『クソったれ資本主義が倒れたあとのもうひとつの世界』に描かれたベーシックインカム
先日、個人Webサイト http://ohnoharuo.com の以下の投稿で取り上げた、 『クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界』(ヤニス・バルファキス氏著・江口泰子氏訳:2021/9/15刊:講談社) 。
◆ 読み進まぬ『クソったれ資本主義が倒れたあとのもうひとつの世界』、購入候補リストにある『タリバン 復権の真実』(2021/11/16)
相当乱暴な流し読みで一応、最後のページまで到達したので、その中に描かれたベーシックインカム(らしきもの)について、簡潔に紹介したいと思います。
ベーシックインカム論でなく、基本的には、資本主義が崩壊した後の理想社会を描くSF仕立ての小説である本書。
私にとっては非常に読みづらく、理解もしにくい書であったため、その粗筋をまとめることも非常に骨の折れることです。
タイトルのように「クソったれ資本主義が倒れた後のもう一つの世界」、ポスト資本主義社会における企業の在り方が一応示されており、本来その社会システム・制度を最初に紹介すべきなのですが、いずれ別の機会に紹介することとし、ここでは、ベーシックインカムらしきシステム・制度についてのみ、引用転載することにします。
ベーシックインカムらしき、と「らしき」としたのは、ストーリー全編の中で、ベーシックインカムという用語・表現はまったく用いられていないからです。
但し、読めば、ベーシックインカムが実現している社会を描いているんだな、と想像できるわけです。
そして、その内容の一部は、当サイトが提案している、日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンションの内容と類似・共通しており、他のベーシックインカム論者の提案の一部ともそうあることを感じさせるものなのです。
では、少々丁寧さを欠きますが、同書の<第3章 コーポ・サンディカリズム>の中の一部を抽出・参考にして以下に整理します。
生まれた時に国が全市民に対して開設する、中央銀行の口座「パーキャプ口座」
株式市場がない、すなわち、資本主義がない社会において、市民は全員、中央銀行のパーソナル・キャピタル、通称「パーキャプ」という口座を与えられる。
当サイト提案のベーシック・ペンションでは、ベーシックペンション専用デジタル通貨(BPC)をすべての国民に振り込むために、マイナンバーカードと紐付けされた日本銀行に、BPCの受け取りと利用時の出金だけのための個人口座を開設するとしています。
3つの資金口座「積立」「相続」「配当」からなる「パーキャプ口座」
そして、このパーキャプ口座は、以下の用途・目的に応じた3種類の資金口座で、各個人ごとに開設され、活用・管理される。
1.配当口座
1)社会資本のリターンであり、全市民共通の権利
・中央銀行から全市民に、年齢に応じて毎月定額が振り込まれる
2)次のような不安や問題を解消・解決
・貧困に陥る不安 ・屈辱的な生活保護 ・食べていくために搾取される仕事 ・老後の不安
3)お金にならない研究や社会貢献、芸術活動も可能に!
4)主な原資は、企業が国に収める総収入の5%
2.相続口座
1)全市民に対する信託資金
・国から全市民に、生まれた時点で同額が振り込まれる
・65歳未満の人が使う場合は厳しい審査が必要
2)生まれつきの格差・不平等を解消
3)資本金がなくても若くても起業できる
4)「配当」と同様、 主な原資は、企業が国に収める総収入の5%
3.積立口座
1)「基本給」+「ボーナス」
・基本給は全社員がまったく同じ
・ボーナスは1人1票の同僚の投票で決定
2)次の悪習・弊害が排除される
・人事、上司によるあいまいな査定
・年功序列の役職手当
3)民主的な不平等!が行われる
4)市民が働いて得るお金を管理する
ベーシック・ペンションとの違い
ベーシック・ペンションでは、「配当口座」に当たる口座のみ、「生活基礎年金口座」として、開設・利用・管理します。
配当ではなく、保険料負担が必要なく、無条件で支給される「年金」というのです。
そして、この「配当口座」に書かれた特徴は、 すべてベーシック・ペンションの目的・特徴と同じです。
年代に応じてすべての専用個人口座に、デジタル通貨として振り込まれる生活基礎年金は、基本的な生活を送るために使用・消費することを目的としており、当人以外の人に、たとえ家族であっても、相続や譲渡はできません。
また貯蓄もできず、一定年数内(現状提案は4年)に利用する必要があり、利用しない場合は、期限が来ると自動的に中央銀行である日銀が回収します。
起業の準備に必要な物品の購入や能力開発などのサービス費用等に充てることは可能としますが、資本金として用いることはできません。
起業などのための資本金は、給与所得その他、ベーシック・ペンション以外の所得を原資とする必要があります。
なお、現状提案のベーシック・ペンションでは、国が日本銀行に委託して独自に発行するデジタル通貨には、税などの原資は不要で、国及び自治体の財政、予算システムとは関係のない、通貨発行権に基づくものとしています。
この点が、本書において、企業総所得の5%としていることとの決定的な違いです。
但し、その企業は、資本主義社会ではない、株式市場がない社会におけるものであり、経営システム・収益システム自体、普通にイメージするものとは異なるものが前提です。
また、上記の「積立」の要件である、原資としての賃金・給与の在り方は、現在の社会経済・雇用システムにおけるものであることは言うまでもありませんね。
『クソったれ資本主義が倒れたあとのもうひとつの世界』走り読み後の走り書き
ポスト資本主義のユートピアを描いた本書。
資本主義に代わる社会主義的社会を描いて、資本主義を否定しているはずなのですが、その個人口座を、パーソナル・キャピタル口座、個人資本口座と名付けていることに、なんとも不思議な感覚を持ってしまいます。
結局、このSF風小説も、資本主義が倒れたあとの世界が、理想通りに、バラ色に実現する結末で終わっているわけではありません。
通常の経済対策や社会保障制度としてのBI論という位置付けで読むのも適切ではないと思いますし、BIの在り方を参考にする書としての妥当性にも疑問があります。
小説としたことで、BIをロジカルに、体系的に、社会経済システムの中に組み入れて、家族や地域の在り方も関連付けて描くことも、困難になりました。
だから小説なのだ、とも言えるのでしょうが、現実として、BI論専門書においても、体系的に、関連する社会経済システムと十分に関連付けて提案していることも稀れです。
フリーダムマシーンと超高度AI,ITを用いたシステム開発でワームホールの向こうにある近未来社会が描かれた本書と同レベルのものにベーシック・ペンションがならないように、実現のための諸問題・課題への現実的な取り組みと提案のための作業を、AIにもITにも頼ることなく(頼れず)、地道に進めていくべく・・・。
読後の思いです。
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