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2022・23年考察

紋切り型<社会保障の経済・財政との一体改革>論から脱却してベーシック・ペンションを:日経経済教室「社会保障 次のビジョン」から-1

少しずつ、よくなる社会に・・・

3月上旬、日経<経済教室>欄で、「社会保障 次のビジョン」というテーマで、3人の学者による小論が連載されました。
それぞれを順にその内容を取り上げ、当サイト提案の日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンションの必要性・有効性と結びつけて考えてみたいと思います。
第1回は、香取照幸上智大学教授による「経済・財政と一体的改革を」と題した小論です。

(参考)⇒ 社会保障 次のビジョン(上) 経済・財政と一体的改革を: 日本経済新聞 (nikkei.com)

社会保障は経済成長の果実の分配なのか

少子高齢化が進み経済が停滞するなか、雇用の不安定化格差・貧困の拡大により社会の分断が進んでいる。国家財政は毎年度の歳入の約4割を赤字国債に依存し、累積した財政赤字は国内総生産(GDP)の2倍に達する。

こうした書き出しで始まり、

国家財政の持続可能性が維持できなければ、社会保障の機能の持続性も確保できない。
社会保障は経済成長の果実の分配だから経済成長がなければ社会保障の財源も確保できない。
他方で社会保障が機能不全を起こせば経済活動は萎縮し、国民生活はリスクにさらされ社会は不安定化する。

こう続けて、同小論の基本認識を示しています。
少子高齢化、経済の停滞、雇用の不安定化、格差・貧困の拡大、社会の分断。
もうここ10年以上にわたって見聞きするキーワードが列記され、簡潔に現在そして当分続くであろう日本の問題を表しています。
そして、赤字国債依存、累積財政赤字、その規模としてのGDP比。
これが、次の<社会保障>財源問題の同氏のみならず、多くの政党政治家、財務省等、学者の共通する認識として結論付けられます。
曰く。

社会保障は経済成長の果実の分配ゆえ、経済成長がなければ社会保障財源も確保できない。

と。
果たして、社会保障は経済成長の果実の分配なのか。
とすると、経済成長がなければ、社会保障制度の向上・充実はありえないことになる。
まずその認識自体が問題であり、そこから脱却しない限り、結局何も変わらないのではないか。
現に、10年以上にわたって指摘されて、警鐘が鳴らされてきた上記の問題は、改善・解決どころか、悪化する一方ではなかったか。

基本認識の間違いから導かれてきた、紋切り型の効果がなかった社会保障政策・経済対策

この最も常識的に聞こえ、常識として述べられる考え方は、結局、
・労働生産性を向上させるべき
・少子化に歯止めをかけ、労働力人口をふやすべく対策を取るべき
・社会保障・福祉の利用で受益する高齢者等の保険料や自己負担を引き上げるべき
という、やはり一般的らしき、紋切り型の答えしか導きだせてこなかったのではないでしょう。
せいぜい、所得再分配をより進める、という方策を取りうるのでしょうが、それとても結局、広義の経済活動の成果、個人・法人レベルの資本所得・金融所得で得た国家財政収入で賄うことに依存するのでしょう。
人口減少・高齢化社会において労働生産性を高めるには、多くの場合、極力原材料を必要としない、かつ労働力を必要最小限とする産業・事業に傾斜する必要があります。
科学技術、IT、AI等によるイノベーションがそれを可能にするということでしょう。
しかし、仮にそうした成果が上がったとしても、それが働く人々の賃金の引き上げや法人所得税として国や自治体の歳入に入ってこない限り、社会保障財源の確保・増加に直結しないことは明らかです。
結局、経済成長がなかったから、という結論でストップしてしまう。

では、香取教授は、この状態からどう脱却しようというのか。
こう続けています。

社会経済の問題を解決し社会保障の機能と持続可能性をいかに確保するか。財政と社会保障、経済と社会保障は相互に連関している。一体的に改革する必要がある。

こうした断定からは、人々が将来に希望を持つことができる政策は出てこないこと、これまでの議論では出てこなかったことをしっかりと認識すべきでしょう。

まず2040年の社会保障の姿を展望してみよう。社会保障給付の規模は実額ではなくGDP比で考えなければならない。

従い、こうしたGDP比論も、GDP自体の算出方法への疑問と併せて、再考が必要でしょう。
そもそも、同氏のGDP比論自体も、説得力を持ち得ていません。

2040年度の社会保障給付費のGDP比は約24%で、2015年度の1.1倍。
2000年度から2015年度にかけての1.5倍増との比較では、2040年度までのGDP比の伸びは低下。後期高齢者が1.37倍増を考慮すれば、むしろ抑制されているといっていい
総人口減少、医療・介護・年金等社会保障全体を通じて中長期的に効果が持続する構造的な適正化対策、特に給付額を抑制する「マクロ経済スライド」導入などの年金改革の効果により年金のGDP比が下がることが寄与する。
公的年金のGDP比は長期的に安定し、むしろ下がっていく。国民経済との関係では、マクロの公的年金制度を巡る大ぶりの改革の必要性は乏しい。


要するに、先々高齢者個々人が受け取る年金が抑制されることをよしとする社会保障政策なのです。
もちろん、そのプロセスにおける介護保険料を含む社会保険料の増額や、自己負担の増額についての影響などここでは配慮していません。
すなわち、経済成長を目論みつつも、保障の方は段々悪くなる。
そもそも問題があるGDP自体の予測値はどのようにして設定し、どの程度の確度・精度があるものかも不透明です。

格差・貧困問題の基本認識と紋切り型「分配と成長」の連立方程式提案

次に格差や貧困問題についての考察・提案が続きます。

今後さらに少子化も高齢化も進む、避けられない人口減少の中で経済や財政と整合性のとれる社会保障の構築が必要だ。
だが格差・貧困が拡大し社会の分断が進むなか、社会保障に求められる機能・役割はむしろ拡大している
社会保障を通じた適切な分配を進めることは、安定した中間層の形成、格差拡大の抑制、消費(需要)の下支えなどを通じて、社会の安定と経済の持続的成長の可能性を高める
経済・財政・社会保障の相互依存関係を理解し分配と成長の連立方程式を成立させる解が必要なのだ。


やはり、中間層の形成、格差拡大の抑制、消費の下支え、そして経済の持続的成長と連なり、経済・財政・社会保障の一体化による分配と成長政策、と現内閣標榜の新しい資本主義の実現でそれが可能となります。
しかし現実は、いわずもがな、です。

ではその成長も可能とする「社会保障を通じた適切な分配」方法を示してもらいましょう。

課題は、引退期の所得保障という公的年金の機能を維持するための「ミクロの給付水準の確保」にある。
その方策は14年改正の議論で、公的年金では、支え手の拡大(少子化対策、非正規労働者への厚生年金適用拡大)、寿命の伸長に合わせた就労期間(=加入期間)の延長、受給開始年齢の選択制導入、そして公的年金を補完する私的年金の拡充と提起。

やはり、段々悪くなる社会保障制度であり、社会政策・経済政策です。

国民の医療介護ニーズに的確かつ効率的に応え最適のサービスを最適のコストで提供」は、簡単に可能な最適解か

次に、医療及び介護政策について。

さらなる高齢化の進行、特に後期高齢者の増大、そして医療技術の進歩(医療の高度化)により寿命が伸び、医療・介護費のGDP比は引き続き増大し、生涯医療・介護費は増大。
医療や介護は「実需=実体ニーズ」であり、このトレンドは不変とする。
ゆえに、制限医療や混合医療の導入は問題の解にならない。公的医療介護費は減っても、社会全体での医療介護コストは減らない

そう。
社会全体で、当面医療介護コストは、絶対に減りません。
そこで必要なのは、こうだとしています。

超長寿社会の医療・介護政策には、限られた人的・物的資源でニーズを効率的に賄う改革、「提供体制改革」への発想の転換が必要とする。
限りある人的・物的資源の効率的利用等、思い切った「選択と集中」が必要である。

「選択と集中」。
これも耳タコ用語。
その方法の選択を誤まると大変です。
現に、コロナ禍で、これまでの医療体制の合理化・効率化がマイナスに働いたことが指摘されました。

具体的には、疾病構造・患者像の変化に合わせて
病院機能分化を徹底により、急性期病院への資源の集中投入で早期治療・入院期間を短縮
退院後は地域医療・在宅介護で支える
治療から生活支援、施設から在宅、医療から介護、病院・施設から地域・在宅へと、医療介護全体の人的物的資源を大きくシフトし、地域完結・ネットワーク型の提供体制、地域包括ケアを構築する。
地味で息の長い改革だが、方向感を間違えることなく、着実に進めていくことが必要だ。

治療から生活支援、施設から在宅、医療から介護、病院・施設から地域・在宅、それによる地域完結・ネットワーク、地域包括ケアの構築。
これも従来言われ続け、取り組みが継続されてきているはずの政策。
筆者いわく、「地味で息の長い改革」で「着実に進めて」いく必要があることは明らかだが、エッセンシャル・ワーカーの労働条件・環境の悪さ、そこからくる人材不足などの抜本的対策は用意されているのか。
また、一体いつ頃までにどの状態にもっていけるのか、行くのか、国及び地方自治体レベル双方での総合的な中長短期の工程表が必要だが、果たしてそれを示しうるのか。
そもそも、治療から生活支援、施設から在宅などと簡単にいうが、結局それは家族の負担を一層強いることになるのは目に見えているし、加えて単身世帯の増加で、家族を資源とすること自体不可能になってきているのだが。

少子化社会問題と政策への認識

最も重要な課題の一つの考察に入ってきました。

少子化は静かなる有事
経済政策・社会政策等すべての政策局面で、避けがたい人口減少のトレンドを前提とした発想の転換、施策の組み立て直しを必要とする。
人口減少のトレンドを変えることはもはや極めて困難であり、2025年以降、人口減少の波は高齢世代にも及び、総人口の減少は加速。特に生産年齢人口は大きく減少する。
仮に、出生率が劇的に改善しても、子どもが成長し実際に労働市場に参加してくるのは20年後であり、2040年ごろまでは新たな支え手の数は決まっている。
しかし、これから生まれてくる子どもの数を回復させる努力をすれば、40年以降の労働力の急速な減少に歯止めをかけられる。

問題は、その努力、しかも成果が期待できる方法・方策ですが、どんなものでしょう。

持続可能な社会保障に同時実施が必要な2つの少子化対策戦略・施策とは

香取氏は、日本の社会経済の持続可能化には、以下の2つの戦略の同時実施が必要としています。

1)2040年までを念頭に置いた「少子化対応=労働力率向上戦略」
2)2040年以降のための「少子化克服=出生率回復戦略」

1)は、今いる現役世代の労働力率の向上、労働力の量と質を確保するための施策
2)は、1)を実施しつつ、同時に積極的に出生率(出生数)の回復を可能にする施策

長期間を必要とする課題と認識することは必須ですが、問題は、具体的に2040年までに何に取り組むかです。
その解、実現の鍵として、以下を挙げています。

1)働き方改革と両立支援
2)家族形成支援としての「育児の社会化=包括的子育て支援制度の創設」
加えて、そのためには、「産業界・企業が果たすべき責任・役割は極めて重要になる」とも。

しかし、それは比較的恵まれた企業でのみ期待でき、対応できるものであり、中小零細企業の多くの非正規雇用者や共働き世帯には、望み得ないことでしょう。
また具体的な施策の大半は、地方自治体に丸投げされることも懸念されます。
加えて、就労機会を失っている人や経済的不安から結婚することさえ難しいと考える人々にとっては、無縁の話。
育児の「社会化」という口当たりのよい表現も、「社会」が意味する範囲や内容により、実態が大きく変わり、その社会から排除される人々が多いことは、これまでの社会政策・経済政策から容易に想像できることに注意が必要です。
「包括的」という意味も同様です。
自治体ごとの格差が発生する可能性も大きいでしょう。

増やすべき家族関係給付を明示せよ

日本の家族関係給付は社会保障給付全体の7%、GDP比で2%弱
多様な家族支援施策を継続的に展開し出生率の回復を実現したフランスやスウェーデンの半分の水準。
「多様」ということばの便利さ、都合の良さで済む話ではまったくありません。
家族関係給付の低さも、常套文句。
使い方・使われ方の問題があり、やはり関連する個々の制度の在り方を取り上げていく必要があります。
現役世代を支援する施策は、将来の日本を支えるための「未来への投資」と、これも最近よく用いられる耳に心地よいフレーズ。

社会保障・税一体改革による消費税の社会保障目的税化で、少子化を使途目的に加えて最優先で充当したのは、まさにこのための安定財源を確保する狙いだったことを想起してほしい。


想起するのはたやすいが、では具体的にどのようにして、どの程度の規模・財源を家族支援施策に投じるべきなのか、明確に示すべきだろう。
消費増税で対応せよと言いたいのか、それとも究極の所得の再分配で臨めというのか。
フランスなどがとった多様な少子化対策に有効な政策、家族支援施策とは、どういうもので、どれだけの投資でそれが可能になったのか。
それらは日本でも有効なのか。
こうした成功とされる背景にある社会構造や認識・文化の違いをどこまで認識できているか。
日本の諸事情・背景の違いに何があり、そのための異なるどんな政策が必要と考えられるか。
その具体策と投資額を示さずに、肝心なそこは丸投げして総論提起で終わってしまうことも、やはり常套手段としているのでしょうか。

真の意味の「包括的」社会保障は、すべての人々に平等に支給されるベーシックインカム、ベーシック・ペンションだけで実現される

不十分な丸投げ提案で終わらざるを得ないのは、紙面に限りがあるからだけではないでしょう。
本小論のような内容は、これまでも提起・提案されてきたものであり、大差はありません。
いわば共通認識論として確認するレベルだけのもの。
その内容と成果への結びつきには、なんの保障・保証・補償もありません。
みんなちょろちょろ、なにかやっている感。
それで時間がどんどん過ぎていき、だんだん良くなるどころか、だんだん悪くなっていく。
なんとなく見えているシナリオと思えます。
デジャブでもあります。

結局、見える形での確実な変革方法は、ベーシック・ペンションを軸とした社会保障制度改革からスタートすることが、現状の選択肢としての最適解である。
そう提案・提言したいと思うのです。
すべての国民に、無条件で、平等に給付する生活基礎年金としてのベーシックインカム。
故に、世代間の負担の不公平・不満を解消する全世代型社会保障制度であり、生まれてから死ぬまでの生涯保障制度であるベーシック・ペンション、生活基礎年金制度。
乗り超えるべき課題は多いですが、まさに地道に、息長く取り組み、だんだん良くなる社会と生活の道筋と方法を示すことができるベーシック・ペンション。
その理解に務める必要を、再確認しています。

(参考)
ベーシック・ペンション法(生活基礎年金法)2022年版法案:2022年ベーシック・ペンション案-1(2022/2/16)
少子化・高齢化社会対策優先でベーシック・ペンション実現へ:2022年ベーシック・ペンション案-2(2022/2/17)
マイナポイントでベーシック・ペンション暫定支給時の管理運用方法と発行額:2022年ベーシック・ペンション案-3(2022/2/18)
困窮者生活保護制度から全国民生活保障制度ベーシック・ペンションへ:2022年ベーシック・ペンション案-4(2022/2/19)

                       少しずつ、よくなる社会に・・・

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