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ベーシック・インカムとは-3:AIによる脱労働社会論から学ぶベーシック・インカム(2020/6/15)

本稿は、WEBサイト https://2050society.com 2020年6月15日投稿記事 2050society.com/?p=2359 を転載したものです。

『ベーシック・インカム入門』『ベーシック・インカム』『AI時代の新・ベーシックインカム論』から(後編)



ベーシック・インカム関連新書3冊をシリーズ化

1)ベーシック・インカム入門 無条件給付の基本所得を考える(2009年初版:山森亮氏著)
2)『ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか』(2015年初版:原田泰氏著)
3)『AI時代の新・ベーシックインカム論』(2018年初版:井上智洋氏著)

 私にとっての入門書となった、2009年初版の山森亮氏著ベーシック・インカム入門 無条件給付の基本所得を考えるから読み始め、次に2015年初版の原田泰氏著『ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか』と進めて、以下を投稿。
ベーシック・インカムとは-1:歴史から学ぶベーシック・インカム
ベーシック・インカムとは-2:リフレ派原田泰・前日銀政策委員会審議員から学ぶベーシック・インカム

 そして今回は3冊目。
 近刊と言える、2年前2018年4月30日初版の井上智洋氏著『AI時代の新・ベーシックインカム論』を、総括的な位置付けで速読。
 今シリーズ最後の投稿になる。

『AI時代の新・ベーシックインカム論』から考える

 過去2回のシリーズでは、私が考える各筆者の主張への対論的な記述を、ほとんどしてこなかった。
 が、この3冊の入門書の紹介後の展開を考えて、今回は、井上氏の論述に対して、現状の私の考えを、一部のみ対比させて書き加えていきたい。

ベーシック・インカムの基本:<第1章 ベーシック・インカム入門>から

 先の山森氏の書『ベーシック・インカム入門』と同じタイトルである第1章から、井上氏の考えるベーシック・インカムを簡潔に表現している部分を以下にピックアップした。

ベーシック・インカムとは、
◆ 収入の水準に拠らずにすべての人々に無条件に、最低生活を送るのに必要なお金を一律に給付する制度
◆ 「子ども手当+大人手当、つまりみんな手当」
◆ 普遍主義的社会保障であり、生活保護は、選別主義的社会保障
◆ 「労働」と「所得」を切り離すものではなく、「労働」と「生存」を切り離す制度


「子ども手当+大人手当、つまりみんな手当」及び「普遍主義的社会保障」。
 これとの関連では、私の提案では、「児童基礎年金」と「生活基礎年金」いずれかを受け取る、全世代生涯型社会保障年金制度としている。
 生活保護の選別主義的社会保障では、本来受給可能な収入基準の人々の多くが受給申請しない問題や、その認定において不公平性や権利主義的な傾向があることなどの問題が指摘されている。
 この問題を解消する上で、ベーシック・インカムの有意義性が共有されている。
「労働」「所得」「生存」の関係については、今後の展開の中で触れたいので、ここでは、上記の記述のみにとどめたい。

国家内限定循環財政というロジック:第2章<財源論と制度設計>から

 ベーシック・インカムを論じる時、真っ先に挙げられるのが「財源」をどうするか、だ。
 この第2章<財源論と制度設計>で筆者は、以下主張する。

◆ 財政再建は必要なく、国の借金はいずれ消滅する。(だから、財源の心配は要らない。)
◆ 所得税等税財源による固定ベーシック・インカムと貨幣発行益財源による変動ベーシック・インカムの2階建てベーシック・インカム制とする。
◆ 固定BIは、最低限の生活保障を目的とし、変動BIは、景気コントロールを目的とする。

 
 この章で、筆者は、原田氏の『ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか』での具体的な金額を上げての提案を引用し、概ねでの理解・賛同を示している。
 その主要財源として所得税とするのだが、それを「固定ベーシック・インカム」とし、それに「変動ベーシック・インカム」を上乗せしているのが特徴となっている。
 私は、生活基礎年金部分は、基本的には、税負担方式でと考えている。
 が、万一財源が不足する場合、その不足分の財政赤字を負担すべく発行した国債を、いずれ日銀が買い上げ、これと日銀の積立利益とを相殺する、すなわち国債を消却する方式で賄うことにしては、と考えている。
 本書では、貨幣発行益をBIに充てるとしているが、基本は通じることになる。
 日銀が上げる利益にはどういうものがあるか、なければこれからどのようにして事業収益を上げるか、が課題になるわけだ。
 もう少し時間をかけて考えたい。
 但し、井上氏が提案する「貨幣発行益」に関する認識についてか、以下のように考えている。
 私が考えるBIの年金は、紐付きで自由勝手に流通できる貨幣では支給されない。
 例えば、ブロックチェーンを利用しての暗号通貨のような通貨となるだろう。
 紙幣や貨幣の発行は行わない、国内だけかつ使途限定の通貨なので、氏がイメージする貨幣発行とは異なる形態になる。
 その議論は今後必要と考える。

 次の第3章<貨幣制度改革とベーシック・インカム>で、前章で提起した変動BI財源である「貨幣発行益」の活用とそのために必要な貨幣制度改革についてのロジックを示しているが、上記のような観点から、ここでのこれ以上の論述はやめておきたい。

AI時代ゆえBIという論法の是非:第4章 <AI時代になぜベーシック・インカムが必要なのか?>から

 AIの導入展開が進めば、雇用が奪われるとともに、資本家と労働者の経済格差が埋めようもなく拡大する。
 働かずに莫大な収益を得る資本家に対し、生計を可能にする収益さえ得られない労働者は、その収益の再分配をベーシック・インカムから得ることで、労働の苦役から逃れることが可能になる。
 多くの労働がAIやロボットなどに置き換えられた、労働不要の「脱労働社会」が、ベーシック・インカムの導入により出現する。

 私の稚拙な理解では、この章を端的に記すと、そうなる。
 AI視点からの論陣・論客として、前著『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊 』で脚光を浴びた同氏の得意とするところだが、多少なりとも違和感を感じつつ読み続けていった。

敵は儒教エートスか:第5章<政治経済思想とベーシック・インカム>から

 最後の章は、<政治経済思想とベーシック・インカム>となっている。
 日本で、ベーシック・インカムが反対される理由、それ以前に、生活保護を受ける人に対する批判や、生活保護を受けることをためらわせる理由について、日本人が抱いている「儒教」の教えに基づく行動規範・精神構造・価値観等を包括・包摂して「儒教エートス」が原因とする。
 また「労働は美徳か」と疑問を呈し、働かない自由が認められる社会を肯定する。
 初めは、過去と現在の政治思想におけるベーシック・インカムをテーマとして論を進めていたものが、途中から、BIを拒む精神論・道徳論に矛先を変えてしまったと受け止めた。
 AI論者が、精神論・道徳論に立ち向かわざるを得ない。
 なんとも不思議な総括になってしまったものだ。
 多くの国民や政治家・政党の賛同・賛意を得られるBI導入論を、AIに提案するように指示すれば、どんな論文や議案ができあがってくるだろうか。
 少なくとも今回の3冊を読んでの思いとしては、過去の思想家・哲学者の論述、過去の活動の歴史・記述をすべて読み込み、それらを組み替えて、総花的・総論的にまとめてくるだけではないか。
 そんな気がしてしまうのだが・・・。

AI時代と関係なく常態化する貧困・格差・失業等多様な社会保障としてのベーシック・インカム

 筆者が想定するAIによる脱労働社会は、2045年から2060年には到来するという。
 しかし、貧困・格差、母子家庭、種々の被災等による収入機会・就労機会の喪失などは、AI時代に特有のものではなく、過去も現在も、そして2045年に至る明日以降も絶対になくなることがない社会問題であり、政治課題である。
 AI時代を前提としてベーシック・インカムの必要性を合理化できるわけではない。
 また儒教エートスの排除をもってしても、脱労働社会とBIの理解を得ることができる保証もない。

 ベーシック・インカムが、憲法第25条に規定する基本的人権に基づくこの国の社会保障制度の基本として、不可欠のものという合意形成が可能か。
 同意を得られる、分かりやすく、合理的で持続可能な内容の制度・法律案を提示できるか。
 その実現を公約とする政党・政治家・政治団体を形成・輩出できるか。
 そのビジョンとシナリオが必要なのである。

 次回以降も、今回の3冊も座右に置きつつ、私なりに総論・各論、いろいろおりまぜて、粘り強くベーシック・インカムの望ましいあり方・展開の仕方を考えていくことにしたい。

母子家庭におけるベーシック・インカム「生活保障基礎年金+児童基礎年金」年間モデル(私案)

 なお、参考までに、私が考える、母子家庭におけるベーシック・インカム「生活保障基礎年金+児童基礎年金」の年間モデルを以下にあげておいた。
 今後の作業で変化・変更していくだろうし、今回の3冊で参考になった事柄なども反映させていくことになると思うので、現状ということで確認頂ければと思いう。

<親の生活基礎年金(月額)>
 ・支給額 13万円
 ・世代基礎控除
  ①社会保障医療基礎保険料 1万円 ②社会保障就業基礎保険料 5千円
  ③社会保障介護基礎保険料 5千円
 ・各種社会保障保険適用時利用可能ポイント給付額 4万円
 ・自由使途現金給付額 7万円
<子の児童基礎年金(月額)>
 ・支給額 13万円
 ・世代基礎控除
  ①保育(または教育)費用負担金 6万円
 ・自由使途現金給付額 7万円
<親子受給基礎年金合計(月額)>
 
・支給額合計 26万円
 ・世代基礎控除合計 8万円
 ・各種社会保障保険適用時利用可能ポイント給付額合計 4万円
 ・自由使途現金給付額合計 14万円

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当ベーシックインカム、ベーシック・ペンション専用サイト http://basicpension.jp は2021年1月1日に開設しました。
しかし、2020年から、冒頭のWEBサイトで、ベーシックインカムに関する考察と記事投稿を開始。
同年中のベーシックインカム及び同年12月から用い始めたベーシック・ペンションに関するすべての記事を、当サイトに、実際の投稿日扱いで、2023年3月から転載作業を開始。
数日間かけて、不要部分の削除を含め一部修正を加えて、転載と公開を行うこととしました。
なお、現記事中には相当数の画像を挿入していますが、当転載記事では、必要な資料画像のみそのまま活用し、他は削除しています。
原記事は、冒頭のリンクから確認頂けます。

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