日本維新の会ベーシックインカム政策への懸念
日本維新の会のベーシックインカム政策をめぐる衆院選議席増までの事情
ベーシックインカム、あるいは、当サイト提案の日本独自のベーシックインカム、ベーシック・ペンションを実現するためには、当然国会での法案提出と可決成立というプロセスが必須です。
そのため、政権政党もしくは既成政党がベーシックインカムの実現のために法案を提出し、議論・採決する前提として政策を取りまとめる必要があります。
しかし、先般の衆議院選挙以前には、どの政党も政策としてBIを掲げておらず、いくらネット上やマスコミにおいてBIに関する意見や記事が飛びかっていても、実現の見込みは皆無であったわけです。
そうした各党のBIに関する考え・スタンスについて、昨年2020年第2四半期に以下の記事で状況をレポートしました。
◆ れいわ新選組のベーシックインカム方針:デフレ脱却給付金という部分的BI(2021/4/4)
◆ 立憲民主党のベーシックインカム方針:ベーシックサービス志向の本気度と曖昧性に疑問(2021/4/6)
◆ 日本維新の会のベーシックインカム方針:本気で考えているとすれば稚拙で危うい曖昧BI(2021/4/26)
◆ ベーシックインカムでなく ベーシックサービスへ傾斜する公明党(2021/4/28)
◆ 国民民主党の日本版ベーシック・インカム構想は、中道政策というより中途半端政策:給付付き税額控除方式と地域仮想通貨発行構想(2021/6/6)
そして衆議院選が迫る中、まずそれらを総括して以下の記事を。
◆ 真のベーシックインカム実現を政策とする政党ゼロから取り組むべき現状と今後(2021/7/16)
しかし、衆議院選が迫り、公示されるに至るプロセスで、各党が思い思いのバラマキ現金給付策を公約に掲げて顰蹙を買う中、唯一日本維新の会だけが、明確にベーシックインカムの導入を、給付つき税額控除とのどちらか択一という条件付きで提案。
その内容を確認して、以下を投稿しました。
◆ 維新の会ベーシックインカム案は全政党中ベストの社会保障制度改革案 (2021/10/21)
そして選挙活動、投票、開票及び開票結果というプロセスに応じて以下の記事を投稿。
◆ 期日前投票済ませた翌日の日本維新の会と国民民主党の折込み広告から:維新ベーシックインカムと国民民主日本型ベーシックインカムの大きな違い(2021/10/23)
◆ 衆議院選挙投開票日に『こんな政権なら乗れる』を読みつつ、開票結果を待つ (2021/10/31)
◆ 岸田新政権のリベラル色が自民党の安倍・菅色を薄めて成功し、立民の共産党共闘が支持を自ら手放した2021年衆議院選 (2021/11/1)
開票結果により、但書付きベーシックインカムを提案した維新の会が大幅に議席を増やし、直後の動きについて書いたのが以下の記事。
◆ 衆議院大幅議席増で改憲に前のめり、で見る日本維新の会の本質・本性 (2021/11/7)
当初から疑心暗鬼の維新BI、今後の懸念とその事情の裏読み
立党以来の維新の会の政策及び活動について、結党プロセス、その後の大阪都構想をめぐる大阪府と大阪市の首長選と住民投票の弄びなど、正直なところ非常に独善的で、胡散臭さを感じていました。
ベーシックインカムについては、以前は、先日の4月の記事で示したように、新自由主義に近いスタンスでの構想をもっており、論外と思ってました。
ところが衆議院選挙前には、従来とは異なるBIにモデルチェンジを図り、一応正面から一つのモデルとしてのBI案に改訂していたのです。
しかし、「 給付付き税額控除または」という但し書きを入れていることで、状況により、ベーカム案を引っ込めて、他方に絞ってしまう可能性を想定すべきと考えていました。
まあ、それはそれとして、実際にBIをどうする、という議論が起こされれば大きな前進と考えるべき。
問題は、果たしてそこに至るかどうかです。
そういう不安を実際の動きから確認したのが、先述の
◆ 衆議院大幅議席増で改憲に前のめり、で見る日本維新の会の本質・本性 (2021/11/7)
でした。
中国・北朝鮮・韓国の動向をみれば、自衛隊の在り方そして自国防衛の在り方を現実的に考える傾向・感情が強まることも当然考えられ、それが改憲議論を加速することの誘因になることも同様。
岸田政権も、昨日「改憲一部先行も」という発言があったように、自民党の党勢・大勢としてそれを牽引する雰囲気が強くなりつつあります。
一方リベラルの主張は、今回の衆議院選での議席減少をもろに受けてその立ち位置が一層脆弱になったわけで、かき消される可能性も高まり得るわけです。
与党と自党、あるいは自党と同一政策をもつ国民民主党との協調が可能な政策課題から取り組んでいくことは当然であり、財政や分配と大きく関係する非常にハードルが高いベーシックインカム政策が、後順位になることは想定されるところです。
そうした懸念・不安を感じさせる要素・要因を、別の視点から示してみようとするのが本稿の目的です。
では、そのための材料として、維新の会が掲げる【政策提言 維新八策2021】において示されている、ベーシックインカム自体とそれに関連する個別政策事項を抽出して転載。
私が、疑問視する事項と理由をメモしていきます。
【政策提言 維新八策2021】におけるベーシックインカム関連政策
初めに、セーフティネットとして位置付けるベーシックインカムを「社会保障制度」改革の一環としてしている部分について見てみます。
3 「チャレンジのためのセーフティネット」大胆な労働市場・社会保障制度改革
[社会保障制度]
(1)総論
139. 「チャレンジのためのセーフティネット」構築に向けて、給付付き税額控除またはベーシックインカムを基軸とした再分配の最適化・統合化を本格的に検討し、年金等を含めた社会保障全体の改革を推進し
ます。
<社会保障制度全体の改革>を推進するとありますが、維新BIと直接関係する対象としては、年金制度と生活保護制度、児童手当に絞っていることを、しっかりと確認しておく必要があります。
それは、以下の事項にも明確に示されています。
(2)年金・社会保険・最低所得保障
140. 社会保険としての受益と負担をバランスさせるため、受益(給付)と負担(保険料)を明確化し、適正な保険料の設定・適正な給付を実現します。
141. 現行の公的年金を継続する場合は賦課方式から積立方式に移行し、原則として同一世代の勘定区分内で一生涯を通じた受益と負担をバランスさせることで、払い損がなく世代間で公平な仕組みを構築します。
142. 最低所得保障制度(給付付き税額控除またはベーシックインカム)の導入に伴い在職老齢年金制度等を見直し、高齢者の労働意欲を削がないような社会づくりを目指します。
143. 医療費の自己負担割合につき、年齢で負担割合に差を設けるのではなく、所得に応じて負担割合に差を設ける仕組みに変更します。
144. 国民健康保険については、スケールメリットを活かせる広域的な運営を推進します。
このように、中でも年金制度の改革に直結するBIであることが明白です。
かなり、高齢者を意識したBI導入であることが見て取れます。
しかし、生活保護に関する個別政策提言は、この維新八策の中では見ることができません。
他の資料では、維新BIの額は、生活保護制度の<生活扶助>部分に適用し、他の扶助項目については、現状の生活保護制度を継続して運用するとしています。
この部分を、本来、維新八策においても記述すべきと思うのですが、行なっていないのです。
維新BIで提起する金額で生活保護制度は廃止するものと、以前の維新BI案は認識されており、当初案とは変えたことを本来より主張し、理解を得るべきなのですが、意識的か、意識していないのか、誤解されたままになる可能性への対策をしていないことが、かえって疑念を抱かせることになるのでは、と思ったりします。
次は、雇用・労働政策との繋がりでのBI政策について。
[雇用・労働政策]
(1)流動化・生産性向上
145. 「負の所得税」同様の考え方を実現するため、給付付き税額控除あるいはベーシックインカムの導入を検討し、就労意欲の向上と雇用の流動化を図り、労働市場全体の生産性と賃金水準の向上を実現します。
146. 解雇ルールを明確化するとともに、解雇紛争の金銭解決を可能にするなど労働契約の終了に関する規制改革を行い、労働市場の流動化・活性化を促進します。同時に、労働移動時のセーフティネットを確実
に構築し、フレキシキュリティ(柔軟性+安全性)の高い社会を目指します。
(2)雇用促進
150. インターバル規制をはじめとするシニア向け労働法制の整備や、低賃金労働者等に向けた給付付き税額控除の一種である勤労税額控除の導入など、勤労インセンティブを与える仕組みを検討します。
この疑念は、上記の[雇用・労働政策]事項の中で、<給付付き税額控除>の導入・適用を前提とした記述を押し出していることで、BI案を後退させていることを想像させることに繋がります。
財源への影響の「見かけ上の小ささ」を図にさらっと加えていることも、要チェックです。
次は、社会保障制度と同じ領域ともされる<社会政策>に位置付けた[教育・保育]とBIとの関係について。
4 多様性を支える教育・社会政策、将来世代への徹底投資
[教育]
(1)無償化・予算措置
181. 家庭の経済状況にかかわらず、等しく質の高い教育を受けることができるよう、義務教育の他、幼児教育、高校、大学など、教育の全過程について完全無償化を憲法上の原則として定め、給食の無償化と大
学改革を併せて進めながら国に関連法の立法と恒久的な予算措置を義務付けます。
[子育て・保育]
(1)待機児童対策
207. 所得税法を改正し、学資金だけでなく保育にかかる費用について原則非課税とし、地方自治体からの子育て費用の助成を促進し、直接給付を重視する方針への転換を図ります。
(4)少子化対策
218. 子どもの数が多いほど税負担の軽減が大きくなる「N 分 N 乗方式(世帯単位課税)」を採用し、子育てによる経済的負担を軽減します。
先の[雇用・労働]関連では、当然賃金所得との関係でのBIもしくは給付付き税額控除が課題になりましたが、ここでの教育と保育では、保護者の所得とBIの関係と、子どもとBIの関係の両面が課題になります。
維新BIでは以下の給付を行うとしており、それに伴って、前項の図で見た<児童手当>部分が増額されてベーシックインカムに切り替えられるわけです。
もし給付付き税額控除方式になれば、賃金所得がある保護者に元での児童個人への給付は行われないわけです。
維新八策の上記の内容は、児童個人へのBI給付については何も触れていません。
読みようによっては、子どもにもBIが支給され、その上で、上記の個々の政策も上乗せされるなら、こんな素晴らしいことはないのですが。
こうした部分に木目の細かさ、丁寧さを欠いていることも、維新BIをすんなり信用・信頼できない要素・要因になっているのです。
BI財源対策の確認
以下、BI自体の政策内容との関係でなく、財源に関する政策について抽出した事項を確認しておきます。
2 減税と規制改革、日本をダイナミックに飛躍させる成長戦略
[税制改革]
(1)総論
66. 高額所得者ほど総所得に占める金融所得の割合が高く、所得税負担率に逆累進性が働いている現状を改善し、総合課税化とフラットタッ クス導入を含む税制改革により課税の適正化・格差是正を図ります。
1 「身を切る改革」と徹底した透明化・国会改革で、政治に信頼を取り戻す
[議員待遇]
(1)定数・報酬
01. 国民との約束である「身を切る改革」を徹底するため、国会議員の議員報酬(歳費)・議員定数3割カットを断行します。
一般的なBI論において最も問題となるのが、その財源をどうするか、です。
維新BIでは、ほぼ年間100兆円規模のBI支出を算定していますが、上記の税制改革や、既存の社会保障制度における現金給付部分、年金の国からの拠出金の転換に加え、国会議員報酬と定員数削減などの行政改革などによる削減コストもその原資とすることを提案しています。
それは、無理難題ではないと私は思っています。
ベーシックインカムが真剣に国会の場で取り上げられ議論される局面が来る。
維新の大幅議席増で、その期待が高まるのは望ましいことですが、果たして本当にまずはそこまで到達するのかという不安。
次に、BIはダミーで、BI議論なしで、一足飛びに給付付き税額控除、負の所得税方式の議論に行ってしまう可能性も十分ありうることへの不安・疑念。
など、現状では、いろいろ想定してもムダになる可能性も大いにありと思っています。
加えて、それらに対抗する、望ましいBI対案を持つ他の野党がないことが、その進展をより不安視させるのです。
立民のベーシックサービスなどとてもロジカルに対案として提示できる内容を持ち得ていませんし。
そういう点で、左派は当然ながら教条主義的に批判・否定していますが、やはり維新BIは、一応評価に値する内容であると言えると思います。
詳しくは、維新の国会議員である藤田文武議員のこのサイトで確認可能ですので、参考までに。
⇒ 「私の経済政策に対する考え方〜「日本大改革プラン」とベーシックインカムについて〜」
以後、種々の動向を継続して注目・注視し、必要に応じて取り上げていきます。
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