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2020年関連図書考察

白崎朝子氏「あとがき」から考える『ベーシックインカムとジェンダー』論(2020/11/28)

 正直なところ、なかなか真正面から論じることができない感じがした著『ベーシックインカムとジェンダー』です。
 しかし、前回の
「日本型ベーシックインカム生活基礎年金」提案のここまでのプロセス(2020/11/27)
の最後で述べたように、ここまでのベーシックインカム考察段階から新たな段階に進むにあたって、「ベーシックインカム」と「ジェンダー」とを結びつけて考え、それをまとめておくことは、ベーシックサービスの是非を考えるよりも重要かつ不可欠なことと考えます。
 3回シリーズを予定しており、今回はその初回。
 その初めに当たって、「あとがき」の紹介から入るのは、なんとも不謹慎というか、摩訶不思議というか。
 それでも、やはり、それがベストと感じたインスピレーションは大事にしたく、白崎朝子さんによる編集後記のピックアップから始めます。

編著者・白崎朝子さんの思いを<あとがき>から知る

 「ここにいるホームレスの女性たちは、ベーシックインカムでは幸せになれないと思う。」
 ホームレスの女性たちと共に生きている友人の言葉に、返す言葉がなかった。
 彼女の言葉と、ずっと対峙してきた。

 ベーシックインカムが導入されても、他者とつながり、支援を活用できるようになることが一番大切なのではないか。
 それを私は ”つながりをつくる力” と呼びたい。
 つながりとは、社会保障や民間の支援とのつながりも含む。
 ”つながりをつくる力” を獲得した人々がBIを有効に使うことができれば、当事者運動ができる。
 また福祉や労働現場から失われた尊厳の回復のために運動することも可能になる。
 不当な社会状況に抵抗し、尊厳ある生を獲得するためにこそBIが機能して欲しい。


 率直に申し上げると、BIで当事者運動を可能にすることが目的ではないと考えます。
 BI導入とそれに伴う社会保障改革、社会改革により、そうしたこれまでの当事者活動・社会活動・労働運動などが不要になる社会を創造する。
 BIはその契機となり、起点となるものです。
 従い、そういう意味では、BI実現に、多くの人々が当事者として必要な活動に参加することが課題になります。
 具体的には、BIが導入されるよう政治の舞台にBI法案を上げること、そのために活動する国会議員を選挙で選出することが目標となります。

 また、”つながりをつくる力”こそが家庭内における虐待や暴力からの解放に必要だと思っている。
 つながりの中でエンパワーされ、被害者が暴力によって喪失した自己尊重の意識を取り戻すことができなければ、BIは虐待やDV被害からの解放を可能にはしない。
 ”つながりをつくる力” とは “家族という呪縛” からの解放でもある。
 それは、家父長制批判にリンクする。
 とはいえ ”つながりをつくる力” は容易に獲得できるものではない

 つながりをつくることが女性の特性。
 よくそう言われます。
 但し、ここで白崎さんが仰るのは、そのレベルのことではなく、社会問題解決に直結した「つながり」を意味することでしょう。
 そのつながりの共通認識や共感の幅を、より多くの女性の日常生活レベルに、あたり前のこととして広げていくことを考えるべき、と私は思っています。

『ベーシックインカムとジェンダー』編集方針と構成

 もう少し、白崎さんのあとがきから転載します。

 BIについて思考をめぐらせてきた堅田香緒里さんを含む幾人かの方から、ぜひBIに関する本を書いてほしいとお願いされた。
 その瞬間思い浮かんだのがウーマンリブの活動家の野村史子さん、女性労働運動家の屋嘉比ふみ子さんだった。
 BIへのスタンスがそれぞれ違う編著者4人で構成を議論し、5人の執筆者に各論原稿をお願いした。  
 さらにⅢ部の座談会には、障害者とジェンダーの研究をしている瀬山紀子さんに各論の原稿をお読みいただき、参加いただいた。
 総勢10人の力を合わせたのが本書である。
 執筆者の依頼に当たっては、ジェンダーの視点をもった当事者であること。
 研究活動をしている方にも当事者であるスタンスから語っていただくよう要請した。
 なお編著者と執筆者たちは、BIの全面的な推進者ばかりではないのでていねいな議論を積み重ねたことを記しておく。


これによる本書の構成は、以下のとおりです。

『ベーシックインカムとジェンダー - 生きづらさからの解放に向けて -』構成

はじめに                     白崎朝子
第1部 ベーシックインカムとジェンダー      編者一同
 - 現代社会における女の位置付けとベーシックインカム -
 はじめに
 1 現代社会における女の位置付け
 2 女にとってのベーシックインカム
 3 ベーシックインカムは、女にとっての「解放料」か「口止め料」か?
第2部 様々な「おんな」の立場から-ベーシックインカムを語る 
 1 女性労働問題の課題と展望        屋嘉比ふみ子
 2 社会活動と「食っていくこと」のはざまで   野村史子
 3 自由と自律 ~ベーシックインカムをめぐって 白崎朝子氏
  - シングルマザー、サバイバーの立場から
 4 暮らし方・生き方モデルを示す制度にNo!   桐田史恵
  -私が私の暮らしを生きる権利を阻害させないための
   ベーシックインカム
 5 女/学生/ベーシックインカム       堅田香緒里
  - 女/学生に賃金を!
 6 うっとりする時を取り戻すために      佐々木 彩
 7 ケアワーカーと貧困、低学歴問題としての
   不登校・引きこもり
            吉岡多佳子
 8 私とベーシックインカム           楽 ゆう
 9 セクシュアル・マイノリティの立場から
    ベーシックインカムを考える         ミナ汰
  - ジェンダー公正を踏まえた社会保障の
      ユニバーサルデザインに向けて
第Ⅲ部 座談会 ベーシックインカムは家父長制を打ち破れるか
 桐田史恵・瀬山紀子・野村史子・屋嘉比ふみ子氏 司会白石朝子氏
あとがき                     白崎朝子氏 


白崎氏は、あとがきをこう結んでいます。

 現段階でのベーシックインカムの大方の議論はジェンダー視点も欠如し成熟にはほど遠く、暗闇の海を照らす微かな光のようなものだ。
 それでも、すべての社会システムは最初から成熟したものではない。
 ジェンダー視点による本書の問題提起が微かな光から、希望の光に変容し、3.11以後の嵐のような世界を少しでも変革する契機となることを願い、私の拙い筆を擱きたい。

 
 そうです。
 本書が発刊されたのが、2011年11月15日。
 東日本大震災発生の年でした。
 あれから来年で10年。
 この震災(もちろん福島第一原発事故も含み)で起きたさまざまな社会問題をも加えて、以後、この社会は進むべき道を自ら放棄してきたかのような政治・行政社会情勢を継続させています。
 そして、コロナです。
 白崎氏が例えた「成熟した社会システム」など、過去も現在も一度たりとも存在したことはありません。
 未熟な民主主義は、劣悪化するどころか、消滅させようかという輩が、国の内外で蠢き、増殖する危険性さえ感じさせる状況です。

女性間でのベーシックインカム実現の位置付け・目的の共通認識化を

 もう一つ、気になっていることがあります。
 今月、ベーシックサービス論者の執筆に拠る『ベーシックインカムを問いなおす 』への対論シリーズを投稿しました。
 その中の一つが
竹信三恵子氏「ベーシックインカムはジェンダー平等の切り札か」への対論(2020/11/7)
です。


 竹信氏の小論がきっかけで、本誌『ベーシックインカムとジェンダー』を知ったので良かったのですが、同氏の視点そのものが、女性間のBI認識の共通性・統一感の未成熟さを示していると思うのです。
 そもそも、BIはジェンダー平等を実現するための切り札としてみている人が多くはないことが、本書で分かります。
 本書執筆陣も考え方に違いがあることを前提とし、かつその認識を共有していることは白崎氏もおっしゃっていますので。
 それ故に、そろそろ、活動のあり方を変えるべきではないでしょうか。
 「ジェンダー」をキーワードにした活動そのものをです。
 なぜか、ジェンダーを掲げれば掲げるほど、同性の女性との距離が広がってしまう可能性さえ感じるのですが。
 決してそれは、一糸乱れぬ同一性・統一感を必要とするのではなく、どれか一本の糸だけは、しっかり繋がっている。
 そのレベルで良いと思います。
 それが、ジェンダーではないほうが望ましい。
 そう思います。

 本論に入らないままで、申しわけありませんが、今回は、ここまでとします。
 次回、目次にある記事から、1~2抽出し、気になった記述を参考にして、ジェンダーとBIとの関係に踏み込んでみます。
 その後、先述した活動方法や視点の転換について、思うところを述べることにします。

(参考)「『リベラルの敵はリベラルにあり』から考える」シリーズ:2020/10/18~11/25

『リベラルの敵はリベラルにあり』から考える、個人の生き方と社会の在り方-1(2020/10/18)
政治的なるものと日常生活における個人と社会:『リベ敵』から考える-2(2020/10/21)
生身の弱い個人とそのアイデンティティを救えないリベラルの弱み:『リベ敵』から考える-3(2020/10/22)
包摂すべきリベラル、が陥る排除の論理:『リベ敵』から考える-4(2020/11/14)
「リベラルの敵がリベラル」の根拠と対策:『リベ敵』から考える-5(2020/11/20)
リベラル・女性主体会派・ベーシックインカム、社会問題解決のための三段論法:『リベ敵』から考える-6(2020/11/25)
分断を生むネット空間で女性層や無党派層をグループ化できるか:『リベ敵』から考える-7(2020/11/25)

(参考)「政治改革実現、唯一の方法」シリーズ:2020/11/21~11/25

コロナ下、閉塞感・独裁化が募る日本を変えるために不可欠な政治改革実現、唯一の方法-1(2020/11/21)
「平和と社会保障と民主主義を守る女性の会」創設を:政治改革実現、唯一の方法-2(2020/11/22)
「平和と社会保障と民主主義を守る女性市民の会」綱領・政策試案:政治改革実現、唯一の方法-3(2020/11/23)
リベラル・女性主体会派・ベーシックインカム、社会問題解決のための三段論法:政治改革実現、唯一の方法-4(2020/11/24)
分断を生むネット空間で女性層や無党派層をグループ化できるか:政治改革実現、唯一の方法-5(2020/11/25)

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本稿は、WEBサイト https://2050society.com 2020年11月28日投稿記事 2050society.com/?p=5508 を転載したものです。
当ベーシックインカム、ベーシック・ペンション専用サイト http://basicpension.jp は2021年1月1日に開設しました。
しかし、2020年から上記WEBサイトで、ベーシックインカムに関する考察と記事投稿を行っていました。
そこで、同年中のベーシックインカム及び同年12月から用い始めたベーシック・ペンションに関するすべての記事を、当サイトに、実際の投稿日扱いで、2023年3月から転載作業を開始。
数日間かけて、不要部分の削除を含め一部修正を加えて、転載と公開を行うこととしました。
なお、現記事中には相当数の画像を挿入していますが、当転載記事では、必要な資料画像のみそのまま活用し、他は削除しています。
原記事は、上記リンクから確認頂けます。

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