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2020・21年考察

福祉国家論とベーシックインカム:福祉国家から基本的人権社会保障国家へ

ベーシックインカムは、一般的に<社会保障>として位置付けられることが多いのですが、その起源は、貧困の救済にあるとされることもまた一般的です。
その歴史は、すでに述べた
イギリス救貧法の歴史・背景、概要とベーシックインカム:貧困対策としてのベーシックインカムを考えるヒントとして(2021/1/26)
で確認することができます。
しかし、その歴史もそれぞれ通過地点であったわけで、その後現代において、いくつかのターニングポイントを経験しています。
それは、福祉国家の概念とその在り方を追求する歴史でもあります。


貧困対策・救貧から福祉国家概念へ

「貧困」にどのように対応してきたか、現代の福祉国家のモデルとなったとされる英国における貧困を救済するための法律「救貧法」の導入と変遷を、たどってみたのが、先述した以下の記事です。
イギリス救貧法の歴史・背景、概要とベーシックインカム:貧困対策としてのベーシックインカムを考えるヒントとして(2021/1/26)

その記事の意図を受けて、その後記したのが以下の記事です。
ベーシック・ペンション理解と導入に当たって必要な社会保障についての考え方と方向性(2021/2/10)

その2つを受けて、ようやくその義務を果たすことになるのが、現在の福祉国家論とベーシックインカムとを強く結びつける、今回の記事になります。
そのために活用するのが、当サイトで何度も取り上げることが多い、山森亮氏による『ベーシック・インカム入門 』です。

現代の福祉国家のモデルであり、ベーシックインカム発想の一つの起源である、英国発「福祉国家論」

プロテスタンティズムにおける「働かざるもの食うべからず」という倫理観に基づいた貧困対策や福祉対策、すなわち救貧法やその展開プロセスにおける失敗や議論をが、英国を中心に進められて行く過程で、「福祉国家」の在り方が整理されていきました。
山森氏は、同書の中で、その現代の福祉国家のモデルとして、以下の3つの手法・プロセスで説明しています。

 1.完全雇用の達成を前提とし
 2.一時的なリスクには、事前に諸個人が保険料を拠出する社会保険が対
  応し、
 3.それでも無理な場合は、例外的に、セーフティネットとして生活保護
  など、無拠出だが受給にあたって所得などについてに審査を受けなくて
  はならない公的扶助と呼ばれる給付を行う。 

この2.の<社会保険>の部分は、国によっては、保険制度ではなく<税>を原資として制度化している国もあります。

しかし、この完全雇用は、これまでどこも実現した国・事例はなく、現実的ではない、言い換えれば、実現不可能とせざるをえなくなります。
そこで、完全雇用は無理だが、極力雇用創出を目指し、2.3.の政策の推進に寄与することを考えようと、福祉国家のあり方の軌道修正が行われます。
それが、「ワークフェア」という考え方・概念を制度・政策の軸に据えることになるのです。

福祉国家論の重要な転換点、完全雇用からワークフェアウェルフェアからワークフェア

  公的扶助の捕捉率がずば抜けて低い日本に比し、セーフティネットがそれ
 なりに機能している先進諸国において、福祉国家の理念通りに事が進んでい
 るかというとそうではない国が多い。
 (その理由の一つが、)上記の理念の三本柱の内、「完全雇用」が多くの国
 で達成されなくなってきている。
  そこで、アメリカやイギリスはいち早く「ワークフェア」ないし「福祉か
 ら就労へ」と呼ばれる方向へ舵を切った
 「完全雇用の達成」は、労働市場の需要側に焦点を当てていたが、後者は供
 給側に焦点を当て、労働者の雇用の可能性を高めることで就労を支援すると
 いう方向である。
  この意味では、これまでの福祉国家の理念の重大な変更がなされたといっ
 てよい。

なるほどと感じさせる説明です。
「ウェルフェア(福祉)」を「ワークフェア」に置き換えたのですが、私は、そこで納得・満足はしません。
この「ワークフェア」自体、またしても「働かざる者食うべからず」のプロテスタンティズムの倫理から脱するわけではなく、というかその呪縛に囚われている考え方であり手法であるからです。
もう一つの「福祉から就労へ」と「雇用」ではなく「就労」としていることには好感は持ちますが、それでは当然不十分です。

ワークフェアの限界と矛盾

山森氏は、すべての先進国が明確に「ワークフェア」を標榜したわけではないとしますが、いずれにしても、現在、「ワークフェア」的な福祉国家の完成したモデル国家がどこかにあるわけではありません。

というか、むしろ、理想とする完全雇用はもちろん、就労を何らかの福祉的な給付と必須の交換条件とする制度が、望ましい形で機能している国もないでしょう。
日本においての生活保護もそうですし、母子世帯保護も同様です。
非正規雇用者も、ワークフェアが望ましい形で機能しているものではなく、むしろ貧困と格差、そして分断さえも生む装置として機能してさえいることに、その限界が示されています。
しかもその装置を駆動させているのが、本来福祉を推進すべき政府・関係官庁・官僚、そして公務員なのです。
科学技術の進歩に比べ、まったく進化しない人間の精神構造を体現するかのような社会福祉の退化・劣化と言ってもよいでしょう。
(参考)
人間の精神構造は変わることがなく、歴史は繰り返され、社会が大きく変わることも困難(2021/2/18)

ワークフェアに未来はない。
もうそろそろそう結論づけるべきではないかと考えます。

ベーシック・ペンションは、民主主義に基づく、日本における基本的人権基盤社会保障国家論


先月投稿記事
なぜ国がベーシック・ペンションを支給するのか?憲法の基本的人権を保障・実現するため:ベーシック・ペンション10のなぜ-1(2021/1/20)
の中の<社会保障制度とベーシック・ペンションの位置付け>という項で、以下の概念を提案しました。


福祉という用語は用いていません。
というか、ベーシック・ペンション導入で、その用語は使う必要がなくなる、とも言えそうです。
民主主義における、そして日本国憲法における基本的人権の中の一つの体系的な社会システムとしての社会保障制度。
私の提案するベーシック・ペンションは、その核として実現・導入するものです。


社会福祉国家から社会保障国家へ

それは、社会福祉国家から社会保障国家への転換を意味し、確かな方向付けが行われるのです。
その根拠・論拠を整理したのが、以下の記事です。
憲法第三章基本的人権と自由・平等に基づき支給されるベーシック・ペンション(2021/2/21)

その内容を受けて、その概念を以下の図にまとめました。

ベーシック・ペンションが、基本的人権そのものを体現するものであることを示しています。

21世紀中に、「生活保護」という言葉が不要の、使われない社会に

この図からも分かるように、生活保護という用語は、ここでは必要がなく、今後使う必要もないことを示してもいます。

「ワークフェア」から「ヒューマンフェア」へ


そして、どうあがいても、どんな善意も、悪意をもってしても真の意味での完全雇用も、望ましい就労社会も実現不能な、ワークフェアという社会福祉概念と決別すべきことを知ることになるでしょう。

「ウェルフェア」から「ワークフェア」へのシナリオは破棄すべき時がきています。
そして今、21世紀には「ワークフェア」を、基本的人権に基づく社会保障制度「ヒューマンフェア」に転換し、まったく新しい社会システムとしての「ヒューマンフェア」の時代を構築すべきと考えます。

(参考)
⇒ MMT現代貨幣理論とは:ベーシックインカムの論拠としての経済学説を知る(2021/2/23)
⇒ 井上智洋氏提案ベーシックインカムは、所得再分配による固定BIとMMTによる変動BIの2階建て(2021/2/24)

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