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2020・21年考察

仮想通貨Worldcoinでベーシックインカム構想のプロジェクトを考える


 WIRED誌の2021/11/12号に、GIAN M. VOLPICELLI 執筆、 MADOKA SUGIYAMA氏 訳による
仮想通貨「Worldcoin」は、ベーシックインカムを実現できるか | WIRED.jp」と題した記事が掲載されている。

 当サイトで提案する日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンション生活基礎年金(BP)は、BPだけのための専用デジタル通貨(JBPC)で支給するもの。
 これを仮想通貨に置き換えてその記事を読んでみるか、この仮想通貨をJBPCに置き換えて読んでみるか。
 まあそれも結局、この構想が誰が行うのかにより評価の仕方は違ってくるので、まずは、その記事の概要を知り、そこから思い浮かぶことをメモしていきたい。

WIRED(US)

サム・アルトマンが仮想通貨Worldcoinを無料で配る「ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)」実現プロジェクト

 起業家・投資家サム・アルトマンは、今年2021年10月中旬までに、このプロジェクト開始を目的に、他の共同創業者と共にアンドリーセン・ホロウィッツやCoinbase Ventures等の有力なVCから2,500万ドル(約28億5,000万円)を調達したという。
 地球上のすべての人に金銭を無料で配りたいと考える彼の構想は、現金ではなく、(当プロジェクト名ともしている)Worldcoin と名付けた仮想通貨(暗号通貨)を無料で配ることで、それを一種の ユニヴァーサル・ベーシックインカム(UBI)に発展させること。

 このベンチャーキャピタルによる融資が実現した背景には、もちろん仮想通貨自体への人気・関心があるが、それとは別に、「ファイナンシャル・インクルージョン(金融包摂)」という理想・構想も重要な意味を持つという。
 それは「地球上のすべての人に仮想通貨を少しずつ分け与えることでネットワーク効果を引き起こし、Worldcoinを世界的で公平な分散型の電子通貨に進化させられる」ということ。

AI研究で知られるOpenAIを率いるアルトマンが考える、虹彩認証によるコイン無料配布

かつてシリコンヴァレーのアクセラレーターとして有名なYコンビネーターのCEOだったことでも知られるアルトマン。
プロジェクトWorldcoinでは、すべての人が確実にWorldcoinの公平な分配を受けられるようにするために、個人に固有の虹彩のパターンを認識する、眼球を意味する「Orb(オーブ)」という球形の装置を開発。
これにより、コインを所有者として請求する権利をもっている人かどうか照合するという。
この数千個のオーブを全世界の「オーブ・オペレーター」と呼ばれる起業家たちに配布。
オーブ・オペレーターは、眼をスキャンする人々にWorldcoinを授ける役割を担うと同時に、スキャンした人数に応じて報酬をWorldcoinで受け取る。
運用が始まってからのWorldcoinの価値は、一般的な仮想通貨と同じようにオンラインの取引所における需要と供給のバランスによって決まるわけだ。

ということは、BIとして受け取ったWorldcoinの価値が変動するわけだ。
これは、BIとしては問題であろう。
まあ、今は構想段階であり、こう言っている段階なので、目くじら立てる必要はないですが。
「Worldcoinは、UBIのプロトタイプに関する新しい考えを世界に示すことができるかもしれない」と。
また今後、Worldcoinの仮想通貨を請求する人が、2年以内に10億人になると大胆に予測。
仮想通貨の世界のことなら、こうした予想もありうる話です。

なお、虹彩認証をめぐる個人情報問題について。
虹彩のデータは、すべて「IrisHash」と呼ばれるデジタルコードに変換され、このコードは将来のIrisHashと照合し、すでにWorldcoinを受け取っている利用者へのWorldcoinの分配を拒むために同社のデータベースに保存されるが、虹彩の画像自体はデータベースから削除される。
従いWorldcoinが個人データを保存することはなく、このシステムは安全であるとしている。

実地試験中プロジェクトにおける不正請求防止と個人情報保護対策

このプロジェクトは、すでに約30台のオーブを用いて複数の国で試験運用に入っているとしている。
そこでは実際に人々の眼や身体、顔の画像と、それらの3次元スキャン等多くのデータを保存。
そこでの「実地試験中のプライヴァシーについて」は、 地球上のすべての人に公平かつ包括的にWorldcoinを分配するためにそれらのデータは必要だが、それらのデータの収集を遠からず停止し、かつ個人情報を売却するビジネスは手がけないという。
また2022年初頭まで続く見込みのこの段階においては、画像データの収集はオーブを動作させる不正検出アルゴリズムの精度を高めることが目的であり、それまでに収集したデータは「(アルゴリズムを)十分に訓練できた」段階で削除する。

何かを無料で得られると期待してオーブのシステムに引き寄せられる人々がいる一方で、大勢のオーブ・オペレーターは報酬が目的でオーブのシステムに人々を盛んに勧誘することになる。
そのため不当な報酬を得るためにオーブを取り扱ったり、二重にWorldcoinを手に入れようとする者など悪質な利用者を排除するセキュリティも必須であり、こうした不正検出システムもテスト段階にあるとされる、
ただそのためには、利用者によるWorldcoinの請求履歴や取引の記録を調べることができる。


「壮大な社会実験」の不透明な今後

Worldcoinは「公平な通貨」であり、「かつてなく大規模な金融ネットワークを構築するチャンス」が生まれる。
この仮想通貨技術が世界的なレベルで採用されると「数十億人に社会的・経済的なチャンスが生まれる」ことから、UBIが重要な役割を果たすことになるという。

この試験運用期間中、Worldcoinを請求した人数は13万人以上に。
また、10月下旬までにチリ、ケニア、インドネシア、スーダン、フランスなどで25人のオーブ・オペレーターが稼働し、30台のオーブを運用。
今後新しいオーブの生産を年間50,000台まで増やす構想により、利用者が10億人の見通しに。
WorldcoinはEthereumのトークン規格「ERC-20」に基づいて発行される予定で、運用開始は22年初めになるという。

これを称して、本稿の筆者は「アルトマンにとってのネットワークの力に関する「素晴らしく壮大な社会実験」の始まりであり、UBIに関する将来の野望の実現に向けた最終リハーサルでもある。」と言っています。

しかし、果たして、ユニバーサル・ベーシックインカムと呼ぶに相応しい構想かつ実験プロセスとなりうるかどうか。
その筆者のUBIについての認識を含めて、仮想通貨自体の現状と今後の懸念、特にセキュリティ問題と個人情報問題に関する明確な回答は、本稿から読み取ることができません。
プロジェクトそのものの情報公開が、今後も十分に行われることはないでしょうし、民間のプロジェクトが単純にきれいごとで済むはずがないことも前提としておくべきでしょう。

仮想通貨とユニヴァーサル・ベーシックインカムを繋ぐアルトマンの夢と現実

ベーシックインカムにおいて最も議論され、最も合意形成が困難な課題の一つが、その財源、原資。
このWorldcoinにおいて、アルトマンは、強力な汎用人工知能(AGI)が生み出す利益を世界的なUBIの資金にできるというアイデアを思いついたと。
しかし、これに対して、シリコンヴァレー発のディストピア、AIの危険なイデオロギーの典型であると強い反論があった。
その批判に対しては、「これは純然たる思索の段階であり、具体的な計画はまったくない」としつつ「それでも、地球上のすべての人を認証し、AGIの利益に基づくUBIを与える目的でWorldcoinを配布するようなことはありえる」と。

そのスタンスにもやはりある種の逃げ場・逃げ道を用意している感じを払拭することができません。
多くの仮想通貨のICOが詐欺まがいで終わったことを想起させるのです。

しかし、UBI自体、理想なので、理想の形を現実化できる可能性を見出し、一つひとつ問題の絡まり合いをほぐしながら対策を検討していくことには、問題はないはずです。

専用デジタル通貨ベーシック・ペンション(JBPC)と重ね合わせて考えてみる

コロナ禍が、これまで以上にベーシックインカム(BI)、ユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)に必要性を喚起させ、議論・考察を活発化させています。
しかし、本質的には、BI、UBIは、有事の社会保障対策、経済対策における施策・手法として用いられるものではありません。
それは、一過性のもの、一時的なバラマキ型の給付ではなく、継続して給付が、無条件ですべての人に対して行われる社会的共通資本としてのものです。
民間がその事業を行うとすれば、その持続性や安全性などに常にリスクが伴い、BI、UBIの目的が保証されないことを認識する必要があります。

しかし、今回この話題を取り上げたのは、仮想通貨自体が持つ性質と、当サイト提案のベーシック・ペンション(BP)のそれと共通する利点があるからです。
それは、

1)双方ともデジタル通貨であるため、その支給に紙幣や硬貨などの現金が不要であり、極論を言えば、いくらでも発行できる。
2)デジタル通貨であるため、一定の条件のもと、発行済みのものを、消却、バーンすること、なくしてしまう、ゼロにすることができる。
3)デジタル通貨であるため、専用口座への振り込みが容易で、システム基盤が整えば、(さほど)コストがかからない

こと。

しかし、その共通性を活かし、有効に活用するためには、国の政府・中央銀行などの公が、法律でその管理・運用について明確に規定する必要があります。
Worldcoinは、民間のプロジェクト。
国家や自治体、あるいは何らかの一つの社会を統治する組織ではありません。
民間が発行管理する仮想通貨に、国家や自治体の社会経済システム機能を委ねることは、国家や自治体の存在自体を否定することになるわけです。

加えて、その利点だけで、BI、UBIの運用と管理がすべて円滑にいくわけでは決してなく、それ以外に、そしてその利点を活かす上で必要になる多種多様な問題点があるのです。

価値・価格が変動する仮想通貨を用いずに、一種の法定通貨として新たに開発し、運用するデジタル通貨としてのベーシック・ペンション(JPBC)。
その具体化には、現状各国中央銀行が取り組みつつある、デジタル通貨CBDCの動向を注視していくことが必須ですあり、当サイトの課題でもあります。




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