炭素税)課題
3.巨大多国籍デジタル企業課税
問題
4.消費及び資産課税の拡充

 以降で順にそれらについて確認し、私が提案するベーシックインカムと関連付けて考えることにします。

所得・資産格差の拡大による所得再分配機能の強化とベーシックインカム

 所得・資産の多寡によりコロナ感染率や死亡率が異なることが判明し、多くの国で貧困層の感染が深刻な社会問題となった。
 また職を失うのは非正規雇用者など中低所得者が多い。
 日本では以前から中間層の二極化が生じ、格差の問題が浮上しつつあったが、コロナ禍でよりクローズアップされた。

 まず、この視点から、所得の再分配の在り方の見直しが提案されます。
 労働機会を失うことで生じる所得喪失がある一方、ITデジタル企業やそこに働く人々、そして投資家など、逆にコロナ禍で、所得を増やす層もあり、格差が拡大する現実があるわけです。
 そこで、例えば、

 働き方改革やコロナ禍で急増したフリーランスなど、労務の提供で所得を得る雇用的自営業者は、給与所得者と変わらない働き方にもかかわらず、概算控除としての給与所得控除が適用されず実額控除となり税負担の不均衡が生じている。
 一定収入以下の雇用的自営業者には、給与所得控除の適用を検討すべき。
 労働所得と資本所得間の負担率の相違や、海外所得の捕捉と取り扱い、雇用形態や投資形態の多様化が所得分類の困難さを増している現実問題なども、ポストコロナにおける課題である。

としています。
 まあ、これは、本質的には格差及び貧困問題として議論と対策が必要とされる課題で、コロナで一層その必要性が顕在化し、高まったことを示しています。
 当然、ベーシックインカムの必要性・有効性がコロナで示されつつある状況なので、これまでのBI論では、所得税をその財源として上げていることと重ね合わせることで、理解できると思われます。
 ただ、所得税だけを財源とすると、必ずBIの支給額が中途半端な額に留めざるを得ず、BI本来の目的を実現することが困難になっています。
 当然、所得課税の累進性を高めれば高めるほど、一定レベル以上の所得層の反発を受けることは明らかです。
 竹中暴論に徒に危機感を持たざるを得ない理由がそこにあるのですが、もうそろそろその限界を自覚し、別の方法論に転じて事態を打開すべきなのですが。
言わんとしていることを理解頂けるでしょうか。

環境問題対策としての環境税(炭素税)とベーシックインカム

 新型コロナなど未知のウイルスが流行しやすくなった一因として、環境破壊や地球温暖化が挙げられるとし、先日菅内閣が決定した温暖化ガスゼロ化等環境問題対策として、炭素税強化の必要性を掲げています。
 ただここでは、炭素税を、再生可能エネルギーへの補助金や温暖化対策としてのグリーン公共投資、さらには家計に直接税収を還元する措置の導入など政策ミックスとして活用することを提案しています。
 実は、やはりBI論の一部において、その財源の一部を環境税・炭素税に求める提案もあったので、ここで紹介したわけです。
 当項目については、ここまででとどめておくことにします。

巨大デジタル多国籍企業及び無形資産からの超過利益への課税とベーシックインカム

 もう一つ、コロナ禍の下でGAFAなど巨大デジタル多国籍企業が大幅に売り上げ・利益を伸ばしていることは、既に大きく取り上げられ、知るところです。
 この企業に対する課税問題は、コロナ以前から、ここ数年世界各国、特にEUで取り上げられており、コロナが、その議論と具体的なルールの早期の決定の必要性を促すことになっているわけです。
 その問題や、対策については、直接的な話はこの場には必要ないと思いますので省きます。
 しかし、先の環境税・炭素税と同様に、その課税・税収をベーシックインカムの財源の一部に充てる、という案も一部の論者にいることを添えておきたいと思います。

 実は、これとはまったく別の問題として、この多国籍デジタル企業のビジネスと、私が提案しているJBI日本型ベーシックインカム生活基礎年金制との関係で、悩んでいることがあります。
 JBIは専用デジタル通貨で支給され、生活基礎年金という性質から、その利用は目的にかなう承認を得た事業所でのみ、ネット決済で利用できるとしています。
 すなわち、国内経済において基礎的消費に利用することを前提としており、外国資本企業で利用できることとすると、その目的から外れることになるからです。
 例えば、Amazonで、利用可能とするかどうか、Amazonを利用可能事業所として認めるか否かの問題があります。
 考え方では、物流を初め、Amazonで働く日本人の賃金に、その収益の一部が充当されますから、利用可能とすべきとなります。
 しかし、最終的な利潤が膨大ゆえに、投下された資本の回収としての利潤や配当等が本国に移転し、日本で課税されない場合には、やはり考えざるを得ません。
 今このことについて即結論を出す必要はありませんが、心のなかで、どうすべきか、以前から考えるべき課題としていることだけ、書き添えておきたいと思います。

資産課税の累進性を高めBI財源へ

 税制に垂直的公平性に基づく再分配を要請するのならば、所得のみならず消費や資産への課税で再分配することも検討されるべきだ。

 こういう論述です。
 この中の「消費」への課税は、消費税であることは明らかで、ベーシックサービス論者は、その財源を、消費増税で充当するとしています。

 単純化すれば所得は消費と貯蓄(資産)に分解できる。
 実態として所得格差の累積が資産格差にも影響を与えている。
 仮に所得税で累進性を確保せず、消費税を基軸に据えて税制の累進性を確保するのなら、資産課税の累進性の議論は見逃せない。

 BI論者の一部は、この資産課税による税収を財源化すべきとしています。
 元々の考え方は、保有する資産は、被雇用者の賃金に加えるか、次の所得・利潤獲得のために投資するなど有効に使うべきであり、そうしないならば課税する、という発想が出発点です。
 現状長引く低成長は、企業が事業利益を得ているにもかかわらず被雇用者に賃金として還元することなく内部留保を蓄積している結果であるとされてます。
 それも一理あるとは思いますが、それが可能なのも、ごく一部の企業でしょう。
 コロナ禍は、こうしたいかんともし難い状況に耐えるために内部留保が必要、という考え方もあるわけで、一律に考えることには、賛成しかねるのですが。
 税金を払うくらいならと、経営者が自分の懐に入れてしまうこともありうるわけですから。(その場合、個人の所得税が増えますが、何かしら知恵を出すでしょう。)

歳出面での再分配論とベーシックインカム

 以上の4つの観点からのコロナ後の税制課題に加え、最後に、税制の累進性を高めずに再分配する方策についても展開されていました。
 実は、これこそがベーシックインカムの財源を巡る本質的・根源的な課題であり、方策と考えるべきものでした。
 全員に一律に給付(歳出)する再分配方式がベーシックインカムというわけです。
 累進性により課税=税収された原資をどのように配分するかが、再分配機能に当たります。
 すなわち、あまりに所得税の累進性が高い場合、納税者の不満が高まり、BIとして歳出される制度への不満も増幅します。
 すなわちBI導入反対論が大きくなります。
 高額納税者の意識の問題と言えばそうですが、全員が濡れ手で粟を得たわけではないですから、反対感情はある程度理解はできます。
 望ましい内容・レベルのBIをなんとか実現するには、所得税であっても消費税であっても、累進性操作で対応することは、極力少なくしたい。
 とすると、税財源に頼らない方式でのベーシックインカム制を考えることができないか。
 別の道として、MMT論や中央銀行によるBI向け通貨発行論が台頭し、合理性を獲得する可能性が見えてくることになります。
 私も、その可能性や合理性を最近では強く認識するようになっています。
 そのため、国家財政における歳入・歳出の在り方の再構築を、ポストコロナの社会改革、社会経済改革の課題の中に組み入れるべきではないか。
 保守自民にそうした発想は出るはずもないため、それはどうしても野党が提起し、方向性・方策を明示すべきなのですが、その方がより難しい。
 まあ、あまりコトを大きくせずに、まずはJBI日本型ベーシックインカム生活基礎年金制度の実現をめざすことに集中すべきなのでしょう。

 とりとめもない内容の列挙になってしまいました。
 コロナは、従来検討すべきであった諸課題を、根本から考え直す必要性があることを提起しているのですが、実際に、そこまで政治や行政において及ぶことがどれだけあることか。
 企業や事業は、厳しく淘汰されていくのですが、政治や行政は、どうやら、本質的にはコロナとは関係ないところで機能し、持続して行くような気がしてなりません。
 それは、税制・財政方針の根本的な見直し、システムの改革・再構築を求めるはずですが。

 最後に、今回利用した小論の最後の一文を引用して、結びとしたいと思います。
 これは、ベーシックインカムを巡る基本的な考えにも通じるものと考える故です。

 私たちが市場による分配を不公正と感じ、財政による再分配を求める場合、税制にどの程度の累進性を求めるのかは、ニーズが歳出の配分にどの程度反映されるかにかかっているのだ。
 市場による調整が機能しにくいのなら、別の形でシグナルを組み込んでおく発想だ。
 租税は社会の連帯を示すとともに、社会の意志を示すシグナルでもある。
 これらの租税は現世代の反省と意志を、将来世代に伝えるシグナルにもなる。


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本稿は、WEBサイト https://2050society.com 2020年11月19日投稿記事 2050society.com/?p=4567 を転載したものです。
当ベーシックインカム、ベーシック・ペンション専用サイト http://basicpension.jp は2021年1月1日に開設しました。
しかし、2020年から上記WEBサイトで、ベーシックインカムに関する考察と記事投稿を行っていました。
そこで、同年中のベーシックインカム及び同年12月から用い始めたベーシック・ペンションに関するすべての記事を、当サイトに、実際の投稿日扱いで、2023年3月から転載作業を開始。
数日間かけて、不要部分の削除を含め一部修正を加えて、転載と公開を行うこととしました。
なお、現記事中には相当数の画像を挿入していますが、当転載記事では、必要な資料画像のみそのまま活用し、他は削除しています。
原記事は、上記リンクから確認頂けます。

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