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2020・21年考察

「仕事格差」対策としてのベーシック・ペンション:『新型格差社会』から考える分断・格差抑止のBI論-3

家族問題を軸にした社会問題をこれまで取り上げ、パラサイト・シングルや婚活などの用語を用いて問題提起してきている山田昌弘氏が、コロナ禍で加速する格差を、新しい型とした新著『新型格差社会』(2021/4/30刊)。

以下の5つの種類に区分しての格差論を対象として、ベーシックインカム、ベーシック・ペンションと結び付けて考えるシリーズを進めています。

1.家族格差ー戦後型家族の限界
2.教育格差ー親の格差の再生産
3.仕事格差ー中流転落の加速
4.地域格差ー地域再生の生命線
5.消費格差ー時代を反映する鏡

ここまで
「家族格差」拡大・加速化対策としてのベーシック・ペンション:『新型格差社会』から考える格差・階層社会化抑止のBI論-1(2021/5/8)
「教育格差」対策としてのベーシック・ペンション:『新型格差社会』から考える格差・階層社会化抑止のBI論-2(2021/5/10)
と進み、今回第3回目は、<仕事格差>がテーマです。

<第3章 仕事格差~中流転落の加速>から

この章は、以下で構成されています。

1)3つの格差が浮き彫りに
2)エッセンシャルワーカーリモートワーカー
3)エッセンシャルワーカーの窮状
4)リモートワーカーの躍進
5)持つ者と持たざる者の分離
6)リモートワークのリアルな弊害
7)観光業と飲食業の勝ち負け状況

平成時代進行し、コロナで拡大・顕在化した3つの仕事・職業をめぐる格差

まず、この章の基本的な着眼点として、以下の仕事を巡る3種類の格差の存在が示されて、本論に入ります。

1)新しいデジタル経済で働く人 対 旧来のモノづくりや対人サービスで働く人
2)資産を持つ人 対 資産を持たない人
3)(観光業界・飲食業界等の)非正規雇用従事者 対 正規雇用

エッセンシャルワーカーの苦境とリモートワーカーが迎えた新時代


本書の表現を借りるなら、エッセンシャルワーカーとは、日常生活において「必要不可欠な仕事(エッセンシャルサービス)」に携わる職業・職種に就く人。
例えば、医療・介護福祉、スーパーや薬局など小売業、運輸業・公共交通機関、ごみ収集員・郵便配達員、役所職員など。
特定の時間に特定の場所で働くことを求められ、コロナ感染リスクと隣合わせの労働を余儀なくされる人々です。

一方、リモートワーカーは、出社しなくても自宅や自宅近くのサテライトスペースで、インターネット環境とパソコンなどの端末があれば、作業も会議なども可能な仕事・職業・職種に就く人々。
コロナで、一気に、このテレワーク化が進み、家庭環境などの問題もありましたが、通勤時間短縮、都心部のオフィススペースの縮小などの副次的効果も伴って、普通のことになりつつあります。

また前者の場合、非正規雇用従事者が多いこと、事業の性質で休業や時短、時に廃業等を強いられたことで、失業・雇い止め・出勤停止あるいは短縮などにより収入・所得の喪失、減少も拡大しました。

一方、リモートワークで対応できる業種・職種は、収入の減少はなく、場合によってはコロナの影響が事業的にプラスに働き、所得が増える例もあったとされます。

コロナ以前すでに拡大し、広がっていたこうした格差が、加速し、拡大し、筆者が言うところの階層社会化、その固定化が進む状況に至っていることは確かでしょう。

生産性を巡るエッセンシャルワークとリモートワークとの決定的違いとそれがもたらす格差


いうまでもなく、エッセンシャルワークは、自宅でじっとしていてできる仕事ではなく、対人サービスを主体とした仕事であり、効率を高めること、(労働)生産性を上げることは、いかに習熟しても限界があります。
一方、リモートワークの多くは、効率化可能であったり、その仕事の成果が、かかった時間で評価されるものではなく、その内容により大きな価値、付加価値を生む出すことが可能です。
その結果は、所得格差に結びつくことは容易に想像できます。

コロナがもたらした働き方変革と家庭生活・家族関係の変化

これらの事情・状況は、本書での指摘を待つまでもなく、自明のこととされています。
次第に、本書の内容を用いずに話しを進めて来ていますが、その主意から外れるものではないと思いますので、このまま進めます。
昨年夏、コロナの状況を考えつつ、当サイトの親サイトである https://2050socieety.com で投稿した関連記事を、いくつか、以下に参考までにピックアップしました。

<参考:コロナ禍・環境変動で考える働き方・生き方改革>シリーズ

◆ 第1回: 今から始める新・人生設計のポイント(2020/7/29)
◆ 第2回:働くことが困難になったコロナ禍とこれからの働き方(2020/7/30)
◆ 第3回:選択肢としての正規社員・非正規社員・自営業者・無業(2020/7/31)
◆ 第4回:自分の給料安いか、高いか(2020/8/12)
◆ 第5回: 働く場所どこでも。会社、家、リモート、バーチャル(2020/8/13)

中流転落リスクの最大要因である<仕事格差>抑止に必要なベーシック・ペンション

最後に、本稿の目的・主題部分に戻ります。
これまでの<家族格差>も<教育格差>も、そして今回の<仕事格差>も、本第3章のサブタイトルに<中流転落の加速化>とあるように、主に所得格差を真因としての、中流・中間層の減少、消失・消滅化として分析・把握され、社会問題化されるものです。

現状の加熱し、加速化する行き過ぎた資本主義を抑止・抑制することが、即時的には困難であることも認識されています。
しかし、なんとか分断と言われる状況に至らぬように、格差を抑制し、できれば中流・中間層を回復させる方向に戻すことができないか。

本書は、そこまでの提言・提案に踏み込むべきと考えるのです。
しかし、分析・評価でとどまるのです。

では、どうするか。
それが、このテーマを掲げた目的であり、その手段でもある、日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンションすなわち「生活基礎年金」の導入です。

それですべてが改善・解決するわけでは当然ありません。
しかし、コロナで一層加速する、拍車をかけるという格差社会問題の改善の起点には間違いなくなるものです。
前回同様、ベーシック・ペンションとは何かを、以下に挙げました。

ベーシック・ペンションとは

1.すべての日本国民に、個人ごとに支給される。
2.生まれた日から亡くなった日まで、年齢に応じて、無条件に、毎月定期的に生活基礎年金(総称)として支給される。
3.基礎的な生活に必要な物品やサービスを購入・利用することを目的
支給される。
4.個人が、自分の名義で、日本銀行に、個人番号を口座番号として開設した専用口座宛に支給される。
5.現金ではなく、デジタル通貨(JBPC、Japanese Basic PensionCurrency)が支給される。

6.このデジタル通貨は、国の負担で、日本銀行が発行し、日本銀行から支給される。

このベーシック・ペンション、生活基礎年金は、以下の金額を、毎月個人個人に、専用デジタル通貨で支給します。

1.0歳以上学齢15歳まで     児童基礎年金  毎月8万円
2.学齢16歳以上学齢18歳まで  学生等基礎年金 毎月10万円
3.学齢19歳以上満80歳未満まで  生活基礎年金  毎月15万円
4.満80歳以上          高齢者基礎年金  毎月12万円

その年金は、以下の必要費用として利用できます。

(生活基礎年金の限定利用)
第11条 生活基礎年金は、日本国内に限って利用できる。
2.また、第3条の目的に沿い、主に以下の生活諸費用に限定して利用できる。
  1)食費・住居費(水道光熱費含む)・衣類日用品費等生活基礎費用
  2)交通費・国内旅行費、一部の娯楽費 
  3)入学金・授業料・受験料、教育費・図書費
  4)健康関連費・市販医薬品
  5)医療保険・介護保険等社会保険等給付サービス利用時の本人負担費用
3.前項により、JBPC利用時は、マイナカードまたは決済機能アプリケーション付き指定端末を用いて、支払い決済を行う。

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エッセンシャルワーカー等、所得に関する問題を抱える人々とベーシック・ペンションとの関係

本来、ベーシック・ペンションは、コロナ対策を目的として考えたものではなく、憲法に定める基本的人権や生活保障等の社会保障制度の軸として考え、提案するに至ったものです。
そこでは、非常に多くの人々に向けての制度となっており、加えて、大規模自然災害やコロナのような国家レベルの厄災発生時にも役に立つ、いわゆるセーフティネット、セーフティインフラとしての制度の性質を含んでいます。

それらも理解頂く上で、最低限の知識として、次の2つの記事をお読み頂きたいと思います。
日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンションとは(2021/1/17)
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案(2021/3/2)

なお、上記の
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案
よりも以前にとりまとめ提案した、<2020年法案>の前文で、ベーシック・ペンションの目的などについて幅広く説明しています。
本来、内容を大幅に修正している2021年法案に合わせた修正前文を用意しなければ行けないのですが、後順位として手つかずです。
しかし、本質的には、2020年版前文の内容と変える必要がないため、お許しを頂いて、以下に記事リンクを貼らせて頂きました。
こちらもご覧頂きたいものです。
ベーシックインカム「生活基礎年金法(略称)」私案:前文その1-本法制定の背景(1)(2020/9/6)
ベーシックインカム「生活基礎年金法(略称)」私案:前文その1-本法制定の背景(2)(2020/9/7)


その後、以下の過去記事を、関心をお持ち頂けましたテーマだけでもお選び頂き、目を通して頂ければと思います。
働く人の格差是正と安心を目的としたベーシック・インカム(2020/7/2)
不測の事態に備え、機能するベーシック・インカム:BI導入シアン-6(2020/7/3)
ベーシックインカム導入で予想される社会構造の変化:BI導入シアン-18(2020/8/6)
コロナ禍で増す介護と仕事の両立課題(2020/8/14)
エセンシャルワーカー介護職、コロナ禍でも変わらぬ人材不足(2020/9/19)
◆ 介護職の皆さんに関心を持って頂きたい日本型ベーシックインカム(2020/10/25)
保育士の皆さんに関心を持って頂きたい日本型ベーシックインカム(2020/10/26)


結局、『新型格差社会』とは関係なく進めてしまいましたが、一応「仕事格差」対策としてのベーシック・ペンションの提案が目的でしたので、お許し頂きたいと思います。

次回は、同書<第4章地域格差~地域再生の生命線>を対象とします。


※<山田昌弘氏執筆関連書>
希望格差社会―「負け組」の絶望感が日本を引き裂く (ちくま文庫)』(2007/3/1刊)『結婚不要社会 (朝日新書)』(2019/5/30刊)『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?~結婚・出産が回避される本当の原因~ (光文社新書)』(2020/5/19刊)

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