ベーシックインカム導入で行なうべき雇用保険改革:BI導入シアン-20(2020/8/19)
自分なりのベーシック・インカム制の一定レベル以上の提案のまとめ作業に入る前段階として、種々思いつき、思い浮かぶ事項をメモ書きし、整理していくための<BI導入シアン>シリーズ。
今回で20回を重ねることに。
コロナ禍で重要性・必要性が再認識された雇用保険制度
長引くコロナ禍において、休業や廃業等を余儀なくされた多くの事業所がある。
当然、そのために失業したり、就労不能により収入が著しく減る就労者が多数出ている。
そこで、雇用保険における失業給付である<求職者給付>を受け取ったり、企業が、労働者に賃金の6割以上の休業手当を支払えば、雇用保険から事後的に<雇用調整助成金>を受け取ることができる。
長引くコロナとコロナ禍という特殊性から、どちらも、受給期間が特別に延長される措置がとられてもいる。
こうした時に、雇用保険がもつ価値・重要性が認識され、生活の不安の除去や安心の提供に役立つことを確認できる。
では、ベーシックインカムが、緊急時の所得補償の意味合いも持つ時、失業という緊急事態における所得喪失機会発生時には、どのようにその役割を果たし、どのように必要な補完を行なうべきだろうか。
今回は、雇用保険とベーシックインカム制との関係とそのあり方について、ごくごく狭い範囲、一部の限定的範囲となるが考えてみたい。
雇用保険の目的
雇用保険法では、同法の目的を以下のように規定している。
雇用保険は、
労働者が失業した場合及び労働者について雇用の継続が困難になる事由が生じた場合に必要な給付を行う他ほか、
労働者が自ら職業に関する教育訓練を受けた場合に必要な給付を行うことにより、
労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに、
求職者の活動を用意にする等その就職を促進し、あわせて、
労働者の職業の安定に資するため、
失業の予防、雇用状態の是正、及び雇用機会の増大、労働者の能力の開発及び向上その他
労働者の福祉の増進を図ることを目的とする。
現状の雇用保険の事業内容
また、雇用保険において行っている事業は、以下の2種類の分野である。
1.失業等給付
・求職者給付(失業時)
・就職促進給付(失業時)
・教育訓練給付(教育訓練を受けた場合)
・雇用継続給付(雇用の継続が困難となる事由が生じた場合)
2.雇用保険二事業(付帯事業)
・雇用安定事業(失業の予防、雇用状態の是正、雇用機会の増大等)
・能力開発事業(労働者の能力開発・向上等)
一般的な求職者給付(失業手当)の基準
雇用保険に加入する被保険者には、働き方と年齢要素で、次の4種類がある。
<被保険者の区分>
・一般被保険者
・高年齢被保険者
・短期雇用特例被保険者
・日雇労働被保険者
この区分ごとに、運用管理方法の規定がある、非常に複雑な雇用保険制度だが、ここでは、一般被保険者の求職者給付(失業手当)に絞って考えることにしたい。
それを基準として、他の被保険者区分も、ほぼ同様の考え方を適用するイメージでよいと思う。
次に、失業手当を受ける上での基本的なルールを抽出した。
<基本手当支給上の特徴>
・7日間の待機期間があり、この期間支給は受けられない。
・就職すれば支給を打ち切られる。
・支給日数(所定給付日数)に制限がある。
一般受給資格者:保険加入期間により、90日、120日、150日
就職困難者・特定受給資格者・特定理由離職者:年齢及び保険加入期間により、最短90日、最長360日
・受給期間に制限がある:原則、離職日から起算して1年以内
<基本手当の額>
賃金日額(離職前6ヶ月間の賃金の平均日額)の50%~80%
この額に、支給日数を掛けた額が、受け取ることができる失業手当の額となる。
雇用保険料と国庫負担
雇用保険料は、、3区分の業種毎に異なる保険料率で被保険者と事業主が同率(1000分の3、1000分の4)で負担している。
また、国庫から、失業等給付等のうち<求職者給付>に必要な費用の4分の1を負担している。
この両方の負担方法と内容を、ベーシックインカム導入に伴ってどのように改定するか。
これも課題の一つとなる。
失業給付カバー機能を持つベーシックインカム、生活基礎年金
上に見たように、基本手当(失業手当)の給付自体、金額と期間に限度がある。
ベーシックインカムは、期限なしで定額が支給される。
ベーシックインカム自体、基礎的な生活を送るための所得給付の意味を持つので、そこで、既に失業手当の一部または全部を支給しているとみなすこともできるわけだ。
それに加え、雇用保険の失業手当を支給する場合、その限度支給期間内における支給額をどのようにするか検討を要する。
なお、現雇用保険では、失業手当申請時から、7日間の待機期間を必要としているが、ベーシックインカム導入時には、この規定は不要としてよいだろう。
改定する新制度は、極力シンプルを目指したい。
生活基礎年金でカバーできない失業給付に必要な調整
雇用保険適用時に支給を受ける基本手当金額が、ベーシックインカムの月額よりも多い場合に限り、その差額を雇用保険から支給する必要が生じる。
現行の失業給付は、低賃金労働者を除けば、ほぼ賃金の5割で日額8330円(月額18万円)が上限とされている。
仮に、ベーシックインカムが月額12万円とすると、6万円不足し、その額を新しい雇用保険でカバーすれば、一応、現状制度でのレベルを維持できる。
しかし、それで十分とは言えず、新・雇用保険の課題としなければならない。
各種教育訓練・能力開発事業とべーシックインカムにおける対応
現行雇用保険制度では、教育訓練給付や二事業の能力開発事業が、どの程度成果・効果を上げているのか、分かりにくい。
前者は、雇用保険保険料でそのコストを賄っているが、後者は国が負担している。
実は、ベーシックインカム(生活基礎年金)には、自身の就労・就職・職業上の技術や能力を修得・向上させるための訓練や研修を受けるために使用することも想定している。
必須ではないが、状況により、そこから費用を充当できるわけだ。
そのため、新・雇用保険制度では、この教育訓練給付は除外することも選択肢として良いと考えている。
もしくは、新・雇用保険制度全体の目的・機能の再構築における課題としてもよいだろう。
やむを得ない離職・退職時に助かるベーシックインカムと雇用保険
ごくごく狭い視野・範囲でしか雇用保険の支給事由となる解雇や失業による失業手当の受給などについてしか触れてこなかった。
しかし、現実には、自己都合退職や時間外手当や賃金の不払い、労働基準法違反による不当な就労などブラック企業からの離職・退職など、さまざまな理由・事情で雇用保険と向き合うケースがある。
コロナによる影響も、こうした中に入るだろう。
そうしたケースにおいて、まずベーシックインカムは、非常に頼りになる。
独立を目指して準備のために退職する場合。
資格取得や専門技能・知識などの習得のために離職する。
不当な労働条件・労働環境での就労を強いられ、心身ともに耐えられなくなったための離職。
ベーシックインカムはその支えになり、それに失業手当が加算されれば、しばらくの間の生活にめどがつく。
そして自分の納得できる就職活動や、必要な休息や勉強などが可能になるわけだ。
すべての働く人のための就労保険へ転換
現状の雇用保険制度では、働いて賃金・給与を得ていても保険に加入する必要がない人、加入できない人がいる。
個人事業主や農林業・畜産業・水産業など一部の業種に従事する人や、事業規模が小さく常時雇用する労働者が5人未満の事業の従業員などだ。
しかし、それらの人すべてが、失業や事業をやめるリスクがあり、賃金・給与を得る機会を失う機会がありうる。
従い、その時には、それまでの収入に応じて、ベーシックインカムによる生活基礎年金に失業手当が加算されるのが望ましい。
これは、厚生年金保険でも同様である。
すなわち、すべての賃金・給与所得者が、新たな雇用保険や新たな厚生年金保険制度に加入し、それぞれの保険料を負担・納付すべきだ。
この新たな雇用保険を、仮に<就労保険>としておく。
今回ベーシックインカムと関連付けた雇用保険制度は、ほんの一部分である。
本来、ベーシックインカム制の導入時に、雇用保険制度をどのように改革するか、非常に多岐にわたった検討・議論が必要である。
その詳細についてここで取り上げる必要はまだないと考えるとともに、今の自分では、非常に難しい課題であることも申し上げておきたい。
継続して研究・検討を続けていきたいと思っている。
なお、当分野について、お詳しい方やご専門の方がいらっしゃれば、是非ご助言を頂きたく、お願いしたいと思います。
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本稿は、WEBサイト https://2050society.com 2020年8月19日投稿記事 2050society.com/?p=3735 を転載したものです。
当ベーシックインカム、ベーシック・ペンション専用サイト http://basicpension.jp は2021年1月1日に開設しました。
しかし、2020年から上記WEBサイトで、ベーシックインカムに関する考察と記事投稿を行っていました。
そこで、同年中のベーシックインカム及び同年12月から用い始めたベーシック・ペンションに関するすべての記事を、当サイトに、実際の投稿日扱いで、2023年3月から転載作業を開始。
数日間かけて、不要部分の削除を含め一部修正を加えて、転載と公開を行うこととしました。
なお、現記事中には相当数の画像を挿入していますが、当転載記事では、必要な資料画像のみそのまま活用し、他は削除しています。
原記事は、上記リンクから確認頂けます。
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