1. HOME
  2. 2022・23年考察
  3. ベーシックインカムの内容と財源:西野卓郎氏著『ベーシックインカムから考える 幸福のための安全保障』より-1
2022・23年考察

ベーシックインカムの内容と財源:西野卓郎氏著『ベーシックインカムから考える 幸福のための安全保障』より-1

少しずつ、よくなる社会に・・・

『ベーシックインカムへの道』『デジタル・ベーシックインカムで日本は無税国家になる!』等ベーシックインカム関連書3冊購入(2022/10/1)
で紹介した以下の3冊のベーシックインカム書。

1)『ベーシックインカムへの道 ―正義・自由・安全の社会インフラを実現させるには』(ガイ・スタンディング氏著・池村千秋氏訳、2018/2/10刊・プレジデント社)
2)『ベーシックインカムから考える 幸福のための安全保障』(西野卓郎氏著、 2021/5/28刊、幻冬舎ルネッサンス新書)
3)デジタル・ベーシックインカムで日本は無税国家になる!(苫米地英人氏著、2021/12/16刊、サイゾー社)


この3冊を紹介し、ベーシックインカム論を別の視点で考察しようという試みですが、初めに、後述した苫米地英人氏著デジタル・ベーシックインカムで日本は無税国家になる!のシリーズを終えており、今度は、西野卓郎氏著『ベーシックインカムから考える 幸福のための安全保障』を取り上げます。


西野卓郎氏著『ベーシックインカムから考える 幸福のための安全保障』の特徴と紹介シリーズ方針(2022/10/14)
この記事で述べたのですが、本書の構成を2つに分け、前段とした<第1章 人間の安全保障>の中で総合的・多面的に論じている「ベーシックインカム」について当サイトで次の3テーマに分け、『ベーシックインカムから考える 幸福のための安全保障』シリーズとして検討・考察していきます。
(後段部分は、https://2050society.com で取り上げます。)

<第1回>:ベーシックインカムの内容と財源(1~4節)
<第2回>:ベーシックインカムの意義及び安全保障機能(5~7節)
<第3回>:ベーシックインカム、ハウジングファースト、ベーシックサービスの関係及び機能と課題(8~9節)

『ベーシックインカムから考える 幸福のための安全保障』第1章:目次

第1章 人間の安全保障
 1.ベーシックインカムとハウジングファーストとベーシックサービスを基本に据える
 2.ムラよりカイシャを優先すれば日本が持たない
 3.社会的弱者はどのくらいいて、どのような境遇にあるのか

   ・たとえば障害者は?
   ・たとえばひとり親家庭は?
   ・たとえばひきこもりは?
 4.ベーシックインカム(BI)をどのように導入すればよいか
   ・ブーストインカムとしてのBIの給付基準
   ・財源の検討1
   ・財源の検討2
   ・財源の検討3
   ・財源の検討4
   ・財源の検討5
 5.ベーシックインカム(BI)を導入すれば日本は大きく変わる
   ・貧困層、低所得者層の支援
   ・総需要拡大効果
   ・健康な中間層の厚みを増す効果
   ・労働時間を短縮し労働生産性を高める効果
   ・経済構造改革への貢献
   ・男女格差の是正
   ・少子化対策効果
   ・起業の応援
   ・Uターン、Jターン、Iターンの後押し
   ・ディープな手仕事の復権
 6.BIをポイントで給付することがとても大きな副産物を生む
   ・BIをポイントとして給付する
   ・BI予算執行残額は無党派層が政治に参加する手段となる
   ・消費税を「累進税化」する
 7.加入者にとって有利な制度である公的年金は拡充する
 8.ハウジングファーストを拡大して市民社会の基礎をつくる

   ・ハウジングファースト(HF)とは
   ・住宅確保要配慮者
   ・公営住宅・公的住宅
   ・ナショナル・ミニマムとしてのHF
   ・住宅の質を高める
   ・超過課税の仕組みを活用する
   ・流域を単位とした防災まちづくり
 9.アウトリートでベーシックサービス(BS)を充実させる
   ・「縦割り」から「丸ごと」へ
   ・アウトリーチの必要性
   ・総合的に対応できるソーシャルワーカー
   ・BIが給付される社会でのベーシックサービスの意味

『ベーシックインカムから考える 幸福のための安全保障』シリーズ-1:ベーシックインカムの内容と財源

本章のタイトルである「人間の安全保障」について、冒頭以下の引用があります。

人間の安全保障とは

人間の安全保障とは、従来の国家安全保障に代わって人々の安全を保障しようとする概念
貧困、紛争、環境破壊、感染症など世界の人々が直面する脅威を包括的に捉え、人々を中心とした視点からより効果的に対処することをめざす。
(国際連合広報センターホームページより)

その実現のためには、ベーシックインカム(BI)、ハウジングファースト(HF)、ベーシックサービス(BS)を基礎とする社会づくりが必要。

これが、本書第1章の冒頭掲げられている筆者の思いです。
その根底には、貧困問題をはじめとする多様な脅威から人々を守るための包括的かつ基本的な援助が必要であり、それを構成するのが、BI、HF、BSというわけです。

ただ、「国家の安全保障に代わって人々の安全を保障する」という概念は、どうも漫然としており、人々の安全を保障する主体は誰なのか、なんなのかを示していないのが気になります。
構造的・機能的には、その方法・制度等を設定するのは、国及び自治体と思うゆえです。

次に筆者は、その対象となる人々が帰属する社会として、筆者は、「カイシャ(職域)」と「ムラ(地域)」の2種類の帰属集団の組み合わせを提示します。
そして、現状、社会の中でムラの切り捨て、カイシャの中での中小企業の切リ捨て、大企業の中での非正規雇用の切り捨てが重層的に進行し、所得格差や地位格差をもたらしており、その放置が社会的な問題の拡大、不安の増大を招くと警鐘を投げかけます。
その認識は、私が受ける感覚では、一面的であり、パターン化されたものに映ります。
地域を「ムラ」と表現することに違和感を感じるのです。
格差問題を強調する意図が大きいのでしょうが、この2面で包括することにはムリがあると思います。

そして、その延長上にある最も着目すべき社会問題として<社会的弱者>を取り上げ、以下の3つの弱者の現状を数値で示しています。

社会的弱者の現状例

1)障害者の現状:『障害者白書』平成30年版より(児童含む)
 ・身体障害者:436万人  ・知的障害者:108.2万人  ・精神障害者:392.4万人 
 ・合計936.6万人(全人口比7.4%) 
 ・他に、障害者手帳所持者以外の障害者
2)ひとり親家庭の現状
 ・『2019年国民生活基礎調査』:相対的貧困率15.4%、(17歳以下)子どもの貧困率13.5%
 ・『平成28年度全国ひとり親世帯等調査』(厚生労働省)
   母子家庭(123.2万世帯)81.8%就労:正規雇用44.2%、パート・アルバイト43.2%
   母親平均収入243万円(内、平均年間就労収入200万円)、世帯全員収入348万円
   ひとり親家庭中、生活保護受給母子世帯及び父子世帯共に約1割
3)ひきこもり者の現状
 ・『若者の生活に関する調査報告書2016年』:15~39歳までの若年層引きこもり状態者54.1万人
 ・『生活状況に関する調査2019年』:40~64歳のひきこもり状態者61.3万人(3/4男性)

当然といえますが、ベーシックインカムを展開するにあたって、最初に意識し、改善すべき課題として取り上げるのが、貧困問題であり、そうした人々の生活の基本を維持するための給付とその基準が、多面的な展開の基盤になります。
そこで、他者の論述ではあまり見られなかった「ブースト」という概念を活用して、ベーシックインカム論にアプローチし、本論に入っていきます。

「ブースト・インカム」としてのベーシックインカムの支給水準

このテーマで、少し事務的に、以下筆者の論点を整理していきます。

ベーシックインカムとは?

最低限暮らしに必要な現金を、所得・資産・能力・職歴等の条件を問わず、無条件ですべての個人に死ぬまで定期的に支給する政策

ブーストインカムとは?

公的年金は、高齢世帯の生活の下支えとして、生計費全体を賄うことができないが、就労や資産取り崩しを加えることで生計を成り立たせる。(海老原嗣生氏著『年金不安の正体』を参考にしたもの)
この「(生活を)底上げする・引き上げる」という意味での「ブースト機能」をベーシックインカムが果たすとして「ブースト・インカム」という表現に置き換えることもできる。

ブースト・インカムの支給水準

ベーシックインカムをブースト・インカム機能を持つものとし、給与を<固定部分>と<変動部分>に分け、前者に相当する額をベーシックインカムとして支給すると仮定
・最低賃金時給1000円、年間所定労働時間1920時間、年間賃金計192万円
・人口1億人、総額192兆円予算必要(日本の現状の国家予算約100兆円)

最低限の衣食住を保障するベーシックインカム給付水準

1)2019年調査・総務省統計局「家計調査(家計収支編)」に基づく試算
(教育扶助・住宅扶助を除く生活扶助部分のみで試算)
・一人当たり年額143.4万円(<通信>加えると年額79.8万円)
・世帯人員2人とすると同71.7万円。平均世帯人員2.4人の場合同59.7万円
・(満額)基礎年金との合計約150万円
・地方郡部等の(68歳)高齢者単身世帯生活扶助額月額6万5500円、年額78万6000円
2)2019年厚生労働省「国民生活基礎調査」からの試算
・世帯人員一人当たり平均家計支出月額:高齢者世帯8.04万円、母子世帯8.13万円。年額約97万円
3)(以上からの)必要仮設定ベーシックインカム支給額
・一人年額60~80万円。人口1億2千万人、年間総額72~96兆円。人口1億人同60~80兆円
4)BI支給額の調整検討事項案
・(0~14歳)2019年年少人口1521万人(12.0%)への支給額を半額に
・(65歳以上)同高齢者人口3515万人(27.7%):最低限年金とBI合計として障害年金と同等額給付必要
・男女の年金受給額格差や賃金格差を勘案し、仮に平均月額7万円のBI財源とした場合、所得再分配化調整により、男性5.8万円、女性8.2万円に

いろいろデータを活用して、試算結果を羅列しているのですが、どの数字が筆者が最も適切として主張・提案しているのか分かりにくいのが残念です。
モデルとしては、1人年間192万円のベーシックインカム給付を提示しつつ、住居費用支援を除いて、固定部分のブースト・インカムとしては、1人年間60~80万円程度をイメージし、他を変動部分としてベーシックインカム給付を積み上げていく、と理解・解釈してみました。

そしてその財源をどう捻出するかについて、筆者は、次の5項目による歳入増の方法を提案しています。

ベーシックインカムの財源案

1)予算の振替え
・児童手当1.3兆円
・生活保護1.2兆円(住宅扶助部分0.6兆円、医療扶助全額無料分1.7兆円等を除く生活扶助分のみ)
・合計2.5兆円

2)税制改正
消費税率10%から20%への引き上げにより25兆円
個人金融資産課税18.9~37.9兆円
・短期保有で売買を繰り返すキャピタルゲイン課税強化
相続税改定(現状年間相続税税収年間1.5兆円に対して)
 毎年の遺産額・金融資産18兆円、不動産10兆円とし相続税負担者のカバー率と実効税率の引き上げで遺産額の50%を相続税収化で14兆円(波頭亨氏『成熟日本への進路 「成長論」から「分配論」へ』より
・但しBIによる支払いでは、消費税は非課税化か軽減すべき

3)個人金融資産税:上記税制改正による財源確保策に組み入れている<個人金融資産税>のあり方についてこの項で詳述しているが省略

4)特別会計のスリム化
特別会計から、特殊法人(33法人)、認可法人(34法人+α)及び独立行政法人(87法人)に対しての特別会計への出資総額(会計間相互の重複計上額及び国債借換額を除いた統計ベースでの国の財政規模=歳出予算)は、一般会計43.2兆円に対して195.7兆円。
この予算の透明化と不用事業廃止、不急資金の積み立て休止等による余剰資金捻出で、フローベースで毎年16兆円、その他の推計で同10兆円見込み可能(波頭亮氏同著)

5)企業負担
租税特別措置等の優遇措置改定で法人税増収9兆円
厚生年金保険の国庫負担分の企業サイド負担への切り替え9.3兆円
法人税実効税率1%引き上げで0.5兆円税収増

税制改革による財源捻出にムリはないか?

まあ、こうした財源捻出案は、他のベーシックインカム論書でも見られるところです。
提示された改正事項をすべて合算すれば、必要なベーシックインカム原資が簡単に捻出できるかのようですが、異質で多種の案件を同時に改定に持ち込むことは至難の技です。
なお、筆者が参考にしている波頭氏の著書の発行は2010年と10年以上前のもの。
修正はしていると思いますが、少なからず疑問を感じます。
仮に、相続税や個人金融資産税をこの主張に沿って改定すれば、その対策を個々人は生前に考えて、節税すべく種々工夫するでしょうから、料負担に関する改定には触れずじまいなのも気になります。
繰り返しになりますが、ここまでの西野氏によるベーシックインカム給付額案とその財源捻出案は、明確に金額で示されたとは思えません。
加えて、ハウジング・ファースト及びベーシックサービスにかかる費用と財源に関する考察・提案も本章の最後に示されるため、この3つの社会保障制度すべてに要する費用・財源がどうなるのか、それが明らかになるまで、ペンディングになるわけです。

なお、日本におけるベーシックインカム論の展開において、財源をどうするか、具体案を示した代表的な例として、原田泰氏著『ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか』(2015/2/24刊・中公新書)があります。
その紹介を以下の記事で昨年初めに行なっています。
リフレ派原田泰氏2015年提案ベーシックインカム給付額と財源試算:月額7万円、年間総額96兆3千億円(2021/2/3)

財源捻出不要のベーシックインカムの視点

ところで、私が提案しているベーシック・ペンションは、日本銀行の通貨発行権を利用し、当然日本銀行法を抜本的に改正することが必然ですが、既存の税制や社会保険制度には一切手を付けずに、いうならば、財源を必要としない、財源フリーによる発行・支給方式を採用しています。
その上で、ここで提起される問題のうち、改善すべき課題があれば、取り組み、一般会計上の歳入に充てていけば望ましいと考えています。
但し、ベーシック・ペンションは、その内容導入において関連する社会保障制度や労働制度、日銀法など総合的な制度・法律の改廃が不可欠であり、お金だけの議論で済むはずがないことはいうまでもありません。
詳しくは、本サイトで展開の各論で確認頂ければと思います。

また、私の案と類似した、財源を税や保険料などに依存しない、日銀の通貨発行権の活用に基づく、財源フリーによるデジタル・ベーシックインカム構想を、苫米地英人氏が自身の著『デジタル・ベーシックインカムで日本は無税国家になる!』で提起。
西野氏著シリーズの前に、以下の3回の記事でその基本的な考え方・方法などを紹介済みです。
もしまだご覧頂いていないようでしたら、ご参考まで。

<第1回>:ベーシック・ペンションと苫米地氏デジタル・ベーシックインカムとの類似点:『デジタル・ベーシックインカムで日本は無税国家になる!』より-1(2022/10/7)
<第2回>:日銀の通貨発行権によるQE量的緩和をベーシックインカムの財源に:『デジタル・ベーシックインカムで日本は無税国家になる!』より-2(2022/10/10)
<第3回>:無税国家論よりも重要な、財源不要のデジタル・ベーシックインカム論の理解:『デジタル・ベーシックインカムで日本は無税国家になる!』より-3(2022/10/12)


次回第2回は、<ベーシックインカムの意義及び安全保障機能>というテーマで、第5節~7節を取り上げます。

(参考)『ベーシックインカムから考える 幸福のための安全保障』第2章以降:目次

第2章 家族の安全保障
 1.生物学的に見ると人間の家族の特長は家族にあった
 2.虐待は脳を傷つけ一生を左右して子へと連鎖する
 3.ヒトは子育てを共同で行う
 4.母性と父性は与える順序とバランスが大事
 5.子育ては妊娠期に始まっている
 6.愛着が形成されてこそ人を信じることができるようになる
 7.安全基地を持つことで未知の社会へ踏み出すことができる
 8.不安な回避型愛着スタイルが増加している

第3章 社会の安全保障
 1.分人が心のレジリエンスを高める
 2.バディという考え方がつながりを育てる
 3.「ダメ」「やめなさい」だけでは非認知能力は身に付かない
 4.いじめや非行の原因が生まれないようにする
 5.実行機能を育み二分法的な思考を克服する
 6.大卒層と非大卒層が社会を支えるバディを組む
 7.保育や福祉の仕事を支える「教育困難校」を再生する

第4章 定常化社会
 1.定常化社会とは循環型社会・分散型社会でもある
 2.今や成長論から分配論に転換すべきときを迎えている
 3.公益資本主義が企業を構成している「社中」を豊かにする
 4.人口減少社会を「定常化社会」と捉え直してみる
 5.世代内でも支え合う社会保障
 6.日本の歴史的伝統に立ち返る都市経営
 7.エネルギーシフトが地元を豊かにする
 8.エネルギーシフトのために電力貯蔵を進化させる
 9.経済成長に依存しない経済をつくり次世代に引く継ぐ
10.流域(圏)別の広域連合が山や水やエネルギーを管理する
11.社会的共通資本は専門家が住民と協力して維持・管理する
12.歩いて楽しめる歩行者中心のまちをつくろう
13.地域経済を回して日々の暮らしを豊かにしよう

第5章 人類の安全保障
 1.気候危機には地球温暖化と寒冷化の両面がある
 2.カーボンコントロールを目標としつつ炭素を回収・貯蔵する
 3.CO2フリー水素だけが本当の水素エネルギーである
 4.IT、ICT、IoTの進展は人類の危機を深める
   ・IT化・情報化によるエネルギー問題の深刻化
   ・生殖革命とIT革命による回避型人類の増加
   ・人間らしい情緒的活動の発達と遊びの質
 5.脳の感受性期に提供する環境が人類の未来を大きく左右する

終章 BESでオキシトシン・リッチな環境をつくる

少しずつ、よくなる社会に・・・

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。