仮想通貨、電子マネー、デジタル通貨、JBPCの特徴:『CBDC中央銀行デジタル通貨の衝撃』とJBPC-1
野口悠紀雄氏著『CBDC中央銀行デジタル通貨の衝撃』から-1
野口悠紀雄氏著『CBDC 中央銀行デジタル通貨の衝撃』(2021/11/15刊・新潮社)を参考にして、当サイトで提案する日本独自のベーシックインカム、ベーシックペンション(Basic Pension, BP)の専用デジタル通貨(Japanese Basic Pension Currency, JBPC)としての給付について、技術面・運用面での課題などを再検討するシリーズを始めました。
序論としての前回の記事は以下。
◆ 日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金BPの専用デジタル通貨化を考えるシリーズ:『CBDC中央銀行デジタル通貨の衝撃』とJBPC-序(2021/12/15)
今回は、第1回目、<第1章 リブラが口火を切ったデジタル通貨> を取りあげます。
<第1章 リブラが口火を切ったデジタル通貨>から
本章は以下のように構成されています。
第1章 リブラが口火を切ったデジタル通貨
1.世界通貨「リブラ」の構想が与えた衝撃
2.電子マネーではなく、仮想通貨だから重要
3.本当は日本にとっても大問題
4.プライバシーを求めるのか?管理社会を許容するのか?
5.価格安定化は容易でない
6.「リブラ」から「ディエム」へ
リブラとは何か、何を目的として発行が検討され、どんな理由で発行されない状態となってるのか。
この問題については先送りにして、上記の構成にほぼ従って、いくつかの課題に分けて確認・検討していきます。
仮想通貨と電子マネーとの違い
リブラは電子マネーではなく、仮想通貨(暗号資産、以下仮想通貨と表現します)。
双方は、キャッシュレスの決済手段としては同じだが、仕組みは本質的に異なる。
電子マネーの特徴
現在の電子マネーの主流は、QRコード決済によるものだが、銀行預金での口座振替を簡単にするための手段であり、技術的には革新的なものではなく、現在の銀行システムの上に作られた仕組みである。
そのため、独自の通貨圏を形成することはない。
電子マネーの受け取り者は、それを用いて別の支払いをすることはできず、利用は1回限りであり、現金つう羽化のように転々と流通することはない。
受け取り店舗になるためには審査があり、受け取った電子マネーを現金に換える際、高い使用料を支払う必要がある(ことが多い)。
一国の通貨圏の中にあるため、国際的な送金には使いにくい。
仮想通貨の特徴
「ブロックチェーン」という、新しく革新的な技術を用いた仕組みで運営される。
既存の銀行システムの外にあり、独立して運営され、独自の通貨圏を形成できる。
誰でも自由に受け取り手になることができ、受け取った仮想通貨を他の支払いに当てたり、低コストで送金・決済ができ、利用者は使いやすい。
国から独立しており、世界共通の決済手段として、国境を超えて、低コストで送金できる。
専用デジタル通貨ベーシック・ペンションの特徴
日本国が、一種の法定通貨として、「ブロックチェーン」技術を用いて発行管理する、一種の仮想通貨。
既存の銀行システムとは別に開発された、日本銀行独自のシステムにより、発行管理される。
すべての日本国民が、自分の日銀専用口座で受け取り、支払い決済に用いる。
受け取った国民は、特定の商品やサービスに限り利用でき、他者への譲渡や貯金、相続はできず、一定期間内に利用されない未使用分は日銀に回収される。
日本国内の、審査を受けた企業・事業者のみ受け取ることができ、同様認定された企業・事業者への支払い・決済または政府・地方自治体への納付・送金、日銀への送金に利用できる。
国家の管理に基づき、国内に限定して利用され、他国間での送金・決済はできない。
ブロックチェーンと仮想通貨におけるプライバシー(匿名性)と管理
仮想通貨取引は、暗号で保護される。
通貨の取引情報を格納する箱を意味する「ブロック」とそのブロックを時間順に「鎖」状に繋げていく「ブロックチェーン」を形成。
その記録作業は、「マイナー」あるいは「ノード」と呼ぶコンピュータで行い、それらのコンピュータの集まりによりブロックチェーンが運営される。
このブロックチェーンは、デジタル情報を改ざんできないようにする仕組みであるのが最大の特徴の一つであり、強みである。
このブロックチェーンには、プライベート・ブロックチェーンとパブリック・ブロクチェーンの2種類がある。
前者は、管理者が信頼できると判断したコンピュータだけが作業に参加でき、記録の信頼性は管理者が担保する。
従い、中央銀行が仮想通貨を発行する場合、このプライベート・ブロックチェーンが用いられる。
そこでは、本人確認を行うことでマネーロンダリング等の不正行為を排除できるが、管理者によって詳細な取引情報が把握され、かつ管理者はそれを利用できる。
従い、万一情報管理体制に問題が生じれば、情報漏洩等の問題が生じる。
一方パブリック・ブロックチェーン型仮想通貨では、だれがどのような取引を行なっているかわからず、不正取引を完全に排除することはできないが、取引のプライバシーは完全に確保される。
すなわち、「匿名性(プライバシー)のあるマネーを求めるのか、管理可能なマネーを求めるのか」という相対する問題が存在する。
ベーシック・ペンションにおけるプライバシーと管理
一般的な個人の市中金融機関における預貯金において、例えばマイナンバーカードと紐付けされることで、個人のプライバーが侵されると反対する人が多い。
ベーシックインカム論者においても、基本的には現金給付を前提とした議論・提案を行なっており、ここでは個人情報云々は、現金を給付する対象を特定する上での個人情報の紐付けでとどまる。
当サイト提案の専用デジタル通貨JBPCは、日本銀行がプライベート・ブロックチェーン型のデジタル通貨を発行する形式となるため、誰がいつ何に使ったかの情報はすべて把握できる。
このことを個人情報保護の観点から反対する人も多々いる。
しかし、元来、当JBPCは基礎的な生活を送る上で必要な支出に充てるために支給するものであり、社会経済システムの基盤として、国内の需要と供給のバランスを図り、安定的な生活と基礎経済・基礎経営の構築をも目標としている。
従い、その利用情報は、市民・国民が暮らし、その地域で事業活動を行う企業と事業者にとって望ましい社会経済基盤の整備拡充を図るために有効に用いることを目的としている。
もちろん、JBPCは世帯ではなく、個人個人に給付されることから、(親権者・後見人による代理行使も前提として)BPの導入目的に適合した利用方法がなされているかなどの確認も、管理者(日銀及び国家行政)は行う。
価格安定化の必要性の有無
一般的に電子マネーは、現状の通貨システムの不便さを補う意味で用いられており、その価格・価値は、法定通貨と同じ基準を用いていることから、価格の安定化云々の心配はない。
しかし、ほとんどの仮想通貨では、ステイプルコイン、すなわち法定通貨と同じ価格・価値に安定化するルール、基準はない。
これが、仮想通貨における最大の問題だが、逆にそれだから仮想通貨として求められるという性質をもつ所以と言える。
すなわち、決済手段として用いる上での前提条件を欠いているわけだ。
ベーシック・ペンションJBPCは、ステイプルコイン
ベーシック・ペンション専用デジタル通貨JBPCでは、それが日銀により発行管理される法定通貨の一種であるステープルコインであることから、価格の安定化という問題・不安はまったくない。
加えて、日本国内だけで流通・通用する通貨であり、外国為替市場における円高・円安動向とも(BP実現時には間接的に関係することになる可能性もあるが)直接関係することはない。
リブラとディエムについて
この第1章は、<リブラが口火を切ったデジタル通貨>としており、本稿でもリブラ及び変更後のディエムについて触れるべきですが、それがJBPCと直接関係していないので、今回は省略します。
まあ、欧米各国の政府・中銀が反対する「ディエム」であり、非現実的ではありますが、仮に実現しても、JBPCは、日本国内で特定目的でのみ利用されるもので、関係性はないことを確認しておきます。
以上、今回は、当初第2章と第4章を取り上げる予定でした。
しかし予定を変更し、第1章のみ、しかも「リブラ」とは無関係に、デジタル通貨の性質や特徴に関する記述に焦点を当てて確認・整理し、当サイト提案のベーシック・ペンション専用デジタル通貨の特徴と比較する形で述べてきました。
次回は、<第2章 CDBCの仕組みと必要性>を取り上げます。
なお以下に、関連する参考情報を、かなりのボリュームですが転載しています。
ご関心をお持ち頂けるものがありましたら、サラッと確認頂ければと思います。
<参考資料>:『CBDC中央銀行デジタル通貨の衝撃』の構成
はじめに
第1章 リブラが口火を切ったデジタル通貨
1.世界通貨「リブラ」の構想が与えた衝撃
2.電子マネーではなく、仮想通貨だから重要
3.本当は日本にとっても大問題
4.プライバシーを求めるのか?管理社会を許容するのか?
5.価格安定化は容易でない
6.「リブラ」から「ディエム」へ
第2章 CDBCの仕組みと必要性
1.CBDCの仕組み
2.国民の利便性向上と金融包摂
3.中央銀行の立場から見て、なぜデジタル通貨が必要か?
4.複雑でコストが高い現在の仕組み
第3章 デジタル人民元は大きな脅威となる
1.デジタル人民元の基本構造
2.デジタル人民元の詳細構造
3. デジタル人民元はいかなる影響を及ぼすか
4.広範に使われている電子マネーはどうなるのか?
5. デジタル人民元の目的は電子マネーの排除?
第4章 中央銀行デジタル通貨は社会の基本を変える
1.中央銀行によるデジタル通貨発行の競争が加速
2.銀行預金が流出するという大問題
3.銀行預金の流出への対処法
4.プライバシー問題にどう対処するか?
5.中央銀行による通貨発行の独占は必要か?望ましいか?
第5章 ビットコイン創始者は「国の管理から自由な通貨」を求めた
1.「プライバシーが守られる通貨」に惹かれた人々
2.ねじ曲げられた当初の理想
3.資金逃避先となったビットコイン
4.アンドリーセンがビットコインに夢を託す
5.仮想通貨の重要性が広く認められるようになった
6.ビットコインは「デジタル・ゴールド」になったか?
第6章 「デジタル円」の前に立ちはだかる厚い壁
1.「デジタル円」は動き出すのか?
2.日本はキャッシュレス後進国
3.手数料収入を当てにするメガバンクのデジタル通貨戦略は間違い
4.乱立する日本の電子マネー
5.「デジタル円」の利用率をゼロにできるかの?
第7章 パラダイムの転換に成功した社会が未来を拓く
1.デジタル人民元のインパクト
2.スゥェーデンやユーロはCBDC導入に向かう
3.デジタルドルはどうなるか?
4.「ディエム」はどうなるのか?
5.CBDCはパラダイムの転換
終 章 デジタル通貨時代に向けての5つの提言
1.危機感を持って通貨主権を守れ
2.デジタル通貨政策を確立せよ
3.銀行のビジネスモデルを、「手数料」から「データ利用」に大転換せよ
4.個人情報主権を確立せよ
5. デジタル通貨をきっかけとして、日本の未来を構築せよ
<参考資料>:日本独自のベーシックインカム、「ベーシック・ペンション生活基礎年金」基本事項
生活基礎年金ベーシック・ペンションBPの定義
1.すべての日本国民に、個人ごとに支給される。
2.生まれた日から亡くなった日まで、年齢に応じて、無条件に、毎月定期的に生活基礎年金(総称)として支給される。
3.基礎的な生活に必要な物品やサービスを購入・利用することを目的に支給される。
4.個人が、自分の名義で、日本銀行に、個人番号を口座番号として開設した専用口座宛に支給される。
5.現金ではなく、デジタル通貨(JBPC、Japanese Basic Pension Currency)が支給される。
6.このデジタル通貨は、国の負担で、日本銀行が発行し、日本銀行から支給される。
デジタル通貨JBPCの特徴および条件
【個人番号日銀口座限定】
1.日本銀行に開設した、個人番号を口座番号とするJBPC専用口座だけに保有でき、他の市中金融機関に送金・預金・保管はできない。
【国内限定】
2.日本国内でのみ利用できる、一種の地域通貨である。
【使途限定】
3.利用できる商品やサービスは、基礎的な生活を送るための利用に限定される。
【利用事業所限定】
4.その目的に適応した、事前に申請し、認可された事業所で利用できる。
【デジタル通貨限定】
5.個人番号カードまたはインターネット上で、特定のアプリケーションソフトを用いて支払い決済し、それと同時に、個人口座から引き落とされる。
【期間限定】
6.利用できる期間が決められており、期限内に利用しない場合は自動的に日本銀行に回収される。
【譲渡・相続・資産化禁止】
7.個人当人の基礎的な生活に利用することを目的としており、他人への譲渡・相続や資産として長期に保有・蓄財することはできない。
【事業所法人番号紐付け日銀口座限定】
8.3の条件を満たし、事前に届け出て認可された事業所は、法人番号を口座番号としてたJBPC専用口座を、日本銀行に開設する。
【処理処分限定】
9.通貨保有者の利用によりJBPCを専用口座で受け取った事業所(以下、一次事業所)は、以下のいずれかの方法により、処理・処分できる。
1)一次事業所と同様事前に申請し、承認を得た二次事業所からの物品の仕入れ・調達のために、一定期間内に利用する。
2)国や地方自治体に納入する税金、保険料その他の納付金費用に充当し、国もしくは地方自治体に、一定期間内に納付する。
3)決算時に、保有するJBPCを利益金と相殺処分(損金処分)して、日本銀行に送付する。
4)上記のいずれかで、JBPCを一定期間内に利用・納付・処分することができない場合、期限内に日本銀行に届け出て、現金と交換する。
【日本銀行管理限定】
10.利用・流通・保管されたすべてのJBPCは、上記の期間内にすべて日本銀行に回収・返却され、日本銀行の資産処分により消却(バーン)され、還流してきたJBPC残高はなくなる。
当シリーズでの課題の範囲と除外した課題
本シリーズでは、BPが抱える重要な課題のうち、JBPC給付額、その財源問題、その膨大な金額の給付によって発生が予想されるインフレ問題など重要な課題・問題については、間接的・副次的に論じることはあっても、主題として取り上げることはありません。
それらについては、別のシリーズや個別記事で対応していきます。
また、当サイト提案は、全額専用デジタル通貨でのBP給付を目標・理想とするものですが、デジタル通貨化自体のハードルの高さや、財源問題などを現実的に考えた時、その一部は先行して現金またはこれに替わるデジタル通貨以外での給付を採用することもあり得るとしたいと思います。
その考えの一端は、以下の記事で提示しています。(再提案も予定しています。)
◆ 全員月額7万円で始める:ベーシックインカム現実的実現法考察-1(2021/7/17)
◆ 月額7万円ベーシックインカムの条件と期待効果:ベーシックインカム現実的実現法考察-2(2021/7/18)
◆ 無理なく、漸進的・段階的に導入するベーシックインカム:ベーシックインカム現実的実現法考察-3 (2021/7/19)
ベーシック・ペンションの専用デジタル通貨化に関するこれまでの記事リスト
◆ 日本初デジタル地域通貨「白虎」開発の藤井靖史会津大客員准教授にアプローチ (2020/12/18)
◆ ブロックチェーン専門家の藤井靖史氏が日本独自のBI、ベーシック・ペンションを評価 (2020/12/29)
◆ なぜ日本銀行が、デジタル通貨でベーシック・ペンションを発行・支給・管理するのか:ベーシック・ペンション10のなぜ?-3(2021/1/22)
◆ なぜ循環し、回収消却され、再生し、世代を継承していくベーシック・ペンションなのか:ベーシック・ペンション10のなぜ?-6~10(2021/1/24)
◆ なぜベーシック・ペンションは現金ではなくデジタル通貨なのか:DX時代の必然としてのJBPC (2021/2/17)
◆ ベーシック・ペンション実現に10年を想定する4つの理由(わけ) (2021/3/4)
ベーシック・ペンションの基礎知識としての5記事
◆ 日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンションとは(2021/1/17)
◆ 諸説入り乱れるBI論の「財源の罠」から解き放つベーシック・ペンション:ベーシック・ペンション10のなぜ?-4、5(2021/1/23)
◆ 生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)前文(案)(2021/5/20)
◆ 生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案(2021/3/2)
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