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2020・21年考察

立憲民主党のベーシックインカム方針:ベーシックサービス志向の本気度と曖昧性に疑問

前回、れいわ新選組のベーシックインカム方針を、政党シリーズの1回目として以下で取り上げました。
⇒ れいわ新選組のベーシックインカム方針:デフレ脱却給付金という部分的BI(2021/4/4)
2回目の今回は、立憲民主党を取り上げます。

実際には、立憲民主党は、ベーシックインカム(以下BIとすることがあります)を政策に掲げているわけではありません。
しかし、一応その綱領や理念・基本政策に、それと通じる内容・要素を含んでいるものがあるかどうかを検討し、評価しようというのが本稿の目的です。

まず、昨年9月の結党大会で制定された、<基本理念>と<私たちがのめざすもの>7項目で構成される「党綱領」をBIとは直接関係ない事項を省略して転載しました。

立憲民主党綱領(2020年9月15日結党大会制定)

1. 基本理念

立憲民主党は、立憲主義と熟議を重んずる民主政治を守り育て、人間の命とくらしを守る、国民が主役の政党です。
私たちは、
「自由」と「多様性」を尊重し、支え合い、
人間が基軸となる「共生社会」を創り、
「国際協調」をめざし、「未来への責任」を果たすこと、
を基本理念とします。
私たちは、この基本理念のもと、一人ひとりの日常のくらしと働く現場、地域の声とつながり、明日への備えを重視し、国民の期待に応えうる政権党となり、この基本理念を具現化する強い決意を持って立憲民主党を結党します。

2. 私たちのめざすもの

(ア) 立憲主義に基づく民主政治  ※以下各項主略

(イ) 人権を尊重した自由な社会
・私たちは、公正で透明な社会システムを通じて、人間の営みと基本的人権を尊重した自由な社会を構築します。
・私たちは、あらゆる差別に対し、断固として闘います。
・私たちは、性別を問わずその個性と能力を十分に発揮することができるジェンダー平等を確立するとともに、性的指向や性自認、障がいの有無、雇用形態、家族構成などによって差別されない社会を構築します。

(ウ) 多様性を認め合い互いに支え合う共生社会
・私たちは、一人ひとりが個人として尊重され、多様な価値観や生き方を認め、互いに支え合いつつ、すべての人に居場所と出番のある共生社会を構築します。
※以下項目省略

(エ) 人を大切にした幸福を実感できる経済
・私たちは、公平に開かれた市場の中で、目先の効率性だけにとらわれずに、人を幸せにする経済をめざします。
・私たちは、「人への投資」を重視し、過度な自己責任論に陥らず、公正な配分により格差を解消し、一人ひとりが幸福を実感できる社会を確立します。
・私たちは、食料やエネルギー、生きるために不可欠なサービスなどを確実に確保できる経済をめざします。
・私たちは、科学技術の発展に貢献するとともに、個人の情報や権利が保護され、個人の生活が侵害されない社会をめざします。

(オ) 持続可能で安心できる社会保障
・私たちは、持続可能で安心できる社会保障制度を確立します。
・私たちは、生涯を通じた学びと挑戦の機会を確保し、一人ひとりが、働き方やくらし方を柔軟に選択できる安心社会を実現します。
・私たちは、社会全体ですべての子どもの育ちを支援し、希望する人が安心して子どもを産み育てることができる社会をつくります。

(カ) 危機に強く信頼できる政府  ※以下各項省略
(キ) 世界の平和と繁栄への貢献  ※以下各項省略

れいわ新選組の綱領と比べると、ボリュームはありますが、全体的に抽象的・情緒的で、わかりにくい印象をもちました。
体系として見ても、焦点が分散して、1項目の中でのまとまりに欠けている感を受けます。
そして何より、ベーシックインカムと関係するような政策は具体的に読み取ることができませんでした。

ただそれでは、本稿の目的が果たせないため、多少なりとも関係すると感じられる項目について、順に取り上げ、少しこじつけながらBI的視点で、確認してみることにします。


1.多様性を認め合い互いに支え合う共生社会

一人ひとりが個人として尊重され、多様な価値観や生き方を認め、互いに支え合いつつ、すべての人に居場所と出番のある共生社会を構築

  • 障がいのある人や単身世帯をはじめとする社会的孤立・孤独への対策や、ひきこもりや不登校における居場所の確保、就労支援や家族支援などの若者対策を強化し、誰もが地域で暮らせる社会をめざします。
  • 誰も自殺に追い込まれることのない社会をめざします。
  • 固定的な性別役割分担を前提とした税制や社会保障制度を見直し世帯主単位から個人単位への転換を進めます。

「共生社会」という言葉をBIと関連付けて考える必要はないと思います。
性別役割分担と税制・社会保障制度を結びつけて考えることに、あまり意味があるとも思えません。
唯一BIを結びつけて考えるべき事項は、世帯主単位から個人単位へと言う箇所だけでした。
最後に「社会保障制度を見直し」とあるので、次項の「持続可能で安心できる社会保障」の道案内のようなレベルです。

2.持続可能で安心できる社会保障

この項目で、最もベーシック・インカムに関係する政策が提示されています。
順番を入替えましたが、3つの中項目に分けて、それぞれ具体的政策課題を転記しました。

2-1 持続可能で安心できる社会保障制度を確立

  • 少子高齢社会に対応し安心して暮らせる社会にむけて、医療・介護・障がい福祉・保育・教育・放課後児童クラブなどの「ベーシックサービス」を拡充し、誰もが必要なサービスを受けることのできる社会をめざします。
  • 介護職員や障がい福祉職員・保育士の待遇を改善し、キャリア形成を支援します。
  • 介護離職ゼロにむけた取り組みを強化します。
  • 医療・介護の提供体制を拡充し、重点化と効率化によって、持続可能で安心できる医療・介護制度をめざします。
  • 医療・介護・障がい福祉の連携による地域包括ケアシステムの充実をはかります。
  • 予防医療、リハビリテーションの充実などによって健康寿命を延ばすとともに、がん対策・循環器病対策の充実や難病対策の拡充に取り組みます。
  • 若い世代をはじめすべての世代の国民に信頼される持続可能な年金制度の確立をめざします。
  • 賃貸住宅への家賃補助によって、居住と生活の安定化をはかります。

保育・介護・障害者介助職の公務員化については、共通した考え方を当サイト運営者である私も持っています。
関連する別サイトhttps://2050society.com の以下の記事で、確認頂ければと思います。
⇒ 准公務員制度導入で潜在的労働力の発掘と活躍へ:専門職体系化による行政システム改革-3(2020/3/21)
⇒ 保育園義務教育化と保育グレード設定による保育システム改革-1(2020/3/23)
⇒ 保育の社会保障システム化による保育システム改革-2(2020/3/24)
⇒ 幼保無償化後の現実的課題:抜本的な保育行政システム改革への途(2020/5/29)

そして、この中で最も注視すべき事項については、別途後述します。

2-3 社会全体ですべての子どもの育ちを支援し、希望する人が安心して子どもを産み育てることのできる社会

この項目は、ベーシック・ペンションでは、児童基礎年金、学生等基礎年金の支給対象となる子どもに関する社会保障制度の充実政策です。
これも同党では、BIとは関係なく推し進める政策なので、ここでは確認にとどまります。

  • 子どもの意見表明権や、性や生き方の自己決定権の尊重など、子の最善の利益を優先する「チルドレン・ファースト」を施策の中心に据えます。
  • 育児休業給付の実質100%支給をめざすとともに、男女のワーク・ライフ・バランスの実現にむけて、誰もが必要に応じて育児休業や介護休業が取得できる制度への見直しを進めます。
  • 児童手当の対象をすべての子どもとし、増額と支給年齢の延長を行うとともに、児童扶養手当の増額などひとり親家庭支援を強化します。
  • 不妊治療をはじめ妊娠・出産・子育てへの支援を拡充します。
  • 保育所と放課後児童クラブの待機児童解消をはかるとともに、すべての子どもに質の高い保育・幼児教育を確保して、これを無償化します。
  • 小中学校の学校給食費無償化、所得制限のない高校授業料の無償化、大学授業料減免の拡充、給付型奨学金をはじめとする修学支援制度の大幅拡充によって、親の教育負担を減らし、子どもの貧困とその連鎖を防ぎます。
  • 義務教育・高校教育における少人数学級編制と、きめ細かな教育を可能とする少人数学習を推進します。
  • 児童虐待やいじめを受けた子どもたちの保護と、その防止対策を進めます。
  • 社会的養護を必要とする子どもや、特別な環境にある子どもたちの教育を支援し、違いを認め合いともに学ぶ「インクルーシブ教育」を推進します。
  • 学校教育におけるICTをツールとした教育を推進し、対面授業とオンライン授業の両立を支援します。

但し、イチャモンを付けるならば、「チルドレン・ファースト」とか「インクルーシブ教育」などどうも気取った表現・用語を使うもんだ、と。
多くの人が、立民に親しみを感じない要因・要素の根源的なものかと思わせます。

2-2 生涯を通じた学びと挑戦の機会を確保し、一人ひとりが、働き方やくらし方を柔軟に選択できる安心社会を実現

この項目の具体的な政策は、以下です。

  • 無期の直接雇用を原則とし、望めば正社員として働ける社会をめざします。
  • 同一価値労働同一賃金の実現をはかるとともに、労働者派遣制度を見直し、対象を真に専門性のある職種に限定します。
  • 勤務間インターバル(休息時間)の義務化や有給休暇の取得率向上などにより、過労死ゼロの実現をめざすとともに、ワークルール教育を推進します。
  • 中小零細企業への支援を拡充しつつ、誰もが暮らせる賃金水準の確保と最低賃金の大幅な引き上げをはかるとともに、男女の賃金格差解消をめざします。
  • セクハラ、マタハラ、パワハラ、いじめなど職場におけるあらゆるハラスメントの禁止を徹底し、防止対策の強化をはかります。
  • 多様な学び直し(リカレント教育制度)の機会を創出します。

これらの課題は、ベーシック・ペンション導入時に併せて検討・改定すべきとしている労働制度・労働政策等と関係する内容です。
但し、BIと直結している課題ではないので、以下の記事と重ね合わせて確認頂ければと思います。
⇒ ベーシック・ペンションによる雇用保険制度改革・労働政策改革:安心と希望を持って働くことができる就労保険制度と労働法制を(2021/2/13)


ベーシックインカムよりもベーシックサービスを掲げるグループと立憲民主党との関係への懸念

これまで見たように、立民党の綱領には、ベーシックインカムの表現も、それらしい政策表現もありません。
しかし、気になる用語が、実は、「持続可能で安心できる社会保障制度を確立」の項の初めにあります。
それは、

医療・介護・障がい福祉・保育・教育・放課後児童クラブなどの「ベーシックサービス」を拡充し、誰もが必要なサービスを受けることのできる社会をめざす。

という部分です。

この「ベーシックサービス」とは、当サイトの起点となったWEBサイト https://2050society.com で以下の投稿シリーズで取り上げた、井出英策氏が提唱したもので、これに賛同しているグループも存在しています。

 1.今野晴貴氏「労働の視点から見たベーシックインカム論」への対論
  (2020/11/3)
 2.藤田孝典氏「貧困問題とベーシックインカム」への対論(2020/11/5)
 3.竹信三恵子氏「ベーシックインカムはジェンダー平等の切り札か」へ
   の対論(2020/11/7)
 4.井手英策氏「財政とベーシックインカム」への対論(2020/11/9)
 5.森 周子氏「ベーシックインカムと制度・政策」への対論(2020/11/11)
 6.志賀信夫氏「ベーシックインカムと自由」への対論(2020/11/13)
 7.佐々木隆治氏「ベーシックインカムと資本主義システム」ヘの対論
  (2020/11/15)
 8.井手英策氏「ベーシック・サービスの提唱」への対論:『未来の再建』
   から(2020/11/17)
 9.井手英策氏「未来の再建のためのベーシック・サービス」とは:『未
   来の再建』より-2(2020/11/18)
 10.ベーシックサービスは、ベーシックインカムの後で:『幸福の財政
   論』的BSへの決別と協働への道筋(2020/11/26)


ベーシックインカムに対して疑問を呈し、それに替わって「ベーシック・サービス」を提案しているのですが、
ベーシックインカムを問いなおす その現実と可能性』『未来の再建 』『幸福の増税論――財政はだれのために 』でその内容は確認できます。

そこで、何よりも重要なのは、立憲民主党の前身でもある、既に解党・解体した「民進党」の結党に井出氏が参画し、同党の政策にこのベーシックサービスを組み入れた経緯があることです。
その流れからすると、立民党が政策に記述している「ベーシックサービス」はそれと同じものと考えてよい、あるいは考えるべきと思うのです。

そして、財政学を専門とする井出氏は、ベーシックサービスの実現のための財源は、消費税率20%への増税に拠るとしているのです。
その後、民主党政権の福田内閣が、消費増税に導いたことが、その証左の一端と言えるわけです。

消費税を財源とする井手英策氏提案ベーシックサービス

その基本とする井出氏の考えとそれに対する私の考えについては、上記に紹介した記事集の中の以下の投稿で確認頂けます。
井手英策氏「財政とベーシックインカム」への対論(2020/11/9)
井手英策氏「ベーシック・サービスの提唱」への対論:『未来の再建』から(2020/11/17)
井手英策氏「未来の再建のためのベーシック・サービス」とは:『未来の再建』より-2(2020/11/18)

井出氏によるベーシックサービスでは、究極のめざすところが、医療・介護などはすべて無料化にあります。
無料化すれば、そのサービス需要は際限なく大きくなるでしょう。
そのときには、そのサービス分野に従事する人々の体制の拡充も必須となるでしょう。
どちらにも本当に対応できるのか。
甚だ疑問です。

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立憲民主党の財政・税制政策、軸は給付付き税額控除と財政健全化

そこで、最後に立憲民主党の社会保障財源の考え方を示している、綱領中の内容を紹介しましょう。

危機に強く信頼できる政府

上記の(ヵ)危機に強く信頼できる政府という政策として、以下が示されています。

政官財のしがらみから脱却し、現実的な未来志向の政党として、政治と行財政の適切な改革を着実に実行する

  • 所得再分配機能強化財源調達機能回復などの観点に立ち、税制全体のあり方について抜本的な見直しを進め、分厚い中間層を復活させます。
  • 人的控除の給付付き税額控除への転換や、金融所得課税の強化などを進めます。
  • 確かな税財源の確保や、行政需要の変化に応じた予算配分、適切な執行など歳出・歳入両面の改革を行い、中長期的に財政の健全化をめざします
  • 会計検査院の機能・体制を強化するとともに、立法府の行政監視機能を高め、特別会計を含む予算・決算の透明性を高め、税金の使い道を確認して行政の無駄を排除します。
  • 自動車関係諸税の二重課税解消を進めるとともに、環境負荷の軽減と総合的な負担軽減に資する新たな税制のあり方を検討します。
  • グリーン税制全体の中での負担を見据えつつ炭素税の導入を検討します。
  • デジタル課税の国際的合意をめざします。  以下略

ここに、同党のベーシックインカムに対する考え方が究極的に示されていると言えるでしょう。

すなわち、財政健全化の下、所得再分配機能を強化し、人的控除の給付付き税額控除に転換するという政策です。
ベーシックインカムという表現は使っていませんが、一応それに類する「人的控除給付付き税額控除」方式を所得税制に採用し、所得再分配方式を維持・強化し、財政健全化を実現する。

ある意味、これが実現できれば言うことがないのかもしれませんが、果たして、財源ゼロサム方式の社会保障制度は、問題なく実現できるでしょうか。
万一これに井出氏提案のベーシックサービスも採用すれば、所得税の累進性の強化と消費増税が同時に必要となり、予測不能の状態が出現することになると危惧します。

これでは革新、リベラルどころか、無責任政党の誹りを受けかねません。
この曖昧性を払拭し、政策として掲げる社会保障制度、税制、財政の実現可能性について、本気で説明すべきでしょう。
自ら考え、綱領政策に表現している内容の重さをどこまで認識しているのか。
問いかけたいものです。


こちらも参考に
⇒ れいわ新選組のベーシックインカム方針:デフレ脱却給付金という部分的BI(2021/4/4)

<ベーシック・ペンションをご理解頂くために最低限お読み頂きたい3つの記事>

⇒ 日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンションとは(2021/1/17)
⇒ 生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案(2021/3/2)
⇒ ベーシック・ペンションの年間給付額203兆1200億円:インフレリスク対策検討へ(2021/4/11)

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