コロナ禍がベーシックインカムの必要性・不可欠性を証明(山森亮教授小論より)(2020/10/16)
ベーシックインカム(生活基礎年金制度)案再考察-13
◆ 基本的人権基盤としてのベーシックインカム制導入再考察と制度法案創り
◆ ベーシックインカムの定義再考察:JBIとは(Japanese Basic Income)
◆ 財源問題、所得再分配論から脱却すべき日本型ベーシックインカム
◆ 日本型ベーシックインカム実現をめざすカウンター・デモクラシー・ミーティングを開設!
◆ BIは、日本国内のみ利用可、使途・期間限定日銀発行デジタル通貨に
◆ ベーシックインカム生活基礎年金月額15万円、児童基礎年金8万円案
◆ ベーシックインカム生活基礎年金15万円で社会保障制度改革・行政改革
◆ ベーシックインカム生活基礎年金、段階的導入の理由と方法
◆ 実現シナリオ欠落の理想的ベーシックインカムの非社会性
◆ ベーシックインカムの特徴と魅力、再確認・再考察
◆ ベーシックインカム導入で健康保険・介護保険統合、健保財政改善へ
◆ ベーシックインカムとコロナ禍の政府債務膨張、デジタル人民元実験との関係
と、12回を数えた<再考察シリーズ>。
少し再考察も停滞気味で、原点に帰ったり、悩み深い問題を再確認したりが続いていますが、今回もある意味原点に立ち返る、ある意味では新しく考えるチャンスであったり、という情報を紹介します。
それは、今日10月16日日経掲載の<経済教室>欄に、「コロナ禍で拡大する格差」をテーマに「労働巡る不平等を可視化」というタイトルで寄稿された、『ベーシック・インカム入門 』(2009/2/20刊)の著者でもある、山森亮同志社大教授の小論です。
労働を巡る不平等を可視化したコロナ禍が促すベーシックインカム導入
もともとは「労働巡る不平等を可視化」というタイトルが付いた小論ですが、山森教授としては、「ベーシックインカム」という用語をタイトルに加えたかったのではないか、そう思える内容の小論です。
そうしなかった(できなかった?)のは、日経サイドの要請だったのでは?
そんな気がしたこともあり、上記の小見出しを私なりにここでは付けました。
その小論。
コロナ危機により、困窮する人々が増えこれまでも存在した不平等が誰の目にも明らかになりつつあるなかベーシックインカム(Basic Income=BI)を巡るニュースが相次いでいる。
少し手を加えましたが、こんな書き出しです。
そして、最近論じられ、報道されるベーシックインカムを巡る種々の例を挙げつつ、これらのなかには、BIとは異なるものも含まれていることも付け加えています。
すなわち、
BIとは
・「より広義の保証所得(Guaranteed Income)という概念の一部」であり、
・「すべての人に、個人単位で、資力調査や労働要件を課さずに無条件で定期的に給付されるお金」のこととし、
・「他の社会サービスと相まって健康で文化的な最低限度の生活を保障しうる額が完全ベーシックインカムBI、それ以下の額のものが部分ベーシックインカムBIで、完全BIを実現している社会はまだない。」と断言しつつ、
・「BIと重複する給付はその分減額・廃止されるが、BIに代替されない給付や社会サービスは残る。」とも加えています。
なお同氏は、日本での生活保護制度の問題点も指摘した上で、コロナ危機下で生活保護申請は増える状況下、生活保護をより利用しやすい形に変えていくと同時に、生活保護からは漏れてしまう人々が利用できる緊急最低所得保証制度を、まずは時限的な形でも導入すべきと提案しています。
完全ベーシックインカムはまだ実現していない
そうです。
今までのところ完全BI(もしくは、それに極めて近いBI)社会は実現していないのです。
そのため、同氏は、現状世界各国で発言され、検討されているものは、「BIを含む保証所得」であったり、「厳密にはBIではなく部分的な最低所得保証」あるとします。
現状日本で種々議論されているベーシックインカム主張論のほとんどが、山森氏の定義から外れるか、定義そのものを無視しているか、なのです。
一見リベラル派の主張は、BIと重複する給付があっても、それらに上乗せしてBIを給付すべきとします。
中央銀行の通貨発行権に基づく国民配当論者は、最低限度に糸目を付けず、むしろ最低限度の生活保障という概念そのものを否定し、一方的な権利としてのベーシックインカムを主張します。
コロナ危機において可視化された労働に関する不平等
そして、コロナ危機のなかで、様々な不平等が可視化されたが、労働に関わる問題点として以下を挙げています。
1.雇用形態の違いによる不平等
日本では雇用保険に入れない非正規、フリーランスの人々が失業しやすく、失業・自宅待機等で労働不能となった場合、セーフティーネットから漏れやすい。
2.エッセンシャルワーカーへの不平等
社会にとって必要不可欠(エッセンシャル)なはずの仕事ほど、報酬その他の労働条件が、必要度に見合っていない傾向にあり、コロナ禍にあってもその改善を進める動きも多くの国で鈍い。
3.ジェンダー化されている不平等
社会にとって育児・介護ケア職務などのエッセンシャルな仕事の多くは不均等に女性により担われており、前項のように労働条件等に大きな問題を抱えたままで放置され、ジェンダー化されている不平等の是正という視点を欠く場合が多い。
こうした視点で、今年4月米ハワイ州の女性の地位向上委員会による提言として公開された「背中を踏みつけて歩くのではなく、橋を架けるCOVID-19からのフェミニスト経済復興計画」において、ベーシックインカム導入が提唱されていることを紹介。
相対的に女性が多く担ってきたケア労働の価値が安く見積もられているのは政治的なものであり、そうした「不平等な現状の維持」ではなく「深い構造的な転換」が、コロナ禍からの経済復興で目指されなければならなず、その政策パッケージの一環としてのBIの導入を提唱する。
そして、山森氏はこう結んでいます。
コロナ危機のなかで、BIが言及される背景にあるのは、こうした経済のあり方の深い構造転換の必要性の認識であり、ベーシックインカムは他の政策と適切に組み合わされれば、これらの不平等を改善する道筋の一助となりうる。
例えば多くのエッセンシャルワーカーの労働条件が改善してこなかった理由の一つは、食べていくために辞められず、また辞めても代わりの人を雇える雇用者側に、改善へのインセンティブ(誘因)が働かないことだ。
適切な額のBIはこうした状況を劇的に変える力がある。
山森氏が指摘した上記の問題と対策としては、私も
◆ 働く人の格差是正と安心を目的としたベーシック・インカム:BI導入シアン-5(2020/7/2)
の中で「保育職・介護職等公共的社会福祉・社会保障関係職の方々へのベーシック・インカム」として問題提起しています。
なおこの日経小論では、ベーシックインカム論の歴史的な変遷や背景などにも触れていますが、詳細は、先述した同氏の著『ベーシック・インカム入門 』で確認頂くのがベストと思いますので、ここでは省略します。
労働問題を含む広範な視点からのベーシックインカムの必要性・必然性
私が構想するベーシックインカム生活基礎年金制度を法律案としてまとめるべく、既にその第一次私案をまとめていますが、その前文を、以下の記事で提案しました。
◆ ベーシックインカム「生活基礎年金法・前文」第一次私案まとめ(2020/9/15)
その目的・意義、そして目標として、以下の問題点や方針・方向性を提起しました。
今回の山森氏の問題提起と重なる部分が多々あることを確認頂けると思います。
1.生活保護制度の運用と実態
2.少子化社会の要因としての結婚・出産・育児等における経済的不安
3.非正規労働者の増加と雇用及び経済的不安の拡大
4.母子世帯・父子世帯の困窮支援の必要性
5.保育職・介護職等社会保障型職業の労働条件等を原因とする慢性的人材不足
6.子どもの貧困と幸福度を巡る評価と課題
7.国民年金受給高齢者の生活基盤の不安・脆弱性
8.コロナウイルス禍による就労・所得機会の減少・喪失による生活基盤の脆弱化
9.自然災害被災リスクと生活基盤の脆弱化・喪失対策
10.日常における不測・不慮の事故、ケガ、解雇等による就労不能、所得減少・喪失リスク
11.共働き夫婦世帯の増加と仕事と育児・介護等両立のための生活基盤への不安
12.高齢単身世帯、高齢夫婦世帯、中高齢家族世帯の増加と生活基盤への不安
13.IT社会・AI社会進展による雇用・職業職種構造の変化と所得格差拡大
14.能力・適性・希望に応じた多様な生き方選択による就労機会創出と付加価値創造
15.貧富の格差をもたらす雇用・結婚・教育格差等の抑制のための社会保障制度による所得再分配政策
16.世代間負担の不公平・不平等対策と全世代型社会保障制度改革の必要性
17.コロナ禍で深刻さ・必要度を増した、安心安全な生活を送るための安全弁としての経済的社会保障制度
18.社会保障制度改革における基軸としてのベーシックインカム制導入の意義・有効性
19.ベーシックインカム制導入に必要な種々の課題への取り組み:社会保障財政赤字、国際社会における経済への影響を考慮
この
◆ ベーシックインカム「生活基礎年金法・前文」第一次私案まとめ
と併せて、同法第一次私案本文をまとめた
◆ ベーシックインカム「生活基礎年金法・本文」第一次私案まとめ(2020/9/16)
もご確認頂ければと思います。
なお、前文、本文とも現状継続しています<再考察シリーズ>の内容も勘案しつつ、改定第二次案を、できれば10月中にまとめることができればと考えています。
望ましい総合的社会保障システム体系構築と一体のベーシックインカム生活基礎年金制度、提案へ
私が提案としてまとめたい日本型ベーシックインカム生活基礎年金制度は、重複する給付はその分減額・廃止し、代替されない給付や社会サービスは残す、完全に近いベーシックインカム制です。
いや、減額・廃止・残す、というよりも、他の政策と適切に組み合わせることで、より望ましい総合的社会保障システム体系の構築と一体化したベーシックインカム生活基礎年金制度を提案することを目標としています。
前項の18.19.に記したものが、その基本的な考え方に当たります。
ただそれには、ベーシックインカムに強い関心を持つ多くの方々の知恵や助言、アイディアがまだまだ必要です。
ご意見等、忌憚なくお寄せ頂ければと願っています。
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本稿は、WEBサイト https://2050society.com 2020年10月16日投稿記事 2050society.com/?p=4132 を転載したものです。
当ベーシックインカム、ベーシック・ペンション専用サイト http://basicpension.jp は2021年1月1日に開設しました。
しかし、2020年から上記WEBサイトで、ベーシックインカムに関する考察と記事投稿を行っていました。
そこで、同年中のベーシックインカム及び同年12月から用い始めたベーシック・ペンションに関するすべての記事を、当サイトに、実際の投稿日扱いで、2023年3月から転載作業を開始。
数日間かけて、不要部分の削除を含め一部修正を加えて、転載と公開を行うこととしました。
なお、現記事中には相当数の画像を挿入していますが、当転載記事では、必要な資料画像のみそのまま活用し、他は削除しています。
原記事は、上記リンクから確認頂けます。
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