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2020・21年考察

CBDCで市中銀行は不要になる?:『CBDC中央銀行デジタル通貨の衝撃』とJBPC-3

野口悠紀雄氏著『CBDC中央銀行デジタル通貨の衝撃』から-3


野口悠紀雄氏著『CBDC 中央銀行デジタル通貨の衝撃』(2021/11/15刊・新潮社)を参考にして、当サイトで提案する日本独自のベーシックインカム、ベーシックペンション(Basic Pension, BP)の専用デジタル通貨(Japanese Basic Pension Currency, JBPC)としての給付について、技術面・運用面での課題などを再検討するシリーズ。

これまで
日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金BPの専用デジタル通貨化を考えるシリーズ:『CBDC中央銀行デジタル通貨の衝撃』とJBPC-序(2021/12/15)
仮想通貨、電子マネー、デジタル通貨、JBPCの特徴:『CBDC中央銀行デジタル通貨の衝撃』とJBPC-1 (2021/12/17)
CBDC中央銀行デジタル通貨の特徴と強みを知る:『CBDC中央銀行デジタル通貨の衝撃』とJBPC-2 (2021/12/20)
と進み、今回は第3回目。

今回は、<第4章 中央銀行デジタル通貨は社会の基本を変える> を参考にして作業を進めます。

第4章 中央銀行デジタル通貨は社会の基本を変える >から

第4章 中央銀行デジタル通貨は社会の基本を変える
 1.中央銀行によるデジタル通貨発行の競争が加速
 2.銀行預金が流出するという大問題
 3.銀行預金の流出への対処法
 4.プライバシー問題にどう対処するか?
 5.中央銀行による通貨発行の独占は必要か?望ましいか?

上記の構成の第4章において、初めの欧州等各国のデジタル通貨発行をめぐる競争については、本稿との関係は薄いため省略し、以下の課題に絞って整理してみます。

信用創造をめぐる課題と銀行預金と銀行自体の消滅?

マネー創造の2つの方法。
一つは、銀行が国債を買い上げることでマネーが創造されるもの。
もう一つは、銀行が行う「信用創造」によるもの。
筆者はこう説明します。

銀行は、増加した預金の一部で貸出を行うことで大部分が預金となって戻り、さらにその一部を貸出に用いる、という過程により、元の預金増の数倍の預金増が実現される。
これが信用創造のプロセス。


デジタル通貨が現実化すれば、その銀行の信用創造システムが変わらざるをえなくなる。
この課題についての説明部分を簡略化しました。

電子マネー、仮想通貨、デジタル通貨が、銀行の信用創造を制約・不能に?

電子マネーを持つために銀行預金口座の現金を使用すると預金残高が減少する。
その電子マネーが使われなければ、あるいは投資などに転用されれば、銀行預金残高は減少したままになる。
仮想通貨もデジタル通貨も、これに換えるために現金預金が降ろされ、その預金は銀行口座に戻ることなく流通し、銀行口座残高は減少したまま。
そのため、信用創造力も低下し、ひいては信用創造不可能となり、銀行不要論に行き着くことにもなりかねない。
実際に、預金準備率を100%とすべきという考え方も当然あり、この場合自己資本の範囲内での貸出しかできず、信用創造禁止に近い状態を意味することになるわけです。

CBDCで銀行不要に

仮に仮想通貨(リブラ改め)ディエムが、グローバルに流通すると、膨大な額の現預金がディエムに交換され、市中銀行の預金が戻らなくなります。
極端を言えば、市中銀行は要らなくなる。
これと同様、中央銀行が自ら口座を開設し、CBDCを発行し、この口座で決済・送金などの管理を統括すれば、やはり市中銀行は不要になります。
ただ、CBDCの送金額や保有額に限度を設定すれば回避できますが。
しかし、諸外国でCBDCが発行されれば、そうはいかなくなるわけで、やはりCDBCの威力・影響力は甚大なものと認識しておく必要があります。

では、CBDCの1種であるJBPC発行時に市中銀行はどうなるか。
後述します。

この他、CBDC発行時に銀行預金の流出を止める方法についての記述もありますが、やはりJBPCとの関連性はここでは触れる必要がないため省略します。

なお、信用創造に関する記事として以下を投稿していますのでご参考まで。
知らなかった、民間銀行の濡れ手で粟の信用創造:『資本主義から脱却せよ』から考える社会経済システム-2(2021/5/9)
信用創造廃止と貨幣発行公有化で、資本主義と社会はどうなるのか:『資本主義から脱却せよ』から考える社会経済システム-3(2021/5/11)

次にこの章の展開順としては入れ替わりますが、中央銀行の通貨発行権に関する説明部分に移ります。

中央銀行の通貨発行権をめぐる課題

中央銀行のマネー発行独占権について

先述の市中銀行のマネー創造機能と関係した課題として、中央銀行が通貨の発行権を独占することの適否について述べています。
日本銀行券を印刷して発行する権利は日銀だけの専権事項と当たり前に思っていますが、市中銀行も信用創造という方法で紙幣は刷らないけれど、マネーを市中に増やす機能、言わば権利を持っている。
当初こうした信用創造という用語と事実を私は理解できませんでした。
銀行預金残高の方が、中央銀行券の発行残高よりも圧倒的に多いということも。

「預金準備制度」に基づく信用創造として、一応の制約はありますが、その準備比率が著しく低く、極めて形式的であるため、経済成長期やバブル期には、この信用創造モードの高まりでインフレ懸念が拡大するリスクが伴うわけです。

財政ファイナンスをめぐる課題

こうしたマネーの発行をめぐる課題を考えるに当たって、「財政ファイナンス」という概念・機能を用いて説明していますが、私流の解釈・理解で簡単に表現しました。
マネーの発行を中央銀行が独占できれば、マネーで財政支出を賄うことができるわけですが、これには当然功罪両面があります。
中央銀行と中央政府の専権としての財政支出フリー、通貨発行独占権は、政府が良からぬ支出・使途に走るリスクをイメージするのは容易です。
しかし、良い使い方をすれば、素晴らしい権利行使と評価され、受け入れられるわけです。

中央銀行デジタル通貨発行におけるプライバシー問題

順序を入れ替えて、最後に、CBDC導入時の「プライバシー」問題を追加事項として持ってきました。
但し、匿名性、プライバシーに関する課題は、既に以下の記事で取り上げています。
仮想通貨、電子マネー、デジタル通貨、JBPCの特徴:『CBDC中央銀行デジタル通貨の衝撃』とJBPC-1

それはCBDCだけに絞っての扱いではありませんでしたが、本質的には同質の問題です。
従い、その記事内にある
<ブロックチェーンと仮想通貨におけるプライバシー(匿名性)と管理>
<ベーシック・ペンションにおけるプライバシーと管理>

という項の部分でご確認ください。



CBDCの一種であるベーシック・ペンション専用デジタル通貨JBPCの在り方

今回の上記内容とベーシック・ペンションJBPCとを関連させたいくつかの課題について、本稿のまとめとして以下書き加えてみます。

まず、現状の市中銀行の信用創造システムや、果たしている機能との関係について。
専用デジタル通貨ベーシック・ペンションJBPCを提案する者としては、JBPCが発行されても、現状の日銀の日銀券発行権に基づく法定通貨は従来どおりであり、市中銀行に拠る信用創造システムも存続するという立場です。
(現状の預金準備率に拠る市中銀行の信用創造制度には不満がありますが。)
しかし、本書のテーマである一般的な中央銀行デジタル円通貨が日銀により発行される状況になった場合には、金融システムの何らかの改革は必要と考えます。

次に「財政ファイナンス」との関連です。
ベーシック・ペンションは、政府の一般会計や特別会計の財源に頼らず、すなわち税・保険料や国債に頼ることなく、唯一日本銀行の(デジタル)通貨発行権に基づき国家が発行し支給し、流通・循環・回収・消却する財政フリーマネーとしています。
従い、懸念される最も重要な課題は、膨大な金額(年間100~200兆円規模)のJBPCが発行されることによるインフレ発生リスクとその対策です。
この問題については、これまでも取り上げてきていますが未解決であり、今後も別稿で継続して取り上げていきます。

最後のプライバシー問題は、先の記事で確認頂ければと思います。


今回は、本章のかなりの内容を割愛しました。
中央銀行デジタル通貨は社会の基本を変える>というテーマの章。
当サイト提案の「CBDCベーシック・ペンションデジタル通貨JBPC」も、まさに、社会の基本を変える社会保障制度改革、社会経済システム構築をめざすものです。

従い、次回取り上げるのは<第6章「デジタル円」の前に立ちはだかる厚い壁>ですが、 これを<「ベーシック・ペンションデジタル通貨JBPC」の前に立ちはだかる厚い壁>と読み替えて臨むべきかと思っています。
果たしてどうなるでしょうか?

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『CBDC中央銀行デジタル通貨の衝撃』の構成

はじめに
第1章 リブラが口火を切ったデジタル通貨
 1.世界通貨「リブラ」の構想が与えた衝撃
 2.電子マネーではなく、仮想通貨だから重要
 3.本当は日本にとっても大問題
 4.プライバシーを求めるのか?管理社会を許容するのか?
 5.価格安定化は容易でない
 6.「リブラ」から「ディエム」へ
第2章 CDBCの仕組みと必要性
 1.CBDCの仕組み
 2.国民の利便性向上と金融包摂
 3.中央銀行の立場から見て、なぜデジタル通貨が必要か?
 4.複雑でコストが高い現在の仕組み
第3章 デジタル人民元は大きな脅威となる
 1.デジタル人民元の基本構造
 2.デジタル人民元の詳細構造
 3. デジタル人民元はいかなる影響を及ぼすか
 4.広範に使われている電子マネーはどうなるのか?
 5. デジタル人民元の目的は電子マネーの排除?
第4章 中央銀行デジタル通貨は社会の基本を変える
 1.中央銀行によるデジタル通貨発行の競争が加速
 2.銀行預金が流出するという大問題
 3.銀行預金の流出への対処法
 4.プライバシー問題にどう対処するか?
 5.中央銀行による通貨発行の独占は必要か?望ましいか?
第5章 ビットコイン創始者は「国の管理から自由な通貨」を求めた
 1.「プライバシーが守られる通貨」に惹かれた人々
 2.ねじ曲げられた当初の理想
 3.資金逃避先となったビットコイン
 4.アンドリーセンがビットコインに夢を託す
 5.仮想通貨の重要性が広く認められるようになった
 6.ビットコインは「デジタル・ゴールド」になったか?
第6章 「デジタル円」の前に立ちはだかる厚い壁
 1.「デジタル円」は動き出すのか?
 2.日本はキャッシュレス後進国
 3.手数料収入を当てにするメガバンクのデジタル通貨戦略は間違い
 4.乱立する日本の電子マネー
 5.「デジタル円」の利用率をゼロにできるかの?
第7章 パラダイムの転換に成功した社会が未来を拓く
 1.デジタル人民元のインパクト
 2.スゥェーデンやユーロはCBDC導入に向かう
 3.デジタルドルはどうなるか?
 4.「ディエム」はどうなるのか?
 5.CBDCはパラダイムの転換
終 章 デジタル通貨時代に向けての5つの提言
 1.危機感を持って通貨主権を守れ
 2.デジタル通貨政策を確立せよ
 3.銀行のビジネスモデルを、「手数料」から「データ利用」に大転換せよ
 4.個人情報主権を確立せよ
 5. デジタル通貨をきっかけとして、日本の未来を構築せよ

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以下は、すべて参考資料として再度掲載するものです。

生活基礎年金ベーシック・ペンションBPの定義

1.すべての日本国民に、個人ごとに支給される。
2.生まれた日から亡くなった日まで、年齢に応じて、無条件に、毎月定期的に生活基礎年金(総称)として支給される。
3.基礎的な生活に必要な物品やサービスを購入・利用することを目的に支給される。
4.個人が、自分の名義で、日本銀行に、個人番号を口座番号として開設した専用口座宛に支給される。
5.現金ではなく、デジタル通貨(JBPC、Japanese Basic Pension Currency)が支給される。
6.このデジタル通貨は、国の負担で、日本銀行が発行し、日本銀行から支給される。

デジタル通貨JBPCの特徴および条件

【個人番号日銀口座限定】
1.日本銀行に開設した、個人番号を口座番号とするJBPC専用口座だけに保有でき、他の市中金融機関に送金・預金・保管はできない。
【国内限定】 
2.日本国内でのみ利用できる、一種の地域通貨である。
【使途限定】
3.利用できる商品やサービスは、基礎的な生活を送るための利用に限定される。
【利用事業所限定】
4.その目的に適応した、事前に申請し、認可された事業所で利用できる。
【デジタル通貨限定】
5.個人番号カードまたはインターネット上で、特定のアプリケーションソフトを用いて支払い決済し、それと同時に、個人口座から引き落とされる。
【期間限定】
6.利用できる期間が決められており、期限内に利用しない場合は自動的に日本銀行に回収される。
【譲渡・相続・資産化禁止】
7.個人当人の基礎的な生活に利用することを目的としており、他人への譲渡・相続や資産として長期に保有・蓄財することはできない。
【事業所法人番号紐付け日銀口座限定】
8.3の条件を満たし、事前に届け出て認可された事業所は、法人番号を口座番号としてたJBPC専用口座を、日本銀行に開設する。
【処理処分限定】
9.通貨保有者の利用によりJBPCを専用口座で受け取った事業所(以下、一次事業所)は、以下のいずれかの方法により、処理・処分できる。
 1)一次事業所と同様事前に申請し、承認を得た二次事業所からの物品の仕入れ・調達のために、一定期間内に利用する。
 2)国や地方自治体に納入する税金、保険料その他の納付金費用に充当し、国もしくは地方自治体に、一定期間内に納付する。
 3)決算時に、保有するJBPCを利益金と相殺処分(損金処分)して、日本銀行に送付する。
 4)上記のいずれかで、JBPCを一定期間内に利用・納付・処分することができない場合、期限内に日本銀行に届け出て、現金と交換する。
【日本銀行管理限定】
10.利用・流通・保管されたすべてのJBPCは、上記の期間内にすべて日本銀行に回収・返却され、日本銀行の資産処分により消却(バーン)され、還流してきたJBPC残高はなくなる。

当シリーズでの課題の範囲と除外した課題

 なお、繰り返しになりますが、この野口氏著『CBDC 中央銀行デジタル通貨の衝撃 』を用いての本シリーズでは、BPベーシック・ペンションが抱える重要な課題のうち、JBPC給付額、その財源問題、その膨大な金額の給付によって発生が予想されるインフレ問題など重要な課題・問題については、間接的・副次的に論じることはあっても、主題として取り上げません。
 それらについては、別のシリーズや個別記事で対応していきます。

 また、当サイト提案は、全額専用デジタル通貨でのBP給付を目標・理想とするものですが、デジタル通貨化自体のハードルの高さや、財源問題などを現実的に考えた時、その一部は先行して現金またはこれに替わるデジタル通貨以外での給付を採用することもあり得るとしたいと思います。
 その考えの一端は、以下の記事で提示しています。

全員月額7万円で始める:ベーシックインカム現実的実現法考察-1(2021/7/17)
月額7万円ベーシックインカムの条件と期待効果:ベーシックインカム現実的実現法考察-2(2021/7/18)
無理なく、漸進的・段階的に導入するベーシックインカム:ベーシックインカム現実的実現法考察-3 (2021/7/19)

参考:ベーシック・ペンションの専用デジタル通貨化に関するこれまでの記事リスト

◆ 日本初デジタル地域通貨「白虎」開発の藤井靖史会津大客員准教授にアプローチ (2020/12/18)
ブロックチェーン専門家の藤井靖史氏が日本独自のBI、ベーシック・ペンションを評価 (2020/12/29)
なぜ日本銀行が、デジタル通貨でベーシック・ペンションを発行・支給・管理するのか:ベーシック・ペンション10のなぜ?-3(2021/1/22)
なぜ循環し、回収消却され、再生し、世代を継承していくベーシック・ペンションなのか:ベーシック・ペンション10のなぜ?-6~10(2021/1/24)
なぜベーシック・ペンションは現金ではなくデジタル通貨なのか:DX時代の必然としてのJBPC (2021/2/17)
ベーシック・ペンション実現に10年を想定する4つの理由(わけ) (2021/3/4)

参考:ベーシック・ペンションの基礎知識としての5記事

日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンションとは(2021/1/17)
諸説入り乱れるBI論の「財源の罠」から解き放つベーシック・ペンション:ベーシック・ペンション10のなぜ?-4、5(2021/1/23)
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)前文(案)(2021/5/20)
生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案(2021/3/2)

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