1. HOME
  2. 2020・21年考察
  3. 「消費格差」の本質は所得格差。ベーシック・ペンションが必然の対策:『新型格差社会』から考える分断・格差抑止のBI論-5
2020・21年考察

「消費格差」の本質は所得格差。ベーシック・ペンションが必然の対策:『新型格差社会』から考える分断・格差抑止のBI論-5

家族問題を軸にした社会問題をこれまで取り上げ、パラサイト・シングルや婚活などの用語を用いて問題提起してきている山田昌弘氏が、コロナ禍で加速する格差を、新しい型とした新著『新型格差社会』(2021/4/30刊)。

以下の5つの種類に区分しての格差論を対象として、ベーシックインカム、ベーシック・ペンションと結び付けて考えるシリーズを進めてきました。

1.家族格差 ~ 戦後型家族の限界
2.教育格差 ~ 親の格差の再生産
3.仕事格差 ~ 中流転落の加速
4.地域格差 ~ 地域再生の生命線
5.消費格差 ~ 時代を反映する鏡

ここまで、
「家族格差」拡大・加速化対策としてのベーシック・ペンション:『新型格差社会』から考える格差・階層社会化抑止のBI論-1(2021/5/8)
「教育格差」対策としてのベーシック・ペンション:『新型格差社会』から考える格差・階層社会化抑止のBI論-2(2021/5/10)
「仕事格差」対策としてのベーシック・ペンション:『新型格差社会』から考える分断・格差抑止のBI論-3 (2021/5/12)
「地域格差」対策にも有効なベーシック・ペンション:『新型格差社会』から考える分断・格差抑止のBI論-4(2021/5/14)
と進み、今回第5回目が最終回で、<消費格差>をテーマとし、合わせて総括も行います。

<第5章 消費格差~ 時代を反映する鏡>から

この章は、以下で構成されています。

1)消費形成における豊かさの変化
2)積極的幸福と消極的幸福
3)承認のための消費物語
4)家族消費のシステム
5)個人消費の台頭
6)家族と個人の限界の先に
7)アイデンティティ消費のさらなる期待

「消費格差」論よりも「消費性向」論というべき

上記構成とその表現を見ると、格差を論じるという雰囲気は感じられません。

この章の書き出しは以下のようになっています・

コロナ禍以前より生じていた格差に、「消費格差」があります。
一言でいえば、これは「消費の質の変化」です。
本章では、コロナ禍でさらに顕在化した5つ目の格差として、消費の移り変わりに当ててみたいと思います。

すなわち、所得・経済的格差がもたらす消費の量的な格差を取り上げるのではなく、感じ方や基準を示しにくい、ある意味情緒的な視点、あるいはマーケティング視点に基づく格差論。
それは、格差と呼ぶよりも、「消費性向」と呼ぶ方が適切な領域の話ではないかと思います。

すなわち、当サイトが提案する生活基礎年金ベーシック・ペンションの支給とその目的とはズレが生じるであろうと思われるのです。

では、上記の数字を付した「項」順に従って、本文中にある表現の一部を抽出することにします。

1)目標を達成して豊かな生活が可能になればなるほど、物質的な豊かさへの懐疑の念が繰り返し問われてきたという事実(がある)
2)積極的な幸福感が、人間の幸福感には必要
3)私たちは人生において、「これを買うと幸福になれる」という消費の物語を求めているともいえる
4)このような幸福システムが社会的に稼働していたのは、ほとんどの男女が結婚し、離婚が少なかったから
5)家族が「家族のために」物を買うのではなく、個人が、「個人のために」物を買うという時代の始まり
6)家族消費が減る一方で、ブランド消費を代表とする個人消費が限界に。ここに「アイデンティティ(個性)消費」という新しい消費の概念が登場。家族とかブランドとか、まどろっこしい回路を通さず、に直接「承認や評価を得よう」という新しい幸福への試みが始まった。

いかがでしょうか。
冒頭「消費の質」が課題とされていた通り、格差というよりも価値観や志向・成功の違いをテーマとしていると見て取れます。

本章、そして本書のまとめに当たるといえる最後の第7項の<アイデンティティ消費のさらなる期待>内の一文を、紹介しましょう。

このアイデンティティ消費を急襲したのが、コロナ・パンデミックです。
消費格差におけるコロナ禍の影響は、世代、性別、家族形態によっても異なります。
ここに格差が一気に生じてきます。

これに続いてようやく、高齢者間の所得の違いや、非正規雇用の多数を占める女性、キャバクラなどで働く女性が消費と結びつけて取り上げられます。
しかしそれもつかの間、すぐに消費の質に戻り、ソーシャルメディアを使いこなして承認欲求を満たせる人と、苦手で満たせない人の格差について述べます。

そして最後は、こうです。

そこに必要なのは、「物欲か、精神か」「家族か、個人か」といった二項対立的な考え方ではなく、「要るものは何か」といった自分の個性に基づく「アイデンティティ消費」ではないでしょうか。
個性を軸にして考えれば、家族の個性もあれば、個人の個性もありますから、消費の多様化を積極的に捉えることが可能になります。
そして、ソーシャルメディアを適切に使える環境を、多くの人に保証していく必要があります。
こうして豊かさの志向をプラスに転じていくことが、コロナ禍後の社会には求められていくでしょう。


結局、固定化、階層社会化を危ぶんだ「新型格差社会」とは、一体何をさしていたのでしょうか。
家族、教育、仕事、地域という視点から論じてきた格差社会の根源的・根幹的要因とその克服策は、何だったのか。
消費の質を最後の課題にしたことで、消失・消滅してしまった感があります。
雇用と所得の喪失は、消費の質以前に、生きるため、生活するための基礎的な消費さえもままならぬ困窮、すなわち格差を拡大・拡散・加速化しています。
そうした本来社会学が焦点を当てるべき社会問題を、マーケティング視点に置き換えて、豊かさの志向を目指すべきとするのは、どういう神経からでしょうか。

消費格差は、所得格差と一体のもの


コロナがもたらした、非正規雇用者やエッセンシャルワークに携わる人々、零細自営業の人々の生活への影響は、甚大です。
すなわち、コロナ禍がもたらした最大の問題点は、家族・教育・仕事・地域格差の根幹である所得格差の拡大・加速化と、それがもたらす階層・階級社会化のリスクです。
そして消費格差は、まさにその所得格差により、質量ともに示される必然の結果です。
経済格差という表現は、文中所々で用いているようですが、「所得格差」という表現を見ることはほとんどなかったかと記憶しています。
本来、消費格差は、所得格差によってもたらされるものです。
イコールの関係ではありませんが。

社会問題として取り上げてきた、4つの格差が、社会問題とは異質な消費格差とまじわることは、こじつけでない限りありえません。
実際に、この消費格差の何がいけないのか、いけないものをどうすれば良くなるのか。
答えにくい、答えられないことを暗に示しただけで終わってしまったと思っています。

っっl

分断抑止、格差間の緩衝、格差自体の抑制機能として有効なベーシック・ペンション

さて、これまでの4つの格差の抑止・抑制対策として、唯一、確かに貢献できる方策が、「ベーシック・ペンション」の発行給付と考えています。
詳しくは、各記事での展開をお読み頂ければと思います。

しかし、格差をなくすことまでは、ベーシック・ペンションに要求も期待もできません。
格差は残りますし、拡大する可能性も高いと認識しています。

では、どんな効果があるのか。
実は、富裕層と貧困層という二極化、二分化の間に、中流・中間階層、階級的な層を創出する可能性を、ベーシック・ペンションは持っているのです。
成人はひとり1ヶ月、毎月15万円の生活基礎年金を専用デジタル通貨で受け取ります。
学齢15歳以下の子どもは、毎月8万円の児童基礎年金。
学齢18歳以下の学生などには、毎月10万円の学生等基礎年金。
満80歳以上は、毎月12万円の高齢者基礎年金。

これらのデジタル通貨は、通貨利用の認可を受けた事業所で、衣食住生活費、学資・教育費、医療健康・介護保険給付サービス費用の自己負担分など、ベーシックな生活費用として用いられます。

中流・中間階層の誕生と分断緩衝社会化期待


従い、他の就労所得や副次的な所得は、自由に使うことができ、貯蓄に回すこともできます。
すなわち、貧困層から脱し、資産形成も可能な中間所得層が誕生する可能性が高まります。

そして、それは、格差の行き着く先としての社会の分断を抑止し、富裕層と貧困層の間において、分断を緩衝する役割を果たす可能性にも繋がると想像・想定できます。
一部の新しく誕生した中間層からは、貧困や弱者の支援のためのボランティア活動や寄付活動にも貢献する人が出てくることも期待できます。

そうした活動の社会化・拡散・持続化が、富裕層の同様な活動・貢献姿勢の喚起につながれば、より望ましいでしょう。
そうしたある種のゆとりを創出できる可能性をもつのが「ベーシック・ペンション」です。
格差の最も根源となるものは、まさに経済的な要素・要因である貨幣・お金です。

一定の規律をもたせた、すべての国民一人ひとりに平等に支給されるべーシック・ペンション、生活基礎年金。
基本的人権として、社会保障の基軸としてのベーシック・ペンション。
これ以外にも、格差社会の抑止・抑制に有効な政策があるかもしれませんが、それらも含めて、種々著書をものにしている学者研究者、ジャーナリストは、ぜひご自身が展開する批判論に加えて、政策ベースの提案も合わせて提示してくださることをお願いしたいと思います。

ベーシック・ペンション(生活基礎年金)とは

このシリーズで毎回提示してきていますが、今回も以下転載しました。

1.すべての日本国民に、個人ごとに支給される。
2.生まれた日から亡くなった日まで、年齢に応じて、無条件に、毎月定期的に生活基礎年金(総称)として支給される。
3.基礎的な生活に必要な物品やサービスを購入・利用することを目的
支給される。
4.個人が、自分の名義で、日本銀行に、個人番号を口座番号として開設した専用口座宛に支給される。
5.現金ではなく、デジタル通貨(JBPC、Japanese Basic PensionCurrency)が支給される。

6.このデジタル通貨は、国の負担で、日本銀行が発行し、日本銀行から支給される。

このベーシック・ペンションは、以下のように年齢・年代別に毎月定額がデジタル通貨で支給されます。

1.0歳以上学齢15歳まで     児童基礎年金  毎月8万円
2.学齢16歳以上学齢18歳まで  学生等基礎年金 毎月10万円
3.学齢19歳以上満80歳未満まで  生活基礎年金  毎月15万円
4.満80歳以上          高齢者基礎年金  毎月12万円

その年金は、以下の使途に利用できます。

(生活基礎年金の限定利用)
第11条 生活基礎年金は、日本国内に限って利用できる。
2.また、第3条の目的に沿い、主に以下の生活諸費用に限定して利用できる。
  1)食費・住居費(水道光熱費含む)・衣類日用品費等生活基礎費用
  2)交通費・国内旅行費、一部の娯楽費 
  3)入学金・授業料・受験料、教育費・図書費
  4)健康関連費・市販医薬品
  5)医療保険・介護保険等社会保険等給付サービス利用時の本人負担費用
3.前項により、JBPC利用時は、マイナンバーカードまたは決済機能アプリケーション付き指定端末を用いて、支払い決済を行う。


(参考記事)
日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンションとは(2021/1/17)
諸説入り乱れるBI論の「財源の罠」から解き放つベーシック・ペンション:ベーシック・ペンション10のなぜ?-4、5(2021/1/23)
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案(2021/3/2)
ベーシック・ペンションの年間給付額203兆1200億円:インフレリスク対策検討へ(2021/4/11)

っっl

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: BP-equality.jpg

っっk

『新型格差社会』を総括する

マーケティング視点でのまやかしの格差社会論:山田氏の総括を読む

最後に、本書の総括を。
山田氏は、最後にこう書いています。

平成時代が、「格差は広がっていくのだけれども、それを認めることができなかった時代」とするならば、令和は、「格差の存在を認め、それを踏まえた上で新しい形の社会をみんなで作っていく時代」になればよい、いや、するべきだと思っています・
「みんなで」と強調したのは、これらの格差を埋める試みは、「自助努力」でができないからです。
平成の時代は、さまざまな格差が広がる中で、「自己責任」が強調され、格差が放置されるきらいがありました。
コロナ禍は、「自己責任論」の限界を明らかにしたのだと思います。


山田氏は、元号単位で社会を俯瞰、総括することが本当にお好きなようです。
社会学者はそうあるべき、というかのように。
元号が変わるということは新しい天皇が即位すること。
そのたびに社会学的に評価総括する。
あたかも退位した天皇の何かの力でそうなったかとでも・・・。
西暦年のみの国や社会においては不要・不毛のことです。

そして自助、自己責任論への形ばかりの反対表明。
形ばかりであることは、公助のあり方、国・行政が行うべき格差対策を提案・提言していないことで示されています。

(略)
そうすれば、令和は希望に満ちた時代になると思います。
いつの世も、時代は私たちの手で作られていく。
それは決して変わることはありません。

やめてください!
です。
「私たち」とはだれを指すのでしょう。
結局最後は「私たちの自助努力」にかかっている。
そこに戻ってしまう感覚です。
好意的に、善意で読んでも、「自助」が多数集まっての「共助」が社会を変える主体となるべき、ということでしょう。
これでは格差を生み出した要因も、結局「共助」がうまく働かなかったから、という評価になります。
では、一般的な意味での「公助」において、政治・行政は一体何をするのでしょうか。
ご自身が言っていることの意味をどこまで理解・認識しているのか。
政府が設置する種々の委員会や会議のメンバーである同氏。
「公」が行うべき格差社会対策については、具体的に、効果が期待・想像できるものは本書では示されませんでした。

4回目までの、家族・教育・仕事・地域各格差までは、所得格差が真因であることが明白でした。
しかし、最後の消費格差においては、繰り返しになりますが、単純に、マーケティング領域での感覚的情緒的論述。
一気に、本書の価値が消失・消滅してしまいました。

もし機会があれば、私が提案するベーシック・ペンションに関する記述をお読み頂き、こうした格差社会における機能についてどんな意見をお持ちになるか。
お聞きしたいものです。


以上で、『新型格差社会』対策としてベーシック・ペンションを推奨することを目的としたシリーズを終わります。
ただ格差問題は、https://2050society.com で取り上げるべきテーマであり、形を変えて、また利用することがあるかもしれません。

なお、本シリーズを進めている中、先日山田氏著の『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』(2020/5/19刊)を入手しました。
少子化問題も、https://2050society.com で多く取り上げてきている、関心が高いテーマです。
この書のタイトルからは、少子化対策として同氏の具体的な提案を見ることができるかもしれません。
一縷の期待をもって、今読み進めているところです。
同サイトで、近々取り上げる予定です。
ということで、https://2050society.com の方もどうぞ宜しくお願いします。

※<山田昌弘氏執筆関連書>
『希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く (ちくま文庫)』(2007/3/1刊)
『結婚不要社会 (朝日新書)』(2019/5/30刊)
『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?~結婚・出産が回避される本当の原因~ (光文社新書)』(2020/5/19刊)

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。