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週刊エコノミスト「ベーシック・インカム入門」で終わらせないために:BI導入シアン-11(2020/7/16)


 今回は、前回の投稿の後半の
BI導入は、社会保障・社会福祉制度改革と一体で
住民税、社会保険料も、収入に応じて、有所得者全員が負担
という項目を受けて、社会保障制度全体の改革について思案する予定だった。

 しかし、前回記事
所得税を主財源とするベーシック・インカム制で所得税法改正へ:BI導入シアンー10
の終わりに、ベーシックインカム入門を特集記事とする【週刊エコノミスト】最新号を入手したことをメモした。
 その内容から、社会保障制度とBIとの関係へ懸念・突っ込み不足を抱かされた。
 そこで今回は予定を変えて、その入門特集を単なる入門に終わらせないために、現状での私の考えを用い、追加論、対論的に回答などを述べることにした。

週刊エコノミスト7月21日号特集『ベーシックインカム入門』への追論・対論

 まずその特集のサブタイトルに、「もう働かなくても大丈夫?」という、いかにも気を引くような文字が先頭に来る。
 安っぽい表現を使うもんだ!?
 まあそれはいいとして、特集の構成は、以下の6つのとQ、4つの小テーマで構成する。

Q1:なぜ今、BIの議論が?
Q2:どんなメリットが?
Q3:財源はどうする?
Q4:格差の現状は?
Q5:海外の現状は?
Q6:議論の歴史は?
(政党に聞く)「定額給付金とBI」公明党、国民民主党、共産党
(インタビュー)「私が考えるベーシックインカム」
        :竹中平蔵、茂木健一郎、原田泰、雨宮処凛
(本当に機能する?)「反対・警戒論の3つの要点」
(どうする社会保障)「貧困高齢者の議論が不可欠」


 現在の私においては、Q4、Q5、Q6 の内容はあまり興味関心はなく、実際にBIを検討する上で参考にするものは少ない。
(政党に聞く)では、政権党の自民党と、野党第1党の立憲民主党へのインタビューがないのが不思議だ。3党のコメントは、そんなところだろうとして、今回は踏み込まない。
(インタビュー)は、そこそこに読めばいいという程度だが、「今が一気に導入する好機」という竹中の能天気さには、呆れ返る。原田氏については後述。

Q4の財源問題に関する私の基本的な考え方は、以下の前回記事で述べた。
所得税を主財源とするベーシック・インカム制で所得税法改正へ:BI導入シアンー10

 ところで、先述した特集記事の構成において、当サイトでも既に取り上げた以下の書の著者である3人の専門家が登場している。

1)ベーシック・インカム入門 無条件給付の基本所得を考える(2009年初版:山森亮氏著)
2)『ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか』(2015年初版:原田泰氏著)
3)『AI時代の新・ベーシックインカム論』(2018年初版:井上智洋氏著)


 井上智洋氏は、<Q2:どんなメリットが?>で「困っている人を選ばず救済 大量失業時代の「安全網」に」と題して、
 1.普遍的に支援できる
 2.再分配の「崖」がない
 3.幸福度が上昇する
 4.労働環境が改善する
 5.AI時代の「救世主」

の5つのメリットを提示・説明している。
 前掲の井上氏の著書を読んだ者にとっては、特に目新しいものではなく、ほどほどに理解できるレベルのものだが、インパクト・説得力にはやや欠ける。
 原田泰氏は、インタビューで登場し、自身の著書に沿った内容のコメントを寄せている。
 特段、どうということはない。
 そして、山森亮氏は、<Q6:議論の歴史は?>で、「「社会を支える労働に報いる」 18世紀末から民衆運動の蓄積」と題して、やはり前掲した自著の内容に沿ったBIの歴史を解説している。
 歴史を知ることがBI導入にプラスになるか?
 同書を読んだ時、私には、むしろマイナスにしかならないような気がしたのだが。
 まあまさに、入門記事である。

 なお、参考までに3氏の著書を概括してBIについて自分なりに考えたものを、以下投稿している。

 ◆ ベーシック・インカムとは-1:歴史から学ぶベーシック・インカム
 ◆ ベーシック・インカムとは-2:リフレ派原田泰・前日銀政策委員会審議員から学ぶベーシック・インカム
 ◆ ベーシック・インカムとは-3:AIによる脱労働社会論から学ぶベーシック・インカム

ベーシックインカム入門に不可欠な、社会保障制度改革一体化論

 <週刊エコノミスト:ベーシックインカム入門>が、あくまでも入門にとどまっている理由は、複数の人の意見が、BIと社会保障制度との関係のあり方、BI導入時に社会保障制度はどうなっているかについての問題提起で終わっていることにある。
 穿った見方をすれば、入門編しか特集できないBI論の現状を示しているということかもしれない。
 マスコミのスタンスの限界は、本特集に名を連ねた専門家(風)論者自身が、皆問題提起レベルの論述にとどまっている限界と同次元なのだ。
 まだまだ、観念論・感覚論の域を出ていないとも言えようか。
 但し、私が知らないだけなのかもしれない。
 2018年12月に設立されたという「日本ベーシックインカム学会」のHPを見れば、目から鱗のBI導入計画が見られるかもしれない。
 が、まだまだその機会は後にしようと思う。

BI導入への3つの反対・警戒論とは

 <週刊エコノミスト:ベーシックインカム入門>で最も着目すべきは、岩手大学人文社会科学部・佐藤一光准教授による<本当に機能する?>「反対・警戒論の3つの要点」という記事だ。

1.社会保障給付の切り下げへの懸念
2.対人社会サービスの市場化への警戒
3.インフレへの恐怖

の3つを上げ、その対策として「給付付き税額控除」が現実的とした一文だ。
 しかし、「給付付き税額控除」は、社会保障の組み替えとしてのBIではなく、所得税の組み替えとしての「給付付き税額控除」への転換であり、BI論からは離れることを意味する。
 それでは、社会保障制度の改革とは無縁の税制改革程度に過ぎず、この特集からも逸脱するテーマになってしまうのだ。
 この後述べる視点での回答の先取りみたいになるので、元に戻ろう。

「反対・警戒論の3つの要点」への回答

 繰り返しになるが、前回の記事
所得税を主財源とするベーシック・インカム制で所得税法改正へ:BI導入シアンー10
の構成は、次のようになっている。

所得税を、ベーシック・インカムの財源とする理由
所得税で、BI原資が不足する場合に必要な財源措置
BI導入で、所得税は、各種控除廃止で簡素に
BI導入は、社会保障・社会福祉制度改革と一体で
住民税、社会保険料も、収入に応じて、有所得者全員が負担

 これを一部参考にしながら、3つの要点の各項について、記事で説明されている課題を転載し、私なりの回答を述べよう。

「社会保障給付の切り下げへの懸念」への回答

「現在の社会保障体系により、既に現金給付されている年金、生活保護、失業給付、児童手当・児童扶養手当などの水準が、引き下げられたり、合算して据え置かれたりするのではないかという懸念」
 何を言っているのか、という感じだ。
 ベーシックインカムは、例示された現行の社会保障給付を、より一層引き上げ、確実にし、安全度を高めようというものだ。
 そんな懸念を抱かせるBI論があるとすれば、それは偽りのBI制である。
 そんな懸念を抱き、こんなところで、さもありなんと提起するほうがおかしい。

BI導入は、社会保障・社会福祉制度改革と一体で
としているからには、BIがすべての社会保障制度よりも優位・優先するということではない。
 社会保障給付の拡充に沿ったBI制導入なのだ。

「対人社会サービスの市場化への警戒」への回答

「医療、介護、保育、福祉、教育など、政府が保障して供給する現物給付による対人社会サービスが、BI導入で廃止され、すべてが市場に委ねられるのではという警戒」
 これも、随分子どもじみた話だ。
 とりわけ、国民皆保険制度は、わが国の社会保障制度の根幹をなすものであり、医療保険・介護保険の給付がBIと交差することも、包含関係をなすこともありえない。
 義務教育制度が費用面でBIを侵食することもないし、いずれ義務保育化が実現すれば、同様である。
社会保障制度自体、本来、国や自治体と個人とが憲法に依拠して施行される公的事業である。
 すなわち、民間に委ねられるべき事業では本質的にはない。
 現状、それぞれの対人社会サービス制度・システムに問題は多いが、その多くは民間への業務委譲・移管が要因で生じたものと言える。
 その改善・改革は、BIとは異なる領域での課題である。
 こんな警戒論が流布しているのなら、その源を早期に一掃しておくべきだろう。
 因みに、前回投稿で
住民税、社会保険料も、収入に応じて、有所得者全員が負担
として、<社会保険料>(転じて<社会保障保険料>を負担すべきとしていることでも、BIプラス保険制度が基本であることが、理解できよう。

「インフレへの恐怖」への回答

「いかなる歳出削減がなく、財政赤字の拡大によりBIが設計された場合、需要だけが増大し、短期的にインフレを招き、結局低所得者に負担が集中することへの恐怖」
 これは、BIの財源問題と直接結びつく。
 最低限度の生活を維持するための基礎的な給付であるBIでは、需給関係に大きな差や歪みが発生する可能性は、社会経済向上大きくはないはずだ。
 もし問題が発生するとすれば、国内の産業構造自体に問題があるためで、コロナ禍でそのリスクが明確になっている部分もあり、企業行動として改善に向かうだろう。
 また、BIの使途を、国内の許可を受けた事業所のみでの利用や、社会保障関係支出を優先させるなどのルールを導入するなど、BI本来の目的に応じた法律を策定することも検討の余地があろう。
 これは、社会保障制度とは無関係なのだが、流れなので、書き加えた。

 次回、当初予定していた「Bi導入と一体として行うべき社会保障制度改革」を今回の特集記事も意識して思案する。

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本稿は、WEBサイト https://2050society.com 2020年7月16日投稿記事 2050society.com/?p=899 を転載したものです。

当ベーシックインカム、ベーシック・ペンション専用サイト http://basicpension.jp は2021年1月1日に開設しました。
しかし、2020年から上記WEBサイトで、ベーシックインカムに関する考察と記事投稿を行っていました。
そこで、同年中のベーシックインカム及び同年12月から用い始めたベーシック・ペンションに関するすべての記事を、当サイトに、実際の投稿日扱いで、2023年3月から転載作業を開始。
数日間かけて、不要部分の削除を含め一部修正を加えて、転載と公開を行うこととしました。
なお、現記事中には相当数の画像を挿入していますが、当転載記事では、必要な資料画像のみそのまま活用し、他は削除しています。
原記事は、上記リンクから確認頂けます。


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