少子化の主因、リスク回避と世間体意識変革は可能か:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-3
家族問題を軸にした社会問題をこれまで取り上げ、パラサイト・シングルや婚活などの用語を用いて問題提起してきている山田昌弘氏のコロナ禍で加速する格差を、新しい型とした新著『新型格差社会』(2021/4/30刊)。
これを題材とした、<『新型格差社会』から考える分断・格差抑止のBI論>シリーズ5回を以下終了しています。
◆ 「家族格差」拡大・加速化対策としてのベーシック・ペンション:『新型格差社会』から考える格差・階層社会化抑止のBI論-1(2021/5/8)
◆ 「教育格差」対策としてのベーシック・ペンション:『新型格差社会』から考える格差・階層社会化抑止のBI論-2(2021/5/10)
◆「仕事格差」対策としてのベーシック・ペンション:『新型格差社会』から考える分断・格差抑止のBI論-3 (2021/5/12)
◆ 「地域格差」対策にも有効なベーシック・ペンション:『新型格差社会』から考える分断・格差抑止のBI論-4(2021/5/14)
◆ 「消費格差」の本質は所得格差。ベーシック・ペンションが必然の対策:『新型格差社会』から考える分断・格差抑止のBI論-5(2021/5/16)
山田氏は、同書の1年前2020年に『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?~結婚・出産が回避される本当の原因』(2020/5/30刊)、一昨年2019年に『結婚不要社会』(2019/5/30刊)を執筆・発刊。
3冊共に「格差問題」に焦点を当てているのが共通点。
そこで、格差対策としても提案している、ベーシックインカム、ベーシック・ペンション専門の当サイトですから、『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』での少子化問題を対象として、その対策としてのベーシック・ペンションの必要性・有効性も論じてきています。
本書は、以下の構成。
第1章 日本の少子化対策の失敗
第2章 日本の「少子化対策失敗」の理由
第3章 少子化対策における「欧米中心主義的発想」の陥穽
第4章 「リスク回避」と「世間体重視」の日本社会 ー 日本人特有の価値意識を探る ー
第5章 日本で、有効な少子化対策はできるのか
この5つの章の初めの2章は一体化し、これまで以下の2回を投稿。
◆ 結婚・子育ての経済的側面タブー化が少子化対策失敗理由:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-1(2021/5/24)
◆ 夫婦・親子をめぐる欧米中心主義的発想が失敗の理由?:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-2(2021/5/26)
今回は、第3回で、第4章<「リスク回避」と「世間体重視」の日本社会ー日本人特有の価値意識を探るー>を紹介しつつ考えることにします。
<第4章 「リスク回避」と「世間体重視」の日本社会 ー日本人特有の価値意識を探るー>から
前回では、日本政府の少子化対策が機能しなかったのは、それらが欧米中心主義的発想からのものだったことを指摘していたことを取り上げました。
その意見には、さほどインパクトは感じませんし、実際にそれに該当するような政策が、どの程度行われ、その成果・影響度がどうだったかが検証可能なものはないと考えています。
今回はそれ以外の日本特有の要因として提示された、「リスク回避」傾向、世間体重視、子どもへの強い愛着についての山田氏の考察を概括します。
日本の少子化を語る上で外せない3つのポイント
として、次の3つを挙げています。
1)将来の生活設計に関するリスク回避の意識
2)日本人の強い「世間体」意識
3)強い子育てプレッシャー
その各各項について、少し手を加えながら見ていくことにします。
自分の生涯生活設計、子どもの生涯生活設計とリスク意識
まず、日本女性、そして若者の多くは、交際する前に、子育てから老後までを見据える、としています。
もし子どもを持つことを考える時、子どもの生涯にわたる生活設計をまでイメージするというのです。
そりゃ漠然と、瞬間的に考えるかもしれませんが、考えても精々、自立するまでのことではないでしょうか。
子どもの老後まで考えるのは、結局、自分の老後と子どもとの関係度・関係性を考えるからのことで、そこまで止まりでしょう。
言い換えれば、どちらかと言うと、自分の生涯設計・生活設計に子どもがどう重なり合うか、を考える。
その時、自分の介護をやってもらえるかどうかをイメージする。
前回山田氏が言った、子どもを消費財と見るのは、裏返せば、自分の道具とみなしてのことと、なってしまいそうです。
それは申し訳ないから、子どもは持たない、とういうのは、考えすぎというものでしょう。
そうではなく、子どもの子ども時代の生活設計に限ってのこととするならば、子どもが好きかどうか、と経済的に育てていけるかどうか、の問題に絞ることができるのではと思います。
もう一つ、仮に子どもを持つとするならば、その子どもの容姿や能力に対するイメージの問題。
女性からすると、背が高い男性、ハンサムな男性、学歴が高い男性を希望し、もちろん収入が多いことも条件。
これが、婚活上の課題・条件となります。
女性によっては、やはり、子どもの生活・生涯設計を理由にした、自分自身の生活・生涯設計重視の価値観・行動基準となってくるのです。
この時、必ずリスクが伴う。
要するに、考える通り、希望する通りにはいかないというリスク。
そのリスクが起きる可能性が高いと感じる、考えるならば、必要な行動を取らなくなる。
結婚しない、子どもを持たない、と。
娘の結婚に不安を募らせる親たちも、そこに加担する。
元々日本人はリスク嫌いな上、格差社会化やコロナ禍による「リスク化の進展」でさらにその傾向が強まるというわけです。
やり直しがききにくい日本社会では、リスクはより避けられる。
これが、日本の少子化の主因であり、少子化対策と称して、婚活、子育て、教育、老後、をばらばらに支援しても効果がないと言います。
世間体の正体・基準、同調圧力と中流意識
もう一つ、このリスク回避要因に加え、「世間体を保つ」ことが重視されるという日本社会に特有の意識を指摘します。
その根幹は、身近な人たちから「下に見られたくない」「マイナスの評価を受けたくない」という意識であり、世間体の正体・基準となる意識と言えるでしょうか。
この世間体を保つため、身近な多数派の行動に同調することが重視される、すなわち同調圧力がかかる。
といっても、自らプレッシャーを勝手にかけていると言えなくもないのですが。
この同調圧力がかかる典型として、「結婚形態」と「結婚相手」に関する世間体意識を例に挙げています。
前者は、きちんと結婚式を挙げているか、その上での妊娠出産か。
後者は、いわゆる「格(ランク)」の問題で、学歴、年収、職業、家柄、容姿等々。
期待水準以下の人は「自分にふさわしくない」と排除する傾向に、となります。
こうした意識・認識が大勢を占めるのも、実は、根強く残る「中流意識」に理由があるとします。
生活水準に関する世間体の軸としての中流意識ですが、「世間並みの生活水準」が高くなってしまっている。
すなわち、実態としては「日本人は実はかなり貧しい」ことが、世間体の呪縛から逃れられない大きな要因になってしまっている。
筆者の考えをフカヨミすればそう言えるでしょうか。
ただ「できちゃった結婚」が増加傾向にあることを示して、世間体の中身は変わると言ってはいますが、コロナはそれ以前の行動の抑制・抑止力を持ち、リスクを増長することが予想されるのです。
子どもにつらい思いをさせたくない、ということをつらく思うことからの回避
最後に、言うならば親心、という範疇に入る問題です。
山田氏は、近年の子どもに対する親の虐待の増加現象を「子育てプレッシャーの裏返しの現象ではないか」としています。
重大な虐待事件を起こす親の多くは、非正規雇用者など経済的に困窮しているなど、子どもに世間並みの環境を提供できない状態にある。
これを理由に説明するのです。
ならば、やはり、経済的な要因を解決することこそ有効な対策と明言すべきでしょう。
そしてその方法・政策には、こうこうこういう方法がある、というように。
その提案は、もうすぐ見ることができるでしょうか。
(しかし、私は、虐待理由は、それが主なものとは思っていません。この件は別の機会に、と考えます。)
「子どもにお金をかけることが、親の愛情であり、務めという意識」も少子化に繋がっていると。
これも経済的要因が改善されれば、少子化の理由にはならなくなる。
まあ、それだけでなく、日常の家庭・家族生活における子へ示す愛情や、親同士(=夫婦)間の愛情、親子のコミュニケーションなど、子の人格形成に影響を及ぼす、多くの大切な要素が他にもあります。
「子どもにつらい思いをさせたくないということ」を、つらく思うことから回避する、つらい思いを改善・解消する、あるいは、「つらいと感じさせない」家庭生活、家庭環境を作り上げる。
こういう発想をし、実践する結婚、子育て、親子関係、夫婦関係を形成するイメージを生活設計、生涯設計に写してみては、と思うのです。
それこそ、本来、何と何を別々に論じるのではなく、総合的に、かつ関連付けて、大切さを論じ、行動化すべき課題でしょう。
情緒的要件・要因については、調査結果・分析結果で示される数字で、一つの結論に帰結させ、そこに少子化対策を結びつけると、要素・要因の数だけ対策が分散し、成果は逆に数値化が困難になり、曖昧な結果になってしまう。
そこには、絶対に注意が必要であることを申し上げておきたいと思います。
そして、少子化対策としての経済的問題の解決策は、まずベーシック・ペンションの導入です。
加えて、非正規雇用問題や賃金問題などに関する労働関連法、労働制度の改定が必要です。
前者は、次回に。
後者は、今後当サイトで継続的に取り上げていきます。
多様な生き方、結婚しない自由、おひとり様普通論等の非婚奨励・支援社会化の影響
ここまで見てきて、気になっていることの一つに、未婚・非婚者が増える社会的状況・背景があります。
それは、結婚せずにひとりでいること、ひとりで生きることが、恥ずかしいことではない、自由な生き方、当然の生き方なんだという価値観が広がっている。
それが、未婚率の向上、少子化を結果的に後押ししていることになっている。
私は、こうした点も、次第に非婚・生涯未婚率上昇とそれから生じる少子化に間違いなく繋がっていると考えています。
その起点になっている書として、上野千鶴子氏による『おひとりさまの老後』(2007/7刊)があり、近年では、荒川和久氏の『超ソロ社会 「独身大国・日本」の衝撃』(2017/1/27刊)、近著では、一層強力な支援となる同氏と中野信子氏共著の『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(2020/12/20刊)などがあります。
山田昌弘氏による、結論としての日本の少子化対策無効の要因
親の愛情と、世間体意識、そして、リスク回避意識の三者が結合して、少子化がもたらされていると考えられる。
その状況に対して、欧米型の少子化対策、つまり、女性が働きに出られればよい、とにかく子どもが最低限の生活を送れればよい、という形での支援は「無効」なのである。
最後に、こう筆者は、自信を持って断言しています。
それを示す政府・厚労省の取り組みは、以下の<2020年少子化社会対策大綱>概要から、確かに簡単に読み取ることができます。
元々「少子化対策」ではなく「少子化社会対策」と「社会」を間に挟んでいる使い方。
一体どの「社会」か分からない「社会」や漠然としたその「環境」など、他人事のような「対策」「大綱」であり「白書」なのです。
ほんの一言だけ、じっくり探してみないと読み取れない「経済的支援」は、<子育てに関する支援>のカッコ書きに添えてあるだけ。
「令和の時代にふさわしい少子化対策」とは、一体どういう意味・内容なのか、全くわかりません。
そして、当然、その中には、筆者が断定した情緒・マインド要因についての記述は、見られません。
では、こう断定した山田氏が、日本の少子化対策として有効かつ必要と考える政策・方策は一体なにか?
いよいよ次回、本書の最終章第5章<日本で、有効な少子化対策はできるのか>で確認し、加えて当サイトが提案している、少子化対策としてのベーシック・ペンションの有意義性について触れたいと思います。
できれば、その予習として、以下の記事を一つでも確認して頂けるとありがたいです。
⇒ 日本独自のベーシック・インカム、ベーシック・ペンションとは(2021/1/17)
⇒ 諸説入り乱れるBI論の「財源の罠」から解き放つベーシック・ペンション:ベーシック・ペンション10のなぜ?-4、5(2021/1/23)
⇒ 生活基礎年金法(ベーシック・ペンション法)2021年第一次法案・試案(2021/3/2)
⇒ ベーシック・ペンションの年間給付額203兆1200億円:インフレリスク対策検討へ(2021/4/11)
https://2050society.com における<少子化社会対策>関連投稿記事
<2020年少子化社会対策大綱>批判シリーズ他
◆ 出生率1.36、出生数90万人割れ、総人口減少率最大:少子化社会対策大綱は効き目なし(2020/6/11)
◆ 「2020年少子化社会対策大綱」批判-1:批判の後に向けて(2020/6/18)
◆ 「少子化社会対策大綱」批判-2:少子化社会対策基本法が無効施策の根源(2020/6/25)
◆ 「少子化社会対策大綱」批判-3:少子化の真因と究極の少子化対策BI(2020/7/13)
◆ 「少子化社会対策大綱」批判-4:安心して子どもを持つことができるBI、児童基礎年金支給を早期に(2020/7/28)
<2020年少子化社会対策白書>批判シリーズ等
◆ 「令和2年少子化社会対策白書」と86万ショックと出生率1.36の現実(2020/8/17)
◆ 少子化社会対策と少子化担当相を糾弾する(2020/8/18)
◆ 結婚しない理由、結婚できない理由:少子化社会対策白書から(2020/8/27)
◆ 子どもを持たない理由、子どもを持てない理由:少子化社会対策白書から(2020/8/28)
※前回及び前々回記事は、こちらで確認頂けます。
⇒ 夫婦・親子をめぐる欧米中心主義的発想が失敗の理由か:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-2(2021/5/26)
⇒ 結婚・子育ての経済的側面タブー化が少子化対策失敗理由:『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』で考える絶対不可欠のBI論-1(2021/5/24)
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