主流派経済学におけるケインズ派と新自由主義派の異なるインフレ政策と課題:【『世界インフレと戦争』から考える2050年安保とベーシック・ペンション】シリーズー5
中野剛志氏著『世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道』(2022/12/15刊・幻冬舎新書)を参考にしての【『世界インフレと戦争』から考える2050年安保とベーシック・ペンション】シリーズ。
ここまで、「第1章」「第2章」を確認して、以下の4回の記事を投稿してきました。
<第1回>:リベラリズム批判と米国追随日本のグローバリゼーション終焉リスク:【『世界インフレと戦争』から考える2050年安保とベーシック・ペンション】シリーズー1(2023/1/17)
<第2回>:TPP批判・安倍首相批判による食料・エネルギー安保失政を考える:【『世界インフレと戦争』から考える2050年安保とベーシック・ペンション】シリーズー2(2023/1/18)
<第3回>:デマンドプル・インフレ、コストプッシュ・インフレ、貨幣供給過剰インフレを知る:『世界インフレと戦争』から考える2050年安保とベーシック・ペンション】シリーズー3(2023/1/22)
<第4回>:ベーシック・ペンション、インフレ懸念への基本認識:【『世界インフレと戦争』から考える2050年安保とベーシック・ペンション】シリーズー4(2023/1/24)
今回から2回は、「第3章 よみがえったスタグフレーション」をテーマに考えてみます。
「第3章 よみがえったスタグフレーション」から考える21世紀上期の経済安保とベーシック・ペンション
第3章の目次は以下です。
第3章 よみがえったスタグフレーション
第二次世界大戦後に起きた六回のインフレ
過去六回と比較し、今回のインフレをどう見るか
2022年2月以降はコストプッシュ・インフレ
FRBによる利上げは誤った政策
IMFは利上げによる世界的景気後退懸念
・コストプッシュ・インフレ対策としては利上げは逆効果
・1970年代よりはるかに複雑で深刻な事態
世界的な少子高齢化から生じるインフレ圧力
気候変動、軍事需要、長期的投資の減速
・「金融化」がもたらした株主重視の企業統治
・企業が賃金上昇を抑制する仕組みの完成
なぜ四十年前と同じ失敗が繰り返されるのか
インフレ政策をめぐる資本家と労働者の階級闘争
七〇年代のインフレが新自由主義の台頭をもたらした
・ケインズ主義の復活か新自由主義の隆盛か
この内容を、私なりに整理して、中野氏の基本的な考え方を理解し、ベーシック・ペンションと結びつけて考えるべき点がないか、以下のテーマで括って、確認することにします。
3-1 過去のインフレ、スタグフレーションの要因・実態と金融財政政策経済安保への道
本章でも、上記の目次を参考にしつつ、私なりの整理とメモ書きを以下のように進めていきます。
初めは、戦後及び現在のアメリカで発生のインフレについての比較分析と政策評価に関する記述を整理し、日本の最近の動向のメモを加えます。
アメリカのインフレをめぐる分析と評価、日本への影響
戦後アメリカの6回のインフレと2021年以降のインフレ比較分析から
中野氏は、本章の初めに、アメリカで第二次世界大戦以後起こった6回のインフレと2021年からのインフレを比較分析しています。
順に主な発生要因を簡潔化すれば以下としています。
1)戦時中の価格統制の廃止、供給不足、需要復活(1946年7月~1948年10月)
2)朝鮮戦争(1950年12月~1951年12月)
3)年平均成長率4.8%の好景気、及びベトナム戦争(1969年3月~1971年1月)
4)第一次石油危機(第四次中東戦争)、第二次石油危機(イラン革命)、食料不足、ドル安(1973年4月~1982年10月)
5)イラクのクェート侵攻、湾岸戦争(1989年4月~1991年5月)
6)原油価格の高騰(2008年7月~2008年8月)
まさに、本書のタイトルに相応しい?戦争とインフレとの関係性がここに集約されており、かつコストプッシュ・インフレ傾向の強さ、及びデマンドプッシュ・インフレとの複合性も示されていると言えるでしょう。
そして、当然のことながら、2021年を起点とするインフレは、コストプッシュ・インフレタイプであると断言します。
アメリカ2022年実施のコストプッシュ・インフレ対策としての利上げは失敗、の理由
アメリカが、1980年代初頭のインフレ時の対策と同様にとった2022年インフレ時の利上げ政策。
その対策としては、昨年のコストプッシュ・インフレの主要因が、パンデミックやウクライナ戦争によるエネルギーや食料のサプライチェーンの寸断にあるため、その問題を解決するためには供給制約の緩和をめざすべきである。
ゆえに、そこでの利上げは何の役にも立たない、と中野氏は断言します。
ここで思い起こすのは、まったく同じ要因により急激なインフレに見舞われている日本において、市場が、日銀黒田総裁もアメリカに追随して、緩和策の転換を明確化する2度目の利上げを行うと予想したにも拘わらず据え置きにして肩透かしを食らわせたこと。
中野氏の主張を読んだわけではないでしょうが、意外に受け止められたのが印象的でした。
中野氏の、コストプッシュ・インフレ時の利上げ批判の理由は、こうです。
利上げは、景気後退、高失業率、さらに新興国・発展途上国の債務問題の悪化や金融危機などの弊害をもたらす。
また利上げが招くドル高が、アメリカ以外の国々の通貨安を招き、各国は輸入財の価格高騰で一層のコストプッシュ・インフレに襲われることになり、アメリカが、コストプッシュ・インフレを輸出していることになる。
日本の現状の物価高要因と利上げ等金融政策をめぐる動向
まさに日本もこの影響を諸に受け、一時期円が150円台にまで急進したわけです。
こうした中、日銀の最初の金融緩和政策の転換となる利上げ発表後には、円高に転じたのですが、2度は続かなかったことで、また少し円安に振れることになりました。
そもそも、異次元の金融緩和政策が長期的に取られていたにもかかわらず、失われた20年とされるデフレ経済もまた長期化していた中、昨年後半からの急速な物価上昇(一時的なインフレ?)に転じたのは、中野氏が指摘する、長引くパンデミックにウクライナ戦争が、コストプッシュ・インフレを呼び込んだものです。
そして日本の現在は、政府がインフレに対抗できるだけの賃上げを企業に求め、春闘でも今年こそは大幅賃上げをと声を上げている状況です。
賃上げの程度が大きければ、それがデマンドプッシュ・インフレ要因になり、物価上昇がスパイラル化し、インフレが継続化する可能性が高まるかもしれませんが、果たして、そこまで至るかどうか。
IMF等国際機関が懸念する利上げによる景気後退
金融引き締め政策は需要抑制化し、景気悪化を呼び込む政策。
需要が供給能力を超えて拡大することで起きるデマンドプッシュ・インフレ対策としては理論的には正しいかもしれない。
しかし、2022年2月以降のインフレの主たる原因がコストプッシュ・インフレであればそれは誤った政策。
インフレ自体は抑制できるかもしれないが、その結果、家計や企業は犠牲になる。
こう言い、FRBが取った利上げ政策を批判し、IMF、世界銀行、UNCTADなども景気後退懸念を示していることも伝えているのです。
複雑化・深刻化するインフレおよびスタグフレーションとその要因
そして、利上げにより借入コストが上昇すると、価格支配力の強い独占企業は利益確保のためにかえって価格を吊り上げる可能性も。
こうなると物価抑制作用に加え、逆方向に一層物価を押し上げる作用も働く。
先日現状日本国内の物価が、8割を占める品目で上がっているという発表が。
その中には一部便乗値上げもあったのではと思ったのですが、異次元の金融緩和政策の急激な転換・利上げには、こうした副作用・反作用もありうるという例えではないかと思ったりもします。
ところでこの章の主テーマはスタグフレーション。
中野氏は、1970年代と2022年のスタグフレーションの比較を行ってます。
詳細は省きますが、この期、今直面しているスタグフレーションは、前者(先述の4)参照)よりもはるかに深刻かもしれないとし、その複雑性を以下を挙げて指摘します。
1)原因:米中貿易戦争、コロナ禍、露のウクライナ侵攻、気候変動、少子高齢化、株主資本主義、緊縮財政(対 第四次中東戦争、イラン戦争)
2)供給制約:原油、天然ガス、食料、希少金属、希ガス、半導体、労働力(対 主に原油)
3)人口:減少(対 増大)
4)経済成長:長期停滞(対 安定成長)
5)グローバリゼーション:終焉(対 開始前)
6)地政学的環境:Gゼロ(対 G7)
この分析の中から、現状のスタグフレーションに関する重要点として、以下の項目を抽出しています。
・世界的な少子高齢化がもたらす生産年齢人口比率の低下と労働力不足が引き起こすインフレ圧力
・グローバリゼーションの終焉による先進諸国から新興国・後進国への生産拠点の移転や外国人労働力受け入れにおける拒絶・抵抗もその要因に
・気候変動・異常気象がもたらす自然災害や食料危機・エネルギー危機による価格高騰、インフレ化
・グローバリゼーション終焉に伴い発生する地政学的不安定による軍事需要の増大や軍拡競争がもたらすインフレ圧力
・こうした不安定要素による将来への不確実性の拡張がもたらす民間企業の長期的投資の減退と生産能力低下が招くコストプッシュ・インフレ圧力
まさに複雑化しつつ、深刻化が進んでいることがイメージできます。
しかし、こうした変化は、理論的にはインフレの抑制、スタグフレーションの改善に向かわせる要素もあると言います。
金融政策がもたらした歪んだ金融資本主義経済、企業統治経済
どういうことか。
・少子高齢化で労働力不足が起きれば、労働者側の交渉力が高まり、賃金は上昇するはず
・企業の生産拠点の海外移転が困難になれば、国内における設備投資や研究開発投資を積極的に行うはず
・それに伴い、需要が拡大し、同時に投資が供給力を強化することから、賃金の上昇を伴う健全な経済成長が期待できるはず
しかし現実はそうはうまく運ばない。
素人の私が考えても、そううまくいくはずがないと思います。
ですが、これまで海外に生産拠点を移してきた国内の製造業は、これからは国内生産に回帰すべきと考えています。
それは、自国の需要に対しては自国で供給力を保持するという経済安保のためであり、それ自体が、ベーシック・ペンション導入におけるインフレ懸念対策になるゆえです。
この考えについては、第4章・第5章を取り上げる段階で、再度説明します。
本題に戻って、現実はそう運ばない理由として、中野氏は「企業統治が株主重視へと改造されてしまっているため」としています。
もう少し詳しくみていきます。
株主重視の企業統治定着で見られること
株主重視の企業統治が定着した環境では
・経営者たちが資本市場の圧力を受けて、短期的利益を追求
・長期的な視点に立った設備投資や研究開発投資よりも、債務を増やして自社株買いを行う
・債務依存体質の高まり、債務比率の高まりにより、経済は金融危機に対して脆弱に
・投資の鈍化・減退は、供給制約の解消にならず、経済停滞が続く
などの傾向が見られると。
この株主は、巨大資本家と呼び替えることができます。
しかも、この巨大資本家は、グローバリゼーションの終焉とは無関係に、縦横無尽にグローバル資本主義環境を活用し、金融資本主義を膨張させ続けているわけです。
こらは金融政策がもたらすものという論調ですが、私は、金融緩和も金融引き締めも、こうしたグローバル巨大資本家にとっては、どちらでもよいことであろうと感じています。
「金融化」「金融資本主義」がもたらした株主重視の企業統治
中野氏の指摘は続きます。
株主重視の企業統治は、1970年代のコストプッシュ・インフレが引き金となって始まった金融化によってもたらされた。
金融部門の支配は、企業統治にとどまらず、国家統治に及び、株主総会の企業統治を促進するような政策が実行されていった。
確かに、こうした金融資本主義が、今日の行き過ぎた資本主義を招いたと言えるのではと思います。
日本においても企業経営におけるガバナンスの強化という名のもとで、グローバル巨大資本家の支配が深まっていく道を辿ることになったとも。
日本における賃金抑圧政策と企業が賃金上昇を抑制する仕組みの完成
インフレと結びつけてのグローバリゼーション下、及びその終焉(断定してよいものかどうか、多少なりともを疑問はあるのですが)を迎えるに至るまで進んできた金融資本主義は、先述のとおり当然日本もその影響を免れることはありませんでした。
というよりも、欧米モデルの盲目的な追随により、むしろ、根が深い誤りを政府も日銀も、そして経営者も、犯し続けてきたのではと私は思っています。
以下は、中野氏が辿った日本の動きです。
1)1997年改正商法:ストック・オプション制度
2)2001年改正商法:新株予約権制度導入でストック・オプション制普及促進
3) 同上 :自社株買いで、目的を限定せず自社株の取得・保有可能に
4)2003年改正商法:取締役会の決定で自社株買い、機動的に実施可能になる規制緩和
5) 同上 :アメリカ的な社外取締役制度導入で外資による日本企業の買収が容易に
6)2005年会社法制定:株式交換が外資に解禁
この6)により、1990年代半ばまで1割程度だった日本企業の外国人持株比率が、2006年には約四分の一まで上昇。
これとは別に、労働者・企業関係における以下の法改正も。
7)1999年:労働者派遣事業が製造業を除いて原則自由化
8)2004年:上記、製造業も解禁
9)2001年:従業員が自己責任で年金を運用する確定拠出型年金制度導入で、企業が年金に関する責任から解放され、リストラによる人件費削減が一層容易に
その経緯・結果、企業利益処分の変化=株主重視や、非正規雇用の増大により、労働者の賃金が上がらなくなった。
そしてこの方向性を決定づけるものとして、第二次安倍政権下、2014年に行った、以下の賃金抑圧を一層進める金融化政策を紹介しています。
10)家計の資金を投資に向かわせるための少額投資非課税制度(NISA)導入
11)年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の公的・準公的資金運用やリスク管理体制等の見直しで、ポートフォリオにおける国内・海外の株式比率を高める
12)機関投資家等への規律としてスチュアードシップ・コード、企業に対する外部ガバナンス規律であるコーポレートガバナンス・コード策定
こうした欧米追随政策の結果、どうなったか。
1997年から約10年間で、資本金10億円以上の企業の配当金は6倍以上に。
経常利益や内部留保は3倍程度まで膨れ上がったが、平均従業員給与と設備投資が減少したことをグラフを用いて証明しているのです。
すなわち、日本における賃金抑圧システムが、政府と企業のタッグにより堅く形成されたわけです。
その結果、株主資本主義・金融資本主義の加速、巨大資本家所得の膨張と非正規雇用者を含む労働者の低賃金構造の固定化を推し進め、著しい貧困格差の拡大を長期化・継続化する事態を招いたことも。
なお、中野氏は、12)までの項目に、安倍政権下の「女性活躍」「人生百年時代」を掲げての女性と高齢者の労働市場への低賃金雇用創出、外国人の低賃金単純労働者の受け入れ増政策も一連の政策と、付け加えるのです。
果たして「新しい資本主義」を先ず掲げた岸田政権は、結局NISA枠の拡大と無期限化がそのための政策と極めて新鮮味を欠くものに。
そして異次元の少子化対策のための財源や、防衛費増のための財源論にいよいよ入らざるを得ない時期が近づいてくる折り、どのような財政政策を打ち出すか。
そして金融政策の番人、日銀の新総裁にどんな考え方を持つ人物を起用するか。
それらはインフレ対策の重要な意味・意義をもつものだけに、注視したいと思うのですが、首相をはじめ、全閣僚、全関係官僚、そして全国会議員に、中野氏の本書を読んでもらいたいと願うものです。
ついでですが、失礼ながら、できれば利用するデータは極力新しいものであれば一層効果的だったと。
1980年前後の主流派経済学におけるケインズ主義から新自由主義への転換と対立
今回のアメリカのインフレに対してFRBが採ったのは、オーソドックスなインフレ対策としての利上げ政策です。
ただ、その前に行った積極的な財政政策がデマンドプッシュ・インフレ対策としてのものであり、そのために起きたコストプッシュ・インフレを抑制するための利上げという性格を持つものでした。
すなわち過剰流動性、過剰貨幣発行がもたらしたインフレ対策としての利上げ政策に至ったと言えるわけです。
それが果たして適切かどうか、これから注視することになります。
こうした議論は、実は、主流派経済学のインフレに対する考え方の振れ幅の中に収まるものです。
一方は、戦後1970年代後半までの従来からのケインズ主義的な積極財政金融政策による「完全雇用政策」に基づくインフレ対策を主張する「ケインズ派」。
他方は、1970年代後半から1980年代初頭にかけて台頭した、マネタリズムに基づく「新自由主義派」。
後者は、1970年代後半の高インフレの要因を、ケインズ派の、政府による需要管理、すなわちデマンドプッシュ・インフレ惹起政策にあるとし、富裕者層・金利生活者・投資家及び金融機関をバックに、財政支出削減、金融引き締め政策によるインフレ抑制を掲げ、支持を受けたわけです。
21世紀に入っての主流派経済学者間の積極財政金融政策をめぐる対立とその行方、経済安保対策へ
さて時代は推移し21世紀現代のインフレ。
2008年の世界金融危機を境に、アメリカでは新自由主義の退潮、ケインズ主義の復活がみられたと。
先述の1980年代の新自由主義派のケインズ派批判の裏返しが行われたため。
金融危機の頻発、深刻な格差拡大、低インフレ・低金利・低成長状態の長期停滞は新自由主義政策に因るものというわけだ。
その流れの微妙さ、双方の政策の絶対性の欠如などを示す例として端的なのは、2016年にはFRB議長であったジャネット・イエレンが、それまでの立場での新自由主義的立場からの転換を意味する、積極財政金融政策が短期的にも長期的にも経済成長に寄与すると発表。
その後、2021年誕生のバイデン政権の財務長官に就任し、1.9兆円規模の「米国救済計画」他、大規模かつ計画的公共投資や、格差是正のための税制改革に着手したこと。
これで新自由主義の終わりとなると期待したのが、主流派経済学内で、2021年後半からのインフレは「過渡的」なものとする「過渡的派」だが、2022年のウクライナ侵攻以降のインフレ加速により同派の立場は後退。
「持続的派」が盛り返し、結果、イエレン後のFRB議長が、矢継ぎ早に利上げを断行して今日に至っていることは知るところです。
そして、こうした経緯や考え方に対する評価・批判を続けつつ、従来のインフレ対策からの転換を迫り、新たな視点でのインフレ及び経済の安全保障政策の提案に繋いでいくのです。
今回「第三章」の論述は、スタグフレーションを主なテーマに据えつつ、主流派経済学間に存在する異なるインフレ対策上の考え方に焦点を当てた側面があります。
これは、次の「第4章 インフレの経済学」の前置きとしてのものでもあるのです。
ベーシック・ペンションを考察する上で、特に財源問題を考える上で、実は次章が非常に重要な意味・意義を持ちます。
その前に、次回は、今回「第3章」の中野氏の論述を参考にして、ベーシック・ペンションとインフレ懸念問題を、以下のテーマを付して考えてみます。
「3-2 インフレ対策としての利上げ政策の誤りとベーシック・ペンションにおける想定対策」。
と、ここまで書いてきたにも拘わらず、まだ次回の内容が具体的に想像・想定できていない状況です。
ただ言えることは、ベーシック・ペンション導入に伴って懸念されるインフレ対策・政策は、単に過剰流動性を要因としての議論で収まるものではないこと。
またコストプッシュ・インフレとデマンドプッシュ・インフレ双方の特徴やそれぞれの対策の羅列で解決できるものでもないこと。
従い、元々ベーシック・ペンションで組み入れている方針・目的、管理運用方法・基準規定などと総合的に関連付け、それぞれのインフレをはじめとする金融財政等経済的要素と結びつけて考察する必要があることを再確認しておきたいと思います。
なお今回もお詫びですが、中野氏の記述では、引用した発言や著述の当事者の立場や実名を必ず示しているのですが、本稿ではほとんどそれらは割愛し、内容のみを簡潔化及び一部私なりにアレンジして活用・紹介しています。
ご了承ください。
【『世界インフレと戦争』から考える2050年安保とベーシック・ペンション】シリーズ展開計画(案)
1.「第1章 グローバリゼーションの終焉」から考える21世紀上期の安保政策課題
1-1 地政学・政治体制リスクと国家安保をめぐるコンセンサス形成ニーズ
1-2 グローバリゼーション終焉の現実としての食料・エネルギー安保政策
2.「第2章 二つのインフレーション」から考えるベーシック・ペンションとインフレリスク
2-1 デマンドプル・インフレとコストプッシュ・インフレ、それぞれの特徴
2-2 ベーシック・ペンションにおけるインフレ懸念の性質とリスク回避の可能性
3.「第3章 よみがえったスタグフレーション」から考える21世紀上期の経済安保とベーシック・ペンション
3-1 過去のインフレ、スタグフレーションの要因・実態と金融政策経済安保
3-2 インフレ対策としての利上げ政策の誤りとベーシック・ペンションにおける想定対策
4.「第4章 インフレの経済学」から考える21世紀上期の経済安保とベーシック・ペンション
4-1 財政政策がもたらす需要・供給と経済成長循環と国家財政の基本
4-2「貨幣循環理論」「現代貨幣理論」から考えるベーシック・ペンションの財源論
5.「第5章 恒久戦時経済」から考える21世紀の総合的・体系的・恒久的安保とベーシック・ペンションモデル
5-1 恒久経済システム確立のための新しい資本主義及び金融システム改革構想
5-2 ベーシック・ペンションがめざす、総合的・体系的・恒久的基礎生活及び社会保障安保
5-3 ベーシック・ペンションがめざす、総合的・体系的・恒久的社会経済システム安保
『世界インフレと戦争 恒久戦時経済への道』目次
はじめに 物価高騰が示す世界の歴史的変化
第1章 グローバリゼーションの終焉
ロシアのウクライナ侵攻で迎えた終焉
終わりの始まりは2008年の金融危機
最初から破綻していた、リベラリズムという論理
「中国の平和的な台頭」などあり得なかった
東アジアの地政学的均衡を崩した、アメリカの失敗
ウクライナ侵攻もリベラル覇権戦略破綻の結果
・金融危機、格差拡大、排外主義の高まり
・物価高騰は一時的な現象では終わらない
防衛費を抑制し続けた2010年代の日本
世界情勢の変化を把握せず、安全保障を軽視
・TPPは日本の食料安全保障を脅かす
・エネルギー安全保障も弱体化させた安倍政権
・電力システム改革が電力不安を不安定化した
中国の地域覇権の下で生きていくのが嫌ならば・・・
第2章 二つのインフレーション
グローバリゼーションが終わったからインフレが起きた
先進国ではインフレにならないことが問題だった
・デマンドプル・インフレ ー 需要過剰で物価が上昇
・コストプッシュ・インフレ ー 供給減少で物価が上昇
コストプッシュで持続的な物価上昇が起こる経緯
一時的な物価上昇も「インフレ」か
・原因も結果も対策も大きく異なる二つのインフレ
ノーベル経済学者十七人が長期のインフレ対策として積極財政を支持
・資本主義経済の正常な状態はマイルドなデマンドプル・インフレ
コストプッシュ・インフレの言い換え
第3章 よみがえったスタグフレーション
第二次世界大戦後に起きた六回のインフレ
過去六回と比較し、今回のインフレをどう見るか
2022年2月以降はコストプッシュ・インフレ
FRBによる利上げは誤った政策
IMFは利上げによる世界的景気後退懸念
・コストプッシュ・インフレ対策としては利上げは逆効果
・1970年代よりはるかに複雑で深刻な事態
世界的な少子高齢化から生じるインフレ圧力
気候変動、軍事需要、長期的投資の減速
・「金融化」がもたらした株主重視の企業統治
・企業が賃金上昇を抑制する仕組みの完成
なぜ四十年前と同じ失敗が繰り返されるのか
インフレ政策をめぐる資本家と労働者の階級闘争
七〇年代のインフレが新自由主義の台頭をもたらした
・ケインズ主義の復活か新自由主義の隆盛か
第4章 インフレの経済学
主流派経済学の物価理論と貨幣理論
貨幣供給量の制御から中央銀行による金利操作へ
コストプッシュ・インフレを想定していない政策判断
問題の根源は、貨幣に対する致命的な誤解
・注目すべき「貨幣循環理論」と「現代貨幣理論」
・財政支出に税による財源確保は必要ない
政府が財政赤字を計上しているのは正常な状態
・政府は無制限に自国通貨を発行でき、財政は破綻しない
・財政支出や金融緩和がインフレを起こすとは限らない
・ポスト・ケインズ派は「需要が供給を生む」と考える
「矛盾しているのは理論ではなく、資本主義経済である」
経済成長には財政支出の継続的な拡大が必要
ハイパーインフレはなぜ起きるのか
・コストプッシュ・インフレは経済理論だけでは解決できない
第5章 恒久戦時経済
第五波インフレで、世界は政治的危機へ
中世ヨーロッパ文明に終焉をもたらした第一波インフレ
格差拡大、反乱、革命、戦争を引き起こした第二波・第三波
冷戦の終結をもたらした第四波インフレ
すでに危険な状態にあった世界を襲った第五波
内戦が勃発する可能性が高まっているアメリカ
債務危機のリスクが高まりナショナリズムが先鋭化するEU
成長モデルの根本的な変更を余儀なくされている中国
中国の行き詰まりから東アジア全体で地政学的危機勃発か
日本は最優先で何に取り組むべきか
・安全保障を強化し、内需を拡大させる産業政策を
・国内秩序を維持するための「大きな政府」
・特定の財に限定した「戦略的価格統制」の有効性
・世界秩序の危機は長期化し、戦時経済体制も長期化
「恒久戦時経済」構築以外に生き残る道はない
おわりに 悲観的積極主義
20年、30年後の社会を生きるすべての世代へ
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